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ヒット習慣予報 vol.255 『サイレントデザイン』

2023.02.14
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。

正月ボケする頭を寒さで叩き起こしている間に早くも1ヶ月が経過してしまい愕然とする日々を過ごしています。最近、社会人人生も10年をすぎ、どんな企画が好きだったのかな、と過去を振り返る機会があったのですが、そこで気づいた変化が、なんか「やさしくて温かい企画」が好きになってきているということです。入社当初は、尖っていて個性的で切れ味のある企画にぼんやりと憧れていたのですが、最近年齢を重ねたからか、社会の潮流を受けてなのか、そんな変化に改めておどろきました。

さて、そんな変化にも通じる今回のテーマは「サイレントデザイン」です。ダイバーシティ&インクルージョン社会の実現が叫ばれる昨今ですが、そんなあらゆる人にやさしい社会のために1980年代から提唱されてきた考え方に、年齢や能力や状況にかかわらず誰もが利用できるように設計する「ユニバーサルデザイン」というものがありますが、今回はそこからイメージして、静かさをデザインすることによってやさしくあたらしい時間が生まれてきている、潮流について考えていきたいと思います。

「多様性」の検索数推移

出典:Googleトレンド

この潮流を考えたのは、「クワイエットアワー」という取り組みを少し前に知ったことがキッカケでした。「クワイエットアワー」とは一時的に音や光の刺激を緩和して、つまり、暗く静かな状態で営業する取り組みのことで、スイス、イギリス、ニュージーランドなど海外でひろがりつつあるようです。最初ニュースで知った時は「節電のため???」などと気候変動対策の取り組みなのかなと思ったのですが違いました。「感覚過敏」という、音や光といった刺激によってひどい不安感や疲労感を感じてしまう方たちのために週に1〜2回あえて店内の放送や音楽をやめ、静かで落ち着いた環境で買い物できる時間を設ける取り組みのようです。SNSでも報道を受けて、「優しさを感じる良い取り組み」「売上が落ちていないってすごい」「どんどん広がってほしい」など賛同の声があがっているのをみて、日本でも徐々に受け入れられていく兆しを感じました。オンラインショッピングが当たり前になってきた時代ではありますが、スーパーや量販店などの時間限定大特価!などを感覚過敏の人はなかなか享受できなかったり、ファッションやコスメなどの商品を買い求める際も店頭で感覚過敏ゆえに試すことが難しかったりすることを考えると、様々な業種の店に広がっていい取り組みだなと感じますし、静かで暗い店内はもしかしたら感覚過敏ではない人にとっても落ち着いて買い物が新しい体験になるかもしれません。

また、意外なものから音を取り除くことで新しい輝きを放つ事例もありました。ニュースで知ったのですが、チアリーディングの大会でろう学校の学生が「音なし」で競技に参加したようなのです。そんなこと可能なのか?と一瞬思ってしまいますが、ろう者の方は聴覚以外の感覚を敏感に張り巡らしながら生活しているため練習を重ねることで動きをあわせてダンスすることができるようになったようです。チアリーディングの迫力、という意味では音はとても大切だと思いますし、観客を楽しませるという意味では音は大事な要素ですが、実際にみてみると音がないことで逆に身体の動きに集中することができて、音がないチアダンスがしっかりとスポーツとして見応えのあるものになっているように感じました。前例のないことにチャレンジした学生も、大会と交渉した先生もすばらしく尊敬してしまいますが、しょうがない、というよりは、これも面白い、という新しいジャンルの萌芽を感じることができ、いたく感動しました。

さらに、スポーツではなく、エンターテインメントでも「サイレントデザイン」の事例がありました。音無しの演劇です。古くは技術が追いついていない時代に無声映画などのエンタメはありましたが、舞台技術も日々進化するこの時代にあえて、音のない世界を表現するとても魅力的な取り組みだなと思います。派手さはないものの音がないからこそその動きや緊張感が伝わり、かすかな動きが発する音や呼吸音など通常では聞こえない音まで聞こえてくる気がします。こんな舞台であれば、例えばろう者の方でも日本以外の国籍の方でも同じく楽しむことができるこれからのエンタメの一つのあり方のような気がしました。

今回ご紹介したような「サイレントデザイン」はダイバーシティ&インクルージョン時代ならではの“軸”のように感じます。成長社会においては、足し算の発想で賑やかな音・派手な色・大きな場所、が求められてきましたが、成熟社会においては引き算の発想で計算された音・落ち着いた色・適切な場所が必要とされているように感じます。もちろん、派手で賑やかなものはやはり心を高ぶらせるいい体験だと思うので、すべての活動が静かで穏やかで落ち着いたものになるべきだとは思いませんしがあえて今までの当たり前を疑ってみて有るものを無くしてみるともっと多くの人が自分らしい幸せをみつけられる景色がみえてくるように思います。

最後に、「サイレントデザイン」のビジネスチャンスについて少し考えてみたいと思います。

「サイレントデザイン」のビジネスチャンス例
■暗闇の中で静かに嗜むおひとりさま専用バー「サイレントバー」。
■静かな空間でひと目を気にせずに服が買える「サイレント試着室」。
■音と光をおさえて触覚で楽しむ「サイレントテーマパーク」。

先日、真っ暗闇で静かなサウナに入ってみたのですが、テレビをみながら入るサウナとちがって非日常の楽しみを味わうことができました。温泉はいりたいですね。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

村山 駿(むらやま・しゅん)
博報堂 PR局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

車からお菓子に至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。運動不足でたるみきった体と気持ちを鍛え直したいと思い、筋トレを始めました。

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