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「キャリアアップならぬ『ライフホップ』?」
~MZ世代に見られるライフスタイルを優先したキャリア選び~

2023.01.17
いまや、長いキャリアの中で何度も転職を経験するのは珍しくない時代。さらにコロナ禍を経て、職場環境や仕事への価値観はめまぐるしく変化しています。経済成長が鈍化した社会で育ってきたこの世代は、会社や仕事の中身、キャリアについてもシビアに考えています。彼らが転職する本当の理由は何でしょうか。
今回のコラムでは、MZ世代の女性マーケティングプラナー、小野万優子・四家万梨乃の二人が、イマドキの仕事の価値観を考察します。

業種・職種の両方を変える、“ジャンプ転職”とその理由

ここ数年、転職は一般化してきていますが、まずは転職の「質」に注目してみましょう。通常の考え方ですと、”今までの経験を生かした転職”を志向するのが一般的ではないかと思います。しかしながら、この世代の特徴を見ると、業種も職種も両方を変える「ジャンプ転職」がマジョリティーです。今回独自に実施した調査(※1)では、20代30代転職経験者の半数が業種も職種も両方変える転職をしたことがあると回答。女性20~30代では47.2%、男性20~30代では54.4%と、いずれも約半数が「ジャンプ転職」の経験があることが分かりました。

出典:博報堂「転職の実態・意識調査」2022.07

なぜ、業種も職種も変える「ジャンプ転職」が多いのでしょうか。その理由を紐解いていくと、男女での傾向の違いが見えてきました。

出典:博報堂「転職の実態・意識調査」2022.07

男性の理由の1位に挙がったのは、「給与や職場環境のアップグレード」(24.2%)。世間一般でイメージされる「キャリアアップ」です。一方で、女性で1位に挙がったのが、「自分のライフスタイルを大きく変えたかった」(20.0%)。女性にとって転職は単なるキャリアアップの手段に留まらず、ライフスタイルをチェンジする重要な手段になっているのです。

同じ世代でありながら、男女間で、ジャンプ転職を行う理由には大きな差あり。転職を行う主な理由は、「よりよい金銭的な待遇・ステータス・仕事内容のレベルアップ」等、”キャリアップのための転職”が大半だと感じていた方も多いはず。 しかし、男女のジャンプ転職の理由は大きく異なり、女性は従来の”キャリアアップ的”転職の形から、180度違う方向へと向かっています。
この意識の変化には、どのような背景があるのでしょうか?

MZ世代女性の"ライフスタイルを変えたい欲"の高まり。なぜ?

社会変化やよく言われるこの世代の特徴から、考えられる背景を大きく3つ、挙げてみました。

一点目は、SNSの普及も一因となり、ライフスタイルを変化させるハードルが低下したこと
MZ世代の幼少期である90年代前後を振り返ってみると、バブル崩壊を皮切りに“生まれた時から不景気”を経験、一元的なライフスタイル像が崩れ、それぞれの幸せの形を追い求める人が増えた時代であると言えます。そして、2000年代初頭から徐々に広がりを増していったSNSの存在が、ライフスタイルへの価値観をさらに多様化することに、大きく繋がったのではないでしょうか。SNS上の投稿を見て、他人の生き方を日常的にストックし続けることは、潜在的な価値観の広がりを促進し、ライフスタイルを変えることへのハードルをぐっと下げていると言えます。様々な人のライフスタイルを日常的にストックしていくことで、「本当に私の人生、このままでいいの?もっと変えたいかも?」という気持ちになったことがある人も多いはずです。(私もその一人です笑)

2点目は、変化を起こすための手段が豊富に存在すること
例えば、リモートワークによる海外・国内の2拠点生活や、副業等で複数の収入源を持てるようになったこと。家探しの際に、国内外関係なくバーチャル内見できるなど、ライフスタイル変化後のシミュレーションがしやすくなったこと。思い立ったら、カンタンに行動を起こせる手段があるからこそ、「ライフスタイルを変えたい・変えられるかも!」と思う人が増えてきているのです。

3点目は、若者を中心に広がる「タイパ主義」の影響
タイパ主義とは、「失敗したくない、無駄なことに時間を費やしたくない」という心情から、「できるだけ早く、効率よく、色々な経験していきたい」という、昨今広がっている価値観です。ネットフリックスで人気のドラマを倍速で見る、HOW TO・まとめコンテンツなどが顕著な例です。この考え方は、人生という有限で限られた時間の中で、「多様なライフスタイルをできるだけ早く・かつ効率よく経験したい」、という意識に影響を及ぼすと思います。
今回の独自調査でスコアの高かった、「ライフスタイルを変えるために転職をした」と回答した女性の人生を考えてみても、女性の社会進出によってキャリア・結婚・出産・子育てなど、タイミングを意識するライフイベントの数が増えたことは、若いうちから積極的に変化を起こしておきたいと考える要因の一つになっているといえるでしょう。

では、つぎに、なぜ”転職”でライフスタイルチェンジを叶えるのか、という部分について考えてみたいと思います。

“転職でライフスタイルチェンジ”、その理由とは?

皆さんは、「いまのライフスタイルを変えたい!」と願ったとき、どんな手段がパッと頭に浮かびますか?
時間の使い方を変えたり、住む場所を変えたり、様々な選択肢があるかと思いますが、女性20-30代にとっては、“人間関係”、つまり、”日々の生活を誰と過ごすか”というポイントが、自身のライフスタイルにおける重要な価値観となっているのです。

20-30代女性は、他の世代と比較しても、「自分と価値観のあう人との関わり」を重視。

出典: 博報堂「HABIT/ex 調査(2018~2022年度)」(単位:%)※2

「転職で人間関係リセット!」なんていう記事も近頃見かけますが、転職による人間関係の変化は、インパクトは大きいけれど、比較的ハードルも低いライフスタイル変化の方法と言えます。
ジャンプ転職をしたことがある20~30代女性の1回目(=最初の転職時の転職理由)を見てみても、1位が「職場の人間関係」(約30%)と、人間関係を理由として転職を行っている人が最も多い結果に。

ジャンプ転職をしたことがある20~30代女性の人生最初の転職の理由を見てみても、1位が「職場の人間関係」(約30%)と、人間関係を理由として転職を行っている人が最も多い結果に。

出典:博報堂「転職の実態・意識調査」2022.07

その他にも、MZ世代においては、キャリアと自分の生き方に対する価値観の変化が、転職でライフスタイルチェンジを行う理由の一つとなっているようです。

こちらは、「仕事と自己実現を同一化したいか」という質問に対する回答のデータ。

出典: 博報堂「HABIT/ex 調査(2016~2022年度)」(単位:%)

20-30代の若者は、ほかの世代と比べ、「仕事と自己実現を同一化したい」と答える人の割合が高く、”仕事は仕事、人生は人生”と別々に捉えていない人が多いことがうかがえます。
仕事はあくまでも、自分の人生における一要素であり、”自分の人生・ライフスタイルをより良くするためのもの”、というスタンスが、転職にも影響していると言っていいでしょう。

キャリアに対する価値観を見てみても、ジャンプ転職経験のある女性は、特にプライベート(=自身の生活・ライフスタイル)をいかに充実させるかを重視して、仕事を選んでいることが分かりますね。

出典:博報堂「転職の実態・意識調査」2022.07
(対象者:業種・職種の両方を変える転職をした経験がある人)

「いかにライフスタイルにポジティブな影響を与えられるか」ということを妥協せずに、キャリアの選択をするMZ世代女性は少なくないようです。その価値観こそが起点となり、「転職」を手段としたライフスタイルチェンジが増えてきているのです。

今回の検証を通じて、MZ世代を中心にライフスタイルを変えたい欲が増してきている現状が見えてきました。その手段として「ライフホップ転職」という価値観がMZ世代の女性を中心に生まれ、これまでの通説だった”キャリアアップ”という転職へのモチベーションに、どうやらギャップが芽生えてきていることも分かりました。

“キャリア選びもブランド選びの一つ。”

では最後に、「キャリアアップよりもライフホップのための転職」という新たな潮流・ニーズを、ビジネスの視点からも見ていきます。
ライフホップ型転職における重要な判断軸は、「自分の選ぶ会社が、いかに自分の人生を豊かにしてくれるか」そして、「転職することで、自分のライフスタイルにどんなポジティブな変化があるか」ということです。
これは、「どのブランドのどの商品がいいかな?これって、自分の生活を豊かにしてくれるかな?」と考え、選択をすることと似ています。一方で、自社のプロダクトがいかに消費者に選ばれるかを常に考えていても、働く人々に自社がブランドとしてどう選ばれるかということをつい後回しにしてしまう会社は、少なくないと思います。
では、よりよいライフスタイルを探求する人々に対して、企業はどのようなアピールができるでしょうか。

これだけではありませんが、「キャリア選びでライフスタイルを充実させたい!」という人々のキモチ(=インサイト)に寄り添った施策を打ち出し、自ブランドの顧客や生活者向けだけではなく、社内外一体となった発信が、MZ世代の新価値観を攻略する上で重要になると思います。

※1 博報堂「転職の実態・意識調査」
【調査エリア】全国
【調査対象者】20~30代で転職経験のある、20~50代男女500人
【調査実施】2022年7月

※2 博報堂「HABIT/ex」
生活者の商品に関する使用実態や意識・行動、ブランドの評価、テレビ番組や雑誌などの媒体接触状況、個人属性や生活価値観など、生活者個人の意識や実態を幅広くつかむことのできる、博報堂オリジナルのデータベースです。
【調査エリア】首都圏50km圏・近畿圏20km圏
【調査対象者】12歳~69歳 男女個人 ※2015年度~2020年度は12~74歳男女個人
【調査実施】年1回

小野万優子
博報堂 ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 マーケティングプラナー

2022年に博報堂入社後、自動車や美容商材のマーケティング戦略業務を担当。日々さまざまな角度から生活者のくらしに向きあう。恐竜のグッズを集めるのが好き。

四家万梨乃
博報堂 ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 マーケティングプラナー

2021年に博報堂入社後、消費財、食品、自動車等のマーケティング戦略業務に関わる。世の中のこれからインサイトを探るのが日々のやりがい。休日は、散歩に工作、チーズの食べ比べをしています。

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