日本は今、「女性活躍推進」「働き方改革」のまっただ中。その流れを受けて、こそだて家族の働き方、暮らし方も大きく変わりつつあります。しかし、そこはまだまだ過渡期。大小様々なトライ&エラー(という名のバトル?!)を、企業や家庭の中で繰り返しながら、ちょうどいい折り合い所を模索しているところではないでしょうか。
ほどよい時間で、ほどよい仕事量で、ほどよくやりがいもあって、ほどよく効率的にできる仕事。
パパやママが働きながら、ほどよく家事も育児もシェアする家庭。
そんな理想の世界が本当にあるのでしょうか?
そこで、こそだて研では世界に目を向けて、ヒントを探してみることにしました。もちろん国が違えば行政の制度も違う、文化的背景も違う中で、丸ごと真似をすることはできないですが、そこには何かしらの発見、学びがあるハズです。
近所のママ友との井戸端会議にも「へ~、ほ~」はあるのですから!
世界のこそだて家族と井戸端会議。
前回の上海篇に続き、今回は、シンガポールでフリーライターとして活躍しながら育児をする中野円佳さんを取材。
アジア圏のビジネス拠点が集まり、多様な人があつまるシンガポール。日本とは違う環境にあるシンガポールの育児を覗いてみると、日本とは異なる価値観が見えてきました。そこには、日本のママがもっと楽になるヒントが隠れているように思います。

これまでの「世界の家族と井戸端会議」
Vol.1 アメリカ篇
Vol.2 フランス篇
Vol.3 イタリア篇
Vol.4 上海篇

多様な文化が交わる、多言語環境が魅力のシンガポール

街を歩くだけで、多種多様な人が行き交うシンガポール。肌の色も違う、服装も違う、そんな子どもの目にもわかる多様性に自然に触れることができ、「世界地図を見た時、実際のイメージが広がるような視野の広さ」を子どもに与えられている喜びを語ってくれたMadokaさん。

教育においても、国をあげてバイリンガル教育を推進しているため、保育園から英語・中国語での保育は当たり前。外国人に対する言語サポートも充実しており、Madokaさんのお子さんも、英語の環境に置かれながら、日本語での学びの時間も確保されている幼稚園に通っている。
日本にいると、多様性を肌で感じることは少ない環境がまだまだ多いように感じてしまいますが、グローバル時代のいま、小さいころから、当たり前のように多様な文化・言語に触れさせながら子育てできることに、魅力を感じているそうです。

ママがひとりで家事・育児を背負ってしまわない環境がある

シンガポールでは、「ママがひとりで家事も子育てもすべて担う」という感覚がないそうです。
その背景は、“祖父母の存在”と“メイドさんの存在”。
国土が東京23区ほどの広さしかないため、祖父母が近くにいるご家庭が多く、協力を得られやすいとのこと。
それに加えて、外国人のメイドさんを雇い、家事をやってもらうことが定着しているそう。家の間取りの多くが、メイドさんが住み込むことを前提とした間取りになっている。住み込んでもらえるので、最低限の家事はお任せすることができる。シンガポールで育った多くのママさん達は、自分もメイドさんのいる環境で育った場合も多く、そもそも「ひとりで全部やらなきゃ」という発想にならないそう。日本で家事外注しようとすると、経済的なハードルが高く、なかなか実現出来ないという面もがあるだけでなく、「家事も自分でしっかりやらなきゃ」と思ってしまう精神的なハードルもあるように思います。Madokaさん自身も、「自分でやらなくちゃ」と思いがちだったけれど、「家事のサポートを得ることが当たり前」という環境になり、とても楽になったそうです。
シンガポールで子育てをする他のママを見ても、最低限のことはメイドさんがやってくれるので、子どもと向き合ったり、子どもとの時間を充実させたりと、「育児に専念できているという自負心」を持てている人が多いように感じると語ってくれました。

「家族あっての仕事」、という感覚。

仕事観も、日本との違いを感じる場面が多いと語ってくれました。
職場では「自宅のエアコンが壊れてしまって、修理の人が来るので遅れます」という理由の遅刻も珍しくない。日本では「仕事が最優先」という感覚があるのでとても驚いたそうですが、よく考えてみると「平日夜や休日の決まった時間にエアコン業者が来てくれると思うこと自体が日本の労働に対する考え方がよく表れている」と気付かされたそうです。
日常的な職場においても、「やるべきことが終わったら、後は自由」という発想が浸透していると感じるそう。
「部長がいるから帰れない」のような発想は全くなく、成果を出していればいいという合理的な仕事をされる人が多いそうです。伝統的なアジアの価値観は残っているとも言われ、男女の役割差といったものはシンガポールでもあるそうですが、成果主義・合理主義的な仕事観があるためか、旦那さんの帰宅時間に関しても、「平日はパパが全くいない」というような状況はあまり聞かないそうです。
合理的に仕事を進めて、「家族あっての仕事」という感覚を実践すること。日本でそれをしようと思うとすぐには難しいかもしれませんが、子どもの発熱で仕事を突然休んでしまう、子どもの保育園・学校でのイベントを優先させる、ということに罪悪感を持つ必要はないと思うだけでも、気持ちが楽になっていくかもしれません。

「違っていて当たり前」、という感覚。

日本にいると、どうしても、気になってしまう“隣の事情”。習い事でも、キャラ弁当作りでも、手作りのお手下げでも、「知り合いのママがやっているなら、私もやったほうがいいのでは」「うちだけやってないと、子どもが可愛そうな思いをするのでは」と思ってしまう経験は、多かれ少なかれ誰しもあるのではないでしょうか。
シンガポールでは、違っていて当たり前。人種が違えば、生活習慣も違う。外国から来ている人も多いので、パパとママの働き方ももちろん違う。だから、育児においても、隣の家庭と「違っていて当たり前。比べても仕方ない」という感覚が強いそう。Madokaさん自身も、日本にいたときよりも服装や母親のふるまい方、子どものお弁当の中身などの多様性に触れ、「周りを気にしない育児」に対して、背中を押されたそうです。ついつい人と比較して劣等感を感じたり、他のママができていることができていないと落ち込みがちな日本のママたち。「周りと比較せず、自分ができる育児をする、自分としてベストな家庭を築く」という感覚は、日本人には馴染みにくい面があるかもしれませんが、それが出来ると親としての自信に繋がるような気がしました。

いかがでしたか?
Madokaさんの話を聞いて、シンガポールだからこその環境の話も多くありましたが、特殊な環境だからこそ生まれた価値観に、幸せへの暮らしのヒントが隠れているような印象を受けました。
メイドさんを雇うことは現実的でなくても、もっと、旦那さん、祖父母や友人、外部サービスに頼ることに積極的になってもいいのかもしれない。子ども・家族のために休みます、と堂々と発信していいかもしれない。そして、何より、周りは気にせずに、自分らしい家族を作っていけば良い。そんな、ちょっとした気持ちの持ちようで、暮らしが前向きに変化するのではと思います。そのためには、ママが意識を変えるだけでなく、パパや祖父母など身近な周りの人から、会社や日本社会全体が、「家族」を大事にする意識を持つ必要があるのかもしれません。

滝澤 永理子(たきざわ・えりこ)
博報堂 第2プランニング局ストラテジックプラナー
2012年博報堂入社。営業職を経たのち、2015年よりプラナー職へ転向。2016年に長女を出産し、生後6カ月で職場復帰を果たす。復帰後は、ママとしての生活者視点を活かしながら、ママをターゲットとしたブランドを中心に、様々なブランドのコミュニケーション戦略に携わる。