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~北海道を、新しい視点で、もう一度開拓する、新ど研~ 希少な牛乳を未来へつなぐ「HOKUDAI Clark’s Milk」プロジェクト 

2019.06.20
#共創#地域創生#新ど研
「新ど研 モノゴトFACTORY」の第4弾プロジェクト「HOKUDAI Clark’s Milk」がはじまりました。北海道博報堂と、株式会社北海道農村研究所、そして、エリアクラフト北海道での共同で実現した本プロジェクト。現在、店頭では売り切れが続出するほどの人気商品に。
今回のインタビューでは、北海道博報堂 新どさんこ研究所所長の山岸浩之と、北海道大学内北大マルシェCafé&Laboを運営される北海道農村研究所副社長の宮脇崇文さん、エリアクラフト北海道の二木 匡さんに、プロジェクトの発端、北大ミルクへの想い、今後の展望などについて話を聞きました。

プロジェクトについて触れる前に、まず、「新どさんこ研究所」(以下、新ど研)とその中で取り組まれている「モノゴトFACTORY」について教えていただけますでしょうか。

山岸
新ど研は、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」を地域の会社でもやっていこうという試みで、調査や研究で得られた知見をクライアントだけでなく、北海道全体へも貢献できるようなものとして提供しています。新ど研としての取り組みは、マーケティングデータを集めるところからスタートしました。メンバーは、クリエイターやマーケターなど、それぞれの分野でのエキスパートがいますので、現在では調査だけでなく様々な活動を行っています。実は、3年前の5月17日(本取材日も5月17日)に立ち上がったので、今日で丸3年なんですよね。
北海道の「新どさんこ」という新しい北海道民像を追い求めるにあたって、定量的な部分ばかりでは把握しきれないということもあり、定性的というか、人に寄り添って見ていきたいと思い、新しい活動をしている人を応援していくようなプロジェクトも始めたんです。その中で、「モノゴトFACTORY」というのは、北海道の新しい価値づくりを目的に新どさんこの方々と僕らで一緒になって取り組んでいこうという試みです。商品開発やブランド開発、事業開発コンサルティングなどを行っています。これまでに、廃棄されてしまうアスパラの根元を漬物に活用した商品や、若者のあんこ離れに歯止めをかけたいという想いから、あんこを使ったマカロンやアイスキャンディといった商品を開発しています。(詳しくはこちら

新ど研所長の山岸さんにとって常に大事にされていることはなんでしょうか?

山岸
それは、やっぱり北海道の人たちにとって本当によいことか、ということですね。北海道の人たちが元気になってもらえることがベースにあるので、その軸だけはぶらさないようにはしています。

新ど研所長の山岸 浩之

HOKUDAI Clark’s Milkのお話に入っていきたいと思うんですが、新ど研と、北大マルシェ、エリアクラフト北海道のみなさまは、どのようなきっかけで出会われたのでしょうか?

二木
北大マルシェの母体である北海道農村研究所の大黒社長とのご縁で、北大マルシェのサポートとしてエリアクラフト北海道が入ったという経緯があります。私自身、プレイングコンサルタントと称して活動しているので、北大マルシェの名刺も頂きながら、マルシェの事業戦略担当者という形で販路構築など商談ベースの仕事を中心に取り組ませて頂いてます。
今回の商品開発、「おみやげプロジェクト」と当初称していたのですが、そこに北海道博報堂の新ど研が加わって、北大の校友会の皆様やさっぽろ産業振興財団が加わられたというような形で、様々な人たちが集まってきました。新ど研の皆さんと北大マルシェの出会いは、さっぽろ産業振興財団のご縁と伺っています。

北大ミルクを使ったメニューは、以前から北大マルシェでは提供していたのでしょうか?

二木
牛乳をレストランで提供したり、裏の工房で作ったチーズ、モッツァレラチーズとフロマージュブランというものは既に製造/販売していました。ただ、それらは日持ちがしないんです。
北大を訪れて、持って帰っていただけるようなお土産を開発したいという想いは、2018年の秋ごろからずっと大黒社長がお持ちでした。
その想いになんとなくみんなが引き寄せられてきたというか、最初はそういう想いに集合してきたサークルのような形でしたね。新ど研の皆さんの理念や、私がやりたいこと、北大マルシェがやりたいこと、それらが合致しているというような関係性なのかなと私は感じています。

山岸
日持ちのする商品を作りたいということをおっしゃられていて、北大に広大な農場があって、そこで貴重なミルクが採れるということがあまり世の中に知られていないということ、それらを一気に解決する方法はないだろうかと、チームでアイデアを絞って出してきたのが今回の商品企画でした。

貴重なミルクとおっしゃられた「北大ミルク」についてご説明いただいてもよろしいですか。

宮脇
「北大農場」というのがまず一つキーワードになります。北大農場は、明治9年にクラーク先生が北海道にいらっしゃって、農家の模範となるように模範農場を作ろうということでつくられた農場です。その歴史が今も続いているんです。明治9年から少し後のことになるんですが、明治22年に日本にホルスタインという乳牛が初めて連れて来られました。それは日本で3カ所あったのですが、そのうちの一つがこの北大農場なんです。なので、日本の酪農の原点でもあるこの場所で、当時連れて来られた牛の血統を今でも大事に大事に引き継いでいって、最初の牛を1号とすると、現在は千三百何番というところまできているんです。こうした歴史ある農場で、歴史を引き継いできた牛たちから採れた牛乳を、我々は「北大牛乳」と呼んでいます。今北大には約20頭いて、他の農場に比べると頭数は少ないので、
牛乳の量は限られます。

北大農場で放牧されているホルスタイン。北海道大学のキャンパスは札幌の中心部にあるため 農場から高層ビル群が見える。

二木
日に400リッターぐらいだと伺っています。400リッターというのは流通からすると、非常に微々たる数字ですね。ただ、お菓子にした理由は、牛乳の量という制約よりも、日持ちがするものというほうが大きいですね。

このプロジェクトに参加されるにあたってどのような想いをお持ちでしょうか?

山岸
やはり貴重なミルクを残したいということは、僕ら全員が一致しているところです。また、新ど研は、北海道の課題を解決する機能を携えていくということを一つの旗印にしたいと思っています。こうした取り組みが広がっていけば、より良い北海道になっていくと思うんです。リサーチだけ、商品を作るだけ、ではなくて、もっと根源にあるような北海道の課題やクライアントの事業課題をうまく解決していくような組織を目指していくという中で、「HOKUDAI Clark’s Milk」のプロジェクトは、その一つの成功事例にしていきたいと思っています。

二木
私どもの会社「エリアクラフト北海道」は、昨年立ち上げたばかりの一般社団法人なんですが、私はもともと民間企業での経験があって、もう1人のパートナーは公認会計士で公営企業の会計の専門家なんですね。そういった専門の知識や経験を地域の活動に生かせないだろうかと立ち上げました。
商品を作った後、最終的にその物をきちんと売っていくだとかちゃんと稼げるとか、それがまた循環して再投資できる、というようなことって簡単なことではないと思うんです。そういう意味では、本プロジェクトでは、主体となる北大マルシェがいて、貴重な北大牛乳という良い素材があって、それを商品化したり、マーケティングしていただける新ど研の皆さんがいて、そして、私どものように販路構築をやりながら、きちんと売っていけるという仕組みができています。先ほど、このメンバーは想いで集まったとは言いましたが、誰一人欠けてはいけない人が集まっていると思います。もっと言えば、我々以外にも、北大の校友会の皆さまがいらっしゃったり。大学を一つの地域だと見立てれば、地域の中に応援者がいらっしゃるという、そういう縁も大事だと思います。我々もそうしたなかで一端を担わせていただける、ということに非常に面白みを感じています。

宮脇
我々北大マルシェとしては、大きく二つありますね。やっぱり一つは、貴重な牛乳を多くの方に味わってもらいたいということが一番大きいです。日持ちする商品ができたことで札幌だけでなく、北海道中や世界中に北大牛乳を届けられる大事なプロジェクトだと思っています。二つ目が、ここ北大における牛乳に限らず、例えばあまり人口がいない中山間地域などでも、こだわって良いものを作っている農家の方々ってたくさんいると思うんですが、そのような方々も自分たちが持っている良い素材をうまく使えてないような現状があると思います。我々が、1個のこだわりの素材を加工して商品化し、このような売り方をしています、というモデルケースをここから作っていくことで、今後、こだわってよいものを作り続けている農家や酪農家の方々が、こういう風にやったら自分たちも活かしていけるんだなと元気づけていければというような想いもありました。

今回、新ど研はパッケージやポスターのクリエイティブをされています。 コピーに込めている想いやコンセプトを教えていただけますでしょうか。

山岸
これはクリエイティブディレクターが色々と北大で取材をさせていただく中で、140年前に北海道に来た乳牛が今でも続き、そして後継されているということも驚きなのですが、140年間、毎日研究している、ということ自体がブランドなんじゃないかという話になったんですね。日々改良して日々研究して、牛の健康を保ちながらいい牛乳を作っていきたい、というような、今日明日すぐできるものではなくて、これからの北海道の人のために、50年、100年、150年先のことを考えながらやっている。それで、「100年かけて、普通をつくる。」というコピーが生まれたんです。こつこつやりながらいい品質を求め続けていく姿勢っていうのが、その志みたいなところがコアにあると思っています。「今、大志をカタチに」はそのような想いから発想しています。「Hokudai Clark’s Milk」というブランド名も、おいしいお菓子ができただけではなくて、研究資産が形になったというか、研究資産こそがこの商品の中心にあって、それを皆さんに届けていきたいと考えました。そこに込められた「想い」のほうを買ってもらうみたいなイメージです。
この北大農場や北大牛乳に興味を持たれた方が、北大マルシェにいらして、実際に牛乳を飲んでいただいたり、北大の自然を感じていただければと思っています。今、観光名所としても北大は人気が出てきていますが、まだまだ整備ができていないので、そういった一助にもなればいいかなとは思っています。

二木
あの、タイプライターのような文字もすごく良いアイデアだなと思いますけどね。

山岸
あれはですね、クラーク博士がいらした時代に、北大の先生や学生が論文を書いてる時に使っていたタイプライターの文字があって、それをご紹介いただいたんです。そのフォントが非常に歴史を感じつつも、むしろ将来に向かって新しく見えるみたいなところもあって。あたかもクラーク博士が自分で打ち込んだかのようなイメージにしています。

今回、商品化を実現させるためにクラウドファンディングを活用された、というのも、 とても今の時代らしい先進的な試みだと思うのですが、なぜクランドファンディングでやっていこうと考えられたのでしょうか?

山岸
色々なアイデアが出てきた中で、新ど研としては話題化を図りたいと思ったのが理由です。
クラウドファンディングの募集の主体は宮脇さんでしたが、ご自身がSNSからも情報発信されて、とても多くの方から共感や応援をいただきました。想定以上の手応えが目に見えて分かりましたね。

宮脇
やっぱり初動がすごかったですね。北大マルシェのSNSアカウントから告知をしていたんですが、やっぱり北大OB、OGのみなさんが力を貸してくれたのが一番大きかったと思います。初日に目標が達成してしまったんです。

二木
そこでもやっぱり、想いで皆が寄ってきたというのが現れたシーンだなと思いましたね。

今後「Hokudai Clark’s Milk」はどのように広げていかれる予定でしょうか?

宮脇
最初にたくさん報道をしていただいて、今現在、色んなお客さんから次の入荷について尋ねられています。希少な牛乳を使っていますので、少し手に入りづらい、手に入ったらうれしいみたいな、そんな状況が一番いいかなと思っています。

二木
そうですね。ここでしか買えない、札幌でしか買えない、ということは守っていきたいなと思っています。ただ、僕らはきちんと次の手も考えていかなければならないと思っていますので、皆さんの想いを守った上で、次の販路の構想はしています。単純にお店を増やしていくのではなく、今はいろんな手段がありますからね、そこは乞うご期待です(笑)

あとはやはり、この座組みを他にも活かしていきたいですね。地域なりの成功のステップは様々なので、もちろんこのままの形をなぞるだけでいいわけではないんですが、例えば、さきほどのクラウドファンディングで得られたような新たな気付きなどを、多くの地域に広げていける、そのような形まで持っていければいいなと思います。

山岸
そうですね。新ど研としても、常に地域と密着してやっていきたいと思っています。

北海道博報堂 新どさんこ研究所:http://shindoken.com/
HOKUDAI Clark's Milk バウムクーヘン&クッキーについてはこちら

<プロフィール>

二木 匡
一般社団法人 エリアクラフト北海道 専務理事

酒類メーカー勤務を経て2018年にエリアクラフト北海道を設立。適切に儲ける公共モデルの構築を目指し、実際に地域に入り活動する「プレイングコンサルタント」を自称し活動中。

宮脇 崇文
株式会社北海道農村研究所 副社長業務執行役員

2017年、(株)北海道農村研究所並びに北大マルシェCafé&Laboの立上げに関わり、店長として現場も担当。北海道大学教育学部を卒業。

山岸浩之
北海道博報堂 新どさんこ研究所所長

2014年北海道博報堂入社。コミュニケーション戦略局長兼マーケティング部長として、北海道の様々なクライアントの戦略立案やリサーチを担当。

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