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PR×広告クリエイティブで全体を設計する。アイデアの力で人の心に訴える、若手クリエイターの思考法【アドテック東京2022レポート】

2023.02.10
#アドテック東京2022#クリエイティブ
「広告クリエイター」とひとことで言っても、今のクリエイターが担う範囲は大きく広がっています。企業ブランディングからSNSでの話題化まで、広告の実制作を超えて、さまざまな領域でアイデアが発揮されています。その最前線で活躍するクリエイターは、何を大事にして企画に向き合っているのでしょうか。電通の杉井すみれ氏、The Breakthrough Company GOの小林大地氏、博報堂からは西出壮宏が登壇し、モデレーターとして「新R25」を運営するCAMの宮内麻希氏を交えて、若手の企画術についてディスカッションが交わされました。

本稿では10月20日、21日に開催されたアドテック東京2022のセッションを抜粋してお届けします。

モデレーター
宮内 麻希
株式会社CAM
新規事業 プランナー

小林 大地
The Breakthrough Company GO
プランナー

杉井 すみれ
株式会社電通
CMプランナー/コピーライター

西出 壮宏
株式会社博報堂
コピーライター

SKE48「公演に満足できなかったら返金」企画の背景

宮内
モデレーターの宮内と申します。Webメディア「新R25」の広告コンテンツ制作や、キャスティング広告のような新規事業に携わっています。さて、“若手トップクリエイター集合”というタイトルをいただいて若干恐縮ですが、タイトルに負けないようにお話ししていければと思います。今日はいくつかお題を用意してきました。自己紹介を兼ねて、ひとつ目のお題「企画を話題化させるために大切なこと」から紹介いただけますか? まずGOの小林さん、お願いします。

小林
GOの小林です。PR会社のベクトルを経てGOに参画し、丸3年になります。直近では朝日新聞社の企画で、2022年10月20日の新聞広告の日に、エンタメや漫画などの業界のライバル同士が讃え合うプロジェクト「♯2022年を愛の年に🤝」を担当しました。
僕が話題化のために大切にしているのは、「1点だけ大きくズラす」ことです。

GOに入って1年半ほど、社内でまったく企画が通らず、クライアントにひとつも上げてもらえない時期が続きました。試行錯誤して改善する中で、あるとき「人は2つ新しいことがあるとわからないけれど、ひとつだけ新しいとおもしろがれる」と気づいたんです。そこから、企画の中の要素をどれか1点だけズラすことを意識して、プランニングしています。
具体的には、まず与件を「いつ・どこで・誰が・何を・どうする」と因数分解して、ごく普通に考えたまったくおもしろくないA案をつくります。その上で、どれかひとつの要素を大きく外してみます。
事例を挙げると、SKE48さんの新しい公演のアルバム発売時に企画した屋外広告では、「どうする」の部分を変数として練りました。このあとに予定している公演で、満足いただけなかった方には「全額返金する」というアクションを打ち出したんです。たとえば「どこで」を、名古屋周辺ではなくニューヨークやソウルに出してみようか、なども考えたのですが、話題化の点で最終的に「どうする」をズラした案になりました。

宮内
“返金”を提示するのは、かなりリスクがありますよね。クライアントに理解いただけた要因は何だったと思いますか?

小林
「グループの本気度を伝えることが重要」と握手できていたことが、ポイントだったと思います。アイドル界の競争もどんどん激しくなる中で、本当にメンバーががんばっているので、それをどんなアクションで表現すると伝わるのかを考えて生まれた企画でした。それを理解いただいたことで、実現にこぎつけました。
実際、全額返金保証公演の来場者217人のうち6人に返金する結果となりましたが、それも含めて何とか想定内の形で着地できたと思います。

“異常値”の有効性をクライアントと共有する

宮内
博報堂の西出さんは、企画の話題化について「異常値をどこかに仕込む」と回答してくださいました。自己紹介も合わせて、解説してもらえますか?

西出
コピーライターの西出です。
CMや新聞のコピーワークのほか、最近ではソーシャル戦略からマス広告までを担当したり、スタートアップのコミュニケーションに並走したりしています。
先ほどの小林さんのお話で、メンバーの本気度を伝えようという点でクライアントと握っていたとありましたが、とても共感しました。僕も、クライアントの真意を徹底的に聞きたいし、距離を近づけたい思いが根本にあります。
僕が挙げた「異常値」も、小林さんの「ズラす」と同じで、それを仕込めるのはクライアントとの信頼関係あってこそだろうと思っています。

具体例として、2021年末に掲出した、バーチャルオフィスを展開するoViceの屋外広告を紹介したいと思います。忘年会をしたいけど難しい情勢だから、oViceでやってみてはと提案する内容なのですが、ここでの異常値は、事前の世論調査で「忘年会をしたい」人が2割しかいなかったことです。いわば、それを逆手に取った企画でした。
目的は、まだ認知度の高くないサービスだったので、「忘年会」をフックに「oVice」を覚えてもらうことでした。広告は実際に世の中に出してみないと、潜在顧客や生活者がどう反応するか、読み切れない部分が絶対にあります。ただ、受け皿は設計できる。この場合は、ただ「oViceのバーチャル空間で忘年会しよう」とWeb広告で当て続けてもほぼ無視されると思ったので、それをクライアントのご担当者にお話して、企画を理解していただきました。

宮内
たしかに、8割の人が「忘年会をしたくない」と思っているなら、「バーチャル忘年会しませんか」といってもまったく響かなさそうですね。

西出
そうなんです。だったらまずは「忘年会」「oVice」だけ覚えてもらう火種を作りましょうと提案しました。想定通り、Twitterではこの広告の写真とともに「いや、別に(忘年会はしたくない)」と断罪するような投稿がバズになりましたが、それも起こりうることとして事前に共有していました。パブリシティ掲載を見越して、見出しにどう書かれるかも意識していたこともあり、まずまずの手応えがありました。

自分の中に、常にキャラクターが生きている

宮内
杉井さんからは、企画を話題化させるのに大切なこととして「『みんなが見たことあるもの』をちょっとだけ入れる」という回答をいただきました。

杉井
私はCMプランナー兼コピーライターとして、KDDI・auのCMを担当したり、関心のあるフェムテック領域で自主企画を推進したりしています。
企画の仕事では、まず「新しいものを考えよう」と思いがちですが、新しすぎるとむしろ馴染みがなく、なかなか振り向いてもらえないところもあります。なのでまったく新しいものというより、どこか懐かしいとか、ちょっと知っていることを込めるようにしています。

auの「意識高すぎ!高杉くん」シリーズでは、学校を舞台にたくさんのCMを通してサービスを紹介しています。キャラクターのひとり、貯杉(ためすぎ)先生がメインの「テストの解答」篇も、皆さんが「ちょっと知っている、見たことがある」ようなことを入れ込んで発案したものです。
ネットやSNSで企画のタネを探す中で、学校の先生のテストの採点がどこか笑えたり、出題自体がかなり凝っていたりするエピソードが数多く投稿されているのに気づいたんですね。これはけっこう飽きが来なくて、皆が求めているコンテンツなのではと思い、貯杉先生がテストの回答にメッセージ=auの特徴を仕込むという話になりました。

宮内
このシリーズはかなり本数が多いですが、どうやってストーリーを思いついているのですか?

杉井
複数のキャラクターが、常に自分の中にいるような感じです。私自身が日常生活を送りながら、彼らだったらこんな場面やシチュエーションだとどうなるか、彼らの間にどんなドラマが起きそうかをいつも想像しています。想像力で企画していると思いますね。

宮内
ありがとうございます。ちなみに私も回答を用意したのですが、
「リアクションからイメージする」です。
私の場合は広告記事が多いので、最終的なアウトプットである記事を読んだ方がどんなリアクションをされるかをイメージするようにしています。クライアントが直接言えないことも、第三者としてのメディアなら適切に言えたりするので、その点で媒体価値を発揮しながら、リアクションを想定して考えていっています。

“バズ”にまつわる批判をどう捉えるか

宮内
皆さんのお話から、企画が話題になったあとに現象がどうフィーチャーされるかまで考えられていると思いました。ただ、最近では広告企画が話題になると「バズっているだけで売上につながっていない」といった批判が目立っているように感じています。広告がおもしろくても、商品やサービスの特長や背景にある思いが伝わらなければどうなんだ、という論争があると思っていて。

杉井
私はマス広告の仕事が多く、話題化を狙うようなことが少ないですが、やはり商品やサービスが売れて生活者の方の課題解決になり、クライアントに喜ばれることを第一に考えています。企画しながら、その視点がぶれていないか、いつも気にしていますね。
仲間内でも、そのときどきで流行っている広告や自分たちが担当した広告について、話題化が先行してしまっているのではないかと本音で指摘し合うこともよくあります。

西出
僕はそもそも、バズ自体ではなく、手に取ってもらったりサービスを使ってもらったりという明確なビジネス結果にコミットすることが多いんですね。KPIもシビアに設定されている中で、バズも一定のゴールを設けて、体験設計に組み込んで数値化しています。

小林
結局、生活者の方に届くのは表現の部分だけで、クライアントと共有した企画意図が明確に届くわけではないですよね。なので、僕がPR出身ということもありますが、たとえば情報解禁のタイミングで企画意図をしっかりと語るインタビューが公開されるように調整するなどして、意図が伝わる設計を大事にしています。パブリシティを獲得できないこともありますが、特設サイトに行けばちゃんと意図がひも解かれているようにするのもひとつの策です。
バズが起きるときも、言葉の表層だけを捉えられて意図しない方向へ広がってしまうこともあるので、そうならないように、予防線を常に意識しています。

ソーシャルが“自分ごと”になっている世代の強みを生かして

宮内
私も含め、今回は30歳前後のクリエイターが集まっていますが、20代30代が活躍するために必要なこと、そしてこれから実現したいことも考えてきてもらいました。お三方それぞれいかがでしょうか?

小林
スキルで戦おうとすると、どうしても大先輩には勝てないので、まず「自分の視点」を持つことを大事にしています。これまでの経験上、もちろんクライアントの意向は大事ですが、自分が心底おもしろいと思っているものがやはり成果を得られると実感しています。
これからは、広告クリエイティブで培った企画力で、稼ぐコンテンツをつくりたいです。いろいろなクライアントと接する中で、アイデアの力で多くの人の心を動かし、お金も動かしていることを目の当たりにして、“そっち側”に行きたいと思うようになりました。表現だけでなく、もっと手前からかかわれるようになりたいです。

西出
20代30代という話だと、やはりそれより上の世代よりもソーシャルのスピードに慣れているのが有利な点だと思います。なので、バイタリティとスタートダッシュで差をつけられるのではないかと。僕らの世代はちょうど、ビジネスとしてのマーケティング感覚と、いち生活者として高速で流れる情報に常に親指で触れている“自分ごと”の感覚の両方になじんでいる気がするんですね。なのでそれを生かして、提案を“爆速”にするとか、メディアを横断した体験設計を密に立てるといった部分で力を発揮できればと思います。
で、今後としては、クリエイティビティでKPI至上主義から脱却できないか、と。もちろん数字は大事だし、諦めませんが、クリエイティブは100%数字で測れないとも思うので……。数字の側と、質を見る側との架け橋になれたらと思っています。

杉井
「すべての仕事がスキル習得の場」だと認識することが、若手が活躍するのに大事になるのではと考えています。先のKDDIの案件など、有数の仕事を手掛ける篠原誠CDに聞いたことなんですが、目の前の仕事を通して自分が何を会得できるか、常に見据えて取り組めと。なので経験していないことにどんどん手を挙げて、40代になったときにどんな業務も経験したことがある人になれるように、と思っています。
また、今も少しずつ自主企画で取り組んでいますが、これからは広告やコミュニケーションのスキルをソーシャルイシューの解決に生かしていきたいです。フェムテックや背教育関連の相談があったら、ぜひお声かけいただけたらと思います。

宮内
社会課題の解決は、これからもっと重視されることですね。ちなみに私は、広告企画の考えを事業に生かしていきたいと思っているのですが、クリエイティブやアイデアの力がより多方面に広がりそうだと、お三方のお話からも実感しました。今日はありがとうございました!

宮内 麻希
株式会社CAM
新規事業 プランナー

新卒で出版社の営業職を経験後、広告制作会社にコピーライターとして転職。フリーペーパーの編集や採用広告のディレクションなどの経験をした後、2018年に新R25へ。広告事業立ち上げ、広告コンテンツの責任者を担当後、2021年より広告コンテンツの制作と兼任しながら新規事業のプランナーに。

小林 大地
The Breakthrough Company GO
プランナー

PR会社ベクトルを経て、2019年GOにジョイン。新規事業から広告・PR企画まで、アイデア開発を幅広く行う。ブランドの思想を体現したアクションの企画が得意。 主な仕事に、SKE48「#全額返金保証公演」、ECOALF「#資源を無駄にしない広告」、FamilyMartプライベートブランド「ファミマル」ローンチコミュニケーションなど。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、新聞広告賞、広告電通賞等受賞。 ゲラゲラ笑えるバラエティ番組が好き。なにわ男子、大橋担。

杉井 すみれ
株式会社電通
CMプランナー/コピーライター

2018年電通入社。マスの広告キャンペーンから、WEB施策・PR・イベントなど幅広く担当。主な仕事にKDDI「ポイント貯めすぎ!貯杉先生」、スマホで学ぶ性教育「SEXOLOGY」、Spotify音声広告シリーズなど。TCC新人賞、ACCブロンズ、ギャラクシー賞、吉本興業主催漫才甲子園地区優勝など受賞多数。

西出 壮宏
株式会社博報堂
コピーライター

1991年、京都で生誕。横浜国立大学建築学科を卒業後、博報堂に入社。その後すぐにTBWA HAKUHODOに4年間出向。 2019年より生活者エクスペリエンスクリエイティブ局所属。 Social/DXの社会変革に対応すべく、設計-実装において超直線型スピードプランニングを武器としている。 口癖「まずは低予算でもやってみましょう」 TCC審査委員長賞、新聞広告賞グランプリ、カンヌライオンズ、ACCなどほどほどに受賞。

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