たとえば電車内で、大半の人がスマートフォンを触るような状況になって、はや数年。2018年にはそのうちで少なくない人が、スマホを横に持って動画を視聴するようになりました。スマホでの動画接触は、あまりに当たり前のものとなり、生活者の感覚までにも影響を及ぼしています。この潮流はしっかりと定着したことは言うまでもありませんが、果たしてこの先はどうなっていくのか? 動画をコミュニケーションの味方につけるにはどうすればいいのか?
動画マーケティングの知見が深いワンメディア代表取締役の明石ガクト氏をゲストに迎え、博報堂で長くテレビCMを手がけてきたhakuhodo.movieの塚田雅人と、デジタル領域のクリエイティブを中心に手がける博報堂の堀宏史が、動画マーケティングの現在と今後の展望を語り合いました。

「スマホ×動画」で変わった生活の仕方


現代のコミュニケーションにおいて、動画はすっかり欠かせない手段のひとつになりました。博報堂でも動画の浸透に注目し、2017年に「動画生活者調査」を開始して、昨年末に2回目の調査を実施したところです。まず、昨年上梓された『動画2.0』(幻冬舎)も話題の明石さん、スマホならではの動画をどのようにご覧になっているか、うかがえますか?

明石
これまで何度も、例えばYouTubeが登場したときなどに「今年は動画が来る!」と言われ、その度に不発に終わる“動画来る来る詐欺”が起こっていましたが、詐欺で終わらず、ブームがやっと定着したのが2018年でした。ただ、僕は本質的には「動画が来た」というより、今まで流れていたものが「動画」ではなく「映像」だったから、不発だったのだと思っています。2018年にようやくスマホに最適化した「動画」コンテンツが増えたから、生活者がたくさん接触するようになって、生活の仕方も変わりつつあるんだろう、と。
書籍でも最初のトピックとして扱ったのですが、僕は映像と動画は別のものと捉えています。映像は、従来の映像コンテンツやテレビCMの考え方でつくられるもので、映画がその最たるもの。一方で動画は、オンラインで接触する動画広告、特に今だとスマホで視聴するのを前提にしたものと定義しています。
スマホでの動画接触は、テレビの前で映像コンテンツやテレビCMに触れるのとはまったく様子が違いますよね。移動中の5分、昼食後に一息ついた10分、あるいはトイレ中の1分かもしれない。そういうタイミングにはまるコンテンツは、まず情報が凝縮されている必要があります。

ワンメディア代表取締役 明石ガクト氏


著書の中でも、その情報量の単位を提唱されていましたね。

明石
インフォメーション・パー・タイム、IPTですね。1分、1秒あたりにどのくらい情報量が乗っているか。こんな概念がとても重要で、今の時代のYouTuberや、ワンメディアでやっていることも含めてヒットする動画の根底にあるひとつの概念だろうと思っています。

テレビの距離感、スマホの距離感

塚田
僕もその考えには同感です。スマホの画面の小ささに情報が集約されることが、今の肌感覚に合っていて、生活者に親和性がある。同じ1本のストーリーを見ても、大画面と小さい画面では、時間経過の感じ方が全然違っていますよね。これまでのセオリーで制作されたテレビCMを、テレビだとちょうどよくても、同じものをスマホで見るとだらだらして感じられて、飛ばされてしまう。今は本当にスピード感があるから、心臓の鼓動と同じようなリズムでインフォメーションが入ってくる感じが心地いいんだろうと思います。明石さんの映像と動画の読み解きは、その感覚をよく突いているな、と。
おっしゃるように、お茶の間に座って皆で観るのではなく動きながら瞬間的に観ることが主体になると、僕らがつくっている広告も長いし邪魔だという印象が強くなってしまう。それをすごく意識しないといけないと思います。

明石
お茶の間とスマホって、全然違いますよね。まず家のテレビは基本的にパーソナルなものじゃないから、テレビとも一定の距離感があるし、実際に観ている距離も3mとか。一方でスマホはパーソナルで、30cmの近さで観ている。例えばこの座談会でも、今お二人とは1mくらいの間隔でリラックスして話せていますが、いきなり僕が30cmの距離に入ってきたらちょっと戸惑いますよね。そんなふうに、距離感から違うんだということを理解しないとうまくいかなくなっています。


ワンメディアの動画制作には、そういった部分をどう反映されているんですか?

明石
僕らの動画は、基本的に一人の人しか出てこないんです。一人が観ている相手に語りかける、1on1のスタイルにしています。これ、実はラジオにすごく近い距離感なんです。テレビ番組では「この番組をご覧の皆さん」と語りかけますが、ラジオだと「リスナーのあなた」という言い方をしますよね、それがすごくスマホの距離感と近い。ここに、動画の可能性が広がっていると今思っています。

塚田
パーソナルという点は、まだ掘り下げる余地がありますよね。冒頭で堀が紹介した「動画生活者調査」でも、若年層女性だと20%の人がお風呂に入りながらスマホで動画を観ているんです。そういうシチュエーションから生まれるアイデアってあると思いますし、同時に向こうにいる人をわからずに考えても、伝わらないコミュニケーションにしかならないことがはっきりしてきたなと感じます。

スマホ、スピード、サイレントの「3つのS」


スマホの時代になって、画面の大きさもスピード感も距離感も変わる中で、“パーソナル”がひとつのキーワードになっているんですね。そうした部分について、明石さんは何か動画の話法としてまとめられていたりするんですか?

博報堂 堀宏史

明石
そうですね、今の動画のセオリーとして、「3つのS」が大事だと考えています。ひとつ目は前提条件でもありますが、スマホのS。2つ目が、多くの人が音を消して視聴することから、サイレントのS。3つ目は、ここまでも挙がっている、スピードのSです。これは単に尺を短くするショートのSではなく、情報の凝縮という意味です。
サイレントからご説明すると、映像の情報って半分くらい音が担っていますよね。それがスマホの場合、基本的に外で使うときは音声をオフにしているから、それで伝わることを前提に考えないといけない。新しいiPhoneからはイヤホンジャックがなくなってしまったので、外で音を聴く人がより少なくなった可能性があると思っています。
なので今意識しているのは、一周回って、映画の初期のサイレントムービーみたいな感じです。全部に字幕を入れるとか、タイポグラフィーにこだわってその動きで音が“見える”ようにする、そういう工夫をしています。実際、見続けてくれる割合はかなり変わりますし、そういう演出ができるデザイナーの仕事をすごく大切にしています。


なるほど。スピードの話は先ほども少し挙がりましたが、やはり重要なんですね。

明石
そうですね。ここで言っているのは、単に尺が短い“ショート”にするのではなく、情報量をスピード感を持って届けるという意味です。
今、皆がこのパーソナルデバイス上で相当な情報量に触れていて、同時に情報処理もしています。その能力自体、10年前より上がっていると思うので、それを加味する必要がある。
スマホや動画が僕らの情報処理速度を全体的に引き上げていて、それに対応しているコンテンツが、動画に限らず今の時代に受けている、ということなのかもしれないです。

企業に求められる、嘘のない姿勢

塚田
これだけ情報があふれていると、生活者の側が情報処理速度を速めざるを得ない、というところもありますよね。

hakuhodo.movie 塚田雅人

明石
ですよね。それが今の情報接触態度なんだろうと思います。特に若い子たちだと、情報を欲している感覚がすごく薄いと思う。僕、静岡が地元なんですが、子どものころってテレビの地方局が買い付けている番組が少ないから、もうずっと同じアニメ番組をやってるんです(笑)。新番組が流れようものなら、かじりついて真剣に観ていた。

塚田
そういう求める感じが、ないですよね。加えて、テレビだとCMが既成事実として受け入れられていたのが、ネットの世界ではいろんなものがフリーで観られるようになっているから、広告然としたものが入ってくることにすごく“侵害されている感”というか、敵対視するような感じはよくわかります。だから、スピードの話の裏側にはもうひとつ、広告を含めてコンテンツ自体がその人にとって有益で、本当のことを言っているか、誠実か……というスタンスがすごく大切になっている流れがあると思います。

明石
なるほど。そういう意味で、広告の話法や文法も変わってきているんですか?

塚田
変わってきていると思いますね。もう今、ちょっと取り繕ったようなことは全部バレてしまうじゃないですか。情報処理能力とともに、理解力、見抜く力も上がっている。だから、嘘をつかない姿勢が企業にすごく求められていると感じます。調査などで若い人に聞くと、例えばインスタグラムの中で商品と一緒に写っていると、もうステマにしか見えない、と言うんです。これからの広告は、そのあたりに相当意識を高くして取り組まないと、すべてが嘘だと捉えられてしまう危険性があると思います。

※後編へ続く

堀 宏史
株式会社 博報堂 シニアインタラクティブディレクター

1993年博報堂入社。これまでに広告業界でリアルとデジタルを融合させた新しい広告を実現し、カンヌフェスティバル、アドフェスト、ロンドン広告祭、クリオ、東京インタラクティブアドアワードグランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリ、モバイル広告大賞など受賞歴多数。カンヌフェスティバル等で審査員を務めるとともに、adtech等の国際カンファレンスでスピーカーとしても活躍している。

塚田 雅人
株式会社 博報堂 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

博報堂入社以来、主にCM制作で活躍。近年はhakuhodo.movieを立ち上げ、動画マーケティングのこれからの可能性へのチャレンジを続けている。
近年は、ビール、ウイスキー、自動車、コンビニ、シャンプー、音響製品などのコミュニケーションを担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト、ACC賞、クリオ賞、ニューヨークADC賞、フジサンケイグループ広告大賞、電通賞、など受賞多数。

明石 ガクト
ワンメディア株式会社 代表取締役

2014年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。独自の動画論をベースに各SNSプラットフォームのコンテンツパートナーとして動画を配信、圧倒的なエンゲージメントを達成している。2018年からショートフィルム制作や山手線デジタルサイネージでのコンテンツ展開も行い、モバイル以外の領域にもその活動を広げている。ONE MEDIAでは、2018年8月より大きなリニューアルを行い、IGTVに特化したオリジナル番組をローンチさせた。個人の活動としても、2018年アドテック東京にて「Brand Summit Best Presenter Award」を受賞。NewsPicks Bookから自身初となる著書『動画2.0』を出版。