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【日本タイダン。】第4回ゲスト 田中 里沙さん(事業構想大学院大学学長)
「学び」が地元愛を育む 地域活性化に欠かせない事業構想力と教育

2019.06.10
#ブランディング#地域創生#教育
日本の地域を訪れ、体験や発見をつづる連載コラム「日本トコトコッ」の執筆や地域のまちづくりに関わる、スマート×都市デザイン研究所長・深谷信介が、日本の地域活性について、さまざまな分野のオピニオンリーダーと対談する連載コラムです。

深谷 今回は、研究・教育の立場から地域創生に取り組まれている事業構想大学院大学学長の田中里沙さんをお招きしました。
田中さんもご存じのとおり、政府が打ち出した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中に、「住民+産・官・学・金・労・言・士」という、何かの呪文のような(笑)変わった用語が出てきますよね。産業界・行政・学校・金融機関・労働団体・言論界・士業のことで、これらのステークホルダーとの連携が地域活性化に不可欠だと言っているわけです。この中で、私が最も重要だと考えているのが「学」、つまり教育です。地元愛を地道に育んで、地域創生を本当の意味で支えるような人材を継続的に育てるためにも、地域と都市の情報共有を図って両者を良い感じでつないでいくためにも、教育の意義というのは大きいはずです。
事業構想大学院大学は事業構想の視点から地域創生を支える教育機関であり、その活動内容にとても興味がありました。以前田中さんとお会いした際に、いずれは47の都道府県すべてに大学院を設置していくというビジョンをお聞きして、とても素晴らしいと思ったのですね。

田中 ありがとうございます!

深谷 しかも田中さんは広告業界出身で、以前は雑誌「宣伝会議」の編集長を務められていたという異色のご経歴の持ち主です。ぜひ地域に対する田中さんのお考えをいろいろお聞きしたいと思っています。
まずは事業構想大学院大学がどんな教育機関なのか、改めてお聞かせいただけますか?

田中 はい。2012年に文部科学大臣の認可を得て開学した社会人専門の大学院大学で、東京・表参道に続いて福岡市、大阪市、名古屋市にも設立し、現在は計4都市にあります。
経営スキルではなく、事業構想を生み出す力を研究し、形にしていく大学院であることが最大の特徴です。院生たちは、自社の新事業、承継に向けた新領域開発、地域創生のための新たなビジネスなど、それぞれの関心や使命感において事業構想の研究を行い、2年間かけて実現可能な構想計画を作り上げていきます。集まる人たちは世代も業種も経験や経歴もさまざまですが、企業において新規事業の開発に取り組む人、次代の経営者として事業承継を担う人、地域創生に取り組む人、自らアントレプレナーを目指す人という4タイプの方々が中心です。

深谷 やはり「事業構想」をテーマにしている点がとてもユニークですよね。

田中 そうですね。事業構想というのは、その事業が目指すべき理想の姿でありビジョンです。これ無くして事業の成功はないわけですが、事業構想は自らの経営資源をもとに考えて創出すべきものなので、一般的なビジネススキルとは違って講義形式で簡単に教えられるものでもありません。事業の根本となるようなアイデアを数多く構想する習慣をつけたり、自分とはまったく異なる発想や価値観を持った人たちと議論を繰り返すことで構想力を磨いていくしかありません。その実践の積み重ねができる環境を提供していこうというのが、私たちの考えです。

深谷 ちなみに、広告畑出身の田中さんが大学教育のお仕事に移られたのは?

田中 大学教授や教育者を目指して仕事をしてきたわけではありませんが、宣伝会議は出版と教育の会社です。クリエイターやマーケターの人材育成は、広告界の発展のために必須ですし、人を育てる意義や価値を実感していました。株式会社宣伝会議の東英弥会長が、事業構想大学院大学の創設者でもあるので、直接的にはその縁です。日本全国の、特に中堅中小企業を潰さない、事業構想で多数の企業が活性化すれば、広告界の活躍の場も広がるという思いもありました。
私が広告界で仕事を始めた時は、広告ビッグバンと言われたように、デジタル化の流れも加速してメディアの環境変化などを背景に広告の役割や文化も変わり、単なる一方通行的な宣伝ではなく、企業のコミュニケーションとしての本質的な意義が問われるようになりました。広告会社もフィービジネスだけじゃなく、自ら新事業の開発に本気で取り組まなければ生き残れない、という危機意識を持ち始めた頃。そうした変化の中で、雑誌『宣伝会議』が廃刊の危機に陥り、立て直しのための新創刊の計画が進んでいると聞いて、私も新たな広告の時代をつくっていくような仕事に携わりたいと、宣伝会議編集部に移りました。その後、2年ほどで編集長になりました。
当時私たちが目指したのは、『宣伝会議』を広告業界の雑誌ではなく、広告主企業および産業界のための雑誌にすることでした。そもそも“宣伝会議”って、企業内で宣伝について検討する会議体のことですよね。その原点に立ち返って、企業のコミュニケーションがどうあるべきかを考える雑誌にしようと。さまざまな先進的な企業事例を取材・発信するようになり、好評をいただきました。同時に、30代の宣伝部の方を中心に、これからの世代を担う方々との情報交換に力を入れてきました。
事業構想大学院大学に移ってからも、やっていることは似ています。新事業創出や地域創生に取り組む上でも、コミュニケーションは重要な役割を果たします。そもそも新しい事業を構想し、魅力的な目標やビジョンを打ち出すことで人々を巻き込んでいくというのは、非常に広告コミュニケーション的でもあると思います。事業構想について院生たちと一緒に研究を続けながら、私はコミュニケーションの視点でアドバイスしています。多彩な専門分野を持つアカデミック教員と実務家教員がいますので、私自身、先生方からも院生からも刺激を受ける毎日です。
2012年に教授に就任すると同時に、大学出版部部長として月刊「事業構想」を創刊。新規事業創出の事例を取材収集し、情報発信する仕事を現在も続けています。

地域創生に欠かせない事業構想

深谷 事業構想大学院大学は、地域創生に関する独自の研究会を開設していたりして、地域の仕事にかなり積極的に取り組まれていますよね。新規事業開発やアントレプレナー育成だけでなく、地域創生にも力を入れているのはなぜですか。

田中 地域創生においても、新規事業を生み出す構想力が欠かせないと思うからです。今、日本の地域が困っているのは、人口が減っていることと働く場所がないこと。この2つを解決するには事業の創出が必要です。地域に住んでフリーランスで働くこともできるけれど、その人が何らかの組織を作って事業化すれば、そこに新たな雇用が生まれます。そういう事業がいくつも生まれれば、その地域に人とお金の新しい流れが生まれるはずです。

深谷 それは本当に同感です。地域創生について政府が掲げている「まち・ひと・しごと」という言葉がありますが、3つの順番を逆に読むべきだと私はいつも言っています。「しごとを創って、ひとを呼び込み、まちを再活性化する」つまり、生業となる仕事がないために地域で暮らしたくても暮らせないのが一番の問題。そこから着手すべきだと思うんです。
地域の高齢化が問題視されたりしますが、地域の農業では80歳とか90歳とかの人たちがごく普通に元気で働いています。わたしでも超若手で充分人足になる。もちろん体力を使うので大変ですけど、実際に行ってみると、自然に囲まれた暮らしの方が都会に比べてずっと健全で豊かなんですね。足りないのは仕事だけ。それさえあれば、人はそこに集まるし、街づくりも自ずと動いていくはずです。
ただし、東京にあるビジネスをそのまま地域にコピペで持っていこうとするとたいてい痛い目にあいますね。その地域に合ったビジネスをどうやって作っていくか、この点がとても重要です。

田中 最近は、クリエイティブ系の優秀な若い人たちの間でも、地域で起業したい、地域創生に取り組みたいという人が増えています。とても良いことですが、でも実際に行ってみると、現地でだいぶ苦労されていると聞きます。何かサポート策はあるでしょうか。

深谷 そうですね。そもそも東京でビジネスを生み出すよりも、地域でそれをやるほうがはるかに難しい。日本は課題先進国と言われますが、地域はそのトップランナーですから。少子高齢化・人口減少の進度は本当に速い。人口が少ないから、セグメントを明確に絞り込んでターゲティングしていくようなマーケティングや事業戦略が成り立たない。ステークホルダーの利害関係も複雑です。
もちろん成功事例もあるんですが、地域によって事情がまったく異なるので、地域ごとにオリジナルの特殊解を探していくしかないんです。成功したケースだけでなく、残念ながら失敗に終わったケースも地域創生のための貴重な情報としてしっかりと共有しないといけない。どこまでやれるかわかりませんが、そういう意味での情報発信・共有は私がやっていきたいことの一つです。
一方で、地域の活性化を抜きにしては、これからの日本は生き残れないのも事実です。今までの日本経済の戦い方って、スポーツの世界に例えると、各地の地区大会で優勝した人を東京に集めて選抜チームをつくるようなやり方だったと思うんです。しかも、その評価軸は「受験勉強で勝ち上がった人」という一軸しかない。ちょっと前まで何となく機能していたけど、今はうまくいかなくなっている。
これは日本だけの話で、ほかの国は全然違うんですよね。米国でも欧州でも、地域発の力強いビジネスがどんどん生まれている。米国でニューヨークに本社のある企業だけが強いなんてことはないですから。

田中 たしかに、グローバルで見ると優れた経営者は地域に根ざした方が多い気がします。以前、外資系自動車メーカーの幹部の方々とお話ししたときも、社長はたいてい、都会出身ではなく、風が木々を揺らす音や野鳥の声を聞いて地域で育った方が多いと聞いて、ちょっと驚きました。経営にはクリエイティビティが大事だから当然だと言うんですね。そもそも日本のGDPも半分は地域が稼いでいますし、地域には自然のみならず、起業家を育む土壌や要素がありますから、さらに大きく成長できる可能性が十分ありますね。

深谷 そのとおりです。これから日本が世界で戦える資産って地域にしかないので、そろそろ分散した方が良いのではないかと。ただ、地域に魅力的な資産があることを地域の人たち自身が気づいていないことが多いので、そこはメディア企業や広告企業が力を発揮すべき領域だと思います。田中さんも、学長になられた今もメディアを通じて情報発信する仕事を続けているそうですね。

田中 はい。私が編集室長を務める月刊「事業構想」では、2012年9月の創刊以来ずっと地域自治体の特集を必ず毎月組んでいます。毎回、47都道府県および主要市、政令指定都市を取り上げて、首長がどんな構想を持っているのか、どんな自治体になることを目指しているのか、その地域で活躍している民間企業やNPO法人などの主要プレイヤー達は何を考えているのか、などを伝えています。地域の情報はその地域だけで完結してしまいがちで、東京に届いていないのはもったいないなと以前から思っていました。情報の力で地域を支えることは大切だと思っています。

教育が地元愛を育む。食育が有力な突破口に

深谷 地域の活性化のためには、メディアや広告を通じた情報発信だけでは足りなくて、冒頭でもお話ししましたが、「学=教育」がとても重要になると思っています。
地域創生を営み支えるのは地元の方々ですし、そこに健全な地元愛が育まれていないとなかなかうまくいかない。そういう地元愛は「学び」から始まると思うんです。学校で勉強するという意味ではなく、朝起きて寝るまで、食べたり寝たり遊んだり、あらゆる体験を通じてどんなことを得るか。
地域の国立大学は近年、高校生たちにできるだけ地元の大学に入学してもらって、なおかつ地元企業に就職してもらおうとしています。大切な視点ですが、地元への入学率・就職率をKPIにしてそれだけを目指しても、地元への愛着がないとあまり意味がない。逆に地元への愛着があれば、一度東京に出てもUターン就職する学生がちゃんと出てくると思うんです。

田中 学校教育で「総合的な学習の時間」が定着して、小学生の頃から地域のことを学ぶ機会が増えましたよね。自分のふるさとにある素敵な企業・産業の存在、全国有数の農産物や特産物の魅力や価値を知ると、地元への意識も確実に変わると思います。ただ、まだまだ選択肢が少ないですね。地域資源の発掘と磨き上げが必要です。

深谷 地元愛と教育の関係をうまく築いていくには、「食」が有力な突破口になると思っています。私が参画した例で好評だったのが、鳥取県日野町の小中学生を対象にした食育でした。町民数は約3000人、小中学生は合計で100人程度しかいない小さな町。やったことは、その地域で一番美味しいご飯を給食で出すことでした。
近隣で採れる海藻を肥料として蒔いて育てるミネラル豊富な「海藻米」というお米があるんですね。手間がかかる農法なのですが、でも本当に美味しい。そんなお米を給食で食べられること自体素晴らしいことですし、心身共に、地域の子どもたちの成長に少なからず良い影響があるでしょう。しかも美味しいものを食べて育つと、ほかの地域のお米を食べても味の違い・その豊かさに気づく。地元の食文化への愛着が、自然と生まれていくと思うのです。

クリエイターこそ地域に行くべき。求められるアダプテーション能力

深谷 最後に、地域での事業創出を目指す人、地域創生に取り組む人たちにメッセージをいただけますか。

田中 最近は民間の立場で、地域での事業創出を目指す人が増えていますが、ぜひ広告やメディア、デザインなど世界で活動しているクリエイターの人にもっと地域に目をむけ、行ってほしいと思っています。
以前、事業構想大学院大学が日本デザイン振興会と共同で「地域×デザイン」展という企画に取り組んだことがあります。首都圏在住のクリエイターの人たちに地域に興味を持ってもらって、移住を進めるプロジェクトで、10組以上の人々が実際に地域に移住しました。彼らに聞いてみると、豊かな自然の中で暮らすことで生活も充実するし、今までは出せなかったようなアイデアが生まれたり、仕事にもたくさんの好影響があるというんですね。その地域になかった仕事をする人が増えると、地元企業にも刺激になって活性化することを実感しました。新しい生き方、働き方を提案できるところが、クリエイティブな分野の強みでもあると思います。地域も、その魅力によって明るく洗練されていきます。

深谷 東京にはその分野でスキルの高い人たちがたくさんいるので、ぜひ地域に行ってほしいと私も思っています。その際、意識してほしいのがアダプテーション能力ですね。自分のスキルをそのまま地域で発揮しようとしてもうまくいかない。得意先が違えば勝手が全然違うのと一緒ですね。地域の場合、そこをより強く意識する必要があります。

田中 同じ環境なんてどこにもないと思ったほうがいい、ということですよね。広告やメディアの業界の人って、異業種の方との連携が常に求められているから、アダプテーション(適応)能力も高いですよね。だから強いのだと思います。
未知の環境にぱっと放り込まれて、その都度、柔軟に対応しながら、一定の成果をだすべく鍛えられた人は、それだけ知見も蓄積されているし、さまざまなアドバイスができるはず。地域創生でもぜひ活かしてほしいです。

深谷
地域の資産はそれぞれユニーク・画一的でないからこそ学びが多い、だからこそアンテナ/感度の高い方々のクリエイティビティが継続的に発揮できる可能性は高いし、優れた事業構想・ビジネスもこれからどんどん生まれていく、そんなモーメンタムを強く感じます。学びを通じて事業構想を広める取り組み、ますます目が離せません。本日はありがとうございました。

対談を終えて|深谷信介

常に前へ
しなやかな向上心と骨太の快活さ
かつ自然体な身のこなし、場のつくり方
広告出自の学長だからこそ、
新たな学舎のリーダーたる所以をここにみたり
田中さんからは、そんなオーラをひしひしと感じました

事業であること、地域のひとにはちょっと意識してほしい
地元とあること、移住者のひとには強く意識してほしい

自助・公助・共助
あたりまえにいわれてきたことが、この日本でなぜ薄れていくのか?
地域にいけば、すぐに理解できる

100年超の企業が世界で一番多い国、日本
あらたなフレーム論を持ち込まなくとも、
社会のサステナブルの片鱗は、そこここにある
それを支えてきたのは、学びであり生業であり構想であり実施であり、継承である

短い時間でたくさんのことを学ばせていただきました
田中学長、ありがとうございました
ぜひどこかでご一緒させてください

田中 里沙(たなか・りさ)
事業構想大学院大学 学長・教授/宣伝会議取締役

1993年より広告・マーケティングの専門雑誌「宣伝会議」にて編集者として企業宣伝・マーケティング部、メディア業界担当記者、海外情報デスクを担当。1995年「宣伝会議」編集長に就任。市場の多様化、メディアの細分化に即し、新雑誌「販促会議」、「広報会議」を立ち上げ、新市場を開発。2003年より環境コミュニケーション誌「環境会議」、哲学の雑誌「人間会議」編集長を兼任。広告専門新聞「アドバタイムズ」を創刊。2011年より株式会社宣伝会議取締役副社長兼編集室長としてメディアを統括。2012年事業構想大学院大学教授就任とともに、大学出版部部長として月刊「事業構想」を創刊。2016年4月より現職。新規事業、地域創生プロジェクト研究を実践するとともに、ワークショップ、インタビュー、事例を取材収集し、記事を執筆、発信している。日本郵便社外取締役。内閣府、総務省、財務省、環境省、国土交通省等の審議会委員を務める。

深谷 信介
スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表 / 博報堂ソーシャルデザイン副代表

事業戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やソーシャルテーマ型ビジネス開発に携わり、 近年都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究・実践を行う。主な公的活動に環境省/環境対応車普及方策検討会委員 総務省/地域人材ネット外部専門家メンバー、富山県富山市政策参与などのほか、茨城県桜川市・つくばみらい市・鳥取県日野町など内閣府/地域創生人材支援制度による派遣業務も請け負う。

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