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コロナ禍で増すオンライン本人確認「eKYC」の重要性
TRUSTDOCK x HAKUHODO Fintex Base
(新連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.1)

2020.12.10
#テクノロジー#フィンテック
近年様々なフィンテックサービスが登場し、日常的に利用する人も増えています。フィンテックサービスに関する生活者の意識・行動の調査研究を行うプロジェクト「HAKUHODO Fintex Base(博報堂フィンテックスベース)」のメンバーが、フィンテックを支える多様な分野の専門家とともに、新しい技術によってもたらされる新たな体験や価値を考える記事を連載でお届けします。
第1回となる今回は、オンラインで本人確認をする仕組み「eKYC(electronic Know Your Customer)」の分野で先進的な知見と技術を持つTRUSTDOCK 代表取締役の千葉孝浩氏とセールスマネージャーの上井伸介氏に、HAKUHODO Fintex Baseの山本と大津が、日本におけるeKYCの現状や課題、今後のあり方について聞きました。

株式会社TRUSTDOCK 代表取締役/CEO
千葉孝浩氏

株式会社TRUSTDOCK セールスマネージャー
上井伸介氏

HAKUHODO Fintex Base/博報堂 第三プラニング局
山本洋平

HAKUHODO Fintex Base/博報堂 ビジネス開発局
大津翔

社会課題の解決を目指して

大津
様々なフィンテックサービスが登場し、オンライン上で本人を確認する仕組み「eKYC」の重要性がさらに増していますが、千葉さんは会社設立以前からeKYCの分野に携わっていらしたのですか。

千葉
TRUSTDOCKは2017年11月の設立で、2018年4月より事業開始なのですが、純粋なスタートアップという訳ではなく、ソーシャルメディアとシェアリングエコノミー事業を展開している企業の新規事業部門として2017年にスタートし、そこから1年経たずにスピンアウトしました。
eKYCの事業を始めるきっかけになったのは、そこで取り組んでいたシェアリングエコノミーやマーケットプレイスなどの事業で、本人確認に関する課題があったことでした。例えば家事代行サービスでは、請け負う方も依頼者もお互いに「どんな人なのか」が分からないと不安なので、免許証などを使って本人確認をします。でも免許証には本人確認に必要とされる内容以外の情報も含まれるので、受け取る側も扱いに困るんです。そうした課題を解決するソリューションを新規事業として開発していました。

山本
貴社のWebサイトを拝見すると、海外の方も数多く在籍されていらっしゃいますね。国内だけでなくグローバルでの戦略を描いていらっしゃるのでしょうか。

千葉
はい、eKYCは世界的な課題のため、グローバルでの事業展開にも力を入れています。世界の低所得者や難民の人が口座を持てない「アンバンクト(unbanked)問題」というものがあるのですが、口座を持てないことの大きな原因の一つにそもそも身分証明ができないことがあり、我々は口座開設のために必要な身分証明のサービスを提供することで社会問題の解決に貢献したいと考えています。その一歩として、東南アジアでもビジネスを始めています。

大津
最初から海外での展開も視野に入れて活動されているのですね。上井さんも以前からeKYCの分野に携わってこられたのですか。

上井
私は今年5月にTRUSTDOCKに転職しました。以前は人材派遣業界にいて、派遣スタッフの本人確認をするために身分証やマイナンバーを集めたりしていたんです。とても手間がかかるうえ、個人情報のため神経を使う作業でした。そのため、TRUSTDOCKの事業内容や問題意識にとても共感し、こうした問題を解決できるサービスは今後さらに有用になると考え、入社を決めました。

山本
私が上井さんと、とあるスタートアップのピッチイベントでお会いしたのがお付き合いの始まりでしたね。その際にいろいろお話をうかがって、TRUSTDOCKの取り組みにとても興味を抱きました。技術やサービスが進化するとともに、国内でも注目されるようになっているセキュリティ領域やRegTechと呼ばれるレギュレーション領域においても同様またはそれ以上のスピードでの進化が求められていると、最近強く感じているんです。

メディアでも取り上げられるようになった「本人確認」とは

大津
本人確認は、フィンテックを含め様々なサービスを利用する際に誰もが行うと思うのですが、正確にどういう内容を指しているのか理解している人は多くないと思うんです。具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。

千葉
「本人確認」というワードには、「当人認証」(Authentification)と「身元確認」(Identity Proofing)の二つの概念が含まれています。当人認証には、パスワードや秘密を聞く「知識認証」、カードなどの所有物を認証する「所有物認証」、身体的特徴や行動的特徴を認証する「生体認証」があります。これらはいずれも当人性を確認するだけであり、仮に全部の認証を行ったとしても、その人の年齢などデモグラフィックな属性は分からないんです。これに対して身元確認は、性別、年齢、居住地域といった属性を認証します。法治国家で使われる本人確認の方法は、全て身元確認です。

山本
最近では「二要素認証」という言葉もよく耳にしますが、これは当人認証と身元確認の手法を組み合わせて確認する、ということでしょうか。

千葉
二要素認証は、「知識認証」と「所有物認証」など当人認証の手法を二つ使う、ということを意味していて、身元確認は含まれていません。例えば、サイトにパスワードを入力してログインした後に携帯電話にショートメッセージで認証番号を送るケースがありますが、これは携帯電話の所有とパスワードの知識を認証しているので、二要素認証になります。一方で、パスワード入力後に母親の旧姓を入力したりするものがありますが、これは知識認証という一要素を2段階で認証していることになります。

大津
当人認証を2段階で行っているものをよく見ますが、2段階であっても一要素認証のものもあるということですね。

千葉
そうですね。一方で身元確認は一点だけ発行されるものに対して行うことが主流です。マイナンバーカードや免許証などの公的な身分証がそうですね。住民票等の写真無しで複数枚、発行できるものは、単体では、身元確認には使えないケースが多く、こういったものを二つ組み合わせた二点確認によって身元を確認する場合もあります。また携帯電話の契約など、公的身分証を使って作った契約に依拠する身元確認もあります。
当人認証、身元確認には段階があり、我々は例えば「この手続きにはレベル~の当人認証が、レベル~の身元確認が必要」といった具合に、企業の事業内容に応じてサービスを提供しています。

山本
事業内容といっても多種多様ですよね。その事業内容ごとに求められる本人確認レベルは、国の法律で決まっているのですか。

千葉
日本では法規制で定められているものと、そうでないものとあります。また、それらをテクノロジーに照らし合わせてマッピングしたガイドラインはまだ整備途中という認識です。アメリカにはNIST(米国国立標準技術研究所)などガイドラインを作る機関があって、そこで更新されたガイドラインを参考にしながら本人確認の基準を見直していくケースが多いですね。日本でもJIPDEC(日本情報経済社会推進協会)をはじめ様々な団体が、NISTが発表した最新のガイドライン「NIST SP800-63-3」を踏まえアナウンスを出しています。時代とともに常にアップデートされていますね。

大津
一口に本人確認と言っても、その内容は何通りもあるのですね。本人確認の手法の組み合わせ方で、効果も変わってくるように思うのですが、TRUSTDOCKでは手法の組み合わせ方もアドバイスされるのでしょうか。

千葉
はい、どんな組み合わせがいいのかアドバイスすることもあります。その際にはまず、「貴社はどんな事業をされていて、どの法律に準拠していますか」とうかがうところからスタートします。例えば、顧客との取引のリスクを低減する必要がある場合、身分証で身元を確認するだけでは不十分で、その人が反社会的勢力に属していないか、マネーロンダリングを行う疑いはないか、といったことをデータと照会して確認しなくてはならない場合もあります。こういった作業が必要かどうかは、企業の事業内容によります。金融、古物商、マッチングサービスなど事業の内容によって対応する法律も変わり、必要になる本人確認の内容も変わってきます。

大津
本人確認の手法によって、サービスの利用意向が高まったり、逆に下がったりすることもありそうですね。

千葉
そうですね。ただ、本人確認に複数の手法が使えるようになれば、ユーザーの利便性が増すので、利用意向に好影響を与える可能性は高いと思います。

データと倫理のバランスをどう取るか。eKYC市場の抱える課題とは

山本
eKYCは、現在はどういった業種で特に利用されているのでしょうか。

千葉
金融をはじめ、古物商やフリーマーケットなどの二次流通サービス、人材関連のサービスなどが多いですね。最近ではオンデマンドワークという働き方も広がってきて、そこでも良く使っていただくようになりました。オンラインで送客するようなビジネスでは送客側で身元を担保することが必要になります。人材を紹介する際も、紹介側が何かしらの身元確認をすることが当たり前という認識が広まってきました。

山本
コロナ禍で様々なサービスのオンライン化が進む中、eKYCが関わるビジネスも増えているのではないかと想像するのですが、問い合わせの数や内容にはどのような変化がありましたか。

千葉
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は、コロナ禍以前からありましたが、今は本気度が違う印象ですね。以前はお問い合わせだけで終わるケースも多かったのですが、本格的に導入を検討くださる企業が増えました。

山本
導入検討される企業が増えたということは、eKYC市場そのものも成長しているのでしょうか。

千葉
成長していますね。これまでのデジタル社会はオンラインで情報や広告を見たり、ゲームや娯楽を楽しんだりすることが主で、そこに本人確認は必要ありませんでしたが、これからは必要になります。
フィンテックなどのデジタル化は一周した感がありますが、本人確認はデジタル化の過程で、二周目に出てくる課題なんです。例えば教育をデジタル化すると、次に生まれる課題は授業を受けているのが本人かどうかの確認です。このようにデジタル化の二周目で、eKYCの導入は至る所で進むと思います。

山本
eKYCは、国内では注目が集まりはじめているという段階だと思いますが、海外では先行して進んでいるのですか。

千葉
海外もなりすましやフェイクニュース問題を含め、同時多発的にeKYCの導入が進んでいます。また例えば、エストニアのように国全体で、ITを利用しやすい仕組みが導入できているところもあります。

大津
海外ではずっと進んでいるのかなと思っていたのですが、同時多発的なのですね。eKYCの課題は、どのようなところにあるのでしょうか。

千葉
人権やアイデンティティに関連するというところです。例えば、我々は反社会勢力やマネーロンダリングの疑いを確認する参照情報として、リスクデータベース製品を取り扱っています。ただ人権の観点から考えると、この製品の扱い方は非常に難しい。例えば反社会勢力に属していた人が足を洗って更生してから5年経った場合、照会した時にどう結果返却するべきか。欧州では「忘れられる権利」と呼ばれるこのプライバシー問題は、紋切型に取り扱う領域ではありません。でもどういう製品にするかは、、現在のところ提供者の設計次第になっています。こういったケースが様々にあるので、どういう仕組みを作るかは倫理や哲学に照らし合わせてしっかり判断することが必要です。
不正なことや危ういものをブロックすることは企業側は喜びますが、それがもし冤罪であれば大きな問題です。また何十年と記録を残すことで、例えばひいおじいちゃんが未成年で飲酒したことが原因で、ひ孫が就職できなくなるようなことが起きたら大変です。そうしないために我々がどのようにサービスを仕様・設計するか、自社の利益とは関係ない軸が必要になります。

山本
データが持つ情報と倫理とのバランスは難しいですね。どのように定義し、線引きするかは、いつの時代も最後は人であることは変わらないですね。

生活者に寄り添ったサービスで社会に還元を

大津
お互いの知見を活かしながら、何か新しい取り組みを一緒に実現できたらいいですね。

千葉
本当ですね。今後はさらに様々な領域で生活者データの活用が進んでいくことと思いますが、本人確認の技術を取り入れることで、個人情報を守りながら、より精度の高いデータの活用ができる可能性もあると考えています。そういったことに一緒に取り組んでいけたらと思います。

上井
例えばイベントなどのチケットの転売防止や入場の際にも、本人確認の技術が活かせると思います。その場合には、ポジティブで新しいUX体験をしてもらう、といった見せ方を一緒にできたらいいですね。

山本
おもしろいですね。オンライン化が進む中で、リアルの場の価値が相対的に上がっているので、プレミアムイベントでの参加者の本人確認などでも、技術が活用できそうですね。また、eKYCが市民権を得れば、遠くない未来に選挙のオンライン化も実現でき、若い人たちの投票率も上がりそうな気がします。そういう意味で、デジタルガバメントの構築など社会課題をキーにしたソリューション開発も一緒にできたらと考えています。
最後に、今後の展望を教えてください。

千葉
企業だけではなく、生活者にも寄り添ったサービスを提供していきたいと考えています。我々のサービスが頻繁に利用されるようになるにはもう少し時間がかかるかなと思っていたら、コロナ禍の影響で数年先の未来が近寄ってきたような感覚があります。そのため、この非常時に我々のような事業者が汗をかくべきという使命感を感じているんです。国内外問わず多くの企業からお問い合わせをいただいているのですが、我々の取り組みを通じて社会に還元しなくては、と思っています。

山本
素晴らしいですね。コロナ禍で大きく生活者の意識・行動が変わり、自分にとって何が必要であるかを問い直したり、新しい自分を見つけようと様々なことに挑戦したりする人が増えてきました。フィンテックを始めとするオンラインサービスは手軽に利用できることで、何かをやりたいと思った時にすぐ行動に移すことができ、新しい挑戦を後押ししてくれます。その際、本人確認などのチェックポイントで離脱されないよう、安全性を担保しながらいかに“なめらか”な体験を設計できるかが非常に重要だということを、お話をうかがってあらためて感じました。生活者に生まれた熱量を減らすことなく、サービスの利用開始までを最短距離で実現させることは、企業にとっても生活者にとっても幸せを生み出すのだろうと思います。
我々、HAKUHODO Fintex Baseでも次々と生まれるフィンテックサービスを通して、生活者の体験・習慣がどう変化するか、その兆しを捉え、企業の新たなサービス開発、ビジネス開発に貢献できればと思っています。本日はありがとうございました。

千葉 孝浩(ちば・たかひろ)氏
株式会社TRUSTDOCK 代表取締役/CEO

前職でのデジタルID研究の結果を基に、KYCの専門機関として事業展開し、そして独立。経産省の委員や、金融庁イベント等での登壇ほか、KYC・デジタルアイデンティティ分野での登壇・講演活動多数。

上井 伸介(うえい・しんすけ)氏
株式会社TRUSTDOCK セールスマネージャー

総合人材サービス会社にて人材派遣サービスの営業として、中小~大手クライアント・官公庁を担当。その後営業企画や新規事業立ち上げ、業務改革推進に携わる。現在はTRUSTDOCKセールスマネージャーとしてクライアントへの提案営業、営業戦略の策定、営業組織の仕組みづくりに従事している。

山本 洋平(やまもと・ようへい)
HAKUHODO Fintex Base/博報堂 第三プラニング局 ストラテジックプラニングディレクター

2018年博報堂入社。通信・自動車・HR・Fintechとあらゆる業種を担当し、事業視点からのマーケティング戦略を策定するストラテジックプラニングディレクターとして活動。新卒で外資系大手SIer入社。その後、大手メディアサービス企業にてネット業界ブランディングに従事、総合広告会社を経て、現在に至る。システムからクリエイティブ・事業と振り幅の広いスキルを最大限に活かすフィールドを求め、博報堂に転身。JAAA懸賞論文戦略プランニング部門2度受賞。

大津 翔(おおつ・しょう)
HAKUHODO Fintex Base/博報堂 ビジネス開発局

2009年博報堂入社。マーケティングセクションにて、食品・飲料、金融等、幅広い民間企業のマーケティング戦略策定を担当。12年から4年間、官公庁・自治体担当の営業セクション。官公庁の広報戦略、広報施策プロデュースや自治体のブランディング事業をプロデュース。2016年より現職。テーマ型プロジェクトマネジメントが主な担当領域。

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