様々な企業で「改革」が提唱されている昨今、それはいつ、どこで、どのようにして行われるべきなのか?
東京都初の民間校長として教育の現場で数々の改革を起こしてきた、教育改革実践家の藤原和博氏に博報堂グループのVoiceVision大高が問う“改革”。その手法や経験談、大三角形理論を用いて鋭い切り口で語っていただいた。

「働き方改革」の本質を見抜け!

大高 会社にとって人は最大の財産ですが、弊社VoiceVisionでも経営改革に向けてどう人を育てていけばよいか教えて欲しいという依頼が急増しています。教育界において様々な改革を実践されてきた藤原さんから見て、今叫ばれている「働き方改革」について、どのようなことをお感じになりますか。

藤原 いわゆるムードとしての「働き方改革」って無理があると思います。やっぱり、ハードワーカーはハードワーカーなわけで、朝の5時から喜んで働く。本気で働き方を改革するっていうのは、多様化、ダイバーシティと言われる社会にあって、それぞれの事情が違う人たちに目一杯頑張ってもらうことが大事。なので上から目線でやっても絶対に無理です。そして今や、ひとり親世帯、特に女性ひとり親世帯の子どもの貧困と、ものすごく関連していて6人に1人という増加傾向に歯止めをかけないといけない。これは、もう働き方改革とかかっこいいことを言っている場合じゃなくて“保障”。国が即やらないと駄目なことがあると思います。

大高 確かに、もっとひとりひとりの声に耳を傾けて、凸する所と凹する所のメリハリを見極める必要がありますね。日本の働き方改革は「無駄を排除してどう効率的に働くか」と、一律に「はい、何時に帰りなさい」といった凹の側面=「働かないようにする改革」に焦点があたっているように感じます。

藤原 社会は、もっとバラバラに動き出しているのに、まだ1億総なんとかみたいに標準化しようとしている。「働き方改革」の論議は、結局のところ個人の時給を上げるためにどうしたらいいかっていうことしか考えられていない。そうすると、時給が一緒だったら、もっと働く以外収入を増やす手はないので体も心も疲れちゃう。だからこそ個々人の“希少性”を上げていくことを考えの中心に据えないとだめなんです。

大高 なるほど!働き方においての“改革の極意その壱”は多様性を深く理解し、個々人の希少性を高めることに重きをおくことですね。でも組織の中で改革を進める上で、考え方の違いなどから不満が出たりすることも多いのではと思います。そうしたいわゆる抵抗勢力にはどう立ち向かえばよいのでしょう?

革命はたった一人の思いから起こすもの。

藤原 まず改革というのは、基本的には誰も望んでいないことをやるわけです。私の推進した教育改革だって、当時は誰も望んでいなかった。それを無理やり、未来はこうなるんじゃないかという思い込みで、たった1人から革命を起こすんです。スマートフォンだって、スティーブ・ジョブズがいなかったら、恐らくあと10年ぐらい出てきていない可能性だってありますよね。大ヒットした商品やサービスであればあるほど、そういうストーリーがあると思います。つまり、出たときに9割9分反対されたものでなければ、次の時代を拓く真実というのは出ないということ。アメリカのニューベンチャーの教祖的存在となったピーター・ティールが「誰も知らないけど、あなただけが知っている真実というのが一番大事なのだ」と言っています。それを信じて、やるかやらないかだけの話なので、ある意味での狂気がなきゃ成し遂げられない。

大高 ああ、抵抗勢力にはどうすればなんて、もう小さいことを考えていた自分が情けないです。そして反対されるからこそ次の時代を切り拓くというお話には、心から勇気をいただきました。私も共に創ると書く「共創」を事業の中心に据えて起業を志した時、「キョウソウ?かけっこでもするの?」とよく言われたのを思い出しました。
“改革の極意その弐”は「信念と覚悟」。そうして改革に取り組んでいく時、どんなことからスタートさせるとうまくいくのでしょう?

極意その参:改革のスタートのさせ方「出島作戦」

藤原 物事は、全体をいきなり変えようとするのは無理だし。やっぱり、今の生活を続けたかったり、今、慣れているものをそのままにしておきたかったりする人は、全体を変えようっていうのは、すごく怖く感じるんですよ。なので、いったん出島的に特例区を作ります。昔、長崎にあったでしょ。「出島作戦」ですね。本丸の周りにある出島から始めていくわけです。
私の場合はまず学食。そこに、すっごく通っていろいろと観察、そこで気付いたんです、ラーメン。それ「麺」が美味しくなかったんです。でも、スープは美味しかったんですね。それで、生徒たちにも聞いてみたら、同感で「1年生のとき、食べてからもう、食べてません」とか。これは、麺を変えると、一瞬にして、行列ができるっていうイメージができたので、「プラス30円で“本格しこしこ麺”が食べられる」という新しいメニューを開発、狙い通りでしたね。次に取り組んだのは校長室の開放。漫画をたくさん揃えて出入り自由にしたんですね。いろんな生徒の居場所を作ったんです。でも校長室だけでは受け皿として足りないので同様に図書室も変えました。その次は、人気の無かった制服も変えました。ネット通販を導入して価格を大幅に下げた上に、校長室に来る生徒にもヒアリングしながらデザインして、女子も着用出来るパンツタイプも新たに開発、性別に関係なくどのモデルを着てもいいようにしました。で、最後に本丸の授業改革です。授業中にスマートフォンの使用をOKにしました。ググってもいいし、アプリを使って、自分の意見とか、質問とか誰でも発信できるようにしました。最終的には授業の評価も取ればフィードバックが可能になり授業改善が促されると思います。

大高 「本格しこしこ麺」とか、「校長室に漫画&開放」とか、「性別問わない制服」とか、藤原さんの改革は、関わる人の喜びに合わせてアップデートさせつつ、遊び心がふんだんに取り入れられた“楽しい改革”が多いのですね!

藤原 楽しくあることはとっても大事。こんなことをしたら面白いなというのはいわゆる“センス”がものを言います。

藤原 基本は10歳までの“遊び”の中でセンスは作られるとよく話しています。が、子ども時代をうっかり過ごしてしまっても悔やむことはないですよ。大人になってからは「会社以外のコミュニティ」に参加することによって、センスを磨くことができるんです。

大高 センスですか…磨くのが最も難しそうですが…

藤原 基本は10歳までの“遊び”の中でセンスは作られるとよく話しています。が、子ども時代をうっかり過ごしてしまっても悔やむことはないですよ。大人になってからは「会社以外のコミュニティ」に参加することによって、センスを磨くことができるんです。

コミュニティの中で「情報編集力」を磨け!

藤原 コミュニティの中でこそ個人は鍛えられるべきなんです。例えば、息子の小学校で、大企業の名刺なんて出したら、何こいつって感じでしょ。他のお母さんたちに、翌日から悪口言われたりするんじゃないですかね。社会的に有名で憧れ的なものがあればあるほど、というのが世間です。名刺を出さない自分を鍛えるためには、予定調和じゃない世界に飛び込むしかない。しかも、いろんなことに対処する力を発揮しながら、情報編集力を鍛えられるのは、コミュニティの中だけなんです。

大高 うわーーー、ものすごく腑に落ちました。特に名刺を出さずに勝負できるかどうかはグサッときます。これからの時代は、どこの会社の誰かということよりも、「あなたは何ができる人ですか」っていう“旗”が問われる時代になってきていますね。その旗の立て方について、読者にアドバイスをお願いします!

キャリアの“大三角形理論”で リスクを面白がれる改革者になれ!

藤原 少し黒板に板書して説明しますね。

藤原 1歩目のまず軸足。これ、大概は自分がやりたくてやるわけではなくて、例えば会社に入ったらどこに配属されるか分からないわけですよね。私の場合、これがリクルートの営業マンだった。

大高 偶然というか。

藤原 要するに事故みたいなものです。ここから大体5年から10年、およそ1万時間使ってひとつのキャリアへの取り組みが必要です。

大高 1万時間をかけてマスターすると、希少性が高まって100人に1人の営業マン、すなわち100分の1の存在になれるわけですね。

藤原 ここに職業がバラバラな100人の人がいれば、そのうち最も営業ができる1人にはなれるという計算です。これを3回繰り返せば、つまり(1万時間というのは5〜10年かけることになるので)20代、30代と左足の軸と右足の軸を作って、40代でジャンプするように大三角形の高さを出すようにすれば、100万人に1人の希少性ある人材になれるということ。

大高 最後の3歩目のジャンプがなかなか難しそうですが、藤原さんはどんなことを考えながら踏み出したんですか?

藤原 私の場合は公立学校の民間校長になるという選択でしたが、キャリアの大三角形を作るために3歩目のチャレンジを果敢にやらないと、周りを囲む友人や関係者が「面白い!」と感じないから助けてくれない。逆に、“ええ?”っていうようなサプライズがあると、助けてくれるんです。リスクのあることの方が、実は一番リスクがないと思いますね。

大高 ハイリスクに見えて、実はリスクが少ないというのは逆転の発想で興味深いです。
そのリスクが面白いかどうかという見極めも、やはり極上のセンスから来ているんですね。

藤原 要するに、自分にとってのリスクって、関係者にとってワクワクすることだと思うんです。
例えば、建築家の隈研吾さんは基本設計だけで1,500万円取ってもいい人だけど、私がすごく不利なチャレンジをしているから面白がって通常の公共建築物である学校基準の設計料で引き受けてくれる。一条高校1校から、もしかしたら、3万数千校の公立校が、デザインというものに目覚めるっていうのは、彼にとっても、非常に大きなチャレンジだから面白いんだと思います。和田中学校の改革の時には、谷川俊太郎さんや林真理子さんが来たりしてくださったり、一条高校には茂木健一郎さんや、はるな愛さんが来てくれたのは、私があえて不利な仕事をしているから面白いと思われている面がある。リスクが大きいから、面白がってね。無謀なことだから、外から見ていると応援したくなるんだと思います。

大高 無謀と思える改革に真剣にチャレンジをしている人の周りには、それを面白がって賛同する人が集まり、そこからまた広がりができて更に大きなチャレンジの輪へと連鎖していく。冒頭の働き方改革の話に戻りますと、これからは「無謀なチャレンジをみんなで応援しあう働き方改革」をもっと推進するべきだなと実感しました。

藤原 3つのキャリアを掛け算して自分の希少性を高める「大三角形理論」を参考にしてみてください。三角形で100万人に1人の希少性を実現する方法については、ホリエモンとキンコン西野さんが、絶賛してくれているものです。それが一番詳しく書いてあるのが、今回出版された『45歳の教科書 戦略的「モードチェンジ」のすすめ』(PHP)です。みなさんも「キャリアの大三角形理論」で自分自身の仕事を客観的に見直してみるのもいいんじゃないですか。

大高 私もさっそく拝読しました!告白しますと、私の信用のクレジットは65点…。自分の強みと弱みがクリアになり、次への1歩をまた踏み出していけそうです。本当にありがとうございました。

対話を終えて(大高香世)

なんと!!!
博報堂に入社してからもう29年目に突入してしまった!
藤原さんの「キャリアの大三角形理論」でいくと
1つのことに10,000時間=10年かけて100人の一人の存在に。
2つ目のことにまた10年かけて、10,000人の一人の存在に。
3つ目を大きく踏み出して掛け合わせたら100万人に一人の存在に…
私はなれているのか??!
冷静になれ、自分。ちゃんと振り返るのだ。

自分にとって1つ目の軸足はマーケティング力。
2つ目の軸足はファシリテーション力。
この2つを持って博報堂の中で会社を創らせてもらったので、ある程度の信用は得ていると思う。と信じたい。
3つ目は起業力、と言いたい所だが、この踏み出しが弱いと感じている。
実際、藤原さんからも「戻れる会社があるようでは、まだまだ甘いね」と指摘されてしまった。
もっと“遊び心と冒険心を持ったチャレンジ”が必要なのだと、今回の対談を通じて大きな気づきを与えていただいた。また、3つ目の軸足を創りたいと思っている人たちと大志を分かち合えるコミュニティを創ることを、これからの目標にしていきたいという新たなる決意も。

私がそもそも起業を思いたったのは、「わたしの得意なことが誰かの役にたち、誰かの得意なことがわたしの助かるにつながる未来」を創っていきたいという思いからだった。
そこから多様な人との共創によってイノベーションを生み出す事業を推進してきたが、ここにきて社会課題と向き合いながら経済を生み出すソーシャルデザインの活動や、イノベーション人財を創るお手伝いの仕事が増えてきている。

無謀でワクワクするチャレンジにもっと向き合おう!
そのためにもっともっと世の中の役に立つ仕事に全力で取り組もう。
そんなことを考えながら、まだまだ成長したいと思う自分に気づき、あと四半世紀は働くぞ!と気合いスイッチをグイっと押した。

さあ、人生100年の時代。
年を重ねることは老いではなく、次への成長ステージに上がるために学び続けているのだと胸を張って言える日々になりますように☆

Profile

藤原和博
1978年、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長など歴任。メディアファクトリーの創業も手がける。1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。2008〜2011年、橋下大阪府知事の特別顧問。2014年より佐賀県武雄市特別顧問。2016年、奈良市立一条高等学校校長に就任。『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済新報社)や『45歳の教科書 戦略的「モードチェンジ」のすすめ』(PHP研究所)など著書多数。

大高香世
1990年博報堂入社。マーケターとして戦略の立案や、新商品開発/新規事業の立ち上げなどを担当。 一方で様々なワークショップのファシリテーターとしても活動。
これからの時代“共創”が社会の潮流になることを予見し、2013年7月、共創型のオープンイノベーションを提供する新会社「株式会社VoiceVision」を設立。代表取締役社長に就任。生活者との対話を通じて、社会や企業の未来を革新する活動を日々続けている。