左から)博報堂ビジネス開発局部長 古米和麿、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 伊藤佑介、博報堂テーマビジネス局 加藤喬大、博報堂ビジネス開発局 大津翔

博報堂は2018年9月、新組織HAKUHODO Blockchain Initiative(HBI)を発足しました。ニュースリリースはこちら
HBIはブロックチェーンを活用したビジネス開発の推進を目的にしており、「トークンコミュニティ」という独自のキーワードを提唱しています。HBI設立の狙いや今後の展望について、立ち上げメンバーの四人が語り合いました。

伊藤:普段は、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターでマーケティングソリューションの開発を担当しています。HBIではブロックチェーンを活用した博報堂独自のサービスの開発や、ブロックチェーンテックベンチャーと連携したソリューションの開発をしています。
前職ではエンジニアをやっており、博報堂に入社してからは営業でデジタルマーケティングを担当したあと、現在の部署に移りました。
ブロックチェーンに関心を持ったのは2016年に、サトシナカモト氏が書いたビットコインとブロックチェーンについての論文を読んで衝撃を受けたのがきっかけです。当時は博報堂や広告業界の中で、ブロックチェーンに関わっている人がいなかったため、個人的にいろいろなブロックチェーンのミートアップに手あたり次第に一人で行っていました。
その後、2017年5月に、ブロックチェーンのエンジニアコミュニティ「Blockchain EXE」のミートアップに参加したのがきっかけで、同コミュニティの代表に誘っていただき運営にボランティアメンバーとして参加するようになり、そこからブロックチェーン業界の様々な方とのネットワークが広がっていきました。次第に、博報堂での業務にも活かしたい、と考えるようになり、ブロックチェーンを活用したサービスを社会実装するためにHBIの設立を目指しました。

加藤:博報堂テーマビジネス局の加藤です。2017年の12月までナショナルクライアントのマーケティング領域に取り組んでいました。今は国や行政と向き合って新しい仕事を創っていく業務をしております。HBIでは、テクノロジーの視点と、我々の既存のクライアントの間に立ちながら、どう新しいビジネスを創っていくのか事業開発的な視点でサポートしていきたいと思っています。広告会社にもテクノロジー視点のビジネスディベロップメントが必要だと思っており、自分で担当したいと思っています。
ブロックチェーンに出会ったのは1年半くらい前で、伊藤さん同様、大きな衝撃を受けました。そこから自主的に勉強をしていて、絶対にどこかで仕事にしたいと覚悟を決めていたら、今年2月に偶然、部署の違う伊藤さんと外部のミートアップで出会いました。そこから意気投合し、毎日有志でブロックチェーン漬けの日々を送り、二人で博報堂にブロックチェーンの専門組織を作ろうと動いてきました。僕は、ブロックチェーンという最先端技術の活用と、地方創生のような社会課題を解決する、という両極ともいえることを仕事にしているので、HBIではこうしたバックグランドを生かしたいと思っています。

大津:博報堂ビジネス開発局の大津です。ビジネス開発局は、法律が変わったり新しいテクノロジーが登場したり社会変革が起きたときにビジネスとしてどう対応するかというセクションです。HBIでも同様の視点で、ブロックチェーンでどういうことができるか、どうクライアントを作っていくかを考えていけたらと思っています。HBIは、仕事での興味を超えて、とにかくブロックチェーンを生活者のために活用していきたいという、モチベーションに満ちたメンバーがスタートした組織ですので、そうしたメンバーと出会えて新規ビジネスを始められることをとても嬉しく思っています。

古米:大津と同じ博報堂ビジネス開発局で部長をしています。業務内容は大津とほぼ同じですが、もう少し俯瞰した視点を持って、単にブロックチェーンでビジネスを作るというよりは、博報堂のビジネスとしてどう成り立たせるかを様々な観点から検討しています。
HBIでの役割についていうと、私はこの四人の中では最もブロックチェーンに詳しくないので、それを逆手にとって、あえて詳しくないまま生活者目線でアイデアを考えていけたらと考えています。ちなみに、HBIは今日集まったこの四人を含め、メンバーは現在10人ほどおり、マーケターや法務、メディア担当、統合プラニング、出版営業、プログラマーなど様々な専門家が参加しています。

生活者主導の社会をブロックチェーンで実現する

加藤:HBIが提唱している「トークンコミュニティ」に触れる前に、まず、「コミュニティ」の話ですね。今、「コミュニティ」というキーワードがビジネス書やニュースサイト等、至る所で見られますが、大きく注目されている理由は二つあると思っています。一つは孤独の問題です。今、全米でヒットしている「瞑想」アプリなどは象徴的だと思うのですが、大家族の崩壊や、働き方改革による余暇の出現、地域社会や国民国家への所属意識の変化というのは、孤独の問題を生んでいると思います。所属を強制されていた組織から一気に解放されて「個」の時代になる一方、孤独が生まれる。これは現代人にとって結構深刻な問題です。
そして、その自由になった個人を、インターネット上のオンラインサロンを中心に受け止める受け皿が存在していることが2つ目の理由です。同じ価値観を持つ人々は一瞬で可視化されて、集まることができ、情報交換だけでなく、実際に仕事が生まれ、プロジェクトが進んでいく。僕もコミュニティやギルドといった場が好きで、自分で創ったり、所属したりしていますが、今のコミュニティは経済的なインセンティブではなく、信頼や共感などの前向きな感情で動く、とてもポジティブな空気が流れる場所が多いと思っています。
このような時代に、僕たちはブロックチェーンを「コミュニティを支える技術」だと捉えていて、コミュニティが様々な価値を交換し合い、共通の価値観の元でもっとアクティブに動いていけるようにブロックチェーンを活用していきたいと考えています。

伊藤:加藤さんは、地域コミュニティ等を起点とした社会的な読み解きからブロックチェーンにアプローチしています。ブロックチェーンに興味がある人は大きく二つに分かれていて、仮想通貨に興味がある人と、ブロックチェーン技術に興味がある人なんですが、僕が興味があるのは後者で、ブロックチェーン技術自体のオタクです(笑)私を含めHBIメンバーは、コミュニティでトークンを使って価値交換をする、それも経済的な価値の交換ではないものに関心があるんです。そうした視点に合う言葉として、HBIでは「トークンコミュニティ」という言葉を提唱しています。

古米:HBIとしてスタートする前は、ブロックチェーンをテーマに、有志で意見交換しようというところから始まりました。その際に、ブロックチェーンをどのように博報堂のビジネスにしていくかと考えていく中で、まず、ブロックチェーンは、「中央集権的に動くのではなく、生活者主導で動く社会を実現するための技術だ」という認識が生まれたことで、博報堂のフィロソフィーである“生活者発想”と結びつけられるのではないかという話になり、そこから、「トークンコミュニティ」という言葉が生まれました。ブロックチェーンについての一般的な印象は、「不正ができない」といったマイナス面に対する手段、という印象が強いかと思いますが、我々は、「トークンコミュニティ」を実現するための基盤技術、と捉えています。

加藤:先日、HBIが提携を発表した、ブロックチェーンスタートアップのPoliPoliは、19歳の慶應の大学生が起業した会社ですが、僕たちの思想と非常に近いところがあると思っています。「トークンコミュニティ」の企画設計などは先ず今までと考え方が異なっていて、経済学とブロックチェーン技術を両方理解することなしにはできないことだと思っています。ここができるのは伝統的な経済学を学んだ人よりも、今の若手、それも10代・20代中心に多いと思っています。そういう意味でPoliPoliは本当に新しい領域の先駆者だと言えると思いますね。
PoliPoliは荒れがちな政治コミュニティにブロックチェーン上のトークンを導入することで、評価経済システムの中で、建設的な意見が並ぶ場にしていきたいという発想です。
彼らが素敵なのは「まず、先にコミュニティ創り」という点です。とかく仮想通貨やトークンの話になると、ICOの話になりがちですが、まずコミュニティを創り、ファンを増やす。そのコミュニティの活性化の先に法定通貨との兌換を見据えていく、という非常にビジョナリーな企業でありながら、市場を睨んで判断するしたたかさの両面を持っている企業だと思っています。

大津:この事例に限らず、例えば家電メーカーが商品開発する際に、生活者の意見を聞く、といったケースが考えられると思います。主婦のコミュニティに協力をお願いしてニーズを出してもらい、いいアイデアにはトークンを渡し、製品が実際に出た際には購入にトークンを利用できる、といった仕組みも可能だと思います。開発に関わったコミュニティの方々は、自分ごととして、製品発売後の情報拡散にも自然に協力するでしょう。
ただこういったケースでも、貢献したコミュニティのメンバーへのインセンティブは、経済価値である必要はないと考えています。金銭的インセンティブではなく、属しているコミュニティの中で喜ばれたり、役に立てたと感じられるだけでも満足される方は多いと考えています。

個人や企業より、技術を信頼する時代が来ている

伊藤:僕がブロックチェーンに関心を持ち、今後重要な役割を担っていくと考えている背景に、信頼の形態が時代と共に変わってきている、という実感があります。

私は地方出身なのですが、親が教師だったため顔見知りも多く、地元の商店などでは「伊藤先生の子供」と認識されて可愛がってもらったり、といった経験があります。これは“個人に信頼を置く”、ということだと思うのですが、高度経済成長前の日本ではどの地域にも同じような状況があったのではないかと思います。これが高度経済成長期に入り、「あの会社の人なら信頼できる」といった具合に企業や組織に信頼が移ったと考えています。
しかし近年は信頼が厚かった企業や組織の不正が発覚する報道が相次いだり、倒産に追い込まれたりと、その信頼が大きく揺らいでいます。個人や組織が信頼できなくなった状況において、次に信頼の拠り所になり得るのが「技術」であり、将来その役割の筆頭をブロックチェーン技術が担うようになるのではと考えています。
ビットコインの概念を作ったサトシナカモト氏の論文は9ページあり、半分は技術的な内容なのですが、もう半分は社会学的な内容なんです。しかも、実はビットコインの一番先頭のブロックデータの中には、法定通貨に対するアンチテーゼを暗示するようなメッセージが書き刻まれています。これはつまり、ビットコインは、「組織」が与える信頼を必要とせず、ブロックチェーンという「技術」で信頼が裏付けられた仮想通貨である、というコンセプトが示しているのだと思います。

加藤:ブロックチェーンの波が巨大に見えるのは、思想と共に襲ってきているからなんだと思います。

古米:ブロックチェーンでは、そのブロックの中に全ての取引記録が残っていて、それが分散されて保有されています。そのうちのひとつのデータを書き換えようとすると、過去の全てに遡り、他の人の持つ全てのデータを書き換える必要があるので、不正がされにくいんです。

伊藤:我々はブロックチェーン技術で実装されるものは単なるサービスではなく、「ブロックチェーン技術で実装されたトークンを使って共通の価値観をもった不特定多数の生活者が活発に価値交換を行うコミュニティ」、つまりトークンコミュニティであると考えています。この話をすると、ビットコインは世界中の一般の人々が持っているから、その人達全員が持つ共通の価値観などはないのでは?と言われる方もいます。ですが、実際には開発当初の2008年から暫くの間、ビットコインは、「法定通貨に対するアンチテーゼ」という非常に強い共通の価値観をもった開発エンジニアの濃いコミュニティで、一般の人々はそこに参加していませんでした。というのも、当時は、ビットコインに経済的な価値はなかったため、サトシナカモト氏の論文を見て、思想に共感したエンジニアが集まって、エンジニア達の間だけで「本当に論文のとおり二重支払いなどの不正ができないのか送ってみよう!」などと、半ばお遊び的にお互いにビットコインを送り合っていただけだったからです。ところが、2010年に最初の仮想通貨取引所が誕生すると、ビットコインが初めて経済的な価値を持つようになりました。すると、それ以後、共通の価値観の下に集まったエンジニアに加えて、投機を目的とした一般の人々がビットコインのコミュニティに徐々に入ってくるようになってきたのです。ちなみに、同じ年に、あるエンジニアが別のエンジニアに対して「10,000ビットコインでピザ2枚を売ってくれ」と冗談半分で持ちかけ、実際に交換が成立して、ビットコインによる世界初の商取引が行われたそうです。ただ、この10,000ビットコインというのは、2018年11月現在は70億円近い経済的な価値があることになりますが、そのときにはピザ代程度の価値しかありませんでした。

ブロックチェーンで生活者を活性化する

加藤:「ブロックチェーンはコミュニティを支える技術である」という僕たちの解釈は、生活者発想を掲げている博報堂らしいと思うんですよね。博報堂は生活者の一番近くにいる会社でいたいなぁと思うのですが、今一番生活者の傍にいるためにはコミュニティを支える、もしくコミュニティを創り出す必要があるのだと思うんです。それは企業によっては「ファンコミュニティ創り」ということになりますし、自治体にとっては「関係人口を含めたコミュニティ創り」になってきます。人口減少時代の自治体もこの領域は関心を持っており、そこに住む住民以外とのコミュニティをいかに創っていくのかということが大事になってきます。エストニアには「e-residency」という、日本にいながらエストニア国のサービスの一部を受けられる仕組みがありますが、これはむしろ僕は自治体こそ参考にできると思うんですよね。どれだけファンコミュニティを増やして、コミュニティの熱量を上げて、さらに資金調達まで行っていくか。自治体のエストニア化みたいなことだったり、ブロックチェーン等のテクノロジーを活用して地域の概念をアップデートしていくこと。僕はこれを自分の課題としてHBIで突き詰めて考えていきたいと思います。

大津:HBIが目指していることは、生活者を活性化することです。ブロックチェーンを使い、我々も生活者と一緒に社会を活性化していくというビジネスやマーケティングが生まれていく。現状でも既に、コミュニティ内で価値交換が行われている例はあると思うのですが、それがはっきりとは可視化されていません。ブロックチェーンによって価値交換を可視化すると、コミュニティは活性化していくと考えています。

加藤:企業にとってもコミュニティが大事だということを啓発していく活動も必要だと思います。僕は、「コミュニティ創り」とブランディングは同じレイヤーにあると思っていて、来年くらいから「ブランド」と「コミュニティ創り」がセットで優先課題に挙げられる時代になるのではないか、と考えています。
Polipoliさんと提携した理由は、目指す世界がとても近い思想提携ともいえるのですが、様々なブロックチェーンスタートアップと話すと本当に素晴らしい方が多く、ぜひそういう企業と一緒に、ブロックチェーンの社会実装をやっていきたいですね。このメンバーはほぼブロックチェーンやコミュニティに対する好奇心や熱意がやたら強く、どういうわけかスタートアップなみに動きが速いチームです。是非、ブロックチェーン企業は僕らを上手く活用してもらうような気持ちで、一緒に多くのプロジェクトを動かしたいですね。