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コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム#5(映画編)「“観る”だけじゃない!映画がもたらす多様な楽しみ方」

2018.03.02

■今の時代の「映画体験」とは何を指すのだろうか?

「映画体験」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。

多くの人は、劇場で「映画」を視聴する、劇場鑑賞を思い浮かべるのではないかと思います。実際に劇場鑑賞による興業収入は映画のヒットや映画業界自体の隆盛を測る上で重要な指標として扱われてきました。

(図1)年間映画興行収入

例えば直近3年間を振り返ってみると(図1)、一昨年の2016年は『君の名は。』『シン・ゴジラ』と歴史に残る大ヒットが飛び出し、結果、2355億円と過去最多の市場規模を記録しています。また、前年ほどのインパクトはなかったものの、2017年は「美女と野獣」などのヒットが生まれ、2285億円と過去2番目に大きい市場規模を記録しています。

興業収入という上記の量的指標で見てみると、映画業界は直近数年盛り上がっているように感じられますが、質的にはどのような変化があったのでしょうか?

■データから見えてくる「映画体験」の質的変化

様々なコンテンツジャンルに関して経年で聴取をしている「コンテンツファン消費行動調査」を紐解いてみると面白い傾向が見えてきました。

この調査では「映画」についても幾つかの設問を聴取していますが、その中に「映画視聴における重視点」があります。

目を引いたのは、2015年から2017年の間で、「ストーリー」を重視するという割合が、20%も下がっているのです。(図2)3年間で2割減少というのは大きな変化ではないでしょうか。一方で、2015年から2017年で最も上昇している重視項目は「上映している映画館」(約11%UP)でした。(図2)これはつまり「映画鑑賞に至るまでのアクセスの良さ(時間や行きやすさ等)」を重視しているということではないでしょうか。

(図2)映画視聴時の重視点(2015年→2017年)

この2つの変化から「ストーリー」などの「映画の中身」ではなく、「映画を鑑賞するという体験そのもの」を生活者が重視するようになったのではないか、という1つの仮説が思い浮かびます。

上記の仮説を考え進める上で、他のデータも見てみましょう。

同調査では「劇場鑑賞」だけにとどまらない「映画に関する支出」を様々な項目で聴取しています。

(図3)映画支出項目 年間平均利用金額

各支出項目の支出者数における年間の平均利用金額の比較を行ったものが図3です。最も支出が多い項目は「放送」で、2015年の約4万円から2017年には約4万5千円と上昇傾向にあります。ここにおける放送はBS・CSでの放送やケーブルテレビの放送を指します。

続いて2番目に支出が多いのは「イベント・リアル」に関する支出です。こちらは2015年の約3万5千円から2016年には低下していますが2017年に再度上昇しています。これらは、通常の劇場鑑賞に留まらない映画イベントへの参加や、ロケ地や施設などへの訪問を含みます。近年を振り返ってみると、こうしたイベントや鑑賞後の行動が増加したような印象を受けます。(『シン・ゴジラ』の発声可能上映会、『King of Prism』応援上映、『ラ・ラ・ランド』in コンサート、『君の名は。』の須賀神社を始めとしたロケ地への聖地巡礼など)

また3番目に高い支出は2015年は「グッズ」でしたが、2017年では「マルチデバイス」になっています。こちらは2015年の約5千円から2017年は約2万円へと約4倍に増加しています。スマートフォンの普及に伴い、昨今の定額制配信サービスが近年一気に裾野を広げました。私自身も気になる映画の鑑賞に備え、定額制配信サービスを利用して事前に関連作品を視聴することが以前に比べ多くなりましたが、まさにそうした変化が数字に表れているのではないかと思います。

■「映画体験」を時間軸と支出の広がりで再定義する

ここまで見てきたように、メディア・デバイスの変化や新しいサービスの登場に伴い、映画には多様な楽しみ方が生まれてきています。もちろん音響設備を備えた広々とした空間で映画の世界観に浸ることのできる「劇場鑑賞」は、紛れもなくリッチな映画体験であることに違いありません。ただ往々にして私たちは「映画体験」と聞くと「劇場鑑賞」とほぼ同義にとらえてしまいがちなのではないでしょうか。

映画の楽しみ方が多様化した今、「劇場鑑賞」とは、「映画体験」の一側面でしかありません。

(図4)

図4は、劇場鑑賞を中心に、その前後の時間軸を横軸に、支出の金額の高低を縦の軸にとり、調査で聴取した支出項目を中心に、映画体験の要素をおおまかにプロットしたものです。

※「映画プロモーション・キャンペーンへの参加」、「映画観賞報告や感想シェア」
「二次創作」は調査上聴取はしていないが生活者の関わる映画体験の一例と考えられるため追記

劇場鑑賞前で考えると、支出としては「マルチデバイス」など、定額制配信サービスでの関連作品の鑑賞や、単純に映画のプロモーションやキャンペーンへの参加も劇場鑑賞への期待を高める上で、映画体験の大事な一部分と呼べるのではないでしょうか。また昨今はSNSの普及に伴い、映画を鑑賞した後に「観に行ったよ」と画像を投稿したり、感想や二次創作をそうした情報インフラでシェアする行為もよく目にするようになりました。グッズやDVD・BD・CDの購入などの目に見えやすい消費行動だけでなく、映画を媒介にしたこうした情報行動も今の時代ならではの重要な映画体験の一部に違いありません。

■「鑑賞」に留まらない多様な広がりこそが今の時代の「映画体験」

先程、映画視聴における生活者のニーズが「映画の中身」から「映画を鑑賞する体験そのもの」を重視するようになったのではないかとお伝えしました。

元来、五感をフルに刺激する「映像体験」として、映画はエンタテインメントとしての揺るぎないポジションを得ていたように思います。もちろん、この認識はVRやAR、未だ登場していないテクノロジーの活用によって更にリッチな体験へと昇華されていくことでしょう。例えばですが、VRを利用すれば映像世界の中へ本格的に没入する体験を提供できますが、映画館という他者とリアルタイム、リアルプレイスで映像を楽しむ性質を活かした体験(ex. 複数人で体験するVR、相互のインタラクションが変化をもたらす映像体験)が設計できれば、映画体験における付加価値となりうるかもしれません。

しかしながら、改めて時間軸と支出の広がりから「映画体験」を捉えなおすと、こうした高度な鑑賞体験だけでなく、「観る」ことに留まらない「映画」にまつわる生活者の多様な「映画体験」こそが、今の時代の「映画体験」と呼ぶにふさわしいと感じられます。

昨今の変化の激しいメディア環境を踏まえると、今後ますます映画の楽しみ方は多様化していくと想像しますが、映画を作る人も、作品を楽しむ人も、こうした広がりをポジティブに享受していくことで、より多くの人が映画をもっと長く、より深く楽しめる世界が広がっていくと信じてやみません。

川合 英(かわい すぐる)
博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツ・ビジネスセンター
コンテンツビジネスラボ

2011年博報堂入社。マーケティング職として6年間小売・流通、放送局、食品、スタートアップ関連企業の商品開発、コミュニケーション戦略立案業務に従事。2017年10月より現職。媒体社、コンテンツホルダーにおける課題解決のためのビジネスソリューションの提供に従事。映画は年間約100本近くを劇場で鑑賞。

★アーカイブ★
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