IRCE 2018が、米国・イリノイ州シカゴで2018年6月3日~6月8日に開催されました。
IRCE(Internet Retailer Conference+Exhibition)は、Eコマースをテーマにした世界最大級のカンファレンス&展示会です。今年で14周年を迎え、40ヶ国以上から1万人以上の人々が参加しています。今回、注目を浴びていたいくつかのトレンドをレポートします。

今回のカンファレンスに参加して印象的だったのは、“ECカンファレンス”と聞いていたにも関わらず、講演や展示内等のテーマが「ECサイト」ではなく、「デジタル時代のコマース」という視点で語られていたことでした。
そして、全てのものがインターネットと繋がる時代において、“インターネットリテール”とは、デジタルだけでなくリアルも含む全ての購買活動を内包する大きな概念へと変貌していたのです。さらに、AIやVoice Commerce, Saas型EC サービスといった最新テクノロジーやソリューションの台頭、また成長が期待されるBtoB ECというビッグマーケットへの注目、さらにはデータ活用やパーソナライズ、といった様々な視点がかけ合わさり、進化し続けるコマースの未来が語られていました。

D2C やサブスクリプションモデルの躍進 

既に数年前から注目されていましたが、サブスクリプションやD2C(Direct to Consumer)といった新たなビジネスモデルが躍進し、ユニークな体験を創造することにより「今までのECサイトに出来ないことを顧客に提供していこう」という気概を持ったプレイヤーが目立っていたように感じました。
知名度が高くないブランドは、大手ECコマースでは価格競争に埋もれてしまう危険性があります。無理に同じ土表で戦うのではなく、独自路線で戦う、そんなやり方で成功したプレイヤーの一つがWarby Parkerです。

メガネをD2Cで販売するWarbyParker。オンラインで最大5つのフレームを注文可能で、自宅で5日間試すことができる「自宅試着」を提供しています。

EC化率の低かったメガネ業界において、WarbyParker はECのみの展開をしていましたが、2017年からポップアップショップやオフライン店舗の提供を開始しました。チャネルに捉われず顧客ニーズを満たし、良質な顧客体験を創造しています。

最近では、iPhone Xの顔認証技術を活用し、生活者の顔の形状に関する数万件のデータを取得し、最適なデザインフレームを提供するサービスを開始しています。オンライン・オフラインを問わず良質なユーザー体験を提供することにより、デジタル時代のコマースを実現しています。

WarbyParkerなどのDegitally Native 企業21社は平均55.3%の成長を遂げています。事業者の規模が小さいため成長率の伸びしろが大きいことも確かにありますが、米国EC市場において新たなモデルでECを革新するプレイヤーの芽が確かに育ち始めているとも解釈できます。
(出展元: Internet Retailer社による調査)

データドリブンな“パーソナライズ”が、今後の成功の鍵

今回のカンファレンスで一番使われていたキーワードは?と聞かれたら、パーソナライズ※が一番にあがるでしょう。多くのECがデータドリブンなパーソナライズ化に力を注いでいるため、米国の生活者はパーソナライズされた体験が当たり前になってきており、このサービスを提供できない企業は、もはや生活者に向き合ってももらえないという印象を受けました。
良質な体験を提供するためには、どのように、どんなデータを取得し、どう活用していくかの顧客体験とコマース戦略の綿密な掛け算設計がこれからのコマースマーケティングに欠かせないと痛切に感じました。

消費行動の多様化で、消費者が購入したいと思う商品を「適切な消費者に」「適切なタイミングで」「適切な提案を」といったマーケティング活動。ユーザーエクスペリエンス、ECサイトのコンバージョン率の向上、リピーターの増加、そして、売上拡大につながるというメリットがある。

従来より取得していた基本属性データや、EC内行動データだけでは満足のいく顧客体験を提供することは難しくなっています。顧客はなにも、会員向けメールに自分の名前が入ることを求めているわけではなく、一人一人のニーズに寄り添ったパーソナライズを期待しています。企業がそれに答えるためには、趣味嗜好データやブランドに対する「印象データ」、EC外での「SNS・広告反応のデータ」、さらにはブランドとどのように出会いどうかかわったかを示す「コンテキスト(状況・文脈)データ」など、顧客のカスタマージャーニー上のデータを横断的に収集することが必要となってきています。こうして集めた各データを統合することで、各顧客をそれぞれ初めて正しく把握することができ、良質なパーソナライズ体験の提供が可能となります。

ECで良質なパーソナライズ体験を提供するための顧客把握に必要な7つのデータのカテゴリー
Profile(プロフィール): Identity, Accounts/IDs, Tech, ownership/use, Demographics
Behavior(行動): Interactions, Transactions, Marketing, Responses, Testing responses
Sentiment(ブランドに対する印象・心理状態): Feedback, Ratings/Opinions
Content(コンテンツ): Social media, Applications, Files, Public records
Affinity(同類・同族性):Membership, networks, Affilations
Attitude(好き嫌い):Preferences, Disposition
Context(状況・文脈): Time/Location, Environment, Situation, Journey/Activity
(Forrester社の講演より)

さらには、少数ではありますが、企業によっては、AI技術を駆使し、データが自動的にパーソナライズを実施し、最適な顧客体験を作っていく、そんな事例も発表されていました。AI技術を活用してパーソナライズ判別のオートメーション化を志向する企業も登場していました。

B2C ECの2倍越の市場規模を誇る B2B ECの成長

我々は今回、現在急成長が期待されるB2B ECマーケットにもおおいに注目していました。B2Cの2倍以上ある市場規模にもかかわらず、イノベーションが思うように進まないことの多かった領域でしたが、ここ数年でいくつかの成功事例が生まれてきており、今後非常に大きな成長を遂げていく可能性を感じていたからです。

B2C市場同様、B2B ECでも“パーソナライズ化”の波が押し寄せており、オンライン・オフラインの購入実績を踏まえて最適な買い物体験の提供に結びつくようなダッシュボードの 提供を行っている企業も登場していました。

そもそも、「B2Bの顧客は仕事を離れると一般人」として、多くのセッションを通じて語られていたとおり、B2CとB2Bで顧客は同じと認識しても間違いではないかもしれません。ここ数年で、B2Cの影響でパーソナライズの体験に慣れた顧客が増えたため、B2B ECの領域でもパーソナライズ化が進んできています。

B2B ECでのパーソナライズの特徴は、B2Cのパーソナライズ同様にカスタマージャーニーに応じた様々な接点でデータを取得することに加えて、セグメントをどのように作成するかがカギを握っていることだと感じました。ビジネス形態や商品ジャンル、価格帯などに寄るところも大きいですが、B2Bの場合は、個人の判断で決済が決まらないケースや、決済にあたり複数のステイクホルダーが絡んでくるケースも多く、顧客の保有する権限を見極めてセグメントを作成することが重要と語られていました。例えば購入者の役職や立場に応じてセグメントを作成する、など、そのビジネスの形態に合わせたセグメント作成の例がいくつか見られました。

パーソナライズのセグメント作成にあたり、購入者の役職や立場をタイプ別に分類したもの(Coca-Cola社)

以上、IRCE2018の視察レポートでした。来年のIRCEは、リテールイベントのGlobal Shop, RFID と同時共同開催となり、Retail Xという新たなコンセプトとして生まれ変わります。
我々グローバルコマースチームは欧米だけでなく、中華圏、ASEAN圏も含め、得意先企業のECマーケティングの実践とともに、今後の動向をウォッチしていきます。乞うご期待ください。

宮本 勝康

博報堂データドリブンマーケティング局グローバルデータマーケティンググループ
ストラテジックプラニングディレクター

グローバルコマースチームのリーダーとして、中華圏、ASEAN圏を中心とするコマース領域でのデータドリブンマーケティング実践経験&EC基盤構築・マーケティング実践経験多数。グローバル領域でのBrand育成・顧客育成と事業成長の両立模索を試みる日系得意先のニーズに対峙し、戦略策定から商品開発/UX開発/EC基盤構築/マーケティング施策開発までの幅広い領域でのソリューション開発も含めて、コマースマーケティング業務を推進中。

川島 聖巨
博報堂データドリブンマーケティング局グローバルデータマーケティンググループ プラナー

デジタルにおける豊富な知見と経験を活かし、得意先グローバル事業及びコマース事業の戦略策定、顧客体験設計、サービス構築、CDPデータ基盤構築、分析・PDCA設計を担当。コマース領域を中心に、国境を越えたグローバルスタンダードなサービス開発・事業開発・ソリューション開発を研究・実践している。

田村 耕人
博報堂マーケティングシステムコンサルティング局
ビジネスデベロップメントディレクター

様々なクライアント企業のデジタル戦略・サービス開発を支援。とくに「デジタルとリアルの統合」をテーマに、モバイル、オムニチャネル構築などに取り組む。最近は、企業の事業・ブランド戦略から生活者にとって価値のある体験まで一貫性を持って仕立てる「UXデザイン」を模索している。