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キャッシュレス化がもたらす生活者体験の変化とは?
【第2回】「いつでも決済」でマイペースが加速

2019.08.19
博報堂金融マーケティングプロジェクトでは、「キャッシュレス化が進展した先にどのようなサービスが生まれ、生活者体験が変化していくか」を洞察するために、日本に先行してキャッシュレス化の進むアジアや欧米圏の国々のキャッシュレスサービス事例を収集・分析しています。
本連載では、プロジェクトメンバーである3名から、事例収集を通じて見えてきた生活者体験の変化の可能性について、全4回にわたってご紹介します。

第1回はこちら

「いつでも決済」で変わっていく買い物体験

現金での買い物では、「店を出る直前」にレジで決済を済ませるのが一般的です。後払いや前払い、買い物の最中の支払いなども物理的には可能ではありますが、現金の管理コストやレジオペレーションの手間などを考えると現実的ではありません。しかし、キャッシュレス決済であれば、支払いのタイミングを自由に設定できます。商品棚から商品をとる瞬間、商品をオーダーする瞬間、店に向かっている道中、店から出た後など、様々なタイミングでの決済が可能になるのです。
連載二回目となる今回は、博報堂金融マーケティングプロジェクトの常廣が、このような決済タイミングの自由化、つまり「いつでも決済」によって、どのような体験変化が起こるのかを考えていきたいと思います。

無駄を省き、買い物体験全体をアップデート

海外ではすでに、決済タイミングを自由に設定することで、店舗体験を向上させているサービスがいくつも存在しています。今回は、「ショールーミング決済」と「注文同時決済」の2つに焦点を当てて紹介していきます。
ドイツの家電量販店「Saturn」は、店内を歩きながら(=ショールーミング)、アプリでほしい商品のバーコードを読み取り、アプリ内の買い物かごに追加していく方式をとっています。アプリ上での決済が完了すると、家電に取り付けられた防犯タグが自動で外れ、レジを通ることなくそのまま家に持ち帰れるという仕組みです。高額商品であっても、「欲しい」と思ってからノータイムで決済できるため、スムーズな買い物を実現しています。

また、フランスのバー「A Connected Glass」では、カクテルグラスをスマートフォンで読み取るとウェブサービス上で注文ができ、それと同時に支払いまで済ませられます。ウェイターを呼んで注文する時間や、帰り際に会計を待つ時間をなくすことで、バーでの時間を最大限楽しむことができるのです。また、注文画面からカクテルの材料や作り方を閲覧することができ、家に帰ってもカクテルを楽しめるような工夫が埋め込まれています。

事例から分かるように、購買プロセスの無駄を省くことで、店舗での時間の過ごし方が変化しています。何にも邪魔されることなく、じっくり商品を吟味したり、自分たちだけの時間を過ごしたりすることができるのです。その結果、店舗での体験全体がより良いものになっているのではないでしょうか。

未来の買い物は「マイペース」がキーワードに?

上記の事例を踏まえながら、「いつでも決済」によって可能になる未来の買い物体験を考えてみました。

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夏服をそろえるため、とあるアパレルショップに来ているAさん。
一通り店内を見た後、気になった服や靴、アクセサリーを持って、試着室へ向かいます。

「うーん、どっちの色が良いかなあ。迷うな。」
優柔不断なAさんにとって必要不可欠なのが、ショップの専用アプリです。
商品バーコードを読み込むと、アプリ上でコーディネートや口コミ情報を閲覧することができます。口コミに背中を押されたAさんは、まず1着、購入するものを決めました。
アプリ上で決済をすると、商品に付けられていた防犯タグが自動で外れるため、このまま身に着けた状態で帰ることも可能です。
試着室の中で、試着・比較検討・購入まで済ませられるので、時間を有効活用することができます。

「これ、かわいいけど、ちょっと高いし買うかどうか迷うなあ。もう少しじっくり考えたい。」
買うかどうか決めきれない服については、その場ではまだ購入せず、2日間のレンタルをしてみることに。購入するときと同じように、アプリ上でレンタル登録をするだけでOKです。

試着室を出たAさんは、レンタルした服を身に着けたまま店を後にし、友達との食事に向かいます。
「この服、実は今レンタル中なの。買おうか迷っているんだけど、似合うかな?」
「とっても似合ってる! なんで買わないの? 絶対買った方が良いよ!」
友達に背中を押され、Aさんは満足そうです。
さらに、家に帰ってから手持ちの服と組み合わせてみると、その服の良さがさらに感じられました。

買いたい気持ちが固まったAさんは、その服を購入することに決めました。
気に入らなかった場合は期限内に店舗に返却しなければいけませんが、期限を過ぎても返却されない場合は、自動的に代金が支払われるので、再度お店に行く必要はありません。

従来の現金決済であれば、店を出る直前、店舗内で支払いをしなければなりませんでした。決済のタイミングを自由に選べるようになったことで、自分のペースでじっくりと考える時間ができ、買い物の満足度が高まります。衝動買いやその場の空気に流されて服を買うことが減ったため、今のAさんのクローゼットにはお気に入りの服しか入っていません。
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近い将来、日本でもこのような買い物体験が実現するかもしれません。自分のペースで時間を過ごし、自分のペースで商品を選ぶ。商品やサービスが多様化していく中で、決まったプロセスを押し付けるのではなく、生活者自身が自由に買い方や商品の使い方を選択できる猶予を残しておくことが重要になってくると考えます。店側のコストを最小限にしながら生活者の買い物体験をより良いものにしていくことができる「いつでも決済」は、そのようなサービスの土台になっていくのではないでしょうか。「博報堂金融マーケティングプロジェクトではこうした視点から、キャッシュレス化に伴う様々なクライアント企業の課題解決をサポートしていきます。

次回のテーマは「決済場所の自由化(どこでも決済)」です。決済拠点が一か所に絞られないことで、どのような体験変化が起こるのかを考えていきます。

常廣智加
博報堂 第二プラニング局 リサーチャー
金融マーケティングプロジェクト メンバー

2018年博報堂入社。ストラテジックプラニング職として、飲料・家電・不動産などのクライアントを担当。2018年から金融マーケティングプロジェクトに参画。現金のやりとりを極限まで減らすため、一緒に遊びに行く友人にはその場で送金サービスの登録をしてもらっている。弾丸旅行と脱出ゲームが好き。

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