若手!クリエイターが挑む!ソーシャルテーマvol.23
シンプルで太いインサイトと美しいデザインが導いた勝利―「THE UNGUIDED GUIDE」

クリエイティブの力で世の中に新しい視点をもたらし、社会課題の解決に挑む博報堂の若手メンバーにフィーチャーする連載企画。今回ご紹介するのは、オーストラリアの広告祭「ケアンズ・クロコダイル」でGOLDを受賞した「THE UNGUIDED GUIDE」。企画した池邉航太と若田勇輔に、受賞の裏側について話を聞きました。

「THE UNGUIDED GUIDE」とは
アジア太平洋地域のクリエイティビティやマーケティングを祝う広告祭、「ケアンズ・クロコダイル」における若手企画コンペ「Cairns Hatchlings」でGOLDを獲得した企画。クライアントは国連(UN)で、お題は「人道支援の資金不足解決(230億ドルの寄付金確保)」というもの。旅行雑誌「THE UNGUIDED GUIDE」を通して、同情心からではなく好奇心から自然と寄附につながる仕組みを考案した。

互いの強みを活かし完成させた「インサイトフル」で「ビューティフル」な企画

―今回、お2人がコンビを組んだきっかけを教えてください。

池邉
僕らは21年入社の同期で、もともと仲が良かった為、組むことにしたんです。互いの作品やコンペ実績はよく知っていたし、若田さんはデザインが美しいだけではなく、もっと上流のコンセプトや戦略の部分から考えられる人だという認識があったので、ぜひ一緒にやってみたいと思いました。

若田
僕も、戦略部分から本当に機能するデザインをつくるためにも、戦略的思考のある人と仕事をしたいと常々思っていました。なので、鋭い分析力はもちろん、生々しい人間のインサイトを大事にし、企画、アプローチまで一気通貫で組み立てられるプランニング力を持つ池邉さんとペアを組めるのはまたとない機会だと考えました。何より普段から仲が良く、本音で語れる信頼できる相手だったというのが大きいですね。

―選択した部門とコンペのお題を教えてください。

若田
僕らが選んだのはパブリッシング部門です。理由としては、出版物である以上ビジュアルが絶対的に重視されるだろうし、コンセプトでも大いに戦えると考え、僕らの強みが十分活かせると判断しました。

池邉
クライアントは国連(UN)で、お題は「人道支援の資金不足解決(230億ドルの寄付金確保)」というものでした。なおかつ設定されていたのが、「Subscribe to Humanity(人類へのサブスクライブ)」という大テーマです。いまの時代、多くの人が何かしらのサブスクサービスに入っていますが、そのほんの1%でも人類のための課金に割かれれば、相当額の支援になるはずだということでした。

―なるほど。では実際に提出した企画アイデアと、評価されたポイントについて教えてください。

若田
「THE UNGUIDED GUIDE」という国連発行のガイドブックをつくり、SNSなどでも展開し、記事を楽しみながら自然と寄附につなげていくという企画を提出しました。
 

オリエンでは「同情からの支援ではなく、本当の意味で人々が団結し、応援したいと思わせるような施策がいい」とも語られていたので、とにかくポジティブに人々が団結できるものは何か、というところから考え始めました。そして思い立ったのが「観光」です。観光を楽しい、面白いと感じる感情は世界共通だし、観光を通して異なる国の人同士が出会いつながることが、まさに団結の概念に合致すると考えました。また、人道的支援を必要とする人たちは、地理的な条件などから、一般的な観光ではなかなか訪れる機会のない場所も多いです。 実際に企画で紹介したネパールのフムラ地区も、医療や交通へのアクセスに課題を抱える、険しい山岳地域です。でも観光資源として捉えれば、その険しい地形がつくる景観の希少性が、かえって魅力になる。 ダークツーリズム同様、人は、普段の生活では目にすることのない景観や文化に、好奇心をかき立てられますから、 人道的支援を必要とする地域を改めて観光地として魅力的に紹介し、その先に支援を必要とする人たちがいることを知れる設計にすれば、うまく世界の人たちに課題を届けられるのではないかと考えました。

池邉
また「観光」については、世界的に「観光の均一化」が進んでいるというインサイトを活かせたことも大きかったです。今回コンペがあったオーストラリアのケアンズも、検索すればわかりやすい観光地がいくつも出てきますが、実は僕がもっとも気に入ったのは、散歩中に見つけたなんてことない地元の公園だったりするんですよね。検索アルゴリズムにも出てこず、SNSで話題になることもなく、世間からも注目されていない場所こそが、本当に心に残る場所だったりする。シンプルな企画だからこそ、根本にある事象の確からしさ、太いインサイトが大きな意味を持つはずだし、この「観光の均一化」というインサイトは国を問わず大きく共感してもらえるはずだと考えました。

実際の講評でも、インサイトのシンプルさと確かさで高く評価していただけました。またパブリッシング部門は、えてしてデザイン性よりもストーリーテリングを重視しがちなところ、ビジュアルの美しさを評価されたのもよかったですね。審査員からは「インサイトフルでビューティフルだ」と何度も言われて。まさに、互いの力がうまくかみあった成果だと思います。

「勇敢な」クリエイティブで、真に未来のためになるアイデアを生んでいきたい

―コンペを通して大変だったことや、成長できたと感じたことはありますか。

池邉
オリエンからプレゼンまで24時間というタイトなスケジュールだったので、徹夜で企画をまとめつつ英語で台本をつくる作業は、それなりに辛かったです。練習時間もろくにとれないまま本番に臨み、何とか終わったと思ったら、審査員のコメントも訛りの強い英語で聞き取れなかったりして(苦笑)。でも審査員の方々がすごく陽気でやさしく、温かい雰囲気をつくってくれていたので、心理的にすごく助けられました。

―改めて、クリエイティブの力は、社会課題の解決にどのように活かせると感じていますか。

池邉
今回のように、同情からではなく、面白そうだからやりたいと思ってもらえたり、楽しんでいることが自然と支援につながるような仕掛けは、クリエイティブの力がなければできないことなのかなと思います。正しいことを正しいまま伝えるのは誰にもできるけど、正しいことを面白く、あるいはちょっと気になるような伝え方で伝える。それこそクリエイティブができることだと思います。
 

若田
ブランドを考えることは、5年後、10年後の企業の未来を考えること、そしてこの社会の未来を考えることと同義だと思います。短期的な成果を求め続けるとクリエイティブの指数はどんどん下がってしまう。やはり5年後、10年後を見据えて、どんなものが残っていくかを精査する目を持つことが、真のクリエイティブなのだと思います。企業のブランディングやデザインを考える力と、社会に必要なことを考える力は非常に近しいものだと思うし、そんなふうにクリエイティブの力を未来のために活かせる仕事をしたいですね。

―社会課題には今後も向き合っていきたいとお考えですか。

池邉
僕はいまメインでクリエイティブ局にいますが、複属で、官民共創クリエイティブスタジオ「PROJECT_Vega」にも所属しています。社会課題や日本全体が抱えている大きなテーマを、官民が力を合わせて解決していくためのチームです。社会課題だからこそ、やはり誰にもわかりやすく伝わる太いアイデア、誰もが参加したくなるような仕組みが必要で、その道筋を僕らがクリエイティブでつくっていきたいと思うし、結果としてよりよい社会につなげていければ何よりだと思っています。

若田
僕は複属で所属している「ソウルドアウトライズ」で、地域の中小企業への支援を通して、間接的に地域の課題解決につなげるような仕事をしています。実は僕自身、美大時代からアーティスト活動を通して社会への問題提起を行ってきたんですが、アートという枠組みを超えてより広く社会にメッセージを届けたいと考え、博報堂に入社した経緯があります。なので、これからも変わらず、クリエイティブ、広告の力で社会課題に向き合っていく仕事がしたいと思います。

また、アートディレクターという立場でいると、現場ではどうしてもアウトプットの話に終始してしまいがちですが、本来は先述の「インサイトフル」と「ビューティフル」が両立してこそ、本当に5年後10年後という未来を描けるはずだと思うんです。アートディレクターにおいても、戦略も考えられるようになることで、本当の意味で未来のためになる仕事ができるのではないかなと思います。

―海外のコンペを体験したからこそ得られた知見や、今後に役立てたいと思ったことなどはありすか。

池邉
以前、ヤングスパイクスというコンペに出場した際、チームとしては負けてしまったのですが、審査員から「もっと勇敢なクリエイティブを期待している」とフィードバックを受けたことがありました。その言葉がいまも心に強く残っています。行儀よくまとまろうとせずに、尖った部分、端っこを攻める勇気を持つことは、コンペに限らず現業でも大事にしていきたいと思っています。

若田
今回、さまざまな国や地域をルーツに持つ方々と交流することができました。戦争中だったり複雑な国際問題を抱えていたりと、自分たちの想像をはるかに超えた環境で生きる人たちがいる。彼らの視点も、「誰もが共感するアイデア」には必要だと思いました。今回のような経験を積み上げていき、本当の意味での強く良いアイデアとは何かについて考え続けていきたいです。

※肩書は取材当時のものです

池邊 航太
クリエイティブ局/ PROJECT_Vega アクティベーションプラナー

2021年入社。年代も言語も問わない太いアイデアを目指してます。主な受賞歴:2026年CairnsHathclings GOLD、2025年YOUNG SPIKES日本代表、2024年Young Cannnes PR部門SILVER、2023年販促コンペGrandPrixなど

若田勇輔
SIGNING/ SoldOut Rise デザイナー

2021年入社。時代を超えて残るデザインを目指し、グラフィック、プロダクト、空間、UI/UXの領域を横断して活動する。主な受賞歴に、YOUNG SPIKES 2025 SILVER、Cairns Hatchlings GOLD、準朝日広告賞、TOKYO MIDTOWN AWARD デザインコンペ 2020 グランプリ/2024 優秀賞、ACC YOUNG CREATIVITY COMPETITION 準グランプリなど。

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