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「ベトナム、ファンダムの全貌」:
博報堂インターナショナルベトナム、最新の調査結果を発表

2023.07.03
#グローバル

博報堂生活総合研究所アセアン(HILL ASEAN)ベトナムチームはこのたび、最新の調査プロジェクト「ベトナム、ファンダムの全貌-ブランドがいま注目すべき新しい文化のかたち」の結果を発表し、ベトナムで広がりつつあるファンダム消費潮流について、詳細な知見を披露しました。博報堂生活総合研究所は1981年に東京で設立された生活者研究のシンクタンクです。2012年には中国に博報堂生活綜研(上海) 、2014年にはタイのバンコクにHILL ASEANが設立されました。

ベトナムではファンダムの急激な成長が見られ、興味深い形で発展、拡大しています。では、ファンダムとは一体何か、そしてベトナムの人々はなぜこれだけファンダムに熱心なのでしょうか。博報堂ベトナム・グループの2人のメンバー、ストラテジック・プランニング・ディレクターのグエン・ドゥ・タン氏とコミュニケーション・デザイナーの稲田勘人氏に、主な調査結果と、企業のブランド活動にどう役立つかについて話を聞きました。

「ファンダム」と聞くと、特定のスターや映画シリーズを推す人々の手段と捉える向きもありそうですが、このコンセプトはどのようにして出来上がったのですか。

タン:私たちとしては「共通の情熱や称賛の気持ちを共有し、つながりたいと考える人々の集団で、ライフスタイルや生きるうえでの価値観に影響を与えられる存在」というファンダムの定義を基本的に用いています。こうした人々は「新しい」集団だと言われていますが、実際のところは「新しく生まれた」のではなく「新しく発見された」人々だという認識です。

一般的な趣味/ファンとファンダムはどう違うのでしょうか。

稲田:一般的な趣味/ファンとファンダムは本質的に、同じカテゴリーの延長線上にありますが、私たちは一般的な趣味/ファンの進化系をファンダムと捉えています。しかし、 この2つの間にははっきりとした違いがあります。最も分かりやすい違いは、そこへの帰属意識と交流が本人のアイデンティティの一部になっているかどうかという点にあります。

そのアイデンティティという点について、もう少し詳しく教えてください。

稲田:私たちは調査の一環として、自分たちの生活をよく表している写真を調査対象者に選んでもらいました。すると、ファンダムに帰属する人と、そうでない人との間にはっきりと差が出ました。ファンダムの一員である人は、ファンダム活動の写真を自分たちの生活をよく表すものとして選ぶことが多く、ファンダムに帰属していない人には見られないアイデンティティの側面があることが示唆されたからです。

ベトナムで台頭するファンダム

特にベトナムでは、ファンダムはどのように変わってきていますか。

タン:ファンダムはソーシャルメディアの台頭の過程で、趣味を共にする小規模で細分化された集団として現れ、それによってベトナム人は自己表現をしながら、同じ好みを持つ人々とつながりやすくなりました。そこにロックダウンや軍隊の出動が伴う厳しいコロナ禍が襲い、気持ちが落ち込んだり、退屈さや孤独感を感じたりした人々は、自分たちの好きなモノやコトに多くの時間を費やしたり、同じ関心を持つ人々とつながろうとしたりするようになりました。こうして、コロナ禍明けにファンダムが拡大する素地が出来上がっていったのです。

ファンダムが新しい消費トレンドになった根底には、他にも何か理由がありますか。

タン:重要な要因として、ベトナム人中産階級で可処分所得が増えたことで自分の想いを大切にするライフスタイルを追求できる機会が広がったこと、コロナ禍以来、家族や職場以外で人間的に成長する必要性に対する認識が高まったこと、ベトナムには人と人とのつながりを大切にする集産主義的文化がもともと文化としてあること、そして最後に、人々が現代社会のストレスから逃れられる空間を求め始めたことが挙げられると思います。

これは若年層の人口が多いベトナムに特有の現象とお考えですか。

タン:私たちが見る限り、ファンダムの興隆に年齢は関係ありません。ベトナムは歴史的に人々の助け合いを重んじる集産主義的な国なので、人間関係の構築の基盤にそもそも他者へのサポートという動機があります。つまり、ベトナムの文化に深く根づいている利他的な精神が、ファンダムの隆盛にとって理想的な環境を整備したと言えるでしょう。

理想の暮らしはファンダムの中に

ファンダムの活動はオンラインがメインですか。それとも対面ですることもありますか。

タン:その両方ですね。バーチャル・プラットフォームは参加も話もしやすい一方で、オフラインのビッグイベントや、小規模の定例会には、人々が絆を強め、より深いレベルでつながれるという利点があります。例えば、カー・アドベンチャーのファンダム・グループがあれば、週1回の懇親会で友人としてのつながりを作りながら、月1回のツーリングで、メンバーお勧めの新しい場所を探検するといった活動を行っています。一緒に修理工場に行って、車の修理や整備をしてもらうこともあります。

ファンダムでの生活は、普通の日常生活とどう違うのですか。

タン:ファンダムライフには主として3つの違いと利点があります。
・ 第1に、日常生活には一定の責任を果たす義務が伴うため、素の自分のままで話したり、行動したりすることはなかなかできません。それがファンダムの「もう一つの人生」では、自分たちの個人的な目標を追求する以外、責任がありません。
・ 次に、アセアン諸国と比べ、ベトナム人は旧友や家族を除き、職場以外の人との付き合いがあまりない傾向にあります。しかしファンダムの中では、全く違う職業の人と出会うことができ、それが大きな魅力になっています。
・ そして第3に、ファンダムの中での関係は基本的に友人関係で、共通の関心を通じたつながりができます。普通の生活では、「利害関係」に基づく人間関係が中心に築かれる傾向にあります。人が何かしてくれるのと引き換えに、自分も何かしてあげるという関係です。しかしファンダムでは、お互いが同じことに情熱を燃やしているため、一緒に何かを楽しむという純粋な関係が成立します。

マーケティングへの影響—ブランドがファンダムから学べること

HILL ASEAN ベトナムチームのファンダムに関する知見は、ブランドにとってどのような意味がありますか。

稲田:ファンダムの魅力は、メンバーに思いがけない恩恵と自己成長をもたらすことにあります。私たちは、ベトナムのファンダムを「思いがけない自己確立の場」と定義できると結論づけました。ファンダムに参加する人々は、そこで、日常では得難い役割や、新しい人との出会いなど、さまざまな経験をします。それらを通して、新しい人間関係や、そこから生まれる精神的・社会的な充足感、新しい知識など、思いがけない恩恵を受けるのです。これらの恩恵は自己成長につながり、やがて自己確立をも導きます。そのような経験を提供してくれるファンダムに、人々はより忠誠的になり、同じような経験を周りの人にもして欲しいと思うようになります。このようにして、ファンダムは拡大していくのです。私たちはこの好循環を、ファンダムの本質と捉えています。そして、ブランドはこのことに学び、ファンやユーザーに同じような思いがけない成長機会を提供できると確信しています。

ブランドに対しては、どのようなアドバイスがありますか。

稲田:ファンダムの真髄は前述の通り「偶発性による自己成長」にあると思います。ファンダムに加わる人々は、何かに関心と情熱と持ち、自分の暮らしを豊かにしたいと考えています。そしてファンダムの中で思いがけない経験や知識、そして個人的成長の機会を得ます。ファンダムは結局のところ、こうした継続的自己成長を通じ、人々が自己を確立するための役に立ちます。意識的かどうかに関係なく、このような経験をした人々は、さらにファンダムに深く没頭し、コミュニティの拡大に貢献します。

ブランドのつくり手は、ブランドづくりのマインドセットとして、この偶発性を計画的に作り出すことができるはずです。それは、生活者にブランドづくりに参画してもらい、生活者とその交流のダイナミズムの可能性を信じ、そこで得られるものが、彼ら/彼女らを豊かにし、それがやがてブランドに還ってゆくというサイクル・偶発性を意図して作り出せるのではないかと我々は考えています。

私たちはブランドがこの計画された偶発性を作り出せるよう、次のことを提案しています。
• ブランドと生活者の間にオーナーシップの共有を生み出す
• ブランドと生活者の間に共通の短期的/長期的な目標を設定することで、目標意識を共有する
• ユーザーが他の人を勧誘することを促し、ブランドとの絆を深める感覚を生み出す
その他にも計画された偶発性を作り出す方法はたくさんあります。博報堂インターナショナルベトナムはこのアプローチを用いて、ブランドの更なる成長をサポートしてまいります。

グエン・ドゥ・タン
博報堂インターナショナルベトナム、ストラテジック・プランニング局 部長

クライアントとエージェンシーにおいて、マーケティングとコミュニケーションを10年経験。近年はSaigon Advertising Co. Ltd.の戦略計画部門を率い、消費財、自動車、オートバイ、パーソナルケア、医薬品を含め、幅広い部門のクライアント向けのビジネスやマーケティング、コミュニケーションに生活者発想を取り入れています。

稲田勘人
博報堂インターナショナルベトナム、コミュニケーション・デザイナー

外資系エージェンシーで経験を積み、2020年に博報堂インターナショナルベトナムに参画。現在はグループ内数社の主要クライアント向けにクライアント・サービス・チームを率いており、戦略立案や統合マーケティング・コミュニケーション(IMC)計画、アートディレクション、コピーライティングを含め、全般的なコミュニケーション開発に関与しています。食品サービス・チェーンや自動車、消費財、ゲームアプリを含め、幅広いクライアント業界での経験も兼ね備えています。

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