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BranCo!2020 ファイナルプレゼンテーションレポート

2020.05.20
#BranCo!
2020年2月1日、“大学生のためのブランドデザインコンテスト”BranCo!2020が幕を閉じました。今回は、博報堂ブランド・イノベーションデザインの今井から、ファイナルプレゼンテーションの内容や考える上で意識していただきたいポイントについて解説します。

BranCo!とは

BranCo!は博報堂ブランド・イノベーションデザインと東京大学教養学部教養教育高度化機構が共催する、“大学生のためのブランドデザインコンテスト”です。本コンテストは3~6名のメンバーが協力して、課題となるテーマについて様々な視点から調べ、その本質を考え抜き、魅力的な商品やサービスブランドのアイデアをつくりだして競い合う、チーム対抗形式のアイデアコンテストとなっています。

ブランドデザイン=らしさをつくること

「ブランドデザイン」という単語に耳馴染みのない方もいらっしゃるかと思うので説明します。ブランドデザインとは、「【社会にとって有意義な、魅力ある固有性 = らしさ】を、あらゆる手段を駆使して設計し、つくりだすこと」だと、私たちは考えています。少しわかりにくいかもしれませんので、単語を分けて意味を追ってみましょう。まず「ブランド」という言葉は「社会にとって有意義な、魅力ある固有性」を意味します。手の届きにくいラグジュアリーブランドを想起しがちですが、語源を辿ると、自分の牛を他の人の所有する牛と区別するための焼印(Burned)になります。一方、「デザイン」という言葉もポスターなどのグラフィックを想像しがちですが、ここでの「デザイン」は「様々な手段を駆使して設計すること」とより広義な意味で捉えています。「キャリアをデザインする」などの「デザイン」と同義だと考えると、イメージが掴めるかと思います。ゆえに、ブランドデザインとは、「【社会にとって有意義な、魅力ある固有性 = らしさ】を、あらゆる手段を駆使して設計し、つくりだすこと」となるのです。

BranCo!2020のテーマは「秘密」

毎年、抽象的なテーマが設定されるBranCo!。8年目を迎える今回のテーマは「秘密」のブランドデザイン。一言に秘密といっても、その意味するものは幅広く、かつ奥行きがあります。運営を手伝ってくれていた学生スタッフに自分が秘密だと思ったものをレポートしてもらう「秘密の体験記」というSNS企画を行ったのですが、昆虫食、他人のカメラフォルダ、マジックミラー、探偵、セパタクローなど、実に多くの切り口が出てきました。さて、ここからは全国73大学、167チーム、707名からエントリーシート審査と2回のプレゼンテーション審査を勝ち抜き、決勝進出を果たした6チームがどのようなアイデアを考えたのか見ていきましょう。具体的なアイデアの中身に入る前に、より解説を楽しんでいただくため、ブランドデザインの基本的な思考フレームである「リボン思考」について解説します。

「リボン思考」に基づき、考える

リボン思考とは、図のような基本的な思考や発想作業の流れを示したものです。左から「インプット」「コンセプト」「アウトプット」の3つのステップからなるシンプルな構造で成り立っており、公園のブランコのようにこの3つを行き来してもらう思考体験をしてもらうことが本コンテストの醍醐味にもなっています。

①INPUT:多様な要素・情報を集め、実態を把握する
今回でいえば、どんな要素があれば「秘密」と言えるのか、秘密にはどんな種類があるのかなど、「秘密」の実態を把握するために様々なリサーチを行います。

②CONCEPT:情報と主観を統合し、コンセプトを構築する
コンセプトとは、調べて発見したこと・気づいたことの本質は何なのか、一言でわかるものであり、そこから生まれて広がるアイデアがどんなものか想像をかきたてるものでもあります。

③OUTPUT:アイデアを広げ、ブランドを実体化する
アウトプットを構成する要素は、次の3つです。
*かたち:商品やサービスの名前やロゴ、プロトタイプ等
*仕組み:人・モノ・お金の流れ等
*物語:そのブランドは、どのように人の生活や社会をよりよくするのか等
絵空事ではなく、魅力的な実体をもったブランドに落とし込むことが大切です。

6/167のアイデア

前置きが少々長くなりましたが、ファイナリスト6チームのアイデアとポイントを見ていきましょう。まずチーム名とアイデアについて簡単に紹介します。
※優勝、準優勝より下は順不同です。

①アイデアの豊洲市場(GRAND PRIX)
「FACE POKER」
今まで気づいていなかった自分の顔の魅力的な一面を知るカードゲームブランド。

②I.a.n(SECOND PRIZE)
「だれかの朝ごはん」
煩わしい朝の起床をワクワクさせる朝ごはん宅配サービス。

③UKY
「はなつみ茶/きじうち茶」
小学生のうんちに行く理由を正当化するティーバッグ式水出し茶。

④スタンドバイミー
「㊙︎zoo名札」
自分の知られていないが知って欲しい一面を伝えられる、アルバイト仲間同士のコミュニケーションサポートツール。

⑤ハラグアイ
「kokoroko(心庫)」
年齢だけ書かれた白紙の本がたくさん置かれた、モヤモヤを書くことと他人のモヤモヤを読むことができる施設。

⑥Ring!
「PosTon」
カフェを通じて、見ず知らずの人と感性の共有ができる文通サービス

どのチームもリボン思考に忠実に則ってくれており、その土台の上でチームの独自性が見られる良いプレゼンテーションが続きました。インプット、コンセプト、アウトプットに分けて、各チームの良かったところと、それぞれのステップで意識すべきポイントを解説します。来年度、出場を予定されている方は参考にしていただければと思います。

INPUT:どう向き合うか、どこに着眼するか

ここがBranCo!の面白いところでもあるのですが、誰もが知っているテーマだからこそ、まず、どこに着眼するか、どのような調査手法を用いるかで半分、勝負が決まります。特に決勝まで進出するチームともなると、インプットはどのチームもユニークで納得度の高いものになっていましたが、特に光っていたのが「UKY」と「アイデアの豊洲市場」でした。

UKYは調査目的に応じて手法を使い分けるテクニックが印象的でした。アンケート調査を行い、結果に対して加重平均をかけたものをポジションマップ上に配置するという科学的な手法をとる一方、小学生がうんちに行くことを秘密にする理由を明らかにするために、無意識な行動を把握するための定性調査手法である投影法バルーンテストを用いる、といったように多様な調査手法の引き出しを持っていたと思います。また、鮮やかな調査手法とそこから得られた着眼点(うんち)の落差がある点もクスッとなる仕掛けとして機能していたかと思います。

優勝したアイデアの豊洲市場は、一般的に「秘密」と捉えられている「自分は知っているけれども相手は知らない」の逆、つまり「相手は知っているけれども自分は知らない」を「逆秘密」と捉え、「自分の笑顔が好きではなかったが友人はステキだと言ってくれた」という手触り感のあるエピソードを交え、シンプルでありながらも斬新な着眼を提示してくれました。いろいろ調査はしたけれども「そりゃそうだよね」に行き着いてしまうチームや、ニッチなところを掘ったものを披露して「へえ、そうなんだ」となってしまうチームが多い中、真正面からテーマを受け止めた上でみんなが気づかなかった「秘密」の側面を引き出し、聞き手側に「たしかにそうだね」と感じさせることができた点が他のチームと差を分けたポイントかと思います。

先述したようにインプットでは似たような題材に着地したり、論理が飛躍してどんどんテーマから外れていくケースが多く見られます。調査手法には、新しい気づきを生むために行う発見型とすでにある仮説を確かめる検証型と大きく2つありますが、特に発見型調査を行う場合は工夫した調査をしないとその後のステップまで被る可能性が高まります。またテーマから外れていってしまう問題も、アイデアが完成したときには「秘密」のブランドでなくなっているということがよく起こります。せっかく良いアイデアができても、インプットが的外れだと審査対象外になってしまいますので、ぜひこの点は気をつけていただきたいところです。

CONCEPT:シンプルか、ワクワクするか

次にコンセプトについてお話しします。実はここが鬼門で、ファイナリストでさえ相当苦戦している印象を受けました。そのなかでもよく練られていた「スタンドバイミー」と「ハラグアイ」とを取り上げつつ、意識していただきたいポイントをお伝えします。

スタンドバイミーはインプット−コンセプトの間にちょうど良い飛躍ジャンプがあった点と、アウトプットへの妄想が膨らむコンセプトになっていた点が良かったと思います。「昔の秘密」に着眼した上でインプットとして「昔の秘密はその人の一面である」を導き、その価値を深掘ることでコンセプト「昔の秘密を通じて心の距離を縮めよう。」に行き着いていました。コンセプトとしてやや洗練の余地は残りますが、例年、コンセプトを流すように雑に扱うチームが散見される中、スタンドバイミーはインプットからコンセプトにかけて一段階、ちゃんと話を進めてくれていました。また、このコンセプト「昔の秘密を通じて心の距離を縮めよう。」を置いた時に、学校でのブランドにしたらどうなるかな、バイト先でのブランドにしたらどうなるかな、と妄想が膨らみそうな点が良いと感じました。

ハラグアイはコンセプトの表現まで洗練されていた点がとても良かったです。秘密の中にあるモヤモヤを捉えた上で、「SNSでつぶやけば発散できるが他人の目を気にしてしまう」というアンケート結果から、SNSに代わる「秘密の居場所を作る」という適度なコピーワークが施されたコンセプトを提示できた点が評価のポイントでした。コピーっぽくすれば良いというわけではありませんが、「秘密の居場所」という耳慣れない表現がちゃんと機能していて、かつ短くなることで聞き手の記憶に残りやすくなり、「あの居場所のアイデア良かったよね」と口の端にのぼりやすくなっていたかと思います。

ここでお伝えしたいのは、コンセプトはインプットとアウトプットを支える強靭な背骨であって、ただの繋ぎになる関節ではないということです。例年、コンセプトはおざなりにされる傾向があり、コンセプトとして成立しているアイデアが少ないのが毎年、残念に思うところです。BranCo!の関連イベントでは、「コンセプトには共有力(イメージしやすいか)、期待力(驚きやワクワクがあるか)、起点力(アウトプットの起点になるか)という3Kが必要である」という話をしていますが、良いコンセプトは伝えたくなりますし、この後のステップであるアウトプットへの想像力をかきたてます。そのコンセプトを見て、ワクワクしながら考えられたり、すぐにたくさんのアイデアが思いついてしまうようなものが良いコンセプトだと思っていただけると良いかと思います。次のBranCo!にトライしてくださる方は、ぜひこの点を意識して取り組んでほしいです。

OUTPUT:実現できるか、使いたいと思うか

最後にアウトプットについて解説します。こちらも決勝進出チームでは、多くの工夫が見られ、どのチームの内容も紹介したいところではありますが、文字数の関係もあるので「I.a.n」と「Ring!」について取り上げたいと思います。

I.a.nはまずサービスロゴとサービスムービーを作り込んで来ていた点が非常に良かったです。ロゴは朝ごはんと家庭の味のノスタルジーを想起させるよう、色味とモチーフが工夫されており、このままリリースできるのではないかと思うほど洗練されていました。ムービーも朝ごはんのお弁当をつくるサプライヤーとそれを楽しみに起きるユーザーの両視点から描かれており、提供価値が簡潔にわかる内容になっていました。どちらの取り組みも聞き手側のサービスの内容や世界観の理解度を格段に上げるものとしてワークしていたと思います。また、本当にこのサービスを使うのか、どこの地域の人が使うのかといったサービス受容性やエリア拡大のシナリオまで提案してくれており、ロゴやムービーと合わせて、実現に向けた解像度を突き詰めるということができていた点が高く評価された要因でした。

Ring!はプレゼンテーション自体のアウトプットクオリティがとても高く、少しテクニック論になりますが、プレゼンテーションの見せ方が素晴らしいなと思いました。挨拶やチーム名の紹介の前に、「名前も年齢も知らない...」とシーンの読み上げから入る冒頭。プレゼンテーションは聞き手側も真剣なので相当な疲労感を感じるものですが、最終発表でピークがきている中、トリッキーな入り方をするのは一気に期待感をかきたてられ、とても効果的だったと思います。また、アウトプットである文通サービス「PosTon」自体がもつ情緒的な(俗にエモいと言われる)価値を最大化する見せ方として、1人が「PosTon」をベースとした小説を読み上げながらもう1人が登場人物を演じるという手法をとったこともとても良かったです。感性に寄り添ったサービスというブランドの世界観が一貫して伝わり、一度使ってみたいなと思えるプレゼンテーションになっていたと思います。

アウトプットで意識してほしいポイントは大きく2つです。「それ、実現できますか?」「それ、本当に使いますか?」。特に、程度の差はあれ、前者の問いに向きあおうとしているアイデアは多く見受けられるのですが、後者の問いに向き合っているアイデアは少ない印象です。既存ブランドではなく、なぜそのブランドを使いたいと思うのか。空間であれば、ユーザーは本当にわざわざ足を運ぶのか。サービスであれば、ユーザーは本当にずっとお金を払い続けたいと思うのか。そういった視点が欠けているアイデアが多いように思います。それは人間の生理的な感覚などのリアルな部分にどれだけ真摯に向き合えるかということと同義です。実現できるアイデアを提案いただくこともとても大事なことですが、「こんなブランドがあったら確実に使いたい!」と心から思えるものがまずあった上でどう実現するかを考えていただいたほうが熱量と納得度の高いアイデアになるように思います。

テーマ総括:「正反対ではなく、鏡」という新視点

どのプレゼンテーションも「秘密」に対して様々な捉え方が見られ、非常に面白かったです。秘密のポジティブな側面を生かしたもの。ネガティブな側面に向き合ったもの。「●●の秘密」と絞ったもの。その逆を捉えたもの。個人的には、優勝した「アイデアの豊洲市場」の「逆秘密」からとても大きな学びを得ることができました。「逆」というのは正反対を想起しがちですが、ここで使われた「逆」は鏡のような左右反対を意味しています。よく広告会社の仕事でも、考える対象物を深く掘るために「●●の逆ってなんだろう?」という問いが出てくることが多いのですが、往往にして正反対を見つめがちなように思います。おそらく、決勝に進出できなかったチームの中にもそのような視点からアイデアを考えたチームはいたのではないかと思います。しかし、そのまま正反対を持ってきてしまうと、「秘密」からは最も遠いものになってしまいます。「アイデアの豊洲市場」は、正反対の「逆」ではなく、鏡に映った「逆」の「秘密」を捉えたからこそ、強く納得感のあるアイデアに繋がったのだと感じました。非常に勉強になりました。

今年もBranCo!は、BranCo!2021として実施予定です。
ぜひ、興味をもった方は出場してみてください!!

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