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【博報堂 マーケティングスクール】 Executive Marketing Forum 第二回 未来を実現する意思

2018.03.20
#マーケティングスクール
このページでは、2018年2月6日(火)に行われた「Executive Marketing Forum 2017-2018~ 不確実で、不確定な時代を切り開く、思考、意思、ものづくりからの考察~第二回」の模様をお届けします。
第一回、2017年12月8日(金)のレポートはこちら
ソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平 氏 (写真、左)
博報堂 生活総合研究所所長 石寺 修三 (写真、右)
博報堂マーケティングスクール 代表 岡 弘子 (写真、中央)
基調講演

好きの未来──わたしの熱が世界をまわす

博報堂 生活総合研究所 所長
石寺 修三

私ども、博報堂生活総合研究所の今期のテーマである「好き」とは、物ごとにかける情熱と、それがもたらす行動のことです。
これからの経済活性化やイノベーション誘発において、生活者ひとりひとりの「好き」が非常に重要な要素となる。私たちはそう考えています。
私たちが20年以上にわたって行っている「生活定点」調査の最新結果をみると、今後の日本の行方や自分たちの暮らし向きは「よくも悪くもならない」と考える人が増えていることがわかります。
一方、「世の中の変化が多すぎる」と感じる人は減っています。
高度成長、バブル崩壊、デフレといったこれまでの激動の時代を経て、今の日本社会は定常化し、生活者は個人生活の充実を最優先するようになっているのではないか。このような状況を私たちは「常温社会」と名付けました。
経済が成長する「加熱社会」や、下り坂に向かう「冷却社会」では、多くの人が同じ方向に向かう傾向があります。
しかし「常温社会」では、それぞれがそれぞれの幸せを自分でつくろうと考えます。
その時、鍵を握るのが「好き」という感情です。
なぜなら、「好き」こそが人が行動する時の最大の動機となるからです。
進化を続ける「好き」は生活者主導のイノベーションを生み、人を結びつけるきっかけになり、長寿社会の生きがいをつくる可能性を秘めています。
つまり、私たちは生活者の「好き」が、課題先進国といわれる日本の新しい社会資本になるのではないかと考えています。
我々が調査や取材を通じて見つけた「好き」の進化の方向性は、大きく3つです。
いろいろな人を「好き」に「巻き込む」、既存のカテゴリーの中から新しい「好き」を「生み出す」、「好き」でお金を得たり、社会で認められたりするなどして「身を立てる」──。
この3つがこれからの「好き」が持つ可能性です。
今後は、モノを自分の「好き」に合わせてカスタマイズする人が増えていくでしょう。
そうなると、素材やパーツのマッチングビジネスが伸びるかもしれません。
また、生活者同士の取引によって成立するマイクロエコノミーが成長することも考えられます。
あるいは、「好き」がスキルとなって仕事につながることもありうるでしょう。
副業が盛んになり、これまでになかった職業が生まれる可能性もあります。
教育も、例えば生徒の「好き」に合わせたカリキュラムを重視することで変わっていくかもしれません。
また、「好き」なことで地域に貢献することが納税としてみなされたり、「好き」が共通する人同士が集まって新しいコミュニティを作る・・・そんな動きが生まれるかもしれません。
企業や社会、あるいは生活者の人生のカタチも「好き」をきっかけに変わっていくかもしれません。
企業は顧客の「好き」を事業開発のリソースにしたり、社員の「好き」を組織改革のエンジンにしてみてはどうでしょう。
地域社会なら、住民の「好き」を活かしてコミュニティ再生を目指してみる。
個人の生き方では、「好き」を長い人生を生き抜くための資産として捉える・・・
そんな発想がイノベーションに繋がるかもしれません。

少子高齢化や人手不足など、日本の未来は暗い話題で語られがちですが、今や身の周りには実に多様な「好き」があふれています。
しかも、個人で完結していた「好き」は、人と人をつなぎ、新しい「好き」と新しい市場を生み出しつつあります。
この「好き」をいわば社会を動かす「熱動資本」として活かしていくこと。
それがこれからの日本に求められているのではないでしょうか。

ゲスト事例講演

大企業でイノベーションを起こすには

ソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長
對馬 哲平氏

2014年4月にスタートしたソニーの新規事業創出プログラム「SAP(シード・アクセラレーション・プログラム)」は新しい事業を生み出すことを目的にしています。
SAPには、アイデアを「生み出す」「形にする」「事業化する」という3つのフェーズがあります。
アイデアはオーディションなどで選ばれたものを育成します。
そこから、プロタイピングによる検証を行い、事業フェーズに進めるかどうかが判断されます。
これまで、この仕組みによって13の新事業が誕生しました。

「wena」もそうして生まれた事業の1つです。
「電子機器を自然に身につける(wear electronics naturally)」というコンセプトがそのままブランド名になっています。
その第一弾製品が、スマートウォッチの「wena wrist」です。
見た目はアナログの腕時計そのものですが、腕時計の本体ではなくバンドに電子マネー機能やログ機能や通知機能を搭載したもので、いろいろなメーカーの時計との組み合わせが可能です。
オーディション合格後、私は他の2人の同期社員とともに事業化を目指しましたが、「ほんとに売れるのか?」「いつ1000億円の事業になるんだ?」と何度も聞かれました。
その問いに対して示すことができる答えは2つ、つまり、市場分析に基づいたロジカルな予測と、地道なユーザーインタビューです。
さらに、そこにクラウドファンディングの結果が加われば、かなり強力な材料となります。
購買数や支援金額などの具体的なデータを示すことができるからです。
結局、「wena」は、当時の日本のクラウドファンディング史上最高額を集めることで、社内や販売パートナーを納得させることができました。
1000人の社員で1000億円の市場を取りにいくのと、10人で10億の市場を攻めるチームを100つくるのはどこが違うのかと、私は学生時代から疑問に思っていました。
なぜなら、少人数で小さく速く回す方が、小リスクで事業を立ち上げることができるからです。
また、新規事業が成功する確率は高いはずだからです。
しかし、大企業ではあらゆる仕組みが「1000億市場」を基準につくられています。
その規模では莫大な固定費がかかるので、事業規模も大きくなくては成り立ちません。
そのような大企業内で新しい事業を生み出すには、投資家と事業化という立て付けで権限を持たせてスピード感を持って事業を行うことと、固定費を可能な限り削減すること、その2つが必要です。
その一方、大企業内で事業を起こすメリットもあります。
その理由の一つが専門性の高い人材がたくさんいること、そして、もう一つが企業ブランドによって社外とのパートナーシップがつくりやすいことがあげられます。
ものづくりの新規事業を立ち上げるには、デザイナーとメカニックの専門家の存在が必須です。
何がつくりたいかを具体的な形によって説得力をもって示すことができるため、仲間集めや投資が得られやすいからです。
なにより新規事業のアイデアで最も重要なのは「起業家の主観」です。
個人の感情や思想や願いこそが多くの人の共感を呼び、その共感の連鎖によって事業は成長していく。
そう私は考えています。

講師プロフィール

博報堂生活総合研究所 所長
石寺 修三

1989年博報堂入社。
マーケティングプラナーとして得意先企業の市場調査や商品開発、コミュニケーションに関わる業務に従事。
以後、ブランディングや新領域を開拓する異職種混成部門や、専門職の人事・人材開発を担当する本社系部門を経て、2015年より現職。
著書:『地ブランド ~日本を救う地域ブランド論~』(共著・弘文堂・2006年)
東京農工大学/法政大学 非常勤講師

ソニー株式会社 新規事業創出部 Wena 事業室 統括課長
對馬 哲平 氏

wena project 事業責任者。27歳、大阪府出身。
2014年大阪大学大学院工学研究科卒業後、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社入社。
ヘッド部分はアナログ時計を採用しつつ、バンド部分に機能を搭載した腕時計「wena wrist」の構想を入社1年目で社内オーディションに応募し、通過。当時クラウドファンディングで支援額の日本記録を樹立し、2016年6月末にwena wristの正式販売を開始。
最先端のテクノロジーを自然に身に着ける「wear electronics naturally」をビジョンに掲げ、事業に邁進中。

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