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【第7回】触覚技術をウェルビーイング経営支援に活用する道筋とは~東大・稲見昌彦研究所×博報堂ミライの事業室(後編)

2023.10.04
連載「東大×博報堂ミライの事業室」第7回の後編をお届けします。後編では、アカデミアと社会の接点づくり、博報堂DYグループとの連携のあり方などについて、引き続き5人のメンバーが語り合いました。

稲見 昌彦氏
東京大学 先端科学技術研究センター 教授

溝橋 正輝氏
commissure Co-Founder 代表取締役 CEO

堀江 新氏
commissure Co-Founder 代表取締役 CTO

久保 雅史
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室
ビジネスデザインディレクター

諸岡 孟
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室
ビジネスデザインディレクター

■社会や生活者へ価値を提供していくために、枠を飛び越える

諸岡
そもそも僕と稲見先生との出会いは15年以上前にさかのぼります。当時僕は学部4年生で、卒論で所属していた東大計数工学科・舘暲研究室(現東大名誉教授)の全体ミーティングで、舘研OBだった稲見先生に研究を進めていく上でのアドバイスをいくつかいただきました。その頃から、僕は稲見先生に対していわゆる研究者という職種像からはみ出していくアグレッシブな人だなという印象をもっていました。

稲見
東京大学で助手を務めていた私が電気通信大学に移って、稲見研究室を立ち上げたのが今からちょうど20年前の2003年なので、諸岡さんとの出会いはその2年後ですね。当時は研究室を立ち上げたといっても予算や備品があるわけではなく、ほぼゼロからのスタートでした。研究資金を確保するには、外部からお金を調達する必要があります。そのためには、研究の価値を世の中に広めていかなければなりません。

諸岡
研究室を立ち上げた当初から、社会や世の中への価値というところに正面から向き合ってきたわけですね。

稲見
学術研究の世界では「それって、何の役に立つんですか?」という言葉をよく耳にします。「役に立つ」ということは、社会や人々に「価値を提供できる」ということです。価値の提供の仕方には二種類あります。困りごとを解決し、マイナスの状態をゼロ、ないしプラスにしていく方法、それから生活をより豊かにしていく、つまり最初からプラスを目指していく方法です。私が注力したのは後者で、それを「エンターテイメントコンピューティング」と呼んでいました。QOL向上を目指すエンジニアリングと言ってもいいと思います。

久保
いまの稲見先生の活動の原型は、その当時にはすでに形成されていたのだということがわかりました。

稲見
そして、2008年に慶應義塾大学に移ってからは、従来の「どうつくるか」という視点を「何をつくるか」にシフトさせるための取り組みとして、メディアデザイン研究科の立ち上げに関わりました。その新専攻でのおもな取り組みは2つでした。1つは、研究者だけでなく一般の方々にも参加していただくコミュニティ「ニコニコ学会β」の運営。もう1つは、スポーツ、テクノロジー、文化を融合させた新領域のスポーツ「超人スポーツ」をめぐる活動です。

諸岡
新たな学問領域を立ち上げる、その研究機関として新たな大学院専攻科を企画し実現へリードしたということですが、会社で言うと新たな事業本部を構想し、関係機関を調整し、組織発足まで遂行したようなものでしょうか。確固たるパーパスやビジョン、そして並外れた具現化力の結晶だと感じました。

稲見
2つの取り組みはいずれも、技術ドリブンではなく、コンセプトドリブンで新しい価値を生み出していくことを目指したものでした。同じ頃、人の能力をテクノロジーの力で拡大させることを目指すヒューマンオーグメント(人間拡張)カンファレンス(AHs)の立上げのお手伝いもしました。その後、現在所属している東大先端研に来たのが2016年です。

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