連載:サーキュラーエコノミーという新時代の視点 Vol.2
循環型ビジネスの実践に向けて今、求められていること【後編】

SDGs達成のための重要なアプローチとして注目される「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。SIGNINGの清水佑介がさまざまな専門家とともに、日本でのサーキュラーエコノミーの普及における課題や今後のあり方などを考える記事を連載でお届けします。第二弾となる今回は、UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)フィールドディレクターの近藤ヒデノリと、日本企業における循環型ビジネスの実践をテーマに語り合いました。後編では、循環型のビジネスを志向するうえでクリエイティビティがどう活きるか、また企業が実践するためにどんなことが必要になるのかについて掘り下げます。

循環型のビジネス構築が評価される時代

清水
前編では「Tokyo Urban Farming」の発足の背景と実践についてうかがいながら、企業が社会への態度表明を求められていること、生産から廃棄までリニアなビジネスを続けるのかサーキュラーにしていくのかも考えるべき岐路にあることを話してきました。
ビジネス環境も、文字通り地球環境も変わっていくので、一気には難しくても、少しずつ循環型に変えていくといったことも選択肢のひとつだと思います。たとえば、生産はするにしても、売るのではなく貸すとか、使用済み製品の回収の仕組みをつくるとかもあり得ますね。

近藤
そうですね。そしてそこに、イノベーションのチャンスがある。僕はここ数年、グッドデザイン賞の審査委員(2019年「取り組み・活動部門」、2020年システム・ビジネスモデル部門)を担当しているのですが、近年上位に上がってくるプロダクトやビジネスには、「循環」が組み込まれたものが多い印象を受けます。2019年にはある爪切りが「グッドフォーカス賞」を受賞しました。爪切りって、もはやデザインされ尽くされているようにも思えますよね。でも、このプロダクトはデザインや機能性が優れているのはもちろん、送料込みの安価な値段で研ぎ直しをすることで、使い捨てではなく長く使えるようにした点が高く評価されていました。

清水
「直す」という視点ですね。循環というと、3R=Reduce、Reuse、Recycleが知られていますが、今そこにRefuse、Repairを加えた「5R」が言われ始めています。Refuseは、不要な袋や梱包材などを断ること、Repairは修理ですね。リサイクルは本当は最終手段で、まず最初にあるべきなのが直して使い続けることです。直すことは、これから絶対に重要なテーマになると思います。

「直す」という選択肢を見つめ直す

近藤
まさにそうですね。環境負荷の視点からすれば、リサイクルより、リユースやリペアのほうが大事だし、生活者の感覚としても、いいものを長く使いたいニーズは増していて中古市場も活性化している。「金継ぎ」もひそかにブームになっていますよね。そうした「もったいないから直す」だけでなく、リペアによる再価値化も大事になっていると思います、

清水
そうですね。この数年、欧米では「消費者の『修理する権利』」に注目が集まっており、欧州議会は昨年これを正式に採択して、メーカーは「修理したい要望」にしっかり応えるべきという指針を明確に示しました。こうした潮流からも、いわゆる薄利多売のビジネスモデルではなく、修理に対応しながらそのフィーをサブスクリプションで得るモデルだったり、修理のビジネスは税金を安くするといった優遇策が生まれることも考えられます。

近藤
たしかに。たとえば電化製品なども、今までは直したくても直せない、「買い換えたほうが安い」ことも多かった。そして新しい製品に買い替え続けさせるビジネスモデルだったわけですが、それを根本的に転換していく時代になっているのだと思います。

清水
日本の生活者にも、そうしたメッセージが理解され受け止められる土壌ができてきた、ということなのかもしれないですね。買うのではなく借りる、シェアするという視点も、もう日本には十分広がっていると思います。リサイクルの前に、いろいろなことが考えられそうです。
で、そこにまさにクリエイティビティが発揮されますよね。先ほど(※前編)で紹介いただいた、太陽光パネルを使ってテーブルをつくったりする、実際のモノをつくるところもそうですし、仕組みやビジネスモデルの創出もクリエイティビティが必要な領域です。

仕組みづくりに活きるクリエイティビティ

近藤
その通りですね。それには大きく2つの転換があると思っています。
ひとつは、広告会社は長く「広告」のクリエイティブを手掛けてきましたが、その中で培ってきたクリエイティビティの投入先を変える。それはこれからの社会価値を踏まえた事業や仕組みづくりにクリエイティビティを組み込んでいくことですね。
ここには、共創力も含まれていくと思います。今、ゼミを運営していて思うのですが、博報堂のスタッフが入っているチームは、各メンバーが能力や個性を発揮しながら、ひとつの目標に向けて異なる立場の人や資源を結び付けて形にしていくのがうまい。そうしたチームによる創造力も、博報堂のDNAだと感じます。
同時に、そうした取り組みやビジネスをクリエイティビティの力でワクワクするものにしていくことも大事です。SDGsは切実なテーマですが、正しいことをまじめに伝えるだけでは難しく、説教がましく聞こえたりして振り向いてくれない。おもしろそう、楽しそう、何かありそう、ピンとくる……そんなコミュニケーションをつくる力は僕らの大事なスキルですよね。

清水
私もそう思います。今この時代は、事業会社にとってイノベーションのチャンスであると同時に、生活者とずっと向き合ってきた博報堂にとっても大きなチャンスですね。
2つの転換のうちのもうひとつは、どういうことでしょうか?

近藤
従来と同じ広告制作やコミュニケーション施策でも、短期的な売上を目的としたプロモーションではなく、より長期的な企業の「態度表明」にかかわっていくようになると思います。社会にとってどのような存在であるのかを企業が自ら表明し、長期的な信頼を獲得していく潮流があるのは明らかです。その表明を担う広告やアクションのコミュニケーションが今後増えるでしょうし、重要性も増すのではないかと思いますね。
この2つは両輪で、相乗効果を上げていくこともできると思います。ビジネス開発に併走する一環で、当然広告やコミュニケーションのエグゼキューションにまで僕らは携われる。また、態度表明に関するクリエイティブに関与するなかで、その態度やビジネス構築自体のヒントを得たり、提案したりする例も出てくると思います。

企業を変えるのは、トップのコミットメントとファクトの提示

清水
サーキュラーエコノミーへの転換という新しい形でクリエイティビティを発揮するフィールドでは、クリエイターだけでなく事業開発に関わるマーケターや営業がワンチームになって、新しい領域での広告会社のバリューを提供する必要がありますね。

近藤
その通りだと思います。個社の利益追求ではなく、社会や環境も含めた全体視点が大事です。クリエイティブの力に、全体性の視点やサステナブルな視点が掛け合わされたら、活躍できるレイヤーが変わるはずです。

清水
そうですね。では、事業会社が具体的にサーキュラーエコノミーを志向して実践していくには、第一歩としてどういったことが必要だと思いますか?

近藤
僕は、やはりトップのコミットメントと、それに基づくミッションの再設定がドライバーになると思います。
清水さんは、複数社のサーキュラーエコノミー実践を支援するなかで、どういった要素が企業のアクションを推進すると感じていますか?

清水
トップの考えとミッションの再設定が重要だというのはまったく同意です。重ねると、「ファクトで示す」ことも大事だと思います。
博報堂ケトルが協業するオランダのMetabolic社のCEOは、企業のマインドを変えてアクションにつなげるには、アセスメントから始めることが必要だと話していました。資源を実際にどこから調達していて、生産に使うエネルギーはどの出自のエネルギーで、どのくらいのボリュームを廃棄しているのか、といったことを一度ワンテーブルにつまびらかにする。そうすると、現状と問題点が明らかになります。
それらを一気に解決するのは無理だから、環境やビジネス的にインパクトが大きいところを特定して、その解決から取り組んでいく。全体像を踏まえて局所化し、アクションに落としていく順番でプロジェクト化する。納得感と汎用性のある方法だなと思います。

近藤
まさに一部ではなく、全体を見るシステムデザインの考え方ですね。共通するのは、応急処置ではダメだということ。経営の軸に、SDGsや循環型の発想を入れていかないといけない。

清水
そう思います。世間の風当たりが強いところをとりあえず対処しても、あとからあとから問題が出てきては意味がないし、その対応の仕方で信用を失ったりもします。規模の大きい企業だと、誰も全体像を把握していないことも往々にしてあるので、ワンテーブルで可視化するのはパワーが要りますが、これは現場からでもできなくはない。ファクトやデータを経営層に提示すれば、考えも変わるはずです。

「ゴミとはデザインの失敗」――循環をデザインする

近藤
まずはファクトから始めるところはほんと大事ですよね。UoCでも文化人類学者の竹村真一先生や気候科学者の方などに来ていただいて、徹底してファクトを提示していただきました。ファクトのシャワーを浴びると、「動かなければ」と火がつく人が多いと思います。
その竹村先生が「ごみとはデザインの失敗である」とおっしゃっています。捨てるしかないモノが出てしまうのは、循環のデザインがうまくいっていないからだ、と。考えてみると、自然界にごみはないんです。すべての要素がつながって循環しているのが生態系なのに、それをたかだか数百年の間に人間が乱してしまった。その歪みというか、バランスが崩れているところをデザインし直すことを考えていきたいですね。

清水
「ごみはデザインの失敗」とは、いい言葉ですね。企業と顧客という関係性だけに捕らわれず、生態系を含めて経済をデザインしようと考えると、さらにできることが見えてきます。

近藤
付け加えると、日本は現段階ではサーキュラーエコノミーの認知も実践も遅れを取っていますが、もともとの精神性や国民性を考えると、とても親しみやすい考え方です。“もったいない”精神が根付いているし、生態系への感覚やアニミズムの思想にもなじみがある。そこに、テクノロジーとクリエイティビティを掛け合わせていけば、実は世界をリードできる可能性も十分あります。

清水
そうですね。社会の受容性は高いはずだから、サーキュラーエコノミーの実践を世界にいち早く示していけたらいいですね。マーケティングテクノロジーの次は、サーキュラーテクノロジーが企業の持続可能性を支えていくのではないでしょうか。UoCの実験場としての取り組みから、そうした例が生まれるのも楽しみですし、私も引き続きいろいろな形でサーキュラーエコノミーの実装支援に取り組んでいきたいと思います。

近藤 ヒデノリ
博報堂 UNIVERSITY of CREATIVITY フィールドディレクター

1994年博報堂入社。CMプラナーとして勤務後、休職してNY大学/国際写真センター(ICP)修士課程で現代美術を学び、9.11直前に復職。近年は「サステナブルクリエイティブティ」を軸に企業や自治体のブランディング、商品・メディア・イベント企画等を行い、2020年よりUoCのフィールドディレクターに就任。持続可能な社会のための教育・研究・社会実装を進めている。地域共生の家「KYODO HOUSE」を主宰。2019年よりグッドデザイン賞審査委員。編著に『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』等多数。

清水佑介
SIGNING クリエイティブディレクター

2003年博報堂入社。営業職からストラテジックプラナー。事業戦略や新商品開発、コミュニケーション戦略立案、 ブランディングからプロモーションまで幅広く担当。 2012年より博報堂ケトルでキャンペーン全体を戦略からエグゼキューションまで統括する統合クリエイティブディレクターに。2021年4月より博報堂DYホールディングス子会社SIGNING。

Xでシェア Facebookでシェア