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卒業生に聞く!BranCo!体験が教えてくれたこと

2019.11.20
#BranCo!#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
2012年から始まった、東京大学教養学部教養教育高度化機構と博報堂のコンサルティング専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」が共催する大学生のためのブランドデザインコンテスト「BranCo!(ブランコ)」が、今年も開催されます。
実際にBranCo!を経験した人は、参加した当時どのように感じ、どんな学びを得たのか、そしてその後社会人となり、BranCo!でのどんな体験が役立ち、力になっているのか――。博報堂ブランド・イノベーションデザインの岩佐数音がBranCo!卒業生の2人に話をうかがいました。

他のビジコンとは一線を画すユニークなテーマ設定

岩佐
今日はBranCo!の卒業生である、現在外資系コンサルティングファームにお勤めのスズキさん(仮名)と、大学卒業後事業を立ち上げられた澤村さんにいろいろとうかがっていきたいと思います。僕は2014年に博報堂に入社し、いま6年目になるのですが、実は2012年に開催された第1回目のBranCo!出身者なんです。テーマは「お土産」で、無事予選敗退しました(笑)。

スズキ
そうだったんですか(笑)!私は大学3年生のとき、2014年開催の回に参加しました。テーマは「嘘」でした。

澤村
僕もそうです。

岩佐
その頃の参加人数が500人くらいで、いまは800人を超えてきている。お陰様で毎年成長しています。そもそもBranCo!開催には教育的な意図があるわけですが、実際にマーケティングやブランディングを教える大学も増えているとはいえ、まだなじみのない学生も多いと思います。BranCo!ならではの価値について、おふたりにうかがっていけたらと思っています。

スズキ
私はいま外資系のコンサルティングファームに勤めていて、さまざまな日本の企業に対し、新規事業や中長期戦略などの計画から実行までをお手伝いする仕事をしています。父親の仕事の影響で小さい頃からマーケティングに興味があったので、大学1年生の冬には「ブランドデザインスタジオ」(東京大学と博報堂が連携し提供している授業プログラム)に参加。その後BranCo!にも出場して、本当にいろいろとお世話になりました(笑)。
大学では経済学部の経営学科だったのですが、マーケティングに強いゼミなどもなかったので、たとえば「新規事業をつくるときにどうやって基礎となるアイデアを発案し絞っていくか?」とか「テーマに関してどういうふうにリサーチをすれば面白い事実や気づきを得られるか?」といった、いまの仕事にもつながるような基本的な考え方、動き方を、BranCo!などの経験から学ぶことができました。

澤村
僕は大学卒業後、“好きに仲間と挑戦できる世界を創り上げる。”というビジョンを掲げ、クラウドファンディングなどで資金を集め「emole Inc.(エモル)」という事業を立ち上げました。そして最初に手掛けたプロダクトが、ゼロイチを一緒にやる仲間を見つけられるようなマッチングサービスです。僕自身、当たり前のように就職活動を行い、大手企業への入社を目指すという世の中の流れにどうしても同調できなくて、だったら誰もが子どものように純粋な気持ちで、本当に自分のやりたいことをやって生きていけるような環境をつくればいいんじゃないか?と思ったんです。そもそもは北海道での中学時代、好きなバスケを本格的にやりたくて、仲間と一緒に外部のコーチに教えてもらいに行っていた経験が大きい。その時の「仲間と一緒に一つの目標に向かって頑張る」環境というのが、一番幸福感を得られたんですよね。仕事でもそういう環境に身を置けたら、と思ったのが一番大きなきっかけです。
その頃から起業したいという気持ちがあったので、東京の経営学部がある大学に入り、複数のビジコンを受けていく中で、BranCo!にも並行して出場していました。学生時代は全部で10個くらいのビジコンに出ていました。

岩佐
それはすごい。他のビジコンと比べてBranCo!は何が違いましたか?

澤村
「嘘」なんて抽象的な課題は他のビジコンだとありえませんから、めちゃくちゃ特殊でしたよ(笑)。ほとんどのビジコンが、まずクライアントがいて売り上げを120%にしてくださいとか、事業計画をつくって発表してくださいとか、課題が具体的で、かつ正解がある。でもBranCo!は、抽象度の高いテーマに対して自分で課題設定をしないといけないし、そうしたテーマに連なるいくつもの具体的な事象について日頃から思考していないとうまくアイデアが出てこない。参加していざリサーチしようとしても、難しかったですね。

スズキ
通常のビジコンだと実現可能性とかも考えて、割とどのチームも近いアイデアが出てきてしまうけど、BranCo!は課題が抽象的だからこそアウトプットの方向性も全然違いますよね。ゼロから自由にアイデアを考えて、しかもそれに対して納得度の高いフィードバックをもらうことができる。BranCo!のような環境は他にはなかなかないと思います。私は経験ありませんが、それこそ、起業して新しいビジネスをつくるのと同じような感じなのかな。

澤村
確かにそう。起業家のなかにも、マーケットを見て当たりそうなところから入ったり、ビジョンは後付けでいい、なんてタイプもいますが、僕はワクワクしたことを他の人に届けたいとか、自分が感じている負を世の中からなくしたいとかのビジョンファーストなタイプ。ただビジョンありきだと、独りよがりのサービスにもなりがちなんですよね。その点BranCo!では、自分の思想に寄ったブランドと、マーケットのニーズを踏まえた実際の仕組みづくりを結びつける力を鍛えてもらえる。もっと言うと、機械化とかAIとかであらゆるものが均質化していく中、これからは「この人がつくっているから買いたい」とか「新しい視点だから面白そう」とか、人に価値が残っていくんだと思うんですね。そうした、これからの時代に必要な、機械ではまかなえない、価格競争や差別化、利便性以外の価値をつける力をBranCo!が鍛えてくれる。正直今また学び直したいくらいです。

岩佐
確かに、テーマの抽象度が高いということは、その人の人生や想い、経験、ふだん考えていることが出てくるということですが、これからは本当に主観の時代と言うか、個人の想いやストーリー、その人のたたずまいみたいなものがビジネスにも必要になってくるかもしれない。そんな時代にBranCo!は合ってるのかもしれないですね。

弱みだってインサイトになる。BranCo!は自分自身と向き合うことができる場

スズキ
抽象度が高いテーマだからこそ、誰かが答えを知っているわけでもなく、本当に皆で考えていかないといけないということがすごくいいですよね。その点BranCo!はいろんな専門性を持つ学生が、それぞれの主観的な体験から発言し、それが尊重される環境が整っていました。「嘘」という与えられたテーマについて真剣に考えた思考量のほうが、年次や経験よりも問われる。そうやって平等に意見を言える場で、自分の考えについて存分に発言できた経験というのは、実際大きかったですね。

岩佐
そうですね。新しいものを考えるときって、誰も答えを持っていないからこそ、その糸口となる発見をするためのリサーチに工夫をこらすとともに、主観的な体験や感覚を基にして、チームにどういう視点を投げ込めるかがとても重要になってくる。

スズキ
社会人でも、自分の意見に自信を持てなくて発言を躊躇するという人も多いと思いますが、BranCo!では、議論が煮詰まったときに誰かがふとつぶやいた言葉が突破口になることもありました。本人は大したことないと思っていた発言でも、そこから議論が大きく動いていくという経験ができる。私も会議などでは割とよく発言する方だと思いますが、それもBranCo!のような場所で、“言っても大丈夫”、“それが何かにつながる”という体験ができたからだと思います。

岩佐
自分が言ったことが価値になるんだと認識できれば、自己肯定感につながったり、自分の意見でも何かを変えられるかもしれないと思えたり…結構大きなマインドセットの変化になりますよね。
昔に比べて産業の境目がなくなってきているいま、たとえばコネクテッドカーが出てくるとなると、車業界のことだけとか通信のことだけを考えている人よりも、人と車のインタラクションについて考えている人のほうがインプットが多くできる。どれだけ自分が幅広い視点で、主観的に物事をとらえて思考していけるかというのは、非常に大事だと思います。だから、各自がその思考を出し合うことでチームに貢献できる環境というのが重要になってくる。

いまスズキさんは異なる企業と企業をつなぐような仕事をされているわけですが、意見を交わし合う場で意識していることはありますか。

スズキ
やはりある程度話が進めば、率直な自分の意見も言うようにしていることでしょうか。相手に対して誠実であることがとても重要だと思っていて、それによって相手も心を開いてくれたり、ビジネスがより可能性のある方向に進めることもあると思う。

澤村
そうですよね。相手に敬意を示しながらも、自分の思うことをちゃんと主張できることが大事。いまは、周囲から浮いてしまうこと、嫌われてしまうことが怖いという人が多くて、当たり障りのない話をするスキルには長けている人が多いという印象です。でも、自分に対しても誠実に、思ったことは口にして、そこから建設的な議論をすることが大切だと思う。

岩佐
最近のビジネスのつくり方やマーケティングは変化してきていて、生活に必要なものが整ってきている中で、とにかく拡大させていくというよりは、本当に自分が必要だと思うものをつくっていかないといけない。べき論だけではなく「こういう世界もあってもいいよね」とオルタナティブを提示するビジネスにファンがつくことが多く、その意味で、主観のマーケティングになってきていると思うんです。そうするとやはり、自分の想いに誠実か、そして生活者にとっても押し付けではないもの、本当に信じて渡せるものになっているかどうかが問われているように思います。

澤村
マスという概念が溶けていってるのかもしれませんよね。クラウドファンディングもそうですが、いまは昔より仲間やファン、コミュニティを見つけやすい環境。インターネットやスマホが普及して、情報へのアクセスも早まり、人それぞれの細かい要求にマーケットが対応できるようになっていて、やりたいことがある人は実行しやすくなっている。逆にマスを取りに行くのは難しいかもしれませんが。

岩佐
確かにそうですね。「自分が食べていける」くらいのスモールビジネスがどんどん生まれてくる時代に、BranCo!などの経験は、そのための自分の気持ちとか価値観について気づくいいきっかけなのかもしれません。もちろん出身者が皆起業するというわけではありませんが、企業に就職するにしても、自分自身と向き合った経験のある社員として、自分の意見や感覚を大事にしながらその仕事に向き合えるほうが、企業のビジネスも健全なものになるし、のびのびと働けるような気がします。
おふたりが参加した年の「嘘」というテーマ以外にも、過去には「笑い」「暇」などもあった。テーマ自体の抽象性、哲学的なところが目立ちますが、それよりも実は自分の哲学と向き合うことになるのが面白いんだろうと思います。チームで取り組むので、自分以外の人の意見を聞いて自分もどんどん考えが進化していく。就活でも自己分析を求められますが、なかなか難しいものだと思います。BranCo!だったら、楽しみながら、議論を通してメンバーと深いところで対話し、自分自身の価値観とも向き合うことができる。

スズキ
そうですね。自分の弱みをさらけ出すこともありますが、それが結構インサイトになることもありました。チームで議論すること自体が、自分を深めるファシリテーションになっているのかもしれません。

問いに答えはない。議論を通して真理に近づこうとすることが大事

岩佐
先ほどの話でスズキさんは学生時代マーケティングにどっぷりだった印象ですが、なぜコンサルティングファームに就職されたんですか?

スズキ
実はBranCo!でもブランドデザインスタジオでも、2位で終わることが結構多くて(苦笑)。最後まで自分たちは考え切ったけど、1位のチームの発表を見ると、ああそういう視点もあるんだ、確かにそっちのほうが圧倒的に面白いなと思ったんです。その後インターンシップにも挑戦しましたが、その過程で気づいたのは、自分はゼロから1を生み出す部分では1番にはなれないということ。でも私には、ゼロから1を生み出せる人の想いを理解して、周囲との間をつないであげる能力はあるのかもしれないなと思った。1から100にするのを助けるのが、自分は得意だし楽しいということに気づくことができたんですね。

岩佐
なるほど。そういうアプローチの仕方、思考のプロセスや方法論は、確かにやってみないと気づけないことでしょうね。与えられたフォーマットでやろうとしても、それが自分に合っていなければ、“自分はモノを考えるのが苦手だ”ということになってしまう。得意なアプローチの仕方を見つけられるのはすごく大事だと思うし、BranCo!がその一助になれているのは嬉しいです。BranCo!では一応“こういうフレームワークでやるといいよ”とは伝えるけど、同じことをやるにしても、どこから手を付けるか、どう設計するかはチームによって違います。思考の型の博覧会みたいな感じですよね。
澤村さんは起業の際、BranCo!での体験が役立ったことはありますか?

澤村
事業を立ち上げるにしても、今までの成功事例になぞらえてみたり、フレームにはめようとしてしまって、自分のアイデアとのずれが生じてしまうということもあるんですよね。僕の場合、BranCo!で自分の思考の仕方、思考プロセスを自覚して、どういうやり方が最大限力を発揮できるかにあらかじめ気づけたことはすごくよかった。
本来、自分のことを知るって簡単そうで難しいと思うんです。全員が自分の思考プロセスを理解して価値観がわかっていたら、おのずとミスマッチは起きない。日本の実感幸福度がとても低いと言われていますが、その原因は人間関係が多いとされているんですよね。おそらく誰も悪くないのに、合っていない人同士が無理やり合わせようとして不幸と感じてしまっているのかもしれない。

スズキ
本当にそうですよね。先日アメリカに少し滞在して同じことを感じました。合っていなくてもいい、合わせる必要もないんですよね。日本だと、誰かに居心地の悪さを感じた時にそこから離れようとするか、あるいは合わせに行くかの二択になってしまいます。でも合わなければ合わないで、離れる必要もなく、そこから面白い気づきが得られるかもしれない。そういう発想も必要だと感じました。

岩佐
そんな風に、意見が違っていてむしろいいと思えるのは大事です。手前味噌ですが、博報堂は答えのないものを探すことが仕事の基本でもあるので、もやもやしたものに向き合うというのが大前提の苦しみとしてある。そこを、チームで仕事をして乗り越えていくわけです。そのためにこういう雰囲気でこういう状態だったらアイデアに昇華していけるというのが、暗黙知として社内で培われています。単純に皆が「いいね」と言っても面白いとは限らない。答えもないし人それぞれ違うことが前提ではあるけど、そこで終わらせるのではなく、一歩でも真理めいたものに近づけるかどうか。そこに近づこうという意志を共有し、議論を重ねることが大事なんです。

澤村
「いいね」だけで終わらせずに、出てきたものをうまく組み合わせたりする人、異なる意見を受け入れて一歩先へ議論を持っていける人――ファシリテーション能力のある人が組織にいるかどうかでもだいぶ違いますよね。

岩佐
そうですね。ファシリテーションって、各人がABCDの意見を持ち寄ったとしたら、それらを踏まえた上で新しいEを、全員が納得した上で作るということ。なので無駄な意見は一つもないし、Aがベースになったとしても「BCDがあるからEが生まれた」と信じられることなんです。そしてよいファシリテーターには、最良のアイデアを採用することではなく、皆でこのアイデアにたどり着いたと感じさせることも求められる。BranCo!の優勝チームのアイデアもそうやって生まれているはずです。皆がテーマを自分事化して、チームのアイデアだと思えていないと、いいプレゼンテーションにもなりませんから。

スズキ
それって最後の質疑応答に出ますよね。いいプレゼンテーションは、誰か一人が代表して答えるという感じではない。メンバーそれぞれが自分事化してるから、質問に対して、プレゼンターとは違うメンバーがさっと答えたり、それを更に他のメンバーが補ったりする。本当にチームで考えたんだなというのがわかります。

すべての人に参加してほしい!自分の思考の実験場

岩佐
今後のBranCo!について、こうなったらいいなというのはありますか?

澤村
小学生や中学生といった年代から、学校でこうした場を体験できるようになるといいなと思います。壮大な話だけど。BranCo!のようなプログラムが授業で受けられて、ちゃんとテストの形で評価されるような環境になるといいと思う。あとは、実際にBranCo!から出たアイデアをアウトプットし、市場に問うというところまでいけたら面白いかと。

スズキ
売れる商品を出すことが目的ではなく、あくまでも教育が目的といういまのBranCo!の良さを担保しつつ、それができるといいですね。

岩佐
マスではないビジネスのつくり方でいうと、クラウドファンディングに出してみるというのはありかもしれませんね。

澤村
BranCo!は起業とかの勉強になるだけでなく、本質的に幸せに生きていくための教育の場でもあるなと。今はSNSなどからいろんな情報が、瞬間的に切り取られて出てきて、すぐに自分と他人を比較して、劣等感を感じやすい。
でも大事なのは、他者との比較ではなく、自分にとっての幸せや価値がなんなのかを定義できていて、そのために必要な行動を取ること。そういう意味で、BranCo!では、抽象的なテーマを与えられる中で、自分の価値観について掘り下げたり、他人の価値観に触れ、議論し合う中で、自分の軸みたいなものを見つけるきっかけになるのかなと。本当に、すべての人に参加してほしいと思います(笑)。

スズキ
マーケティングに興味があってもなくてもいい。気軽に応募することが大事なのかも。違うなと思えばやらなくていいけれど、もしかしたら、この先、学生生活のもっと先にもつながるような、何かとても大きな意味のある体験ができるかもしれない、とは思います。

岩佐
そうですね。BranCo!は、インプットーコンセプトーアウトプットの総合力で競うコンテストなので、マーケティングを学んでいるような学生だけでなくて、理系の学生も芸術系の学生も人文学系の学生も、本当に幅広い人が参加してくれるコンテストです。今日の話しを聞いて、自分の哲学とか思考を実験する場だと思って応募してくれる人が増えたら嬉しいですね。コンテストを通して自分の得意な思考や役割が見つかればそれでいいし、苦手がわかれば、得意な人と一緒にやればいい。企業は数字で、個人はいいねの数でついついよそと比較しがちだけど、自分の主観、体験をベースに、自分のやりやすい形で発言したり、社会とかかわって生きていく、その一歩になればいいなと思います。
おふたりともありがとうございました。

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