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【日本タイダン。】 第9回ゲスト 澤尚幸さん(一般社団法人 コミュニティ フューチャーデザイン 代表理事)
何もない田舎こそチャレンジを 教育を起点に地域を尖らせる

2020.05.25
#ブランディング#地域創生
日本の地域を訪れ、体験や発見をつづる連載コラム「日本トコトコッ」の執筆や地域のまちづくりに関わる、スマート×都市デザイン研究所長・深谷信介が、日本の地域活性について、さまざまな分野のオピニオンリーダーと対談する連載コラムです。

地方の均質化が日本を弱くする

深谷 澤さんは、もともとはいわゆる郵政官僚で、民営化後の日本郵政グループも含めて、金融事業を中心にご活躍されてきた方です。理学部数学科の出身で、数理・データサイエンスの専門家。それが現在は「教育」を起点に、地域創生に取り組んでいらっしゃる。非常にユニークな方だなと前から思っていました。
2016年、私が携わっていた江津市の地域創生プロジェクトの一環でやっていたUIターン誘致イベント「東京なんて、フっちゃえば?展」に来てくださったのが最初の出会いでしたね。

 そうですね。ちょうど郵政を辞めて、地域の仕事をやろうといろいろと勉強している時期でした。江津市がすごく面白いと聞いて、縁あってイベント会場にうかがったのですね。

深谷 あのときも、どうして郵政関係の人がここに来るんだろう、と不思議で(笑)。そもそも、どんなきっかけで地域の仕事に取り組まれるようになったのですか?

 遡ると、郵政時代に感じていたことが2つありました。
1つは、「均質化」によって日本の地方が弱くなっているという実感です。かつての日本の郵政事業は、じつは国がやっていたわりに地方ごとの個性が結構認められていたんですね。
例えば民間の銀行だと、全国統一のキャンペーンマニュアルがありますから、地域ごと、各行ごとに異なるキャンペーンをやるのは難しい。でも郵便局の場合、各局で独自のキャンペーンチラシをつくったりするのは当たり前でした。業務に関する言葉も地域ごとに微妙に違っていて、地域文化のようなものがあり、中央集権的な組織ではなかったです。それが民営化をきっかけに大きく変わり、全国統一する動きが広がります。民間の方が自由度は高いと思っていたけど、むしろ不自由な面も出てきた。
均質化とは、企業が弱くなることです。当時、各地を回るたびに、郵便局だけでなく地方全体がどんどん均質化されていることに気づきました。このままではグローバル化の中で日本が強みを失ってしまう。どうしたら地域の多様性を生み出せるかと考えるようになりました。

深谷 なるほど。郵政と地域の多様性の話がつながっているんですね。

 もう1つは、「地域創生」が郵政事業の第4の柱になりうると考えたことです。生産年齢人口が減るので、人手に依存した郵便事業はこのままでは収益性の確保が難しくなる。低金利が続けば、利ざやで稼ぐ郵貯・簡保の金融ビジネスも厳しい。そんななかで、地方に深く根ざした郵便局のネットワークの強みを活かして、自治体などを支援する地域創生事業は大いに可能性があるだろうと。
ただし、郵便も貯金も保険も、あらかじめ決まったものを売るビジネスですが、地域創生は一人ひとりの「アイデア」や「スキル」をお金に換える仕事です。仕事の内容を大転換しなければいけない。そのためには新しい教育も必要になるでしょう。自分自身の仕事も大きく変えようと考えるようになりました。
それで、ぜひ地方創生事業をやりましょうと社内で何度も提案しましたが、なかなか動かなかった。だったら外に出て、本当にやれるかどうかを自分自身が示したほうがいいかなと。それで4年ほど前に独立して、現在に至るという感じです。

「隠居」の存在が大切〜地方創生・成功の三要素

深谷 独立されてから地域により深くコミットされ「教育」が再生の核となりうると判断され、本格的に取り組まれることになるのですね。

 はい。郵政が地域創生に本気で取り組むとしたら、人材教育を「考える力を身につける教育」に変えていく必要があると考えていました。毎年入ってくる新人たちを見て、物事を考える力が弱くなっているとひしひしと感じていたので。
地域の仕事をするようになって、さらに教育の必要性を感じました。私なりに、地域創生がうまくいくための3つの要素というのが見えてきたのですね。やる気に溢れた若手人材、それを的確に応援する地元の年長者、そしてすべてを支える行政……の3つです。これらが揃った地域はうまくいくし、揃わないといくら頑張ってもなかなか難しい。そのことを学んだのが江津市だったと思います。
地元の地域創生に熱心に取り組まれていたNPO法人の理事長さんが言っていました。
「若いやる気のある人がいたら、我々のような年寄りがそれを応援しなければいけません。単に頑張れというのではなく、余計な口出しをするのでもない。ただ、何か困ったことがあったら相談に来いと伝えています。俺がちゃんとまとめてやるから安心しろと」。

深谷 地域において「知恵と行動の事業承継」がちゃんとできているか、ということですよね。その地域を動かしている人が、次の世代を見つけて育てているか。企業でも、特定の「人」にビジネスが依存していると、引き継ぎが難しくなっていく。地域も同じですね。

 その通りです。地域を支えてきた年長の方々が、一歩退いて、若い人たちにボールを渡す環境をつくっておく必要がある。
生物学者の福岡伸一さんの「動的平衡」という言葉をよく例に出すのですが。古い細胞が失われていくから、新しい細胞が生まれる。組織も地域も同じで、年長の方々が活動量を落として、若い人たちに活躍の場を与えていく。昔の「隠居」という制度はまさにそれで。地域の持続性のために、そういう仕組みが必要だと知っていたのでしょうね。昔の人は偉かったんだなと(笑)。
それで教育の話に戻るんですが、先輩たちがバトンを渡そうとしても、その相手である若手がちゃんと育ってくれていないと渡しようがない。江津市などでも頑張っている人たちの年齢がちょっと上がってきて、次の若い世代を育てるという目線を持つ必要があり、そのための教育を考えたのです。

エビデンスに基づき、生徒一人ひとりの個性に寄り添った教育を導入

深谷 澤さんが取り組まれている「データとエビデンスに基づく教育」について、詳しく教えてください。

 はい。埼玉県が面白い教育プログラムを導入していると聞いて、戸田市の教育長にお会いしたのがきっかけでした。前の市長さんが「教育から街を変えよう」と考え、その意を受けられた教育長が進められたのが、データとエビデンスに基づいて一人ひとりの子どもたちに寄り添う教育だったというのです。
私は子どもの頃、1クラス8人の田舎の小さな小学校で育ちました。テストでは必ずクラス1位でしたが、ずっと不安でした。自分の学力レベルがどれくらいなのか、クラス順位だけでは判断つかないからです。
埼玉県が行っていたのは、項目反応理論(IRT)という方式を使ったプログラムで、TOEICと同じような仕組みです。スコアが500から550に伸びたら、それだけ語学レベルが上がったとわかります。あれと同じで、仮にいつもクラスで最下位でも、ちゃんと成長していることがわかる。逆にクラス1位でも、学力は下がっているかもしれません。

深谷 その人なりの学力の向上が見える化されるということですね。

 そうです。さらにいいなと思ったのは、偏差値のような意味での学力のデータだけでなく、「非認知スキル」をちゃんと定量的に見ていく教育プログラムだったことです。「自制心」と「GRIT(やり抜く力)」。この2つを身につけることができれば、あとは自分で勝手に勉強して学力は伸びる。そういう研究成果が認識され始めた頃でした。
人との比較ではなく自分の成長、そして、非認知能力も伸ばしていく、まさに、地域づくりのための多様な人材を作るためのプログラムに出会った瞬間でした。
これだ!と思って、私が政策アドバイザーを務めている福山市で、2018年からトライアルで同様のプログラムを導入してもらいました。1年間やってみたら先生たちの反応がよくて、みんな興味津々なんです。この子は成績がめちゃめちゃ上がっているけれど、やる気は落ちている。なぜだろう? そんな議論がすぐ始まるんです
まだ1年しかやっていませんが、今後2年、3年続けていけば、非認知スキルが上がっている生徒は成績も上がっていくはずです。

深谷 なるほど、わかってきました。教育に関するデータというと「偏差値」を思い浮かべがちで、私はすごく嫌いなんです(笑)。「人間を1つの軸だけで測ってはいけない」と言われながら、受験を前提とした今の学校教育は、「偏差値」という1軸に向かいがちでした。
澤さんのおっしゃるのは、生徒一人ひとりの教育のための総合カルテですよね。生徒さんそれぞれをバイネームで、どう成長しているのかを見ることができて、そのカルテをベースに育て方を考えていくやり方ですね。これは全然知らなかったです。すごく良い仕組みですね。

グローバル化のなかで、地方の個性がますます問われる

深谷 最後に「学びの未来」ということで、地域と教育はどう変わっていくべきか、少しお話しさせてください。
今のようにグローバル化が進むずっと前から、海外を見てきた人たちが異口同音に言っていたのは「日本のことを知らないと駄目だ」ということ。お前のoriginは何だと聞かれるから、海外に行った人ほど自分のアイデンティティがないことを痛感して、日本のことを学ぼうとする。
でも澤さんが冒頭でおっしゃったように、地域の均質化がものすごく進んでいて、生まれ育った土地に対するアイデンティティみたいなものは持ちにくい。グローバル化の中で活躍するフィールドが広くなればなるほど、その人の特徴が見えなくてはいけないのに。地域の仕事をするようになって、その課題をすごく感じるようになりました。特に最も均質化している東京が厳しい。地域の方がまだ学びやすいところが残っていると思うのですけど。

 以前、話したことがあるのですけど、地方出身者と東京の人では違いがあると私は思っていて。それは、人の個性の振り幅が違うということです。
東京にいるとそもそも人口が多くて、その中で偏差値によって進路が細かく分かれますから、中学生ぐらいから自分に近い人ばかりと交流することになりがちです。地方だと、学力も個性も全然違う人が同じ環境で過ごしていく。最初に言った通り、均質化したものは弱い。東京の弱さとは均質化した弱さで、地方はまだまだ多様だからこそ、自分だけの尖ったところを見つけやすいのではないでしょうか。グローバル化の中で「アイデンティティを持て」といわれたときに、地方の方がやりやすい面はあると思います。

深谷 地域ではそうした教育の強みをどう発掘して、発信したらいいと思われますか。

 例えば東京にいるお父さんお母さんが、子どものために地方に移住すると考えた時、「教育は大丈夫ですか?」というのがハードルになりやすいですよね。親御さんは「学力が維持できるか」を心配しているわけですが、非認知スキルを身につけられる環境さえあれば、勝手に学力は上がるので、大都市か地方かの違いはあまり関係ないんじゃないかと思うのです。
それを踏まえた上で大事なのは、「地域の学びを魅力化する」という発想ではダメだ、ということです。順番が逆で、まず子どもたちにとって魅力ある教育とは何なのかを明確にする。その上で、教育にとって不可欠な要素が江津市にあるのだとすれば、それが江津市の教育の魅力だと思います。

深谷 何を学べるのかが、それぞれの地域でわかっているべきだということですよね。教育を理解した上で、その地域の資産がどう貢献できるかを考えると。
ただ、あまり特徴的な資産がなく、「うちは単なる田舎で、何もないんですよ」と言ってしまいがちな地域もありますね。何かアドバイスはあるでしょうか。

 率直に言って、全国約1700の自治体のすべてが、尖った個性を打ち出せるとは限らないと思います。当然、進化の話では淘汰されるものもあっていい。
ただ、探す努力はしたほうがいいと思うんです。地域創生では何が“瓢箪から駒”で生まれるか本当にわからないので。石見銀山のある大田市大森町は、かつては過疎化の代表例のような土地でしたが、地元愛の強い事業家たちが頑張って、地域外からも若い人材を引きつけるようになって、今では地域創生の成功例と呼ばれています。かつての石見銀山の価値とはそれほど関係ないけれど、そこに残っていた風土や空気感みたいなものが別の形で再生されたということでしょう。もともとあったものを頑固に守り続けていたら、今の成功はなかったはずです。
アメリカのシリコンバレーも、何もない田舎の土地からスタートしたわけですよね。これは「早くやった者勝ち」の世界です。特徴になる資産がないか過去から探してみて、何も見つからなかったら新しいことにチャレンジしてみるのがいいと思います。

プロフィール

澤 尚幸(さわ なおゆき)
ゼビオコーポレート株式会社シニアディレクター/福山市政策アドバイザー/総務省地域力創造アドバイザー/西会津町エグゼクティブアドバイザー/一般財団法人100万人のクラシックライブ アンバサダー

三重県生まれ。1991年3月、東京大学理学部数学科卒業。同年郵政省に入省。郵政三事業、特に金融分野の経営戦略、商品開発、経営計画、財務、営業、業務、システムなどに幅広く関わり、省庁再編、郵政公社化、民営化に関わる。郵政の上場を終え、日本郵便株式会社の経営企画部長を最後に退社。2015年12月、一般社団法人Community Future Designを設立。代表理事に就任。地方自治体や企業等の地域活性化やその政策立案へのアドバイスや支援などを実施。2016年より、スポーツ小売業を手がけるゼビオグループに入社。新しいフィールドで、より深い地域活性化の実践、CSV事業などの立ち上げを行っている。

深谷 信介
博報堂スマート×都市デザイン研究所長

事業戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やソーシャルテーマ型ビジネス開発に携わり、都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても丸ごと研究・実践を行う。主な公的活動に環境省/環境対応車普及方策検討会委員 総務省/地域人材ネット外部専門家メンバー、千葉県地方創生総合戦略策定懇談会委員、富山県富山市政策参与、鳥取県琴浦町参与(内閣府/地域創生人材支援制度派遣)なども請け負う。

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