9月20日、21日の2日間にわたって開催された、デジタルマーケティングの最新情報が集まる「ad:tech tokyo2016」。本セッションでは、株式会社博報堂の徳久真也がモデレーターを務め、花王株式会社の広末守正氏、株式会社電通デジタルの永山悟氏、日本郵便株式会社の鈴木睦夫氏がスピーカーとして登壇。スピーカーの事例を中心に、オンラインとオフラインを統合した施策のあり方について意見を交わしました。当セッションは、参加者から好評をいただき「人気セッションランキング」第2位を獲得しています。(以下敬称略)

オンとオフを組み合わせるために必要なこと

株式会社博報堂 徳久真也

徳久:モデレーターの徳久です。オンライン×オフラインは古くて新しいテーマです。そこには、コミュニケーションがデジタルに閉じているとか、マスメディア、デジタル、店頭が連動していないなどの課題もあります。オンライン×オフライン施策で結果を出すためにはどうすればいいか、「インプット(顧客を“理解”する)」と「アウトプット(顧客を“動かす”)」の2つの視点、最初にインプット視点から見ていきたいと思います。
オフラインデータの代表選手といえば購買データがあります。しかし、ID付きPOSデータやレシートデータなどは、オンラインのWebクッキーデータなどとは分断されていました。それらがテクノロジーでつながって、数百万、数千万のオンラインとオフラインのデータがあたかもひとつのデータベースのようになると、ターゲットの解像度がクリアになります。博報堂で特許を取得している「POS-AD」を例に何が見えてくるか、顧客のプロファイリングの事例を紹介します。
分析のターゲットは、A社のシャンプーの買い回り層です。1年間に買ったシャンプーの半分がA社のもので、残りは他社の製品を買い回っているという層です。オンラインとオフラインのデータをつないで見ると、30代の専業主婦が多いということがわかります。それだけでなく、「主婦たちが実践しておトクだと実感した節約18連発!」といったウェブサイトを見ているとか、買い物、クーポン、バーゲンなどに興味がある価格コンシャス層であることがわかりました。そこで、このターゲットに広告配信をする際には「サンプル無料」や「おトク」といったメッセージをより強調した方が良いということをクリエイティブに戻しました。

永山:こうしたWEB上での行動データが繋がると、クライアント担当者と今まで以上に深い生活者インサイトの話ができるようになります。課題はデータの精度とその使い方ですよね。

広末:花王は調査が多い会社とよく言われますが、その根底にはお客様をちゃんと見て理解してから施策を行うべき、という考えがあると思っています。我々も仮説を立てて支持されるかを考えるということをよくします。このデータは、仮説を立てる前、あるいは仮説をつくる際に有効だと思います。

鈴木:うらやましいですね。デジタルのない時代にも、ほぼ同じことをやっていましたが、それが安価で早く、そして正確にできるようになったわけですからね。今のマーケッターはこれを当たり前と思わず、どう生かすかを考えてほしいと思います。

徳久:そうですね。それが大前提といえますね。次に、お客様の理解から施策につなげたアウトプット視点からお話を頂きたいと思います。広末さんお願いします。

花王株式会社 広末守正氏

広末:私たちは、SNSでどのようなことが語られているかの分析をよく行います。日焼けについて見ていくと、「子どもがプールで真っ黒になった」とか、子どもがキーワードとして浮かび上がってきたわけです。お客様は子どもの日焼けについて悩んでいることがわかりました。同時に日焼け止めは暑い日に売れること、子供用の日焼け止めを買う人はドラッグストアによく行くことも見えてきました。子どもとどこかに出かけるから日焼け止めが必要になるわけですから、昨年夏はお出かけに関するコンテンツ、今年の春は、長袖を着るとか、防止が大切といった日焼け対策のコンテンツをつくり、そこにクーポンをつけて晴れた日だけ店頭に誘導するようにしました。コンテンツに接触したお客様の商品実購入率は、昨年夏が1.52倍、今年が1.89倍を記録しました。

徳久:晴れた日というモーメントに注目したり、デジタルだけでなく店頭送客にまで取り組んでいる点が新しいチャレンジだと思います。

永山:そうですね。アウトプットの考え方がデジタルに閉じていると、Web施策の話になりがちなところが、売り場の話になるのが素晴らしいです。いわばデジタル商談ですね。

鈴木:まだ少しオンラインとオフラインが分断しているように感じます。

徳久:価格を晴れの日とそうでない日で変えるとか、店頭サイネージで晴れの日限定のコンテンツを出すなど、よりオンラインとオフラインの差をなくすような案が考えられますね。次に永山さんお願いします。

株式会社電通デジタル 永山悟氏

永山:デジタルマーケティングといえば、認知から理解、意向、来訪、そして購入へと進む購買行動のファネルによる理解が定番になっています。わかりやすくて合理的です。しかし、何でもデジタル施策で解決には懐疑的です。たとえば、実演販売を見て買いたくなったり、実際に買ったりするのは非合理で、ファネルでは説明しづらいです。テレビショッピングもそうです。非合理だけれど、実際に大きな金額が動いています。通信販売には「ソクヒキ」という専門用語があります。「即引き上げ」の略で、コールセンターへの入電時に、「今ならおトクですよ」などと巧妙なセールストークで本商品購入や定期購入などへの誘導を図る手法のことです。これもファネルでは説明しづらいですよね。
結局、マーケティングはの相手は「人」であり、ビジネスにデジタルもアナログもありません。生活者にとって便利な方でやればいいと思います。デジタルでしかできないこと、アナログでしかできないことがあり、今のデジタル施策だけではでは実現できないこともあります。

徳久:最終的には「人」という考えにはとても共感します。一方で、何でも実演販売や対面販売をすることはコスト効率的に難しい側面もあります。人間的なアナログのよさを、うまくデジタルに広げることが求められます。

広末:実演した方がいいとわかりやすいと思った商品は、そうすることもあります。店頭もひとつのメディアととらえていますが、すべての店頭でできるわけではないので、実演をWebでやるということは考えられます。

永山:コールセンターのエースとそうでない人の実力の差が大きいのに対して、デジタルでは平均点をとりやすく、汎用化とか、形をつくって運用するとかいった点では、デジタルはすごく使えます。しかし、デジタルの真ん中にあるモデルというのは、コールセンターのエースが持つノウハウだったりするわけです。

徳久:デジタルは人の力を汎用化、標準化するのに適しているということですね。そのあたりは問題意識として共有できると思います。その事例を鈴木さんお願いします。

日本郵便株式会社 鈴木睦夫氏

鈴木:デジタルとアナログのすみ分けが必要ということは共通認識になっていると思います。そこで本当にデジタルとアナログの組み合わせが効果的なのか、上場企業のマーケティング担当者に調査したところ、両方を組み合わせた方が、どちらか一方より、デジタル施策でも、アナログ施策でも大きな効果があるという結果になりました。しかし、実際に組み合わせている企業は29%にすぎませんでした。
そこで、クラウドを活用した名刺管理で知られるSansanさんで組み合わせの実証実験を行いました。メールがまったく効かなかったリサイクルリード層に、DMのみを送った場合、DMとメールを送った場合を比較すると、当たり前のことですが、DMとメールの方が効果的でした。しかし、ツールを組み合わせただけではオンとオフとを活用したとはいえません。ビジネスの全体設計の中でオンとオフを是々非々で組み合わせることが重要です。Sansanさんでは昨年まで、オン・オフさまざまなリード(見込み客)施策を行っていましたが、リードに対してはメルマガを送るだけで、リードのホットとコールドの区別や、アクセスの頻度の整理などを行わずにセールスに渡していたので、担当者によって成績に大きな差が発生していました。そこで、リードの判定にマーケティングオートメーションを導入したところ、半年で受注件数が約2倍になりました。これまで優秀なセールス担当者がやっていたことをデジタルソリューションで行ったわけです。さらにリードのリサイクルのところでDMを使い、商談の後に手紙を送ったりしたところ、成約のコストが約2分の1になりました。
こうしたプロセス自体は特に目新しいものではなく、デジタルとアナログを組み合わせただけです。ただ、是々非々で組み合わせることで結果に大きな差が生まれます。課題としては、メールに比べてDMは制作から発送までリードタイムがかかることや、デジタル施策に比べて効果測定しにくいことが挙げられますが、これは早晩解決できると思っています。

徳久:オンとオフが垣根なく高度な融合された事例で、こうなるとオンとオフを分けて議論すること自体がナンセンスに思えます。お客様を動かすために、やることはすべてやるということですね。こういった動きを広げていくためにはどうすればいいでしょうか。

永山:できる営業マンってメールの後にちゃんと確認の電話してきますよね。それと同じことじゃないでしょうか。

広末:私たちとしては買う気になってもらうことが大切なので、コンタクトポイントに応じて、モーメントを捉えるなどして文脈を作ることが必要だと思いますね。

鈴木:問題はデジタルとアナログに対する知見が分断されていて、両方のことをわかっている人や会社が少ないことです。

オンとオフの多項多立の実現に向けて

徳久:ここまでの皆さんのお話をまとめると、オンとオフを分けるのではなく融合させることが必要ということですね。オンとオフの「二項対立」から、オンとオフの「二項両立」へ、さらにオンとオフという概念を超えてオンオフそれぞれの良さを垣根なく高度に融合していく「多項多立」が求められます。その象徴のひとつといえるのがアマゾンダッシュボタンです。ボタンを押すだけで商品が届く仕組みで、デジタルともアナログともいえます。こうした多項多立の組み合わせが今後のポイントといえそうです。

広末:アマゾンダッシュボタンが、なぜメーカーでつくれないのかと思いますね。アマゾンダッシュボタンは、アマゾンさんのブランド体験として素晴らしいと思いますが、メーカーとしても、たとえばドラッグストアで商品を買うお客様のために、流通さんと一緒になってどういう店頭体験がつくれるかを考えなければなりません。

徳久:マーケティングは人ですから、お客様を動かすために何ができるかということを、オンライン×オフラインという手段を超えて、どうデザインできるかがポイントになると思います。最後にひと言お願いします。

鈴木:今日の話で、もっと事例がほしいと思われたかもしれませんが、やってみることが大切です。失敗しても学ぶことがあります。マーケティングツールもいろいろと出てきて、より効率化できると思います。しかし、ツールを入れたらおしまいではなく使いこなすことが必要です。いま主流のデジタルも忘れられがちなアナログも、ツールであってマーケティングを効果的かつ効率的にしてくれるもの。大事なのはマーケティングそのものを深く考えることですね。

永山:デジタルをメインでやっているからといって、アナログを否定するのは危険です。結局、デジタルもアナログも、手法でしかありません。両方の特徴を理解しマーケティングに活用することが必要だと思います。

広末:逆に私たちはこれまでオフライン、マス広告中心にやってきたので、もっとデジタル施策をやるべきではないかという話になって、とりあえずデジタルを付け足すということになりがちです。そうなると全体のつながりがなくなることになるので、それをとらえ直すために行動データや購入データを使います。それによってお客様の考えや悩みといったものを知り、私たちに何ができるかを考えて、ただ単に広告メッセージを届けるのではなく、お客様の暮らしを変えるお手伝いをするということです。そのためにはいろいろなものを使った組み合わせにチャレンジし、失敗したら組み直すといったことが必要になると思います。

徳久:そうですね。
時間になりましたので以上となります。本日はありがとうございました。

徳久 真也
株式会社博報堂 生活者データマネジメントプラットフォーム局DMP開発部 部長

2005年博報堂入社。流通・通信・飲料・食品・自動車・電気機器メーカー等、50社を超える幅広い得意先のマーケティング/事業戦略立案、統合コミュニケーション戦略立案、ブランディング、商品開発、キャンペーン開発業務等に従事。 2014年より現職。データを活用したマーケティング×メディア×クリエイティブ×ビジネスデザインの融合を目指し、新規事業開発に従事。

広末 守正
花王株式会社 デジタルマーケティングセンター データサイエンス室

1996年より花王のクリエイティブ部門にて映像制作、Webサイト構築などに携わり、2003年よりデジタル施策の効果検証・改善提案を担当、2012年よりデジタルマーケティングセンターにて新商品のコンセプト開発から施策のプランニング、実行・効果検証までを推進している。

永山 悟
株式会社電通デジタル ダイレクトマーケティング事業部 プロデューサー

マーケティング会社、広告制作会社を経て31歳で電通入社。営業として大手食品メーカーを担当し、コミュニケーションの成功による大幅な売上増を経験。現在は健康食品・化粧品・金融・エネルギー等様々な業種において 事業数字や顧客データと向かい合いながらマス×ネット×リアルを駆使した 戦略策定やコンサルティング業務を担当している。

鈴木 睦夫
日本郵便株式会社 郵便・物流商品サービス企画部担当部長

P&Gでキャリアをスタートし、NTT/IMJ/コカ・コーラと一貫してマーケティングおよびデジタルマーケティング領域のキャリアを重ねる。日本郵便では、デジタルとアナログの組み合わせ最適解を探り、広く広告業界に発信する役割を担うことになる。

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