
博報堂DYホールディングスは生成AIがもたらす変化の見立てを、「AI の変化」、「産業・経済の変化」、「人間・社会の変化」 の3つのテーマに分類。各専門分野に精通した有識者との対談を通して、生成AIの可能性や未来を探求していく連載企画をお送りします。
連載の最終回(前編)では、これまでの有識者インタビューを振り返るとともに、生成AIがクリエイティビティや生活者の暮らしに対し生み出しうる変化について、博報堂DYホールディングス 取締役常務執行役員CTOの安藤元博と博報堂DYホールディングス執行役員 兼 Chief AI Officerの森正弥、博報堂 執行役員 兼 株式会社博報堂ケトル クリエイティブディレクターの嶋浩一郎に加え、これまでの有識者インタビューを行ってきたクロサカタツヤ氏、博報堂DYホールディングスの西村啓太で対談を行いました。
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西村
今回で「生成AIの社会・産業・暮らしへの影響に関する有識者インタビュー」の最終回になります。有識者の方々にはそれぞれテーマを決め、各専門の領域において、生成AIが社会や産業にもたらすインパクトを語っていただきました。
そんななかで、博報堂が持つ<生活者発想>の視点から、生成AI時代の暮らしに対する知見を出せたらと考えています。まず冒頭では、有識者インタビューの中で発見があった、気になったというポイントがあれば共有いただければと思います。
嶋
僕が面白いと思ったポイントが2つあります。1つ目は生成AIを活用すれば、「生活者の潜在的な欲望」に気づけること。
そこを見つけるのが難しいから、生活者インサイトという言葉で表現するわけですけど、人に寄り添うAIや優しいAI(※)が問いかけてくれる間に、人間が無意識のうちに“潜在的な欲望のヒント”を口にする可能性は高いのではと思っていますね。
(※)参考記事①②
2つ目は物語の起承転結やコンテキストそのものが生成AIによって変わること。生成AI時代ではコンテンツの作り方がものすごく変わると考えています。
これはマクルーハンが言う「メディアが変わったからメッセージが変わった」というものではなく、「AIが変わったから、物語のコンテキストの作り方そのものが変わった」と捉えることもできるかもしれません。
YOASOBIは、音楽の作り方が変えたと取り上げられていますが、彼らはそもそも小説から歌を作るという複合的なことをチームでやっているわけです。そのようなチームで音楽を作るように、みんながAIと対話しながら作業していくのが当たり前になるかもしれません。
西村
今までの機械学習では、データのスコアリングやプロファイリングに活かすのが主だったわけですけれども、生成AIでは創作するプロセス自体が変わることで、コンテンツよりもコンテキストが変わってくるというわけですね。
嶋
個人的になるほどと思ったのは、東京大学の稲見先生が仰っていた、説明下手な人が状況説明して伝わらないことをAIが勝手に解像度高くわかりやすく伝えてくれるということです。
芥川龍之介の小説は、短編なのですぐ終わってしまうじゃないですか。なのに、人間の心情の変化がものすごく感じられますよね。まさに小説家として天才だと思うんですけど、自分も含めて普通の人にはそのような表現はなかなかできないわけです。
一方で生成AIを使えば、風景を単純にしか説明できない人でも、表現の解像度を高く説明できるようになり、心のひだ部分まで明らかにしていける。
もちろん、著作権の問題を解決していく必要はありますが、生成AIを使って表現することは本当に楽しくなると感じました。

森
YOASOBIの話もそうですが、曲を作るとか、歌詞を作るとかの前に作り手としては本来持っている世界観があります。
「生成AIは壁打ちに便利」という話はいろんなシーンで出てきますが、例えば今まで世界観を意識してこなかった人でも、生成AIで世界観を豊かにしていく作業が容易になり、作品に自分の世界観を反映できるようになるでしょう。
嶋
表現やプロダクトをつくるとき、「世界観」を纏っているかはすごく大事。それがまさにそれが価値になる。生成AIを使うことで、ある世界観を持った解像度の高いビジュアルに落とし込めるというのは、あらためてすごいことだと感じています。
自分の頭の中では細切れというか、荒い粒子で理解しているものを結びつけて、世界観として結晶化する作業をすることに試行錯誤することも多いし、小説みたいな膨大なデータを世界観に収斂するのはかなり面倒ですが、先に世界観をAIに読み込ませて、その世界観をベースとして歌や文章にするアプローチが普通にできるようになっていくんだと思いますね。
西村
我々の業務で世界観を作り込んで試行錯誤するときに、生成AIを使えば、今までできなかった解像度でテキストや画像、動画といったアウトプットを出せるので、クリエイティブ表現に行く前の段階で、自分の思い描いていた世界観を可視化できるようになった。
それがフィードバックとして自分の認識も変わり、世界観がより深まっていくというサイクルが回せるようになるかもしれないですね。