AIに、“らしさ”を宿す──博報堂DYグループが目指す、粒ぞろいより、粒ちがいのブランド体験

2026年8月24日に発売された、当グループ企画協力のForbes JAPAN別冊『HUMAN-CENTERED AI 想像は創造できる!』では、「Human-Centered AI」をテーマに、各界のキーパーソンとともに多面的な視点からAIの可能性を探求。人間の「表現したい」「創造したい」という情熱とAIが融合したとき、私たちはどこまで遠くへ行けるのか──その実践のヒントが詰まった1冊です。(詳細はこちら)
本記事では、同誌に掲載された博報堂 中島優人と博報堂テクノロジーズ 岸本悠祐のインタビュー記事を特別公開します。
生成AIによる効率化の先で、企業のアウトプットを待ち受ける「同質化」をどう越えるか―。博報堂 中島優人と博報堂テクノロジーズ 岸本悠祐が、その解を示す。
生成AIの浸透によって、誰もが一定水準のアウトプットを生み出せるようになった。企画書もバナーもキャッチコピーも、AIに任せればそつのない成果物が上がってくる。だが、その同質な便利さの裏側では別の課題が浮かび上がっている。それは、ブランドの「らしさ」が薄れていくことだ。
博報堂CXクリエイティブ局エクスペリエンスディレクターで、博報堂DYグループ横断のAI専門集団「Human-Centered AI Professionals」のメンバーでもある中島優人(以下、中島)は、その構造をこう説明する。
「AIの回答は基本的に中央値に向かっていくため、一般的な大正解を返してくれます。ただ、そのAIに頼りすぎることで、出てくる結論やアウトプットを俯瞰すると、いずれも似たものになってしまうという状況が生まれています」(中島)

問題は完成物だけにとどまらない。中島によれば、同質化は意思決定や打ち合わせ、ブランド定義といったより上流の段階からすでに起きているという。同時に、生活者との接点そのものの数も変化している。マスメディアでブランドらしさを担保できた時代から、ウェブサイト、SNS、CRM、店舗、IoTプロダクトへとタッチポイントは増幅。
増えすぎた接点の一貫性を保とうとして企業がAIに頼るほど、皮肉にもブランドは同質化していく。この課題に対して中島が提示するのは、ブランドを「生き物」としてとらえるという発想だ。
「『ブランドは人である』『ブランドを生き物としてとらえる』というのはブランディングに携わる人がよく口にすることで、私自身も以前からそう考えていました。そこにAIエージェントという、ある種の生き物をつくり出せる技術が登場した。一方で、AIの学習データからは郷土料理のような、いわゆるロングテールのニッチな情報が切り捨てられていく。このままでは、いろいろなものの『らしさ』が失われていくかもしれない。そう感じていたことも、ブランドを人格や生き物として実装しようと考えた理由のひとつです」(中島)
その発想を具現化したのが、対話を通じてブランド体験を提供するAIエージェント「Branded AI Agent™」だ。起点となるのは、従来のブランドガイドラインとは異なる定義の仕方である。
「従来のブランドガイドブックは、ロゴや素材の使い方といった静的な規定にとどまり、ブランドの個性も『誠実』『情熱的』といった形容詞で表現されてきました。しかし、ブランドのAIが生活者と直接対話するようになると、ガイドブックだけではブランドらしさを規定しきれません。どのような口調で話すか、何を答え、何を答えないか、どんな知識を披露するか。そうした振る舞いでブランドを規定して初めて、ブランドを本当の意味で人格としてとらえることになります」(中島)
形容詞ではなく動詞でブランドを定義する。それが「Branded AI Agent™」の核となる思想だ。この動的な定義は、これまで表現のなかに落とし込みにくかった無形の資産も生かす。
「ブランドのアセットといえば、制作した表現物を指すのが一般的でした。しかしAIエージェントを活用すれば創業者の思いや、これまで手がけてきたキャンペーン、社員一人ひとりがもつ暗黙知といった無形の資産こそ、対話を前提にすることで大きく生かすことができる。『実は、この商品はこういう産地で、こうした人たちとの対話から生まれた』という背景を、あらゆるタッチポイントのなかで自然に伝えられるようになるのです」(中島)
対話を前提にブランドを人格化するという発想の実証実験として、博報堂DYグループが2025年の「生活者インターフェース市場フォーラム」で披露したのが「tsubuchigAI(ツブチガイ)」だ。
博報堂の企業文化でもある「粒ぞろいより粒ちがい」を具現化するべく、あえて知識を偏らせた個性豊かなAIエージェント群のプロトタイプで、この実証を通じて中島は「対話を軸にしたコミュニケーションがAI時代のブランドらしい体験を成立させる」という手応えを得たという。
あえて、答えを出しすぎないAI
ブランドに人格を宿すという構想は、地道なエンジニアリング作業に支えられている。
中島と同じく「Human-Centered AI Professionals」のメンバーのひとりであり、博報堂テクノロジーズでTechnical Leadとして実装を担う岸本悠祐(以下、岸本)は、その過程を明かす。
「企業が保有する情報と、社外からアクセスできる情報を大量に集め、何と何がどう関係しているかを整理してモデル化するところから始めます。外部の知識と、企業内部だけがもつ知識をいかにデータ化して引き出せるかたちにするか。そこをあらゆる手法でエンジニアリングして、AIが語れるようにしていく。この作業はAI任せにはできないため、人の手で編集作業をしています」(岸本)

こうした実装を支える設計思想が、博報堂DYグループが掲げるAI活用の指針「3つのA」―Automation(自動化)、Augmentation(拡張)、そしてAspiration(願望・志)である。なかでも岸本がこだわるのは、3つ目の「Aspiration」だ。
「結局のところ、何を入力するかでAIの出力の質は決まります。AIが扱える情報量は昔よりはるかに増えましたが、この前提は今も変わっていません。だからこそ、AIを使って何を実現したいのか、その意思をどう引き出すかを設計することにこだわっています」(岸本)
その発想は、博報堂の社内AIツールにも反映されている。AIが出したテキストと利用者自身が書くテキストのエリアを明確に分け、あえてコピー&ペーストができない「脱コピペ」仕様になっている。
「効率化を第一にすると、AIにつくらせるだけの作業になりかねない。マーケティング戦略の策定にAIを活用するにしても、『生活者にこう思ってほしい』という意図を込めるには、担当者自身が考え、思いがけない発見をする過程が欠かせないと考えています」(岸本)
この考え方を、中島は「人間的な思考プロセス」をどうAIに反映するかという視点から語る。
「効率化を目的としたAIには、思いがけない発見をしてほしい、愛着をもってほしいなどといったゴール設定がありません。『生活者がどのようにエンパワーメントされてほしいか』から逆算して設計すると、あえて答えを言わない、コピペを防止する、という工夫が生まれました」(中島)
中央値の正論ではなく、その企業ならではの「別解」や「異常値」を導き出す仕組みには、博報堂DYグループが積み重ねてきた知見が生きている。VR/XR開発のベンチャーを経て博報堂テクノロジーズに参画した岸本自身、「別解とは何か」を手探りで言語化してきたと明かす。
「正直、別解が何を意味するのかわかりませんでした。泥臭い話ですが、エグゼクティブやプラナーに、何が別解に当たるのかをヒアリングし、チームで一つひとつ言語化していきました。それはプロンプトエンジニアリングの領域でもあります」(岸本)
AIを実社会で活用する以上、安全性や信頼性を担保するための設計も欠かせない。
「社内向けのツールは、多少踏み込んだ発言も許容しています。ただしそれは、AI側ではなく人側にガードレールを敷くかたちで担保しています。ユーザー向けでは、紹介する店舗が現在も営業しているかを検索してダブルチェックしたり、話題が本筋から逸れた場合は応答を制御したりするなど、より慎重な運用をしています」(岸本)