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先進的なユーザーとの共創による、
ユーザー・イノベーション活用の成功のヒントとは

2023.02.14
2020年に、法政大学の西川英彦教授と博報堂ブランド・イノベーションデザイン(BID)が共同で立ち上げた「USER INNOVATION LAB.」(ユーザー・イノベーション ラボ)。そこから生まれた研究成果「リードユーザー探索における"ダブルキャリア"の重要性 ― 約80名の探索から得た先進類似市場に辿り着くコツ ―」が、この度「日本マーケティング学会カンファレンス2022」でベストポスター賞を受賞しました。同ラボを運営する博報堂BIDの岡田庄生と、研究プロジェクトを主導した博報堂BID和泉舞に、企業がユーザー・イノベーションの活用を成功させるヒントや博報堂が伴走する強みなどについて聞きました。

成功の鍵は、いかにテーマに合った生活者イノベーターと出会えるか

――まずはそれぞれの来歴と、ユーザー・イノベーションとの関りについて教えてください。

岡田
私は入社以来さまざまな企業のブランディングや商品開発などの仕事をさせていただいてきて、その学び直しをしたいと考え、2017年から法政大学大学院に通い始めました。そこでユーザー・イノベーション研究の日本の第一人者である西川英彦先生と出会い、2020年に西川先生と共同で「ユーザー・イノベーション・ラボ」という研究会を立ち上げ、さまざまな企業の方に参加していただきながら、ユーザー・イノベーションの知識を企業に還元する取り組みを進めています。

和泉
私は2013年に博報堂に中途入社して以来、マーケティングプラニングディレクターとして、さまざまな業種の企業の広告戦略やマーケティング戦略立案のお手伝いをしてきました。多くの定量・定性調査を行う中で、生活者の顕在化したニーズやインサイトは発見できるけれど、新しい価値提案や新市場の創造につながるような潜在的なニーズやインサイトは既存の調査からは導出できず、そのような潜在的なインサイトを引き出すためにはどうすればよいのか、と課題感を抱いていました。その後BIDに異動したのが、ちょうど岡田さんがユーザー・イノベーション・ラボを立ち上げられた2020年で、立ち上げのタイミングでお声掛けいただき、ユーザー・イノベーションを活用した手法なら自分の抱えていた課題感を解消できそうだと考え、それ以来ご一緒させていただいています。

――具体的にどのようなユーザー・イノベーション活用の取り組みを行っているのか教えていただけますか。

和泉
業種の異なる3社の商品開発プロジェクトで、ユーザー・イノベーション活用の手法のひとつである「リードユーザー法」を実施しました。リードユーザー法とは、生活者イノベーター(=リードユーザー)からイノベーションのヒントを発見する方法です。リードユーザーを特定するために、ピラミッティング探索と呼ばれる手法を行いました。具体的には、 まず生活者イノベーターと呼ばれる先進的なユーザー(=リードユーザー)数名にインタビューします。その際、「あなたよりも詳しい方を紹介してください」とお願いし、数珠繋ぎでどんどん次の方にインタビューしていき、新奇性のあるアイデアを得るというもの。そこで得られたアイデアをコンセプトまで練り上げていくのですが、3社のいずれからも、「社内では得られないアイデアが得られた」と非常に高い評価をいただきました。

――クライアント企業からは、「ユーザー・イノベーションの活用を実践してみたい」という相談があったのですか?それとも何かしらの相談事に対してこちらからユーザー・イノベーション活用の手法を提案したのですか?

和泉
両方のケースがありました。一般生活者向けの定量・定性調査に加えて、新たなリサーチの手法として試してみたいというオーダーもありますし、ロングセラーのブランドで、期間限定商品などをいくつも展開してきた中で、なかなか新しいアイデアを自社内で生み出すのが難しくなってきたというお悩みに対して、ユーザー・イノベーションの活用をご提案して採用いただいたケースもあります。

――具体的にどのようにプロジェクトを進めていくのでしょうか?

和泉
まず行うのはチーム組成です。商品開発というゴールに着地しやすいよう、マーケティング、研究開発、宣伝など多様な部署のメンバーで構成いただくよう、クライアント企業に依頼します。メンバーによって関心事、課題感は異なるので、こちらがファシリテーションしながら各自の意見を集約し、ひとつのテーマにまとめあげていきます。テーマが決まれば、それにふさわしい話がうかがえそうなインタビュー候補となる生活者イノベーターの方をチーム全体で選んでいき、10人なり20人なりに、先述の方法でインタビューを続けてファインディングスを得ていきます。その後はコンセプトづくりです。ワークショップ形式で、生活者イノベーターの方にも意見をうかがいながらコンセプトをブラッシュアップしていきます。基本的にはクライアント企業と博報堂のメンバーが一つのチームとなって、皆でゴールを目指すという形です。

――ちなみにどういった方にインタビューし、どのような話が聞けたのでしょうか。

和泉
テーマが「環境」のプロジェクトの際には、農業従事者でかつNPO活動も行っている方や、エコなコミュニティで持続可能な暮らしを実践している方、環境に配慮しながら山小屋を運営されている方、またエココンシェルジュの資格を持ち、環境活動を行っている主婦の方などにインタビューすることができました。例えばリジェネラティブな(環境再生型の)農業のお話とか、海外では浸透しているエコやオーガニック認証制度の話など面白い話をうかがえたこともあります。テーマが「健康」のときは、さまざまな体の不調があるときに、どんな栄養素や食べ物を摂取すべきなのかといった話や、アーユルヴェーダ(インド発祥の民間療法)の思想の話などもうかがえました。

――そこからどのように商品のアイデアに落とし込むのでしょうか。

和泉
インタビューを行う中で、生活者イノベーターの方が直面している先進的な生活課題やインサイトを発見し、それに対する解決策、ソリューションについても生活者イノベーターの方からお話を伺うことができます。先進的な生活課題やインサイトを踏まえて、企業としてどういう価値を提供すべきか?生活者イノベーターが行っている解決策は企業の中で実現できることなのか?などを検討しながら商品アイデアに落とし込んでいきます。

――大変だったこと、また逆に嬉しかったことを教えてください。

和泉
理論上は、ピラミッティングを用いて紹介を辿りながらインタビューを繰り返せばユニークな人に出会え、新しいアイデアを得られることになってはいますが、実際にはそうした方を紹介してもらえないケースもありますし、前にインタビューした方と似たような話しかうかがえないこともあります。なかなか効率的に進められず、難しさを感じることもありました。一方で、クライアント企業の意向にピタリとはまるような、新しい視点や深い考察、そして事業領域につながるような話をしてくださる生活者イノベーターと出会えた時は、クライアント企業にも非常に満足いただくことができて、我々も達成感を感じる瞬間でした。そういうときは1時間のインタビューがあっという間で、我々もクリエイティビティを刺激される時間です。

――ユーザー・イノベーションの活用を成功させるためのポイントはありますか。

和泉
鍵となるのは、いかにテーマに合った生活者イノベーターと出会うか、ということになります。対象者の条件や候補者の選定方法においては、法政大学の西川先生と共同で運営しているユーザー・イノベーション・ラボで「実践」と「研究」を繰り返してどんどんブラッシュアップさせています。その知見が我々にどんどん溜まっていっているので、しっかりとサポートさせていただけると思っています。またテーマ選定においても、ワークショップのファシリテーションなどを我々がお手伝いすることで、参加者それぞれが抱くさまざまな関心ごと、企業やブランドのもつ課題をうまくひとつのテーマに集約させていくことができると思っています。

ユーザー・イノベーション活用の手法は、コミュニケーション戦略に活かしていくこともできます。岡田さんが研究している内容でもありますが、たとえばこれまでに“ユーザーと共創した”という情報を店頭で伝えていくことで、商品やサービスの売り上げにつながる効果があったという実験結果もあります。現状ではコンセプト開発までの支援を行っていますが、そうしたコミュニケーションへの活用についても、我々が支援できるところだと考えています。

2年連続となるベストポスター賞の受賞

――インタビュー対象者をいかに効率的に人選できるかについて、先日その研究結果を「日本マーケティング学会カンファレンス2022」で発表され、今回ベストポスター賞を受賞しました。内容について簡単に教えてください。

和泉
過去3社で行ったプロジェクトでインタビュー候補者となった約80名のうち、新しいアイデアが得られ、なおかつ異分野の生活者イノベーターの方を紹介してくれたインタビュー対象者の方のプロフィールを振り返ってみたんです。すると、2つ以上の専門性、ダブルキャリアを持つ方が多いという仮説が生まれました。さらに、その仮説を定量的に検証したところ、やはりダブルキャリアの人の方がより有用な生活者イノベーターを紹介してくれる確率が高いことがわかりました。

マーケティング学会での研究成果発表の様子

――ダブルキャリアの方は複数の視点を持っているので、より新規的なアイデア、発想をお持ちだということでしょうか。

和泉
そうですね。たとえばこれまでにインタビューした方の中には、僧侶でありながら経営学の知見もある方や、看護師の資格を持ちながら環境活動家の方もいました。人材に多様性のある組織の方がイノベーションは生まれやすいと言われるように、多様性を内包する人、専門的にいうと“自己内多様性”を持つ人の方が、イノベーションの触媒になる確率が高いのではないかと考えています。

――ユーザー・イノベーション・ラボの研究成果が学会のカンファレンスで評価されるのは、去年に引き続き2度目となります。岡田さんはどう受け止められましたか?

岡田
2年連続受賞はとても珍しいらしく、私も驚きました。50弱くらいの発表のうち5つが「ベストポスター賞」に選定されるのですが、投票者はマーケティングの研究者もいれば、企業でマーケティングに携わる方、あるいは我々のようなマーケティングの支援会社などさまざまです。そうした方々が、和泉さんが実務の中で抱いていた課題感と実践を経ての発見、さらにそれを定量的に分析した点を高く評価してくれたということで、非常に嬉しく思います。

――岡田さんが研究を始めた2017年頃と比べて、ユーザー・イノベーション界隈の盛り上がりは感じますか。

岡田
ユーザー・イノベーションの活用は、最近だとユーザーと一緒に商品を開発する企業や、またユーザーとは異なりますが、インナー(店員)のアイデアから商品を開発するなど、“共創”の事例は非常に増えてきていると思います。重要なのは“どんな人”と共創するかです。いかに新奇性のあるアイデアを生み出す生活者イノベーターと出会えるかが、ユーザー・イノベーションを活用する最大のポイントだと思っています。

ユーザー・イノベーションの研究自体は1970年頃から始まっていますが、当時と現在の最大の変化はデジタル化が進んだこと。どんなに遠くに住む人にも、インターネットを通じて簡単にインタビューできるし、SNSなどを通じてインタビューの交渉もしやすくなっている。かつては理論先行でしたが、デジタル化によってどんどん実践できるようになったなか、我々がこうして実践してみて、その検証結果を世の中にオープンにしていくことには、大きな意味があるのではないかと思っています。

生活者共創のハブとしての新しい強みが生まれている

――プロジェクトに参加いただいたクライアント企業の方からのコメントで印象的なことはありますか。

和泉
ユーザー・イノベーション・ラボのメンバーの個人的なネットワークから、リードユーザーになりえる人、生活者イノベーターだと思う知人を紹介させていただいたケースもあったのですが、クライアント企業からは「博報堂の持つ、個性的でユニークな人脈は大きな強みですね」と言われました。

岡田
確かに博報堂の社員は比較的人脈が豊富かもしれませんね。ユーザー・イノベーションの活用に取り組むにあたっては、そうした特徴も十分に活かせるかと思います。

――そのほか、博報堂が伴走することの意味はどこにあるでしょうか。

岡田
ユーザー・イノベーションを活用するということは、ユーザーのアイデアを価値あるものととらえることが前提となります。つまり基本的なマインドとして、「生活者の力を信じる」ことが重要になる。“消費者”ではなく“生活者”としてとらえる、“生活者”が主導する社会にしていく、“生活者”をエンパワーしていく――我々のベースにあるそうした考え方が、必然的にユーザーやイノベーターの声を聴く力につながっているのかもしれません。スキル面でいうと、和泉さんをはじめとするリサーチのエキスパート、ユーザーの声をもとにプロトタイプをつくるプロダクトデザイナー、またたくさんある声のなかで、いい声を感度高く見極める力もあると思っています。最後に、個人のネットワークもそうだし、会社としても、先進的な人やタレント、メディアなどのネットワークが豊富なので、人選における選択肢が非常に幅広くなるのも大きな強みです。

和泉
ユーザー・イノベーションは、リードユーザーと呼ばれる少し特殊な生活者からアイデア、創造性の部分まで力を借りてくることになります。これはある意味、生活者発想の発展形といえるものかもしれない、と私は考えています。生活者の力を借りることで、クライアント企業だけではなく我々も発想の幅を広げられ、クリエイティビティを高められる。生活者共創のハブになるという、新しい強みが生まれている気がします。

――最後に、ユーザー・イノベーション・ラボとしての方向性、また企業へのメッセージをお願いします。

和泉
多くの市場がそうだと思いますが、成熟市場で事業を展開されていて、新しい価値提案が難しくなってきたと感じているクライアント企業には、ぜひユーザー・イノベーションの活用をお勧めしたいですね。ブレークスルーのきっかけにできるのではないかと思います。

岡田
ユーザー・イノベーション・ラボの方では、2023年4月から始まる第3期の参加企業を募集しているところです。ラボは非常に和気あいあいとした雰囲気で、学術的なインプット、他社との学び合いのセッション、また自社における実践、トライアルを同時並行で進めていきます。自社の課題をどう解決するか考えるだけでなく、同じような課題に悩む他社の方と交流したり、ふだんあまり読むことのない学術論文をわかりやすく解説するなど、企業としてプラスになるだけでなく、個人としても大いに成長する機会になります。商品開発や企画、デザイン部門、開発研究、サービスづくりにかかわる部門など、実践に落としやすい職種の方にはぜひお勧めしたいですね。

――本日はありがとうございました!

岡田 庄生
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 部長 / イノベーションプラニングディレクター

2004年株式会社博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局を経て、現在、ブランド戦略・マーケティング戦略の策定や新商品・新サービスの開発などを支援するブランド・イノベーションデザイン局に所属。法政大学と博報堂による産学連携プロジェクト「USER INNOVATION LAB.」の共同代表も務める。著書に『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫:日本経済新聞出版社)などがある。武蔵野大学客員教授。博士(経営学)

和泉 舞
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン マーケティングプラニングディレクター

広告会社2社を経て2013年に博報堂入社。マーケティングプラニングディレクターとして、トイレタリー・化粧品、家電、飲料・食品メーカー、アパレル、外食産業、流通など幅広い業種の広告戦略立案、ブランド戦略立案、商品開発などに従事。さまざまな手法の調査を通じた生活者インサイト分析、特に化粧品やヘルスケアなどに関する女性のインサイト分析に定評がある。
各ステークホルダーとのワークショップによる共創型プランニングを得意とし、未来洞察ワークショップやオープンイノベーション手法による新規事業開発なども行っている。

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