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避けたいのは“夢のマイホーム”の後悔(連載:デジノグラフィで読み解く「〇〇」 Vol.2)

2022.10.27
#デジノグラフィ#生活総研#生活者研究
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。

博報堂生活総合研究所 上席研究員
酒井 崇匡

「後悔」
してしまったことを後になって悔やむこと。
(コトバンクより)
https://kotobank.jp/word/%E5%BE%8C%E6%82%94-494241
(参照 2022.10.3)

連載第2回のフックワード(データを引き出すフックになる言葉)は「後悔」です。

皆さんは後悔していることってありますか?たまに「今までの人生で後悔してることなんて一つもないですね!」と断言する方がいらっしゃいますが、そういう人は大抵の場合、嘘をついているか、忘れん坊か、ラオウ信者のどれかだと私は思っています。
実は検索窓にも「後悔」という言葉を打ち込む人がいます。一体、彼らは何に後悔しているのか。ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、2021年1年間の検索データの中から、「後悔」を含む検索の上位100位の主なものをグルーピングしてみましょう。
※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。

夢のマイホームで「後悔」

まず目につくのが様々な家の設備に関する後悔です。「薪ストーブ」、「床暖房」、「タンクレストイレ」、「サンルーム」、「タワマン」、「吹き抜け」、「アイランドキッチン」…。夢のマイホームにはぜひとも導入したいステキな設備が目白押しです。

何となくお気づきになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの設備の導入を自分が後悔しているから検索している、というわけでもないんです。
今度、家を新築する予定で、憧れていた設備を導入しようか迷っている。結構値も張るし、住んでから後悔したくないしな…。そうだ。同じ設備を家に入れて、後悔してる人がいないか検索してみよう! そう思ってこれらの設備にまつわる後悔を検索した人が1年間で延べ12万人もいるんです。なので、例えば「床暖房 後悔」と検索している人が他にどんなキーワードを検索する傾向にあるか、DS.INSIGHTの時系列キーワードという機能を使って可視化してみると、1~2ヶ月後には「地鎮祭」とか「上棟式」といった言葉も出てきます。良いお家が建つといいですね。

ちなみに、「薪ストーブ デメリット 後悔」と検索してみると、自宅に入れようか考えている人の役に立ちそうなページが並んでいます。最近はキャンプ目的でポータブルな薪ストーブを探している人もかなり増えているようですね。

お肌のお手入れで「後悔」

次に目がつくのは脱毛関連です。女性が多いものの、「永久脱毛 後悔」は男性も3分の1を占めています。後戻りできないので不安、というのもあるのでしょうね。類似したところだと、「タトゥー 後悔」も男女半々ぐらいの比率で結構検索されています。

結婚も離婚も同じくらい「後悔」で検索される

結婚、離婚といった人生の重要な決断についても後悔が調べられています。どちらも検索ボリュームの推計人口がほぼ同じ。男女比も37:63で両方が完全に一致しているのが面白いところです。

それに「後悔を断ち切る方法」これも1万人近い人が検索しています。年代としては40代以上が多く、同じ方が「過去を忘れる方法」なども検索されています。40代以上になって経験が増えていくと、許せない、忘れられないことも増えてくる。その執着は時として、自分を追い詰め、苦しめることになる、ということなのでしょう。私も今年40歳になるので、ここからは忘却力、切り替え力が試されると肝に銘じます。もっとも、一緒に仕事をしている皆さんからは「これ以上タスクを忘れるな!多少は引きずれ!」と総ツッコミされそうではあるのですが…。

後戻りできない決断の、転ばぬ先の杖

こうしてみてみると、「後悔」という言葉、検索行動においてはそんなに後ろ向きな言葉でもないようです。むしろ、後戻りできない重大な決断の前の、転ばぬ先の杖となっている面も大きいのです。実際に、ここまでご紹介したような「後悔」を含む検索をすると、今しようとしている決断のメリット・デメリットが整理されたサイトが上位にヒットします。入手した情報に背中を押されて、あるいはデメリットへの対策を整えて、一歩踏み出す人も多いのではないでしょうか。それぞれの決断に、幸多からんことを。

酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂生活総合研究所 上席研究員

2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして諸分野のブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。12年より博報堂生活総合研究所に所属。デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。行動や生声あるいは生体情報など、可視化されつつある生活者のデータを元にした発見と洞察を行っている。
著書に『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(共著・宣伝会議)、『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

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