左より、博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 アートディレクター 高嶋紀男、 博報堂DYアイ・オー 業務2部ITサポート課 課長 土肥真人、経営計画管理室経営計画課 牧原依里、代表取締役社長 薗部真志

博報堂DYグループの特例子会社「博報堂DYアイ・オー」は1989年に設立した、当社グループのシェアードサービス会社です。業務はデータ入力・印刷出力・帳簿チェック等がベースとなり、障害のある社員と健常者が協働しています。2019年4月、博報堂DYアイ・オー社員と博報堂のデザイナーが協働し、「博報堂DYアイ・オー」の企業ロゴおよび「指文字フォント」を制作しました。ロゴ開発の経緯や込めた想い、ダイバシティ&インクルージョンの取り組み、今後の展望等について、企業ロゴおよび「指文字フォント」の開発に携わった社員に話を聞きました。
■博報堂DYアイ・オーのHPはこちら
http://www.hio.co.jp/

これからの時代にふさわしいシンボルマークをつくりたい

― 博報堂DYアイ・オーの企業ロゴが新しく誕生しました。まず、ロゴ策定プロジェクト発足の目的について教えてください。

薗部社長:
2016年に広報委員会をつくり、博報堂DYアイ・オー(以下、アイ・オー)の認知度や社員のモチベーションを高めるための活動を話し合う中で、ロゴをつくろうというアイデアが出ました。そこでプロジェクトチームのメンバーを募り、土肥さんがリーダーになりました。

土肥さん:
当時の社長が、「世界中で変化の波が押し寄せている時代、否応なくアイ・オーという船もその波にさらされるだろう。この会社が社会に存続し続け、変化の波に乗り、進んでいくためにどんな会社で在り続けたらよいのか。」と私たちに呼びかけたのです。そこで、当社が掲げてきた「日本一働きがいのある特例子会社へ」という理想を目指し、すべての社員の想いを込めた企業ロゴ、新しい標(しるし)をつくることになりました。
プロジェクトが進む中で、広告のブランディングやインナーブランディング、ロゴデザインを行っている博報堂のアートディレクターの高嶋紀男さんに参画してもらえることになり、デザインを依頼しました。

― 高嶋さんはデザインに取りかかるにあたり、まず会社訪問をされたそうですね。

高嶋さん:
ロゴは企業の象徴となるものなので、「博報堂DYアイ・オー」とはどのような会社なのか、よく知りたいと思って訪問しました。社員の皆さんに、自分にとってどのような会社なのか、今後は会社がどうなってほしいのか等インタビューをして、社員がやりがいを持って仕事に取り組んでいること、障害者も健常者もともに協力し合い、助け合いながら自立していることもわかりました。「こうなってほしい」と思う会社の実現に向けて協力し合い、努力している。それをずっと継続できる会社で在りたいと社員の皆さんが思っていると感じました。

土肥さん:
障害者もひとくくりでなく、それぞれに障害も違えば個性も違います。一人ひとりを個人として尊重していること、障害者と健常者が対等だということを当社ではとても大切にしています。

車椅子の方が動きやすいよう通路も広く、働きやすい環境として配慮されています。

個人「i」がつながって「O」=輪になっている

― ロゴのデザインについてご説明ください。

高嶋さん:
障害者を多く雇用している企業の中には、優しいイメージの社名が多くあります。社名の“アイ・オー”がInput/Outputの頭文字からだと知り、30年前に社名を考えた方は、あえて優しいイメージにしなかったのだなと思いました。会社の業務である入力・出力・確認の作業を表しているものだそうですが、仕事をしっかりやっていくという想いが込められている。そして、社員の方々がそれぞれ自立しつつもお互いにつながっていることを表現しようというのがスタートでした。
そこで、アイ・オーのIに “私”(I)や“アイデンティティ”という意味、個性ある一人のプロフェッショナルとして責任を持ち、自立していることをiという文字で表しました。Oには“The Out”(外)や“○”(輪)という意味を持たせています。社員同士や関係会社との協働、社会との大きな輪の一部として機能するという意味です。iがつながって輪=Oになっているデザインにより、協働と社会へのつながりを表現しました。

土肥さん:
六角形をつなげたハニカム構造は堅固なので、力強さも表していると思います。

高嶋さん:
六角形は延々とつながる図形でもあります。会社でのつながりが社会にも広がっているという意味も込めました。

土肥さん:
オレンジ色を選んだのは、明るいイメージがあり、グループのロゴの中ではあまり使われてない色なので、独自性も出せると思いました。

高嶋さん:
僕も最初からオレンジがいいと思っていました。色彩心理学でオレンジは、親しみや温かさ、活力を感じさせたり、人の心を開いてコミュニケーションを活発にする効果があるといわれています。またユニバーサルデザインの観点でいえば、青、黄色に次いで視覚特性に左右されにくい色でもあります。ロゴに使ったオレンジとグレーの組み合わせは、東京都カラーユニバーサルデザインガイドラインでも推奨されています。

新しい発想で生まれた指文字フォント

― 指文字フォントも新たに作成されたそうですね。

高嶋さん:
手の形を文字言語に対応させた指文字があると知り、障害者と健常者が一緒に仕事をしている象徴として、最初はロゴ案の1つとして提案しました。指文字をネットで見ると、指の形のイラストの下とか斜め上とかに「ア」など表記されているんですね。それを組み合わせたらどうかと考え、指文字とカタカナやアルファベットを融合させたデザインにしました。

薗部社長:
このアイデアを何かで活かしたい気持ちがありました。すると、高嶋さんが「全文字つくりましょう」と言ってくれて。フォントは、聾者の社員たちが確認・監修しています。

牧原さん:
アイ・オーは全社員の3分の1を耳が聞こえない社員が占めるという珍しい会社で、ほぼ全員に手話を使う機会が日常的にあります。指文字は正確にいうと手話ではなく、聴者が日本語を聾者に伝えるために考案された手形で、日本語から生まれた新しい単語の固有名詞を引用する時などに指文字を使っています。今までも指文字のフォントはあったのですが、このように文字と手の形が一緒になったものは初めてで驚きました。この表現はクールだと思いましたし、広まってほしいと期待しています。
日本とアメリカでは、アルファベットを表す指文字の表現が違います。今回は両方をつくっています。実は日本式アルファベットの指文字が最近あまり使われなくなっていて、その表現を知らないままアメリカ式アルファベットの指文字を使う若者が増えています。日本式のアルファベットの指文字は視覚的でわかりやすいので復活してほしいと私は思っていました。今までの歴史を受け継いでいるフォントでもありますね。

高嶋さん:
指文字を習得しようとしている方にもわかりやすいよう、覚えやすさと面白さの両方を考えました。工夫したところは、それぞれの文字がきちんとその文字として見えること。たとえば「ア」ならこの横棒が隠れていても、アに見えなくてはいけない。そういったところの見せ方や動きのある指文字を表現するのが難しかったですね。文章にした時のバランスなど細かいところも工夫しました。

牧原さん:
日本式のアルファベットは例えば「A」でも地方によって何通りのパターンがあるんです。その中からどれを採用するかもとても悩み、できるだけたくさんの聾者の社員と相談して、偏らないように心がけました。指文字フォントはアイ・オーのHPで公開しています。多くの方に使っていただきたいと思っています。(指文字フォントのダウンロードはこちらhttp://www.hio.co.jp/sozai/

薗部社長:
私たちは、今年度より新たに「博報堂DYアイ・オーは、日本一、働きがいのあるダイバシティ・インクルージョン企業へ」という経営理念を掲げています。多様性を意味するダイバシティには障害者も健常者も含まれます。アイ・オーの多様性を表現したロゴが生まれました。指文字フォントもフリーフォントとして使っていただき、社会に広まってほしいです。

牧原さん:
育児や介護のために時短勤務で働いている人たちもいて、ダイバシティにはそんなさまざまな働き方も含まれています。多様なライフスタイルや価値観をみんなが認め合うようになれば、これからは誰もが心地よく暮らせる社会へと変わっていくでしょう。今はそのような変化のタイミングではないでしょうか。

薗部社長:
一人ひとりがさまざまな個性を持っていて、みんな得意なことがあれば苦手なこともある。アイ・オーの多様性とは、そんな個人の集合体としての多様性だということを伝え続けていきたいです。

■博報堂DYアイ・オー
http://www.hio.co.jp/
■指文字フォント
http://www.hio.co.jp/sozai/