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博報堂DYグループにおけるAI活用 ~「3つの地平線」と「人間中心のAI」~
─Advertising Week Asia 2024より

2024.11.22
2024年9月17日(火)~20日(金)、東京アメリカンクラブにて「アドバタイジングウィーク・アジア2024」が開催され、さまざまなコンテンツトラックやインタラクティブなディスカッション、基調講演、ネットワーキングが展開されました。
本稿では「博報堂DYグループにおけるAI活用の「3つの地平線」と、「人間中心のAI」の内容をご紹介します。

森 正弥
株式会社博報堂DYホールディングス
執行役員 Chief AI Officer 兼
Human-Centered AI Institute代表

石﨑 優
株式会社博報堂プロダクツ
執行役員 兼 Promotion X室 室長

宮田 風花
株式会社Hakuhodo DY ONE
パフォーマンスデザイン本部パフォーマンスデザイン局
パフォーマンス基盤部 部長 兼 技術統括本部 AdOps開発部

■博報堂DYグループが考えるAI活用の「3つの地平線」

宮田
はじめに森さんご自身が代表を務めるHuman-Centered AI Institute(HCAI Institute)についてご紹介いただけますでしょうか。


HCAI Instituteは、生活者と社会に資する人間中心のAI技術の研究および実践を行うことを標榜し、4月1日に博報堂DYグループで立ち上げた研究開発組織です。AI技術の開発が進展する中、社会は生産性を上げるツールとしてその効果を得るということに限らず、本来的にはAIの進化に伴って人間のクリエイティビティもより先を行くべきなのではないかと考えています。AIと人間の創造性の掛け合わせが重要で、それを追求することこそが本来の“人間中心”というキーワードが意味するところなのではないか。人間のクリエイティビティの進化・拡張を通して生活者の社会を支える、そんなAI技術を追求する組織として活動を始めています。

「AIによって未来がどう変わるか」といったビジョンをつくり、先端研究を行っていくわけですが、「AIをどう活かすか」「それによって人間がどう伸びていくか」という命題はアカデミックな論点だけで語れるものではありません。具体的な実践の場での活用が非常に重要になってきますから、我々は博報堂DYグループのさまざまなテクノロジーチーム、AIチームのリーダーと一緒に、全社プロジェクトとしてHCAI Initiativeを推進しています。こちらは情報連携・ガバナンスをしていく分科会、ビジネスの結果を出していく分科会、効率化やBPRを進めていく分科会、インフラを整備していく分科会で構成されています。こうした取り組みを通し、情報連携とガバナンス、生産性を上げていくための内部のシステムの高度化、新しい価値の創出といった試みを全社的に行っています。

宮田
ありがとうございます。では、本日のテーマである「3つの地平線(3 Horizons)」という視点についてもご説明いただけますか。


図を見ていただきますと、縦軸はAIを使った成果、横軸はその難易度となっており、AI活用を考える際の3つの視点(地平線)を示しています。まずはこの3つを意識して、AI活用の全体像を描いてみること。博報堂DYグループでは、先述のHCAI Initiativeという全社プロジェクトに乗せながら、この3つの地平線で描かれる全体像、マッピングを意識しながらAI活用を推進しています。

各地平線について詳しくお話しすると、まずは「自社内でのAIの活用」があります。AIを使って業務を改善したり、事業内容をデータで可視化したり、それによって効率化を図るステージです。そのステージに取り組みつつ、次に着手する地平線は「顧客」です。取引先、顧客企業、そしてその先の生活者に対してバリューを出していく。そして3つ目のステージ、すなわち「自分たちのビジネスを取り巻くバリューチェーンの変革、あるいは新しいエコシステムの創造」です。これは非常に難易度が高いですが、成功した場合のパフォーマンスは非常に大きい。我々博報堂DYグループは、自社での活用、顧客に向けてのサービス、そしてエコシステムというこれら3つの地平線を睨みながら、ポートフォリオを整理しAI活用を進めています。

宮田
1つめの地平線、「自社での取り組み」の事例として、Hakuhodo DY ONEでの取り組みをご紹介させていただきます。弊社では社員が安心して生成AIを活用できるセキュアなクラウド環境としてHAKUNEO ONEという環境を整備しています。また同時に、AI活用のリテラシー強化とガバナンス担保のための社内研修にも取り組んでいます。

AI技術の発展スピードは凄まじく、先週出来なかったことが、今週できるようになるといった具合でアップデートがなされています。技術的進化をキャッチアップしながら現場のニーズを汲み取り、開発に活かす…というサイクルは、必要ではあるもののエンジニアへの負荷が非常に高いです。またビジネスサイドも、最新の状況を踏まえながら解決したい課題を適切に言語化して開発サイドに要望を伝えることに難しさを感じていました。
そこで、これらを解決するために我々は先ほどご紹介したHAKUNEO ONEと並行して、Difyというノーコードツールを用いた非エンジニア、つまりは実務者によるアプリ開発に挑戦しているところです。

弊社では日々の広告運用業務から生まれるナレッジを社内の人材育成などに還元するといった取り組みを過去数年にわたって行ってまいりました。これまではナレッジを保有する社員がそのナレッジを資料にまとめ、勉強会等を通じて周囲にインストールしていく、というやり方で進めていました。それが昨今の技術の発展により、AIアプリに実装していくという新しい選択肢が生まれてきています。

実務者によるAIアプリの開発となると、事前の教育やルール整備が必要にはなりますが、元々社内のAIツールの利用率が高かったこともあり、ある程度の基礎知識を持つ人材であれば問題なく自分でアプリ開発できることが、トライアルを行った結果わかってきました。現在は、社内環境の構築や既存ツールへの実装などといったより専門的な開発は専門知識を持つエンジニアが行い、スピード感を持った小回りの利くAIアプリの開発は実務者が行う、というすみわけをしながら社内でのAI活用を進めています。

実務者が開発したAIアプリの具体事例として、SNS投稿文を生成できるアプリがあります。広告主の名前や参考になるURLを入れると、SNSで高い広告パフォーマンスを得られそうな投稿テキストを自動的に生成してくれます。商品そのものを分析してペルソナを作成し、そのペルソナがリアクションしてくれそうな広告を作成しています。さらには、一度作成した広告を再度分析したり、類似表現がないかといったチェックもやってくれます。この投稿文生成アプリでは、情報入力から2分とかからずにパフォーマンスの高い投稿文が作成されます。こうした現場のナレッジを実装したAIアプリの開発がさまざまな部署で進められています。

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