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連載:サーキュラーエコノミーという新時代の視点 Vol.2
循環型ビジネスの実践に向けて今、求められていること【前編】

2021.06.11
#SDGs
SDGs達成のための重要なアプローチとして注目される「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。SIGNINGの清水佑介がさまざまな専門家とともに、日本でのサーキュラーエコノミーの普及における課題や今後のあり方などを考える記事を連載でお届けします。第二弾となる今回は、UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)フィールドディレクターの近藤ヒデノリと、日本企業における循環型ビジネスの実践をテーマに語り合いました。前編では先日UoCが発足したオープンプラットフォーム「Tokyo Urban Farming」での取り組みを紹介しながら、今日の生活者が企業に求めること、それに対する企業やブランドのあり方などについて議論しました。

近藤 ヒデノリ
博報堂 UNIVERSITY of CREATIVITY フィールドディレクター

清水 佑介
SIGNING クリエイティブディレクター

SDGs達成の手段としてのサーキュラーエコノミー

清水
昨年までは博報堂ケトルで企業の事業戦略からコミュニケーションまでをプランニングする傍ら、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を研究し、オランダのMetabolic社との協業フレームの設計などを進めてきました。今年度からは、社会にあるいろいろな兆しを捉えてビジネスを構築していくSIGNINGという博報堂DYグループの会社に移り、そちらの業務と並行して博報堂ケトルとともにMetabolic社との取り組みも継続しています。
今回は「循環」をキーワードに、UNIVERSITY of CREATIVITY(以下、UoC)フィールドディレクターの近藤さんと、日本企業における循環型のビジネス構築とクリエイティビティ(創造性)のあり方について話したいと思います。

近藤
もともとはCMプラナーで、その後はクリエイティブディレクターとして様々な企業や団体、地域のブランディング戦略やPRに携わってきたのですが、昨年のUoC発足に伴い異動してサステナブル領域のフィールドディレクターとして持続可能な社会をつくるためのプログラムやゼミをしながら、プロジェクトを開発しています。昨年後半から行ったゼミには、大学生から会社員をはじめ多様な職業の方や博報堂の社員も参加しました。この4月に、アーバンファーミングという新しい生活文化の創造を目指してさまざまな取り組みや情報発信を行うオープンプラットフォーム「Tokyo Urban Farming」を発足し、JR東日本、アグリカルチャー事業スタートアップのプランティオ、園芸用土を扱うプロトリーフに参画いただいています。

清水
UoCは、クリエイティビティの研究機関という位置づけですが、近藤さんは特にサステナビリティをテーマにしているんですよね?

近藤
そうですね。UoCは新しい世界制作の方法としてのクリエイティビティの教育と研究、社会実装を目指しているわけですが、僕はそのなかで「サステナビリティ」をテーマにSDGsの気候変動や持続可能な都市の創造にフォーカスしています。
たとえば今行っているプロジェクトは、先ほどの「Tokyo Urban Farming」他、「Circular Creativity」プロジェクト(仮称)、「持続可能な社会をつくる創造性の探求」ゼミ都市と地域の循環をつくる「小さな地球」プロジェクトなどがあります。どれもいかに創造性で持続可能な社会を実現するかがテーマで、循環が軸になっているので、清水さんが探究するサーキュラーエコノミーとも密接だと思います。
ただ、サーキュラーエコノミーって海外では当たり前になりつつありますが、日本ではまだあまり広がっておらず、SDGsのほうが先行していますよね。

清水
その通りですね。SDGsはあくまでゴールであって、汚染や廃棄を出さずに資源を循環させるサーキュラーエコノミーの実現は、その手段です。大量に生産し、大量に消費して使い終わったら廃棄するという従来のリニアエコノミーに対して生まれた概念ですが、SDGsが先んじて広がったために「SDGsが重要なのはわかるが何をしていいかがわからない」という企業の声を多く聞いてきました。
その状況に対応すべく、この1年ほど、企業の循環型のビジネスモデル構築を支援してきました。あるビジネスに取り組む際、大量販売を追いかける視点で見るときと、なるべくごみや廃棄を出さずに循環させようとする視点で見るときでは、全く違う気付きがあります。特に、コモディティ化していて成長鈍化に直面している場合には、循環型への転換がビジネスの打開策になることも多いので、事業の成長戦略として提案することもあります。

複数の企業と仲間として活動するオープンプラットフォーム「Tokyo Urban Farming」

清水
ただ、その際の課題も見えてきました。概念の認知や理解がまだ十分でないことや、コロナ禍の影響もあって、クライアントの課題に合わせてサーキュラーエコノミーを導入するプロジェクトの立ち上げが難しいケースも複数出てきたんです。1社単位だと、このテーマでプロジェクトを始動するハードルがまだ高いんだと思います。そこで、企業に向けたプランニングサポートも続ける一方で、我々自身が今の社会にふさわしい仕組みをプロジェクト化して、そこに仲間を集めて普及させていく形を模索しています。
先日始動した「Tokyo Urban Farming」は、まさにそんな形で仲間づくりを実現するプロジェクトなんじゃないかと思うのですが、立ち上げの背景と、具体的な活動について教えていただけますか?

近藤
「Tokyo Urban Farming」は、昨年9月にUoCで実施したマンダラセッション『妄想「TOKYO 2030」#3 都市に森をつくる ーアーバンファーミングの可能性』をきっかけに動き始めました。仲間づくりについてはご指摘の通りで、東京で「農」を軸にした新しいライフスタイルや豊かさを生み出していこうというビジョンの下、賛同してくださる企業が次第に集まっていきました。先ほど3社の参画企業を挙げましたが、最初から会社として事業性などを議論してきたわけではなく、どちらかというと、各人のビジョンや志が重なっていって、仲間になったという感じです。ほかのメンバーも含めて、それぞれがリソースを持ち寄り、活動を進めています。

海外ではアーバンファーミングは1980年代から広がっていて、たとえばニューヨークのブルックリンでは屋上にファームがあるのが当たり前になっていて、ロンドン市内には3,000カ所以上のコミュニティファーム(市民共有の農園)があるそうです。都会における地産地消や災害時の食料確保、またコンポスト(堆肥化)によるフードロス削減など、いくつもの観点で注目されています。そこで僕らは「Tokyoを食べられる森にしよう」というメッセージを掲げて、コミュニティファームの創出やコンポストステーションの実証実験などに取り組んでいきます。

(「Tokyo Urban Farming」公式サイトより)https://tokyourbanfarming.jp/
(UoC内のマイクロファーム)

清水
堆肥化は、これからの都市のあり方としてわかりやすい「循環」の例ですね。

近藤
いま、世界の人口の半分が都市に住んでいるなかで都市が変わっていかないと持続可能な社会も実現できないわけです。都市に暮らす人が、ただ消費する人から生産者にもなることで、暮らしの中で自然の循環に気づくきっかけとなり、都市自体がサステナブルに循環する生態系になる。そんなビジョンに共感して仲間になってくれる個人・団体・企業を募集中です。「We are All Born Creative」というUoCの理念のもと、都市のコモンズを共に創造していければと思っています。

Tokyo Urban Farmingもメンバーそれぞれが具体的な活動を進めています。4月24日には、JR東日本が展開する山手線ブランド「東京感動線」がカゴメとプロトリーフと連携して、高輪ゲートウェイ駅でトマトの苗を計1,000ポット、栽培用の土を100個配布しました。プロトリーフが以前からカゴメとトマト苗事業を展開している縁で実現しました。
また、ゴールデンウィークに予定していた渋谷スクランブルスクエアでのSDGsをテーマにしたイベント「THE SHIBUYA WEEK 2021」は、緊急事態宣言が発令されたため残念ながら延期になってしまいましたが、そこでは廃棄された太陽光パネルをアップサイクルしたテーブルやエシカルプロダクト、マイクロファームなどを展示する計画でした。こちらはあらためて実施が予定されています。

(「Tokyo Urban Faming」公式サイトより)https://tokyourbanfarming.jp/

ビジネスの半歩外側にある“実験場”でプロトタイプを生み出す

清水
そうした仲間づくりやプロジェクトの成り立ちに大きな可能性を感じます。メンバーが複数いれば、1社ごとの持ち出しのコストやリスクに比べて、仲間で模索したり試したりして得られる知見というリターンのほうが大きい。

近藤
そう、次代の社会価値を軸に、様々な企業と連携して社会とビジネスの未来を生む実験ができるところは利点だと思います。たとえばTokyo Urban Farmingとも関連して始めているCircular Creativityプロジェクト(仮称)では、洋服の生産過程で生まれるハギレを使った世界でひとつだけのファブリックブランド「anohi」をつくりました。先ほどお話しした廃棄太陽光パネルテーブルは、ある産廃業者の方から太陽光パネルは20年ほどで寿命がきてしまいプラスチックごみと並ぶ主要な廃棄物になっていると聞き、これを“ごみ“ではなく、“資源”として活かせるのではないかと、UoCの若手建築家とともに、間伐材を組み合わせてデザインしてみたものです。
また、あるメーカーからはバスタブがその製造過程でどうしてもB級品が出てしまうことを紹介いただき、それを果樹を植える植木鉢にデザインしました。これも「THE SHIBUYA WEEK 2021」で展示する予定です。

清水
バスタブの植木鉢、いいですね。排水もできる(笑)。

近藤
機能的にも相性がよさそうですよね(笑)。他にも、近年大量廃棄が問題視されているファッション業界や食品業界、建築、僕らのCM制作の現場でも撮影が終わると美術セットが廃棄になってしまうので、それらをうまく循環させる仕組みができれば、とか。そういう視点で見ると、資源の宝庫なんですよね。
そうして社会価値に根ざした創造性を軸に、様々な企業・業界とともに実験していきながら、例えば博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」と連携して事業化を推進したり、ブランド・イノベーションデザイン局やクリエイティブ局と組みながら、得意先の事業やブランドをつくっていくこともできる。UoCでは「得意先と出会い直す」と行っていますが、産官学の領域を越えてプロトタイピングしながら、大きな業態変革につなげていければと話しています。

清水
基本的に企業も僕らもビジネスの枠組みのなかで活動していますが、UoCのようにビジネスの半歩外側に実験の場があると、プロトタイプが生まれやすいですね。

調達から廃棄まで――生活者が注視する企業活動の範囲が広がっている

清水
仲間づくりや事業創出の観点のほかに、もうひとつ注目したいのは、こうした活動への参加が企業のひとつの態度表明になっていることです。今、生活者は企業のプロダクトやサービスだけでなく、企業の姿勢や社会への影響も注視するようになっています。
そして、その範囲が広がっている。プロダクト自体の安全性はもちろん、その原材料の調達が社会倫理に反していないか、あるいは不当に廃棄していないか、生産の前後まで見ようとする機運が高まっています。

近藤
プロダクトやサービスだけでなく、それをつくる企業の姿勢や環境、社会への影響まで注視する傾向は、ますます強くなっていますね。短期的利益の一方で発生する社会的コストを軽視せず、地球環境を踏まえた視点で本気でビジネスを再設計している企業が、結果的に売上も安定して伸びる時代になってきていると思います。

清水
そうした企業姿勢や企業としての取り組みが「支持できる」と思えたら、生活者も、もの選びがしやすくなりますよね。ひとつのプロダクトを気に入っても、情報があふれる時代に、その生産背景に労働の搾取がないか、廃棄は適切か、といったことを逐一調べるのはけっこう大変です。サステナビリティへの関心が高まっているからこそ、プロダクトだけではなく企業姿勢で生活者の賛同を得られたら、長期的な信頼関係を築けると思います。

近藤
同感です。僕も個人的に支持するブランドは、そういった部分をしっかりやっているところばかりですし、一度信頼すると揺るぎないファンになって、浮気しなくなりますね。「あそこの豆腐屋さんなら安心だ」みたいに、顔の見える企業のものを買ってます。
これは、ビジネス上でも有効なはずです。ファンマーケティングでは2割の優良顧客が8割の売上を支える「パレートの法則」が言われますが、企業姿勢や本気の取り組みに深く共感して常に応援してくれる2割の顧客を太くしていくことで、事業的にも安定しますよね。

自社のビジネスをリニアに据え置くか、サーキュラーにするか

清水
そうですね。だから態度の表明、言い換えると「ブランドの人格化」が改めて大事な時代になっているし、いち早く取り組んでいる企業がビジネス成果も上げているのだと思います。
ブランドの人格化って新しい話ではないのですが、かつてブランドブームがあり、この十数年はデジタルの発展が後押しして、マーケティングテクノロジーによる効率化がどんどん進められてきました。今、その揺り戻しで、企業やブランドは社会に対する態度を示さないといけなくなっている。パーパスブランディングが注目されているのも、その一端ですよね。

近藤
まさにそうですね。人と同じで、しっかりと態度表明している信頼できる企業かどうか。そのためにも自社の社会における存在意義・パーパスを明確にして、もし問題があれば真正面から向き合って改善しないと信頼されなくなっていると思います。
すでにスタートアップや新興のD2Cブランドはそうしたパーパスブランディングが主流になっていますが、大手企業でも、一時は不当な労働問題が取り沙汰された生産体制を見直して、今ではSDGsへの取り組みでも先進企業となり、着実に売上を伸ばしている企業もある。大量生産がベースだった大手企業でできるのだから、どんな企業でもできるはずだと思います。

清水
たしかに。自社のビジネスにこれまで以上に責任を持ち、顧客や生活者に求められ支持される形にしていく。その一環で、ビジネスを従来のリニアのままで据え置くのか、サーキュラーなものにしていくのかという判断もあるわけですね。
前述のように、プロダクトそのものだけでなく、調達から廃棄までを明らかにできるかが問われていると考えると、事業会社が負うリスクは増大しているのかもしれませんが、逆にイノベーションのチャンスでもあると思っています。SDGsの各ゴールを目指していくこと、また循環型のビジネスにしていくことも半ば不可避ではないかと私は思っていますが、対応しなくてはというより「どうアップデートできるか」とチャレンジできるといいですよね。

近藤
僕も現在の地球環境を考えると、リニアからサーキュラーへのシフトは不可避だと思っています。実際にそうした “作って売って終わり”のビジネスから切り替えて、循環するサブスクリプション型のサービスに乗り出すメーカーが続々生まれていますよね。そうしたメーカーのブランディングをはじめ、時代の要請に応えて“ゼロイチ”を生む商品開発やビジネス設計にも僕らの創造性が活かせると考えています。

――後編では、循環型ビジネスの仕組みづくりにおいてクリエイティビティがどう活きるか、また企業が実践するうえでどんなことが必要になるのかについて掘り下げます。

近藤 ヒデノリ
博報堂 UNIVERSITY of CREATIVITY フィールドディレクター

1994年博報堂入社。CMプラナーとして勤務後、休職してNY大学/国際写真センター(ICP)修士課程で現代美術を学び、9.11直前に復職。近年は「サステナブルクリエイティブティ」を軸に企業や自治体のブランディング、商品・メディア・イベント企画等を行い、2020年よりUoCのフィールドディレクターに就任。持続可能な社会のための教育・研究・社会実装を進めている。地域共生の家「KYODO HOUSE」を主宰。2019年よりグッドデザイン賞審査委員。編著に『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』等多数。

清水 佑介
SIGNING クリエイティブディレクター

2003年博報堂入社。営業職からストラテジックプラナー。事業戦略や新商品開発、コミュニケーション戦略立案、 ブランディングからプロモーションまで幅広く担当。 2012年より博報堂ケトルでキャンペーン全体を戦略からエグゼキューションまで統括する統合クリエイティブディレクターに。2021年4月より博報堂DYホールディングス子会社SIGNING。

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