AI時代のデータ基盤:『生活者DATA PLATFORM』と外部データコラボレーションが生み出す次世代マーケティング【セミナーレポート】【前編】

生成AIの普及により、マーケティング業務の効率化や自動化は急速に進行しています。しかし、AIによる最適化が極限まで進むと、すべての企業が同じ答えにたどり着き、施策が似通ってしまう「同質化」という新たな課題が浮き彫りになりつつあります。博報堂DYグループは、こうした課題に対して、AIを単なる効率化の道具にとどめず、人間の創造性を拡張するパートナーとして捉える「AI-POWERED CREATIVITY」という戦略を掲げています。 

本記事では、博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナー『AI時代のデータ基盤:『生活者DATA PLATFORM』と外部データコラボレーションが生み出す次世代マーケティング』の様子を、前後編に分けてお届けします。前編では、博報堂テクノロジーズの木下陽介が、AI時代の到来によるマーケティングの変化、独自の共創プロダクト「バーチャル生活者」、そしてカスタマージャーニーの変化と新たなデータ基盤の必要性について解説します。続いて、同社の後皓介が「生活者DATA PLATFORM」を実務で活用するための「4つのデータ利活用アプローチ」について詳しく紐解きます。

<登壇者> 
成田 央縁氏
LiveRamp Japan株式会社 日本カントリーマネージャー 
堀江 藍氏
株式会社スタジオアルタ 営業推進担当 マネージャー 兼 株式会社三越伊勢丹 アプリビジネスグループ事業企画部 マネージャー 
木下 陽介
株式会社博報堂テクノロジーズ 執行役員 兼 マーケティング事業推進センター センター長 
後 皓介
株式会社博報堂テクノロジーズ マーケティング事業推進センター 開発推進2部長

AI時代の到来によるマーケティングの変化とデータの重要性について

木下
第一部では、「AI時代の到来によるマーケティングの変化とデータの重要性」についてお話しします。私は博報堂テクノロジーの執行役員で、マーケティング事業推進センター長を務めております木下と申します。博報堂テクノロジーズは2022年に設立され、博報堂DYグループ全体のテクノロジー戦略と開発を担っています。現在、約606名の体制で推進しています。私の率いるセンターでは、博報堂DYグループ全体の統合マーケティングプラットフォームである「CREATIVITY ENGINE BLOOM」と、そのデータ基盤である「生活者DATA PLATFORM」の開発を進めております。まず、「CREATIVITY ENGINE BLOOM」についてご紹介します。これは、マーケティングの様々な業務プロセスを標準化し、社員やマーケターの創造性を引き出すことで、未来の市場を描き出すためのプラットフォームです。

「CREATIVITY ENGINE BLOOM」は、マーケティング戦略からメディア、クリエイティブ、コマース、エンゲージメントまで、幅広い業務プロセスを標準化してカバーするプロダクト群を開発しています。 さらに、博報堂DYグループが長年培ってきた生活者発想の知恵を学習させ、AIと対話しながら社員の創造性を拡張する「生活者発想プラットフォーム」、そしてそれらすべてのプロダクトを支える「生活者DATA PLATFORM」という3つのレイヤーで構成されています。

これによって、プラニング業務の効率化と高度化を同時に実現し、クライアント企業の事業成長をテクノロジーで支援しています。博報堂グループが培ってきた勘や経験といった言語化しにくい暗黙知をAIに学習させ、アクセス可能にすることで、プランニングの効率化と高度化を実現します。

具体的には、市場ターゲット分析を行う<STRATEGY BLOOM>、バナーや動画のクリエイティブ開発を支援する<CREATIVE BLOOM>、テレビとデジタルの投資最適化を行う<MEDIA BLOOM>など、多くのプロセスにおいて効率化・高度化を実現しています。

木下
ここで重要なのが、AIに対する私たちのスタンスです。AIやテクノロジーに過度に依存してしまうと、どの企業も同じ答えにたどり着いてしまい、施策が他社と似通ってしまう「同質化」の問題が起きると危惧しています。
マーケティングの本質は、生活者の潜在ニーズを捉えることです。しかし、AIは世の中にまだ存在しないものや、言語化されていないものを出力することはできません。あくまで「人間を中心に置き、潜在ニーズをつかむためにAIの力を使う」という考え方が必要です。これを私たちは「AI-POWERED CREATIVITY」というフィロソフィーとして掲げています。つまり、AIで人間の創造力を最大化することを目指しています。

私たちはAIを単なる効率化のための「オートメーション」の道具として使うだけでなく、博報堂の強みである「生活者発想」と掛け合わせて、人間のクリエイティビティを拡張させる「オーギュメンテーション」の武器として活用していく。この「両輪」で課題を解いていくことが、私たちの基本姿勢です。

木下
具体的なアウトプットの一つがこちらの「バーチャル生活者」です。これは生活者のデータをベースに、AI上に多様な生活者像を再現し、チャットUIを通じて顧客の深層心理やインサイトを引き出すプロダクトです。2025年11月に社内リリースし、すでに社内での利用者は2,800人を突破、実務で幅広く活用されています。

「バーチャル生活者」は、マーケティング戦略立案時のインサイトワーク、コンセプト評価、CM評価など、マーケティング業務プロセスの様々なシーンで利用することが可能です。随時新しいAIエージェントと連携させ、さらに今回の本題である我々が保有するデータとシステムを連携させていくことで、AIと人間が対話しながらプラニングを支援する、業務基盤へと進化させていく予定です。

木下
この「バーチャル生活者」の登場は、単に個別の業務を効率化するだけでなく、私たちの業務プロセス自体を大きく変えつつあります。
これまでは、クライアント企業からご依頼をいただいた後、営業、戦略プラナー、クリエイターへと、いわば伝言ゲームのように依頼を繋いでいく「情報伝達バトンリレー方式」が一般的でした。しかし、AIとの対話が可能な環境ができたことで、クライアント、営業、戦略プラナー、そしてクリエイターがAIとともに対話を重ね、検討と意思決定、ブラッシュアップをその場で行う共創型の「ラウンドテーブル方式」へと進化しています。

調査、コンセプト開発、試作といった各フェーズにおいて、AIという共通言語をはさんで、全員が戦略テーブルについて即座に意思決定をしていく。これが、BLOOMがもたらす新しい働き方になるのではないかと思っています。

木下
AI時代において、他社との同質化を防ぎ、質の高いアウトプットを生み出すために、もう一つ欠かせない鍵となるのが「データ」です。生活者や社会をより深く洞察するためには、独自のデータ基盤が必要となります。

その背景には、生活者のAI利用の急増があります。
調査では、全世代における生成AIの利用率は2026年2月時点で50%を超えており、若年層においては極めて高い利用率に達しています。

これに伴い、生活者の情報行動は大きく変わろうとしています。これまではインターネット上で自らキーワードを入力して能動的に情報を探しに行く「Search=検索行動」が中心でしたが、これからは、AIアシスタントに自然言語で話しかけ、対話を通じて最適な回答を受け取る「Ask」の行動へと本格的にシフトしていくと考えられます。さらに、検索結果画面でAIが回答を完結させ、ユーザーが元のウェブサイトに遷移しない「ゼロクリック検索」や、画像や音声を用いた「マルチモーダル検索」も広く一般化する未来が見えています。

木下
このような影響により、私たちがこれまで想定していたカスタマージャーニーは、大きく変化することになります。これまでは、テレビCMなどで商品を認知し、気になったらウェブで検索し、詳細情報をチェックした上で、店舗やECで購入に至るという、直線的でリニアな購買意思行動プロセスをたどるのが一般的でした。

しかし、AI検索によって、大きくカスタマージャーニーが変革するのではないかと思っています。これからのジャーニーは「AI検索」が出発点となり得ます。AI検索を行った後、ある人はそのままウェブサイトへ行き、ある人はSNSのリアルなコメントを確認し、またある人はいきなり実店舗へ向かいます。さらに、相談ニーズがAI内で高度に満たされるため、AI検索の後に自社オウンドサイトやアプリへシームレスに誘導する動線を設計したり、ユーザーIDと直接連携したカスタマイズサービスを提供したりすることが必要になります。
このように、個人個人によってカスタマージャーニーは細分化され、極めて複雑な経路をたどるため、私たちは6領域を意識しながら生活者の深層心理を理解し、生活者にとって最も快適な行動環境を促すマーケティングが求められていくと考えています。

木下
ここで、私たちが立ち返るべきなのが、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」です。
人を単にモノを買う「消費者」として一面的に捉えるのではなく、日々の生活の中で多様な関心や価値観を持って生きる「生活者」として、全方位的に深く洞察することが重要になります。

生活者は、24時間365日、常にその企業の商品だけを考えて生活しているわけではありません。 例えば私を例に挙げても、動画配信プラットフォームでサッカーの試合を観戦したり、SNSで最新のワールドカップ情報をウォッチしたり、ゴルフが趣味なのでECサイトで最新のゴルフギアをチェックしたりといった日常の行動を送っています。その一方で、娘が「地震が起きたら怖い」と不安そうにしている姿を見て、家族のために「地震保険」を真剣に検討し始める。 このような様々な関心が並行して存在しているのが、リアルな生活者の姿です。

しかし、多くの企業が把握できている顧客データは、自社サイトのアクセスログや自店舗での購買履歴といった、生活者の行動のほんの一部にすぎません。これは、いわば顧客の「消費」のデータです。 ですが、実のところ、その外側にある広大な「消費以外」の動向、すなわち競合商品の比較検討状況、SNSでの偶発的なつぶやき、ライフイベントの兆しといった情報にこそ、生活者の真のインサイトや購買意図「インテント」が隠されているのです。

木下
だからこそ、このAI検索時代においては、自社の「内海」データだけに頼るのではなく、生活者が広大な「外海」で見せるリアルな行動動向をデータと連携し、生活者の深層心理を360度捉えられるデータ基盤を、IDベースで構築し、生活者自身も気づいていない潜在ニーズをとらえることで、AI時代の生活者理解を深めていくことが大事です。

それを体現するのが、博報堂DYグループのデータ戦略の背骨である「生活者DATAPLATFORM」です。クライアント企業が保有するファーストパーティーデータに、私たちが長年蓄積してきた大規模なメディア接触データや、生活者の価値観・深層心理を捉えた意識調査データ、さらにプラットフォーマー各社が有する購買・行動データを掛け合わせ、これまで断片化されていたデータを一本に繋ぎ合わせていきます。

意識調査データから、ウェブ、テレビ、購買などの各種アクチュアルデータ、さらにプラットフォーマーや、クライアント企業のCDPまでを連携させることで、生活者や社会の動向を深く理解できるデータを蓄積し、様々なアプローチで企業のマーケティンググロースを支援していきたいと考えています。

では、具体的に「生活者DATA PLATFORM」にはどのようなデータを蓄積し、どのようにデータ連携を行っていくのか。ここからは、マーケティング事業推進センター開発推進2部長の後にバトンタッチして詳しくご紹介します。

→続きは、生活者データ・ドリブンマーケティング通信へ

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