THE CENTRAL DOT

【スパイクス・アジア Vol.3】セミナーレポート 1 岩嵜博論―イノベーションデザインのスペシャリストが語る「Power of Prototyping(プロトタイピングの力)」

2016.10.18
#広告賞

スパイクス・アジア2016(以下「スパイクス」)が、2016年9月21日から23日までシンガポールにて開催されました。

イノベーション、メディア、データマーケティングの分野でそれぞれ活躍する博報堂のスペシャリストが、それぞれの専門領域からの視点を交えて、今年のスパイクスのセミナーの特徴についてレポートいたします。

「Power of Prototyping(プロトタイピングの力)」

岩嵜 博論(いわさき ひろのり)
博報堂イノベーションデザイン
http://innovation-design.jp/

博報堂において国内外のマーケティング戦略立案やブランドプロジェクトに携わった後、近年は生活者起点のイノベーションプロジェクトをリードしている。専門は、新製品・サービス開発、新規事業開発、UX戦略、ブランド戦略、マーケティング戦略、エスノグラフィ調査、プロセスファシリテーション。著書に『機会発見――生活者起点で市場をつくる』(英治出版) (http://www.hakuhodo.co.jp/archives/book_category/marketing_branding)、『アイデアキャンプ―創造する時代の働き方』(共著、NTT出版)、『FABに何が可能か 「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』(共著、フィルムアート社)などがある。

◆高まる広告業界のイノベーション熱

年々高まる海外広告祭におけるイノベーション熱、今回のスパイクスでもその傾向は顕著だった。今年のカンヌでは、業界がスタートアップやデザインシンキングの流儀を積極的に自らのワークスタイルに取り込もうとする姿勢が鮮明に見られた。今回のスパイクスのセミナーでも、これらの世界のボキャブラリーが頻繁に用いられていた。

◆キーワードは「Prototyping(プロトタイピング)」

中でも目立っていたのが、「Prototyping(プロトタイピング)」というキーワードだ。プロトタイピングとは、日本語では「試作」と翻訳されるが、スタートアップやデザインシンキングの文脈では、じっくり時間をかけて完成度を高めた試作ではなく、短時間で、必要最低限のものをかたちにしたものを指すことが多い。

数あるセミナーの中で、このプロトタイピングのパワーを印象深く語っていたのがGoogleとNiantic labsによるPokémon Goについてのセミナーだ。タイトルは「A Tale of Innovation: From Google to Pokémon GO(GoogleからPokémon Goに至るイノベーションの物語)」。
(公式サイト:https://www.spikes.asia/festival-programme/#/a-tale-of-innovation-from-google-to-pokemon-go)

(写真)Tatsuo Nomura – Game Director of Pokémon GO, Niantic Labs ©Spikes Asia

登壇されていたGoogle / Niantic labの担当者によると、Pokémon Goのストーリーは、2012年のエイプリルフールトピックとして登場したファミコン風のGoogle Mapsから始まるという。このアイデアの評判が良かったため、Google Mapsを使ったゲームというアイデアのもと、2014年のエイプリルフールトピックとして、Google Maps上に現れるポケモンを捕まえてポケモンマスターを目指すというGoogle Maps Pokémon Challengeが発表された。

この試みをもとに、担当者の方はGoogle Maps上でポケモンを捕まえるゲームを短時間でプロトタイプとして制作、これをPokémon Companyに提示することで、その後Pokémon Goとして世界を席巻するゲームのプロジェクトが具体的に動き出したという。

セミナーのスクリーンに映し出されていたPokémon Goの初期プロトタイプは、現在われわれが知るPokémon Goの見た目とは若干異なるものだったが、マップ上にポケモンが現れ、それらを捕まえるというゲームの基本的なコンセプトは明確に表現されていた。これが世界を熱狂させたPokémon Goの原型なのか・・・と思うとちょっと鳥肌が立った。

そして、そんな熱狂の出発点が、エイプリルフールのトピックや短時間で制作されたプロトタイプによる、試行錯誤の積み重ねだったことに新鮮な驚きを感じると共に、こうしたプロトタイピングの力を改めて感じることができた。

◆スパイクスから見えた未来への示唆

モノ中心だった20世紀の新しいものの生み出し方は、入念な計画だった。計画がないと、生産設備に投資し、モノを生産・流通させることができなかった。一方で柔軟なプロダクト開発と顧客へのデリバリーが可能なデジタル中心の21世紀では、計画よりも試行錯誤から新しいものが生まれることが示唆される。短期間に形にし、世の中に出し、フィードバックをもとに発展させる。まさに、Power of Prototypingの時代が到来しつつあるのかも知れない。

<スパイクス・アジアとは>
スパイクス・アジアは、カンヌライオンズの地域版フェスティバルとして2009年にスタートし、毎年9月にシンガポールで開催されるアジア地域最大級の広告コミュニケーションフェスティバルです。
2016年は、「Digital Craft部門」と「Music部門」が新設され、全20部門となり、23の国と地域から過去最高の5,132作品の応募がありました。
アジア太平洋地域の広告分野における創造性の発展と、アイデアと人的交流のプラットフォームとして、カンヌライオンズ同様注目を集めています。
また本年度は、カンヌライオンズの受賞数ランキングトップ10に、アジア太平洋地域の国々が3ヶ国がランクインするなど、アジアが躍進を遂げています。

スパイクス・アジア2016 アーカイブ

【ニュースリリース】博報堂グループ、スパイクス・アジア2016にてグランプリを受賞。 他金賞5、銀賞3、銅賞12を獲得 ― ヤング・スパイクスでも2位 ―

【スパイクス・アジア Vol.2】今年のスパイクスの受賞の秘訣とは?博報堂DYグループ審査員6名コメント一挙紹介

【スパイクス・アジア Vol.1】博報堂ケトルの木村健太郎が、スパイクス・アジアDigital部門/Mobile部門/Digital Craft部門の審査委員長に。博報堂DYグループから6名が審査員に決定。

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア