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クリエイティビティをベースにした広告会社の新しい役割とは (代表取締役社長 水島正幸)

2020.01.16
#生活者インターフェース市場

※当記事は、日経ビジネスオンラインに掲載されたインタビューシリーズ『生活者インターフェース市場の出現と可能性』の記事です。

5GやIoTなどの最先端テクノロジーによって、あらゆるもののデジタル化が進んでいる。生活者と企業あるいはモノとの関係性が変わり、お互いにインタラクティブにやりとりができるインターフェースが現れ、そこには大きなビジネスチャンスが広がる――博報堂はこれを「生活者インターフェース市場」と名付けた。「広告会社の役割も広がる」と語る水島正幸社長は、生活者インターフェース市場とどう向き合っていくのだろうか。

従来の広告会社の役割を超えた提案を

今、DXすなわち「デジタルトランスフォーメーション」が話題となっている。DXとはテクノロジーによって人々の生活をよりよくすることであり、単なるITによる業務の効率化や事業の拡張より上位の概念だ。2019年は5G元年と言われ、アメリカや韓国では商用化が進み、日本では今年から始動する。IoTなどの技術も活用しながら、あらゆるモノがネットワークに接続するオールデジタル化が、いよいよ目前に迫っている。

博報堂の水島正幸社長は、この社会情勢について次のように語る。

「これまでがPCやスマホを中心とした“情報のデジタル化”だとすれば、これからは“生活のデジタル化”が始まっていくでしょう。これによって、人間とモノの関係が変わり、モノと生活者が直接やりとりをするインターフェースが生まれます。ここには課金を伴うサービス化が進み、大きなビジネス市場が広がっていきます。これを当社では『生活者インターフェース市場』と名付けました」

家電、自動車、装飾品、町中のあらゆるモノなどにカメラやセンサーが搭載され、5Gの高速通信を使ってデータが収集される。いわゆるビッグデータをAIが解析することで、生活をより快適にしたり、充実させるサービスが提供される。製品やサービスを提供する企業にとって、買い手である生活者の反応がリアルタイムで得られる意味は大きい。

「企業は自社のユーザーと直接つながる時代になります。広告会社はこれまでクリエイティビティとメディアを活用して企業と生活者をつなぐ役割を果たしてきましたが、今後はこれまで以上に私たちが生活者の欲求を見出し、それをサービスや製品の価値向上につなげる提案を企業側にしていかなければなりません。それに留まらず、SDGs(持続可能な開発目標)など社会課題の解決にも寄与していければと考えております」と水島社長は強調する。

生活者インターフェース市場に必要な3つの設計とは

水島社長は、生活者インターフェース市場には3つの設計が必要だと語る。

「1つ目は『生活者への深い理解から生まれる価値設計』。生活者が何を求めているのかもっと知り、価値を提供する必要があります。そのため、生活者を巡る社会情勢を含めてコンサルティングする仕組みを作ろうとしています。2つ目は『モノ・技術への深い理解から生まれる仕組み設計』です。これはIoTのセンサーやカメラ、デバイスなどの仕組みをより価値を生むために改善するための設計。3つ目は『事業・サービスへの理解から生まれるビジネス設計』。しっかりと利益を生むサービス、ビジネスモデルを設計すること。この3つの設計に当社はクリエイティビティを発揮して提案していきたいと考えています」

博報堂では昨年10月に生活者インターフェース市場に関するセミナーを開催。顧客の企業など約200人が参加したが、中には「IoTとかけ離れた商品を作っている当社はどうするべきか」などの質問があったという。

「飲料や食品などそれ自体がIoT化できない場合も、それらを納める冷蔵庫はIoT化できます。そこからどんなデータを集め、新しいサービスにつなげられるかなどご提案させていただきます。突拍子もないアイデアを出すのも広告会社の取り柄ですから、いろいろな企業にアイデアをぶつけていきたいと考えています」

同社では昨春に「ミライの事業室」を設置した。様々な部署・職種から約30名の精鋭を選抜し、自社が主体となって新事業を興すための組織だ。その中には「みんなの事業」という全社員からアイデアを募ってビジネス化を検討する仕組みを設けており、既に複数の案件が事業化を目指して動き出している。

この組織はスタートアップスタジオとして事業創造を行うグループ会社や、生活者分析をもとにイノベーション支援を行うグループ会社とも連携しており、ともに生活者インターフェース市場の開拓を進めていく。

また今春には、「ユニバーシティ・オブ・クリエイティビティ」を設立する。社内外問わず誰もが参加可能な場として、クリエイティビティに関するいろいろなテーマを設定して研究討議し、実践していくという。ここでの取り組みが社員のクリエイティビティ強化にもつながると考える。

様々なものをつなぐ起点であり結節点に

博報堂は2019年7月、グループで使用するVI(ビジュアルアイデンティティ)を刷新し、アルファベットの社名の左右に点(センタードット)を打つロゴを公表した。

水島社長はこのセンタードットを「起点であり結節点。さまざまなものをつなぐことを意味する」と語る。生活者と企業のみならず、企業同士、社会課題、新技術、社内外の人々などをつなぎ、クリエイティビティをベースに社会に「別解」を提案したいと言う。

別解とは同社が提案しているキーワードで、正解や常識を超えた「あっと驚くような解」を意味する。イノベーションと捉えることもできるだろう。

「インターフェースとは、2つの異なるものを最適なかたちでつなぐという意味です。生活者とモノの間をつなぐだけでなく、社内外の異質な人間同士を組み合わせることによって従来なかったアイデアが生まれます。当社はこれまでもチーム力を大切にしてきましたが、今後は社外や業界外のプレーヤーや専門知識を持った方たちにも参加してもらってユニークなアイデアをアウトプットしていきます」と、水島社長は明言する。つまり、博報堂自身もインターフェース化する決意がこの新VIに現れている。

既に、取引先の事業改革やイノベーション促進の仕事や商品・サービス開発の案件も増えているという。しかし、まだ広告会社の領域は出ていない。今後は、さらに商品・サービス設計など上流分野に取り組む必要がある。

その試みの1つとして、AIを活用した営業支援システムを開発、販売している。これはMR(医薬情報担当者)と医師との会話をAIで分析することで、MRが医師に適切なメッセージを伝え、商材案内、資料提示をしているかなどを確認して営業活動の改善に活用するものだ。成功すれば、他業界への水平展開も進める計画だ。

5GやIoTといったテクノロジーの進化によって、全てのモノがつながり、生活の新たなインターフェースになろうとしています。そこから新たな体験やサービスの可能性がひろがり、社会の仕組みと市場がうまれる時代。これを「生活者インターフェース市場」の到来と捉えました。この新しい市場において、どのような価値を提供していくべきか。博報堂の新しい取り組みについてお伝えしていきます。

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