【日立製作所×博報堂PROJECT_Vega対談】
共創だからできる、新しい価値のつくり方

社会課題を、ブランドや企業にとっての新たな成長機会として捉えることが求められる時代。大きなスケールの成長を実現するうえで、「共創」は欠かせないアプローチとなっています。 9月16日に開催された「アドタイ・フォーラム2026」では、日立製作所の黄 珮君氏をゲストに迎え、博報堂 PROJECT_Vegaの近山 知史、夏 秋馬寧が登壇。企業の枠を超えてビジネスをスケールするための共創の考え方や実践知について語りました。本記事では、その講演の模様をお届けします。
黄 珮君 氏
株式会社日立製作所
経営戦略統括本部 グローバルブランドコミュニケーション本部
日本担当コーポレートコミュニケーション部 部長代理
近山 知史
株式会社博報堂
PROJECT_Vega エグゼクティブクリエイティブディレクター
夏 秋馬寧
株式会社博報堂
PROJECT_Vega PRディレクター
「問い」と「想い」を共有し、役割を超えてケイパビリティを発揮していく
近山
「共創」、これは会場の皆さんにとって、決して珍しい言葉ではないと思います。「なぜ今さら共創?」と思う方もいるかもしれませんが、私はマーケティングにおいて「共創」の重要性がますます高まっていると確信しています。経済活動の中で社会課題が無視できない現代、小さな差別化を競い合うのではなく、どこの想いが同じか、どこで力が合わせられるかという視点がより成長を促し、スケールの大きな仕事を生んでいくからです。そんな共創はどうやったら生まれるのか。PROJECT_Vegaと日立製作所、それぞれの考えをお話しいただこうと思います。
夏
官民連携などは、各自に決まった役割があり、その役割同士が連携することと一般的に解釈されますが、我々の考える共創では、役割から自分が何をするかを定義するのではなく、自分がしたいこと、できることから、プロジェクトに応じて最適な座組やパートナーをアジャイルに組み合わせていきます。1人の人間が肩書を超え、営業マンにも、地域を引っ張るリーダーにもなりうるのです。

そこで重要なのが公共の想いです。昨今は「パーパス」のように、企業目的そのものに世の中全体を巻き込むような目線が組み込まれていますから、「共創機会」に当てはまるプロジェクトをどんどん生み出していけば、必然的に収益にもつながるということになります。そこを目指していこうという考え方です。
近山
想いの部分、つまりWhyをしっかり一緒に作っていくことですね。日立の黄さん、いかがですか。
黄
日立では「協創」と表現しており、協力の協という漢字を使っております。お客さまと協力し合って一緒に作っていくという意味合いが強いですね。社会課題解決は一社だけではできないからこそ、「この社会課題をどう変えていくのか」「社会やお客さまが抱える課題は一体何なのか」という問いから始めます。共通の問い掛けがあると、企業や自治体、研究者、住民などのステークホルダーが、立場は違うけれど、一体となって動き出します。そのうえで、日立グループ29万人の知見や技術、さまざまな事業のケイパビリティを組み合わせて価値提供していく。PROJECT_Vegaの考え方をより具体的なプロジェクトベースに落とし込み、実際のアクションとして実践していくのが日立の協創です。

近山
「協」の一文字に、これまでの日立の歴史に根差した力強さも感じますし、共通の問いというのも、ダイナミックさ、躍動感のあるキーワードだと思います。ではなぜ「共創」はマーケティングに効くのか、具体的な事例を踏まえてお話しいただけますか。
黄
まず日立が「協創」を語る背景として、実は経営上の大きな転換がありました。2009年3月期の決算で、日立は創業以来最大となる7,873億円の赤字を計上しました。当時の国内製造業でも最大規模の赤字でした。リーマンショックなどの複合的な要因もありましたが、本質的な問題の一つは、事業を多角化しすぎて、グループ全体としてお客さまにどんな価値を提供できるかが見えにくくなっていたという問題もありました。
そこで、日立は「製品を売る会社」から「社会課題を解決する会社」へと転換し、社会イノベーション事業を成長戦略の中心に据えました。その後の経営改革を経て2010年に黒字転換できました。その中で大きかったのは、やはり各事業部が壁を越えて、IT、 OT(制御・運用技術)、プロダクトの力を集結させ、One Hitachiとしてお客様の課題解決に取り組んだことです。結果として社会課題の解決と企業価値の向上の両立が進み、成長につながっています。
そして先日、Vegaの皆さんに協力いただき、日立グループ最大規模のイベント「Hitachi Social Innovation Forum」を実施することができました。これは、One Hitachiから生まれた協創をお客様やパートナーとの協創に広げ、成長につなげていくという、私たちの考え方を体現する場となっています。

近山
夏さん、「Hitachi Social Innovation Forum」の企画に携わったクリエイターとしての視点から、このイベントのポイントを補足してもらえますか。
夏
日立の売上の6割以上は海外からもたらされています。日立が世の中に提供している鉄道や送配電などの巨大なインフラが成立しているのは、商習慣の異なる地域でさまざまな人が同じ目的を共有しているから。その目的を掲げるという意味も、「Hitachi Social Innovation Forum」にはあります。
会場では、フィジカル AIや衛星を用いた測定システムなどさまざまな先進技術が紹介される中で、来場者に向けて「問い」を投げ掛けることを最大限に意識しました。たとえば会場の柱に「急増する AI 需要と持続可能性を両立できるのか?」という問いを掲げることで、それを見た来場者に、「加速度的に高まるAI需要に対して、自分たちが提供する価値が結び付くかもしれない」とインスパイアすることができます。問いがあることで事業の可能性を拡張して捉えられ、狙っていく市場や、ポジショニングも意識させることにつながります。小さな工夫ですが、これこそマーケティングだと考えています。
日立は自社を「社会課題を解決する会社」だと定義しています。なので、社会課題に応じて「この技術とこの技術とこういう風に組み合わせればいいのでは」という想いが、来場者の数だけ生まれていくと思うんです。もっとたくさんの業界で、「自分たちはこれを売るんだ」という発想ではなく、「自社のものを使って何ができるか」という発想が増えていけば、すごいイノベーションが生まれてくるんじゃないかと感じさせられる現場でした。
近山
やっぱりここでも「問い」が象徴的に出てくるんですね。
夏
日立の皆さんと会話をしていると、何を作っているかではなく、何のためにこれをやるのかという話をよくされます。多くの企業がそうした視点を持てば、日本はもっとポテンシャルを発揮していけると感じています。
苛烈なスモールボイスやトップの熱い想いの中に、共創のネタを探していく
近山
では、どんな仕事に共創は特に威力を発揮するのでしょうか。
夏
1つ目は、「答えがない」と皆さんが思っている仕事。答えがないということは、先行者優位性が高く、有望なマーケット的である可能性があります。また、答えがないからこそ、皆が集まって一緒にアイデアを出すことができ、上下がないフラットな関係が築きやすいと思います。 2つ目は、強烈なスモールボイスが存在すること。たとえば2016年の「保育園落ちた」という投稿は、国会でも議論がなされました。オーストラリアでは子どもがSNSを見過ぎるという親のボイスから法律まで変わり、16歳未満のSNS利用規制につながりました。
これまでなら埋もれていた1人の苛烈な声も、今の時代は探しやすくなっています。普段の生活の中で「これは」と思ったものはぜひピン留めしておき、そこから発想していけば、共創が威力を発揮するアイデアに化けるかもしれません。

黄
社会課題などのなかなか答えが出ないテーマは、課題自体が明確になっていないケースも多々あります。ボトムアップで進めることも可能ですが、将来の社会のありかたなどについては、トップ同士がまずそのビジョンを共有し、方向性を示すことで、現場が取り組むべきこと、リソースを集中させるべきことなどが見えてくる。経営層同士が未来を語り合うことで、新たな共創の出発点になると思います。
リーダーたちの想いを形にしていくために、対話を重ね、本音を引き出すことが非常に重要です。その本音の中に、強い情熱や大きな志があり、協創の種が見つけられるかもしれないからです。
近山
面白いです。夏さんは、1つの小さい声に共感が生まれれば大きくできるし、そういう時に共創は使えるという話でした。黄さんは、本来は意思統合の難しいトップ同士の間で共創は威力を発揮するというお話でした。プロセスは違えど、どちらも根っこにあるのは個人の問いや想いで、それをより大きく、あるいはもっと尖らせたいときに共創が有効だということですね。

夏
マーケティングでは、インサイト、つまり個人の欲望の見えていないところを掘りにいくという考え方が一般的ですが、今やインサイトは自ら立ち現れている時代になったと思うんです。経営者のみなさんは、それらをビジネスにどうできるかを日々考えているのではないでしょうか。これからの時代はますます経営者の皆さんとマーケターが組むことで、面白いアイデアが生まれやすくなっていくのではないかなと思います。
共創を連鎖させ社会変革を起こしていきたい
近山
共創ならではの苦労とそれを乗り越えるためのポイントなどはありますか。
黄
ポイントは2つあります。大企業の場合は、社外だけではなく、社内の協創も重要です。私どもはITやOT、研究開発、エネルギー、鉄道、モビリティなど、多様な技術と知見が存在しているので、それらをどううまくつなぎ合わせて価値を提供するのか、どうチームを組んで力を発揮するのかが非常に大事になってきます。 もう1つは、参加者を巻き込むこと。立場も目的も異なる方々をいかに「同じ目標に向かって一緒にやっていきたい」と思えるところまで持っていけるか。なかなか簡単ではありませんが、重要なポイントだと思います。
夏
共創型プロジェクトではよくKPIを達成するのが難しいと言われますが原因は、KPIを単年度で置いていることにあると考えています。さまざまなプレイヤーが同じゴールを目指して動き出す、その土台作りだけでも半年はかかってしまいます。なので、まずは複数年でKPIを設計することがポイントです。
もう1つは共創機会を見つけること。せっかく一度は集まった仲間が途中で降りてしまうというケースも発生しますから、テーマを見つける際に僕がお勧めしたいのは、パブリックセクターのトレンドに乗ることです。みんなが手を組める社会課題が最初にテーマアップされるのは、公共機関の調査だったりします。「認知症の人がもうすぐ5人に一人になります」とか、「猛暑日が去年と比べて何日間増えました」とか、いずれはすべての人に影響しそうなテーマから入ることで、スケールアップする共創プロジェクトを作りやすくなると思います。
近山
では、これからどんな共創をしていきたいですか。
黄
これからの時代、協創のパートナーとしてのAIの存在感が高まるのではないでしょうか。フィジカルAIの進展によって、AIが自律的に判断し、現実世界で行動する時代が始まっています。人とAI がどういう役割を担い、どういう未来を協創していくのか。それが問われる時代がやってくると思っています。
夏
僕は、連鎖していく共創をやってみたいです。たとえば日立の顔認証システムSakuraraは、現在駅の入場ゲート、プラットフォームに実装されていますが、これを異なる社会課題と組み合わせることで、さまざまな可能性が広がると思っています。高齢者の買い物と掛け合わせれば、行動記録、決済記録としてしっかりと残すことができて安心ですし、旅行業界と掛け合わせれば、海外でも手ぶらで手軽にショッピングができるようになるかもしれません。犯罪率が高い国では現金を持ち歩く必要がなくなり、その国の治安改善につながる可能性もあります。1つの技術、サービスが、掛け合わせる課題によって無限にプレイヤーを増やしていけるわけです。そうした連鎖を生み出しながら、よりよい方へ、社会を変えていきたいと思います。
最後に、共創を加速させるポイントについて振り返りたいと思います。1つ目はスモールボイスから始めること。2つ目はパブリックセクターからトレンドを見つけること。3つ目は、CXOクラスと共に企てること。4つ目は、KPI は複数年で設定していくこと。そして5つ目は、皆さんの一番の競合と、そのアイデアで手を携えることができるかです。できるとなった場合は、おそらく世の中に出した時に多くの賛同者が現れるはず。ちょっと難しいとなった場合は、共創よりも競争を生むアイデアに派生していく可能性がある。その判断のポイントとして覚えておいていただけるといいかと思います。

近山
黄さんより頂いたお話を参考に付け加えると、6つ目は「対話すること」。7番目は「本音を引き出すこと」ですね。お2人とも本日はいかがでしたか。
黄
改めて、協創は特別なものではなく、むしろこれからの時代はやらなければいけないことだと感じました。皆さまも、それぞれ異なる立場、それぞれ異なる課題を抱えていると思いますが、可能であればぜひ立場や組織を超えて、ボーダレスに新しい協創を生み出していただきたいと思います。
夏
共創を通じて、日立は結果をすでに出されていて、共創がビジネスモデルとして効果的であることを実証されています。あと必要なのは皆さん、そして我々の熱意です。皆さん、共創しましょう!
近山
お2人ともありがとうございました!

黄 珮君 氏
株式会社日立製作所
経営戦略統括本部 グローバルブランドコミュニケーション本部
日本担当コーポレートコミュニケーション部 部長代理
台湾、上海でテレビ局、広告代理店の仕事を経て、2013年に日立製作所に入社。現在は経営戦略統括本部・グローバルブランドコミュニケーション本部にて、日立グループ最大規模のイベント「Hitachi Social Innovation Forum」の企画・統括を担う。立場や組織を越えた協創を生み出す場づくりに取り組んでいる。

近山 知史
株式会社博報堂
PROJECT_Vega エグゼクティブクリエイティブディレクター
2003年博報堂入社。TBWA HAKUHODOを経て、24年「官民共創クリエイティブスタジオPROJECT_Vega」を始動、社会を大きく巻き込むアクションやブランディングに取り組む。カンヌライオンズゴールド、アドフェストグランプリ、ACCグランプリ等受賞。26年カンヌライオンズをはじめ世界中のアワードで審査員を務める。

夏 秋馬寧
株式会社博報堂
PROJECT_Vega PRディレクター
2015年博報堂入社。第三マーケティング局を経てPR局、2023年よりPROJECT_Vegaへ。インフラ、自動車、IT、エンターテイメント業界を中心にPR視点から戦略、クリエイティブ企画を総合的に担当。ひとの想いを、社会を動かす熱量に変える仕事を目指す。