事業プラニングが目指す新たな広告会社の姿【vol.5】 人口減少社会の暮らしを再編集する「モビリティ×まちづくり」の最前線

現在、様々な領域でのデジタルシフトが進み、生活者インターフェース市場が次々と誕生しています。本連載では博報堂が目指す、新しい形でのクライアントの事業戦略・開発支援の姿に迫ります。第五回は、立命館大学の塩見康博教授をお迎えし、「モビリティ×まちづくり」をテーマに対談を実施しました。人口減少社会において、単なる移動手段の維持にとどまらず、人々のくらし起点で街や移動をどう再編集していくべきか。行政と民間の垣根を超えた持続可能な地域づくりのアプローチと今後の展望について語り合いました。
【対談メンバー】
・塩見康博教授:立命館大学 理工学部 環境都市工学科 教授
・堀内悠:博報堂 STP局 局長補佐 事業プラニング領域担当
・常廣智加:博報堂 STP局マーケティングプラニングディレクター
・黒住奈生:博報堂 STP局マーケティングプラナー
・金井亮雅:博報堂 STP局マーケティングプラナー/データサイエンティスト
・工田菜央:博報堂 STP局マーケティングプラナー
※この対談は、立命館・京町家キャンパス船鉾町会所で実施させて頂きました。
人の流れをデザインする、「くらし」起点での交通工学の考え方
堀内:本日は、立命館大学の塩見先生をお迎えしました。これからの交通、そして地域の暮らしをどうデザインしていくべきか、その突破口について議論していければと思います。塩見先生とは、京都大学の工学部地球工学科の同級生でして、そのご縁もあり、今回こういった場を設けさせていただきました。
塩見:よろしくお願いします。私は、2000年に京都大学の地球工学科に入学しまして、そこで堀内さんとクラスメイトでした。我々の学科は3回生に上がる時に、「環境」「資源」「土木」の3つのコースに分かれるのですが、その時に「土木」に進みまして、交通の研究室に配属されたのが、今に繋がっています。
堀内:土木の中でも、塩見先生が「交通」の研究室を選ばれたのは、やはり人の動きに興味があったからですか?ちなみに、私は「資源」専攻で、石油などの地下流体の研究をしていました。
塩見:懐かしいですね。配属された北村隆一先生の研究室が、交通行動の分析で非常に先駆的だったからです。当時は藤井聡先生も助教授としていらっしゃいました。僕はそこで、車の流れや交差点をいかに数理的にマネジメントするかを研究していました。卒論では、アジアの交通流、例えばタイやカンボジアでバイクが溢れかえっている交差点をどう整流化するかを調査しましたね。

金井:塩見先生の修論や博論のテーマは「高速道路の渋滞」でしたよね。実は私もデータサイエンスの観点から流体力学を扱うことがありまして、先生の「渋滞は確率的に発生する」というモデルには非常に親近感があります。
塩見:流体力学は、まさに交通工学の基礎ですね。渋滞は「何台来れば必ず起きる」という単純なものではなく、ドライバー一人ひとりの「希望速度」のばらつきによって、確率的に変動する現象です。修論・博論では、車の流れを流体としてモデル化するマクロな考え方を中心に、希望速度のようなミクロの要素は最小限取り入れながら、渋滞発生確率を予測する手法の開発をしていました。
博士号取得後は京大の助教になりまして、その間に1年間オランダで研究する機会をいただき、これが私の大きな転機になりました。オランダは国土の3分の1が海抜下なので、水位をいかに管理するかが国家の死活問題でして、昔からかなり土木技術が発展しているんです。水の管理と、ヒト・クルマの流れの管理は共通する部分があるので、水を管理してきた土木の考え方やマインドが交通の分野にも活かされているようで、かなり先進的なことをやっている印象でしたね。
工田:オランダの思想は、交通だけでなく、まちづくり全体へのアプローチにも直結しそうですね。普段私たちがプロジェクトを進める中では、どうしても交通単体の課題が出発点になってしまいがちなので、土木や人流の観点から考えるのはすごく参考になりそうです。
その後、立命館大学へ移られてから、「まちづくり」へと視点が本格的に広がっていったのでしょうか?
塩見:2012年に立命館大学に移った時、大学の中だけで理屈をこねていても学生はついてこないし、世の中の役に立たないなと感じたんです。ちょうど滋賀県が「公共交通網形成計画」を作り始めた時期で、そこに参加させてもらったのが現場に入るきっかけでした。その中のモビリティマネジメント分科会に参加させていただき、公共交通をいかに使ってもらうか、使ってもらえるものにしていけるかを検討していました。交通系ICカードのログデータを分析して生活者の動きを可視化したり、地域の人たちとワークショップをしたりする中で、交通は単なる「物理的な移動」ではなく、人々の「くらし」そのものである、と確信しました。
大前提として、人が同じところに向かって移動するのであれば、その需要をちゃんと束ねていった方が効率的だよねっていうのがマストランジットの論理です。もし人々が何かしらの活動をするのであれば、同じ場所で集まってやる方が、集積の経済・規模の経済の観点からも効率的です。だから、拠点となる場所や集まりたくなるような場所があって、なおかつ、そこにみんなで一緒に行く手段がある、その両方がうまく回ってくると、移動の生産性も上がるし、街としての賑わいも出てきますよね。
黒住:そういった観点で見ると、どこからどこでも行ける、タクシー型の公共交通は、束の移動を促して町の賑わいをつくる、という考え方とは逆行しているのかもしれませんね。移動の利便性だけで考えるのではなく、街としての賑わいをどう作るのか、どこに人が来てほしいのか、も含めて考えないと、結局まち全体のための交通にはなりにくいですね。

塩見:そうなんです。自由度の高い交通は確かに個人のニーズには応えますが、人々をバラバラに運ぶだけでは、街としてのまとまりは生まれません。人々が個別に点として動くだけで、束になりにくいですからね。
常廣:私たちが公共ライドシェアサービスを実装するときに、あえて停留所やダイヤを設けるのも、実はそういった考え方が根幹にあります。ある程度、同じ目的地、同じ時間帯で、移動の束を作りながら拠点の活性化も狙っています。
【交通モードの考え方】

※肩書は取材当時のものです