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【ADFEST 2023】博報堂DYグループ審査員コメント(佐藤カズー/伊藤源太/F.E. Devi Attamimi/Third Domingo)

2023.04.27
新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年からオンライン開催となっていたアジア太平洋広告祭「ADFEST(アドフェスト)」が、今年は3月23日から25日にタイ・パタヤで現地開催されました。

今回、審査員を務めた博報堂DYグループ4名の審査員が、今年のアドフェストの印象や受賞作品の特徴について語ります。

佐藤カズー
TBWA\HAKUHODO チーフ・クリエイティブ・サステナビリティ・オフィサー
■INNOVA LOTUS AND LOTUS ROOTS部門 審査員
■DESIGN LOTUS AND PRINT & OUTDOOR CRAFT LOTUS部門 審査員長

2019年以降久し振りに現地開催された今年のアドフェストの印象についてお聞かせください

アドフェストはカンヌと違って、会場や宿泊施設が一箇所にコンパクトにまとまっているため、日本だけでなく様々な国やバックグランドから来ているフェスティバル参加者らと様々な情報を共有できる点が素晴らしい。いっとき仕事を離れタイで集まり、ネットワーキングを通じてクリエイティブ産業の未来を会話することが何よりの刺激になる。各々が見失いそうになっていた北極星を、再度照らすきっかけになったはずだ。ただ印象として、まだ本調子でない感じ。来場者数も会場の熱もまだまだこれからという感じ。それに比例する形で、パンデミック時よりは強い仕事が集まってはいたが、作品のレベル感は戻っていなかったと思う。

ご担当部門の今年のグランデ受賞作品の特徴と、受賞の秘訣についてお聞かせください

担当部門が5部門もあったので、全部について触れることはできないが、一発芸に近いものがほとんどだった印象が拭えない。課題の提示は立派でも、実際のエクセキューションが、本当に課題を解決できているのか(エントリービデオは立派でも)が不透明な作品が多かった。もっと言うと、作品自体がまだ萌芽的な状態でリザルトが伴っておらず、出品するのが早すぎるのではないか?と、感じるものも多かった。クリエイティブの役割がビジネスや社会へのインパクトということを忘れてしまっては、そもそも広告賞とは何のため?誰のため?という根幹が揺らぐ。企業や社会が抱える課題に対して、優れたアイデアと息を呑む美しいクラフトで、ビジネスの結果や社会の変革を促してこそ、我々のクリエイティビティが意味を持つということを忘れてはならない。

<プロフィール>
1997年大手レコード会社へ入社。外資広告代理店を経て2009年TBWA\HAKUHODO入社。メディアの枠を超えたBig Ideaで、カンヌライオンズ金、CLIOグランプリ、D&ADイエロー、NY ADCグランプリ、文化庁メディア芸術祭など、これまで多数の賞を受賞。また2012年カンヌライオンズフィルム部門審査員、2017年カンヌライオンズプロダクトデザイン部門審査員をはじめ、ミュージック、デザイン、デジタル、プロモーションといった多領域に渡る国際賞の審査員をつとめる。
2011年JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。2013年Campaign誌Japan/Korea Creative of the Year、2019年Pen誌 Creator of the year受賞。趣味は広告のパトロール。

伊藤源太
博報堂ケトル コミュニケーションデザインディレクター
■DIGITAL CRAFT LOTUS, DIGITAL & SOCIAL LOTUS AND MOBILE LOTUS部門 審査員

2019年以降久し振りに現地開催された今年のアドフェストの印象についてお聞かせください

対話から会話へ
2019年以降久し振りに現地開催されたアドフェスト。久しぶりのリアルで審査員も現地のサポートスタッフも最初はちょっと戸惑っている感じでしたが、審査が進んでいくにつれて皆エンジン全開。
オンラインだとどうしても、話す人対聞く人という“対話”になってしまうところが、リアルだと“会話”になるため審査の議論は白熱するし、別部門の審査員や参加者とのリレーション構築も深くなる。
正直、まだまだ参加者が少ない(特に日本から)印象は拭えなかったのですが、
パタヤという環境が会話を活性化させる事も含めて、アドフェストこそ現地開催だから会話が“最も活きる”広告祭だと再認識する事ができました。

ご担当部門の今年のグランデ受賞作品の特徴と、受賞の秘訣についてお聞かせください

デジタルだからこそ複雑よりシンプルに
担当した3部門でグランデを受賞した2つの作品(モバイルは該当作品なし)は、両方とも審査員“満場一致での受賞ではなかった”事が印象的でした。
CITY HALL OF LOVEもDOT PADどちらも素晴らしい事は間違いないのですが、GRANDEの受賞基準であるHEAD BLOWING(これ凄い!!感)を満たしているかで議論になりました。
(エントリー作品全体的にいえることですが)あれもこれもやろうとして少し複雑な感じ(分かりにくい)が否めなかった事がその理由だと感じ、エントリー作品で唯一満場一致の評価を得たKNOCK KNOCK(GRANDE FOR HUMANITYを受賞)の様に、デジタルの技術を生活者やターゲットが受け取りやすい≒行動しやすい形にSimplyfy(簡略化)する事が、日々進化と複雑化するデジタルの世界で求められている広告の形だと感じました。

<プロフィール>
2006年博報堂入社。営業職、インタラ、得意先常駐、ストプラで統合コミュニケーションを学び実践。2016年に博報堂ケトル参加。事業戦略、コミュニケーション戦略立案からデジタルを活かした施策、TVCM制作からメディアプランニング、トラッキングまでの幅広い領域を担当。
New York Festivals Advertising Awards Best in Show、Spikes ASIAグランプリなどの広告賞を多数受賞。

F.E. Devi Attamimi
博報堂生活総研アセアン(HILL ASEAN)所長
博報堂インターナショナル・インドネシア Executive Director, Strategy
■EFFECTIVE LOTUS AND ENTERTAINMENT LOTUS部門 審査員

2019年以降久し振りに現地開催された今年のアドフェストの印象についてお聞かせください

今年、私はパタヤで開催されたアドフェストに、スピーカーとしてではなくエンターテインメントとエフェクティブ部門の審査員として戻ってきました。ディスカッションが本当に重要であるオフラインの審査に再び参加できたことは爽快でした。パネルは多様で、性別や経歴、エージェンシーやエンターテインメント・プラットフォームがバランスよく混ざり合い、体験に豊かな要素を加えてくれました。私たちは、それぞれ独自の視点を持ち寄り、活発で示唆に富んだディスカッションを行いました。

エンターテインメント部門の審査員として、作品を審査するのはとても楽しいことでした。エフェクティブ部門は、あまり応募が多くなく、他の部門でもその効果を評価されるべき作品が多いので、本当はもっとあってもいいのではないかと思いました。

しかし、カテゴリーに関係なく、議論は常にクリエイティビティの原点である「解決策を提示する」ということに立ち返りました。私たちの目的は、クリエイティビティがどのように意味のある影響を生み出すことができるかを示すことでした。テクノロジーの活用を評価しつつも、テクノロジーにアイデアやインサイトが圧倒されないように気をつけました。ブランドの方向性を大きく変えた勇気あるキャンペーンもあれば、クライアントのブリーフに楽しく答えて、チームとクライアントの良好な関係を明らかにしたキャンペーンも目立ちました。

また、サブカルチャーの取り込みに成功した作品も多く見られました。生活者の視点を理解したソリューションが評価されました。最後に、データの活用が多くの作品で重要な役割を果たし、厳しい冷酷な事実をエンターテインメント性のあるクリエイティブなソリューションに変えていたことは、今年の審査で私が個人的に気に入った点です。

ご担当部門の今年のグランデ受賞作品の特徴と、受賞の秘訣についてお聞かせください

エフェクティブ部門のグランデは選ばれませんでしたが、エンターテインメント部門のグランデは、ラム酒ブランドBundaberg Rumの男女混合ファンタジーリーグ「Bundy Mixer(バンディミキサー)」が受賞しました。
エンターテインメント部門でありながら、世界を変える力を持っていることが、グランデにふさわしいと判断しました。Bundy Mixerは、鋭い発想で見事にその目的を達成し、その優れた実行力とスポーツにおける男女平等推進への貢献が評価されました。

平等を支持することに情熱を注ぐ者として、Bundy Mixerのようなキャンペーンは、この種のキャンペーンにありがちな決まり文句や断定的な態度から脱却するものであり、新鮮に感じました。Bundy Mixerは、男女の区別なく平等を実現するためにデータを活用し、正直な回答を促すソリューションを提供しています。人間のバイアスを解放し、正確な事実に頼ることで、この問題を再び人間的なものにしました。体系的な統計分析により、男女のパフォーマンスの公正な比較が可能になり、女性アスリートの能力に関する誤解を払拭することができました。

Bundy Mixerキャンペーンで特に評価したいのは、ゲームのエンターテインメント要素と現実を融合させている点です。ゲームといえば、現実逃避のために楽しむものですが、このキャンペーンでは、多くの人が無視したり否定している現実に目を向けさせることで、プレイヤーを驚かせました。

<プロフィール>
博報堂生活総研ASEANを、女性、外国人初の所長として率いる。また、博報堂インターナショナル・インドネシアでも、そのリーダーシップで成功を収め、D&AD Awards Pencil、ADFEST 2017で最も受賞したインドネシアのエージェンシーに選ばれる他、2017年から2021年までのCampaign Briefによる「Hottest Agency in Indonesia(インドネシアで最もホットなエージェンシー)」1位受賞。
また、Campaign Asiaの「Women To Watch 2020」の一人に選出された他、インドネシア最大の広告祭であるCitra Pariwaraの共同議長、アジア太平洋地域の年2回のマーケティング会議であるAPMFの共同議長、インドネシアアドバタイジングエージェンシー協会ジャカルタのP3Iの共同議長も務める。

Third Domingo
IdeasXMachina 会長兼創業者、チーフ・ネットワーク・オフィサー
■FILM LOTUS, OUTDOOR LOTUS, PRESS LOTUS AND RADIO & AUDIO LOTUS部門

2019年以降久し振りに現地開催された今年のアドフェストの印象についてお聞かせください

今回の審査員経験は、とても素晴らしいものでした。全体として、審査はとても組織的で、主催者はとても親切で、印象的なものでした。ただし、次に向けてアドフェストに提案したい点がいくつかあります。

審査員は、a)応募作品を1つのキャンペーン応募作品としてまとめ、b)応募作品を他のカテゴリーに移動させることを選択できます。
これは、応募作品を他の部門に移動したり、組み合わせたりすることで、より高いメダルを獲得する可能性がある場合には問題ないと思います。
しかし、移動や組み合わせた作品が、いずれにせよメダルを受賞しないのであれば、この取り組みは不要だと思います。応募者にとっては、逆に不公平になるかもしれません。
メダルを複数獲得するために複数のエントリーフィーを払って応募しているのに何度もチャンスを失うようなエージェンシ―やコンペへの対策として、複数のカテゴリーを用意する、もしくは「キャンペーン」として応募できるような形にすればいいと思いました。

2. また、メダルの審査をする前に、最終選考に残った作品をカテゴリーごとにランク付けするのは、素晴らしいことだと思いますし、適切に行われれば(読んで字のごとく、適切に素早く行われれば)、審査プロセスは非常に簡単になります。

ただ、もし更なる改善点を提案するならば、各々の審査員は、遠隔地の審査でも直接作品に点数をつけることができるので、もしかするとメダルを審査する前にカテゴリーごとにファイナリストのランク付けをする必要はなく、それがすでにランキングの基準になりうるのではと思いました。

<プロフィール>
IdeasXMachinaの会長兼創業者。IdeasXMachinaは、アジア最大の広告専門誌 「Campaign Asia Pacific」 が主催する 「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー・アワード」 において、2015年、2016年、フィリピンの独立系エージェンシー部門において2年連続で金賞を受賞、2017年に銀賞を受賞。Third Domingo自身も2016年にCampaign Asia Pacific誌の 「40 under 40」 (注目すべき40歳未満の40人) に選出されるなど、平均年齢20代のIdeasXMachinaを率いる若き経営者として注目を浴びている。

アドフェスト公式サイト:ADFEST 2023

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