森 泰規
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ビジネスプラニングディレクター
澁江 耕介
博報堂 データドリブンプラニング局 データサイエンティスト
牧野 壮馬
博報堂 データドリブンプラニング局 データサイエンティスト
岩﨑 直樹
博報堂 データドリブンプラニング局 データサイエンティスト
廣中 凌平
博報堂 データドリブンプラニング局 データサイエンティスト
酒井 崇匡
株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員
酒井
博報堂生活総合研究所(以下・生活総研)では、1992年から30年に渡って実施してきた長期時系列調査「生活定点」のデータをもとに、年代による価値観の違いが小さくなっていく現象「消齢化」の研究を続けています。データドリブンプラニング局(以下・DDP局)の皆さんにもこの消齢化現象について様々なアプローチで検証を行って頂きましたが、まずは分析についてご紹介ください。
澁江
生活総研の元々の分析では、生活定点各項目の年代別回答率について「最高値と最低値の差分が縮まっている」項目に着目して「消齢化」という現象を発見していますね。年代による違いが小さくなっている項目数が、年代による違いが大きくなっている項目数を大幅に上回っていたと。

この生活定点のデータの提供を受けてDDP局が分析するにあたり、私と岩﨑のチームはより統計的な評価として、年代間における回答率の標準偏差、言い換えると「ばらつき」の経年変化を見ていきました。
DTW(動的時間伸縮法)という、時系列データの類似度を測定する統計手法を用い、年代間の回答率のばらつきが縮まっている(消齢化している)設問、広がっている設問、あまり変わらない設問に分類したところ、多くの設問で消齢化していることが確かめられました。
DTWを用いた時系列クラスタリング結果
(クラスタ1では標準偏差が低下しており、消齢化傾向が確認できる)

牧野
私と廣中は「情報エントロピー」の観点から消齢化を評価しました。年代によって設問の回答がどれぐらい分かれるかを「平均情報量」という尺度に変換してその時系列推移を見たところ、年代による分断がなくなっていく設問のほうがどちらかというと多かったので、澁江さんたちの分析と同じく「消齢化しているだろう」という結論になりました。
情報エントロピーの推移分析結果
(年代による分断がなくなっていく設問が、分断が広がっていく設問より多いことが示された)

森
私は「クラスカル・ウォリス検定」を試しました。この手法は対応がない複数群の標本を対象とした、正規分布以外に従うデータの差異を調べるものです。それぞれの設問の回答分布が年代間でどれだけ異なるか、2002年と22年のデータを比較したところ、全設問のうち約3割に変化が見られました。その内訳を見ると年代ごとの差が消失/減少した、つまり消齢化した設問数が、差が発生/拡大した設問数の2倍以上となっています。
クラスカル・ウォリス検定の一例:「自然を取り入れた生活をしている」の分析結果
(2022年は2002年に比べ年代による傾向の違いを示すEpsilon 2乗値が減少し、消齢化していることがわかる)

酒井
ありがとうございます。皆さんの検証は消齢化の研究全体にとっても非常に有意義でした。というのも、生活総研は様々な発信活動の際に伝わりやすい、分かりやすくシンプルな分析を重視しています。一方で、 より解析的な手法で皆さんに検証してもらえたことで、消齢化という現象を説明する上で強度を増すことができたので、すごくありがたかったです。
デジノグラフィ・フォーラム2023では澁江さん、岩﨑さんチームのアプローチを応用して、「年齢」に代わって今後の生活者を大きく分けるかもしれない分析視点、“新しいモノサシ”の導出を行いました。(https://seikatsusoken.jp/diginography/20656)

DDP局としても長年計測してきた生活定点のデータを分析されるのは初めてだったと思いますが、実際やってみた感想はいかがですか?
廣中
博報堂は社内にいろいろなデータを持っているはずですが、まだまだ使い切れていないと普段から感じていました。ですから、社内のデータリソースにアクセスして「これをできないか、あれをできないか」と考える取り組みができたことはすごく面白かったです。
森
廣中さんがいうとおり、弊社が保有している様々なデータは「眠れる獅子」ではないですか?日本には社会意識・行動のデータリソースとしてJGSS(Japanese General Social Surveys)がありますが、基本的には民間企業の人はアクセスできません。ですから今回、博報堂社内で分析可能なデータを分析できたのは本当に歴史的なことで、少なからず感動を覚えたものです。この生活定点のデータを使って、論文も執筆しました。(https://www.j-mac.or.jp/oral/fdwn.php?os_id=451)個人の主観的幸福度(ウェルビーイング)の高低と、ひな祭りや端午の節句を祝うような文化的な活動・消費行動、すなわち「文化資本」がどれだけ関係しているかを分析したのです。結果、年収や年代による幸福度への影響をある程度考慮した上でも、文化資本がある程度、主観的幸福度の要因となることが明らかになりました。この研究成果は、日本マーケティング学会や世界社会学会などでも報告しています。これは特定の文化活動にかかわる支出がウェルビーイングに帰結することを示し、文化活動を促すマーケティング投資はまわりまわって生活者の幸福感につながることを説明できたと考えています。
