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「2030年、旅ってどうなっているんだろう?」
第3回/写真家エバレット・ブラウンさん【後編】

2020.07.02
#グループ会社
2030年には「旅」というものはどうなっているのでしょうか?
アフター・コロナの時代は、旅の仕方も、好みも、大きく変化していくことでしょう。
さまざまなジャンルで活躍する人たちに「2030年の旅(いまからだいたい10年後)」ってどうなってるか?「その時に、大事な人に旅を贈るとしたら、どんな旅をつくる?」という話をwondertrunk & co.代表の岡本岳大がお伺いします。

■前編はこちら

日本はスピリチュアルトラベルの聖地になり得る

エバレット
日本には、5次元の旅ができる場所がたくさんあるんですよ。たとえば、全国各地にその昔和歌に詠われた「歌枕」があります。僕は以前『奥の細道』のテレビ番組の仕事でルートを歩いたことがあるんですが、その道中でとある歌枕を訪ねました。元をたどれば西行法師が1000年前に歌を詠み、その後いろんな時代の詩人たちがそこを訪れ、歌に詠んでいった場所です。そういう場所には、さまざまな時代の感性豊かな詩人たちが残していった想いが空気の中に宿っているような感じがするんです。無人になってしまった神社なども同じような感覚を覚える場所ですね。少し不気味で、暗く、人が良く集まる神社とは空気が違う。やはり人が、場所の「気」をつくるんです。これは、これからの旅のひとつのヒントになると思いますよ。

岡本
なるほど。僕らも旅の仕事をしていく中で、日本にしかない、世界の人を惹きつけていくテーマがいくつかあると考えていて、一つは、国立公園などを舞台にした自然アドベンチャー系の体験です。これまでの日本のイメージにはなかったものだと思いますが、実際に近年インバウンドで非常に盛り上がっているジャンルです。自然好きな旅人は多く、マーケットも非常に大きい。世界的にも日本が充分な競争力を持つ旅のコンテンツだと思っています。そしてそれと同じように強みだと思うのが、スピリチュアルトラベルのジャンルです。精神文化を求めて旅をする人は世界中に大勢いて、日本には彼らの興味関心を引くであろうスポットがあちこちにある。日本は世界のスピリチュアルトラベルの聖地になりうるとさえ思っているんです。“スピリチュアルトラベル”という表現だけだとなんだか漠然としたイメージですが、エバレットさんがおっしゃったような「5次元」の話、「歌枕」に残された土地の記憶、そこに流れる空気といったものを想像すると、より具体的にイメージが膨らみますね。

余談ですが、先日社内のメンバーで「アフター・コロナに行きたい旅」について語り合ったんです。するとメソポタミア文明の発祥の地を訪ねる旅というアイデアをはじめ、ほかにも、いろんなものの起源を訪ねてみたいという声がいくつか出てきました。なぜ起源をたどりたいのかというと、歴史上のその地点に立ち、そこから数千年重ねられてきたものを改めて肌で感じ、自分が今現在立っている場所を確認したいという話でした。まさにそれも、心の時間の次元、5次元の旅になりますよね。そういう旅を、この時代に多くの人が求めているということが非常に腑に落ちます。

エバレット
そうですよね。新型コロナの前後にかかわらずですが、新型コロナ以降は特に、何が本当で何が嘘なのか、自分が何を信じるべきなのかわからない混迷の時代になったと感じました。だからこそ僕は、そうした情報にとらわれる世界からそろそろ解放され、一人一人がもっと自分の直感を大切にして生きるべきだと考えます。幸い多くの人が、新型コロナによってそれを自覚し始めているような気がしています。人生も旅も、もっと心や感覚を重視する人は増えていくのではないでしょうか。

岡本
確かにそうかもしれませんね。
9.11のときも、東日本大震災のときも、世の中に大きなパラダイムシフトが起こるかと思いきや、起きなかった。当然と言えば当然ですが、突然世界が180度変わるなんてことは起こらないわけです。でも、変化の兆しのようなものが生まれたり、変化の時計の針が早まるということは確実にある。旅についても同様で、新型コロナ後はいわゆるマスツーリズムや、消費のための市場が急速に戻ってくるとは思いますが、感覚をもっと大事にする旅、自分の内面を見つめる旅…そんなトレンドも盛り上がっていくような予感がします。

エバレット
何も遠くの海外に行かなくとも、身近な場所に出かけることだって立派な旅になります。特に僕が勧めたいのは「歩く旅」です。たとえば僕が今いる三井寺のある大津と、京都の間の山道。うまくすれば歩きながら1000年くらいタイムスリップした気分に浸れます(笑)。こういう素敵な道が全国至るところにあるので、上手にプロデュースすれば地域の再発見にもなるでしょう。日本各地でフィールドワークを行った民俗学者の宮本常一も、山村に入るときは車ではなく必ず歩いて入っていたそうです。車で行ってしまうと、大事なことを感じられなくなるからということでした。

岡本
京都から大津なら電車を使えば10分ほどでぱっと行けてしまいますが、昔の人のように自分の足で歩いていくというのはまったく異なる体験になりますよね。また、今では裏道と思われている道が、かつては正規の道だったりするわけで。京都から峠を越えて入ったところが、大津の本当の顔であるともいえる。
以前塩野七生さんの本で、ヴェネツィアのような港町に電車で行くのは間違っているという話を読んだことがあります。港町の町の顔は海に向かっているため、表玄関は海にある。陸路から入るのは勝手口から入るようなもので失礼だ、という話でした。かつて表であった道から入ることで、新たな発見があるかもしれませんよね。

エバレット
おっしゃる通りです。僕も昔フランスからイタリアに行く時、飛行機だともったいないと感じて、フランスのマルセイユからフェリーでワインを飲みながらイタリアのジェノヴァに入ったことがあります。大航海時代からの港町は、海から見るとそれはそれは美しくて、陸路で行くのとはまったく違う感動がありました。

進化のらせんの中で生まれる、古くて新しい旅の形

エバレット
この時期、多くの人がこうやってオンラインで会話をしていますが、これはコミュニケーション技術のほんの始まりの始まりに過ぎません。これから3Dカメラやホログラムが出てくれば、離れていても目の前に相手の顔が3Dで映し出されたり、ホログラムで全員の様子が映し出された状態でミーティングができたりするでしょう。インバウンドがいつ本格的に戻って来るかはわかりませんが、日本に行きたいという人はたくさんいるので、近い将来、僕はそういう人に向けて3Dカメラで日本を紹介する番組を作る予定なんです。現地に行けなくても、バーチャルな旅が可能になるはずです。

岡本
デジタルでできることが増える一方で、それでもなおリアルで行く意味がある旅もある。それぞれの価値が明確になっていくでしょうね。バーチャルで満足する人もいるだろうし、それがきっかけで「いつか必ず行きたい」「五感で感じたい」と決意し、行動に移す人も出てくるでしょう。

エバレット
バーチャルで満足する人としない人の違いは、物事に対して前向きかどうかにある気がしています。そしてそれは、靴の履き方によると思うんです。ここからは冗談半分の話ですが(笑)、かつて日本人が履いていた下駄などの履物は重心が前に来るので、自然と体が前のめりになります。一方で西洋式の靴だと重心が中央かかかとに来る。ですから日本古来の履物を履けば、日本人の体も心ももっと前向きになるだろうと僕は思うんです。靴を履くことで日本人は卑クツになり、長く履くことで偏クツになり、退クツな暮らしになった…これが僕の「靴(クツ)と文明論」(笑)。そんな話も含めた、日本人の身体感覚に関する『先祖返りの国へー日本の身体文化を読み解く』(出版社:晶文社)という書籍を6月に上梓します。すみません、失礼な冗談ばかりで(笑)。

岡本
いえいえ(笑)。でも僕も小さい頃ずっと下駄で走り回っていて、今も着物のときなどに下駄を履くので、おっしゃることは体感としてすごくわかりますよ。

ところでエバレットさんは、ちょうど今から10年前に、あの有名な訪日観光PRのタグライン「Japan. Endless Discovery.」を観光庁と作られました。そこから10年の間に、震災もあったし、インバウンドの増加に民泊の普及、誰もがスマホで地図を使うようになるなど、旅を取り巻く状況は劇的に変わったように思います。エバレットさんご自身はこの10年、旅のどんな変化を感じていますか?

エバレット
この10年、旅のコンテンツが本当に豊かになりました。いわゆる物見遊山的な観光の時代は終わり、目的に応じて旅する人が増えてきたように思います。そしてこれから先はさらに、人に会いに行く旅が増えるでしょう。何かを体験し、何かを学びに行くような旅が増え、旅そのものがずっと深いものになっていくのではないかなと思います。

岡本
以前、田坂広志先生が指摘されていたのですが、進化は「右肩上がり」ではなく、「横から見ると上に上っているが、上から見ると同じところを回っている」状態で起きているのだと。1周回ると古くて懐かしいものが新しい形になって現れるわけで、もし本当にイノベーションを起こしたいのであれば、そのヒントは一周前を見ること、古いことをしっかり学ぶことで得られるという話でした。エバレットさんの「歌枕」や「心の時代」のお話には、まさに昔から大切にされてきたことが進化のらせんの中で再度見直され、新しい形として表出してくるようなイメージを持ちました。

エバレット
僕は物理学者ではないので何とも言えませんが、時間軸を過去、現在、未来の一直線で捉えるのが4次元ならば、5次元では時間がらせん状になっているのかもしれませんね。近い話だと思います。それから日本は戦後のトラウマから脱しつつありますから、若い人を中心に日本文化の本流に戻るような動き、“先祖返り”のような現象があってもまったく不思議ではありません。

岡本
最後になりますが、エバレットさんがちょっと先の未来にしたい旅について伺っていいですか?あるいは、大切な誰かにプレゼントするとしたらどんな旅にしたいですか?

エバレット
イメージはもう見えています。野点のだての旅がしたいですね。ピクニックランチを持ってどこか自然の中へ行き、愛する人は仲間とゆっくりお茶を飲みながら1日を永遠のように過ごすんです。

岡本
それは素敵ですね。ちょうど今エバレットさんがいらっしゃる三井寺のように、日差しが降り注ぐ中、いい風が吹いてきて、鳥のさえずりも聞こえてくる…そんな風景が見えるようです。
今日は素晴らしいお話をお聞かせいただきありがとうございました!

■プロフィール

エバレット・ケネディ・ブラウン

1959年アメリカ生まれ。1988年から来日。EPA通信社日本支局長、首相官邸や経済産業省クールジャパン官民有識者会議委員、諸省庁の文化推進カウンセラーを務める。 2012年より写真作家や文筆家として活躍。主なテーマは「日本の面影」。 著書に『俺たちのニッポン』(小学館)、『日本力』(松岡正剛氏との共著)(PARCO)、『Japanese Samurai Fashion』(赤々舎出版)、 『失われゆく日本』(小学館)、『日本の面影』(Harvest出版)、『先祖返りの国へー日本の身体感覚ー文化を読み解く』(晶文社)、ほか多数。文化庁長官表彰被表彰者。

岡本 岳大
株式会社wondertrunk&co. 代表取締役共同CEO

2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。

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