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【WE AT連載・産官学で挑む社会課題とビジネス 第2回】
”データドリブン社会課題工学”拓く物流や電力のミライ(前編)

2025.01.17
博報堂ミライの事業室は、新規事業開発をさらに推し進める一手として、東大や京大、東京科学大などと共同で一般社団法人WE AT(ウィーアット)を設立しました。WE ATは、グローバルな社会課題に挑むスタートアップや未来の起業家を産学官連携で後押しするためのソーシャルイノベーションエコシステムづくりを進める法人です。本連載では、WE ATの理念や取組に共感いただいているゲストとの対話を通じて、ソーシャルイノベーション推進のヒントを探ります。第二回は、東大技術経営戦略学専攻教授の田中謙司先生を訪ね、物流や電力など大規模な社会課題への挑戦について語らいました。

田中 謙司氏
東京大学 大学院工学系研究科
技術経営戦略学専攻 レジリエンス工学研究センター
教授

諸岡 孟
博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター
一般社団法人WE AT 事務局長

古賀 聡
博報堂プラニングハウス 代表取締役社長
エグゼクティブプラニングディレクター

サプライチェーンの不確実性にデータドリブンで切り込む

諸岡
田中先生、何度も訪問させていただきありがとうございます。研究室では、データ分析の方法論や社会テーマの知見、企業などとの実装をうまくミックスしながら、世の中の社会課題に取り組まれていらっしゃいます。そうした活動を目の当たりにして、僕は勝手に「データドリブン社会課題工学研究室」と表現しました。具体的な研究内容についてぜひご紹介ください。

田中
データドリブン社会課題工学という表現は、わりと当たっていると思います(笑)。私の学生時代の研究分野は、船舶工学でした。船舶工学という分野は、特定の分野を突き詰めるのではなく、船舶がもつ様々な側面を研究対象とし、新しい技術や理論、素材などを積極的に取り込んでいくいわば総合実践工学です。その中で、私の主な関心領域は、船舶に関連する物流の研究でした。まだ存在していない物流のモデルをシミュレーションし、それが事業的に成立するかを検証する研究です。

田中研究室の詳細はこちら →→ https://www.ioe.t.u-tokyo.ac.jp/

具体的なテーマとしては、例えば「サプライチェーンの不確実性」について探求しました。商品の売り上げは常に変動します。その不確実性をサプライチェーンの中でいかに調整し、安定的な商品の生産を実現するか。そんなテーマです。そこからさらにエネルギー分野にも研究領域が広がりました。

大学卒業後は、経営コンサルティング会社に就職し、その後、投資ファンドでもキャリアを積みました。しばらく民間企業で働く中で、世の中にあるさまざまな社会課題を知ることになりました。大学と企業で学んだことをいかし、社会課題解決につながるような研究がしたい。そう考えて、大学に戻り、研究生活に入ったわけです。現在も、私の研究室では物流が大きなテーマの一角を占めています。

諸岡
船舶という広大な分野の中でも物流とサプライチェーンに関心を持たれていたわけですね。

田中
一般に、商品のサプライチェーンでは、工場と物流と販売との間に対立が発生する構造があります。例えば、eコマースで飲料などの商品をキャンペーンを実施して売上を伸ばそうとすれば、大量に商品を仕入れなければなりません。仕入れた商品は倉庫に保管されることになります。結果、倉庫側では大量の在庫を抱えることになります。また工場では、注文が増えれば生産数を増やさなければなりませんが、その生産数をいつまで維持すればいいか見通すことは簡単ではありません。

諸岡
売上は時々刻々と変動しており、工場・物流・販売も素早い見立てを行うわけですが、その方向性がすれ違っていると、欠品や不良在庫といった事態が発生します。特に生産や物流は即時反映ができないため時間遅れが発生することも、問題をいっそう難しくしていると思います。

田中
その通りです。売上がこのあと増えるのか減るのか、どんなスピードで動くのか。そういった対立構造を変えるためには、全体最適の視点に立ちながら、かつサプライチェーンの各プロセスでどのような動きをすればいいかを明らかにするモデルづくりが必要です。シミュレーションをして、そのようなモデルづくりをすることが、私の研究室の大きなテーマの一つです。

諸岡
システム全体と個別アクターという異なる階層の挙動を制御・最適化するための汎用的なモデルを目指されているわけですね。

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