Finance Insight News vol.5
第五回のテーマは「相続」。「大変そう」と「大変」のギャップは?

金融や経済に関するニュースは、生活者の気分や行動をどのように動かしているのでしょうか。博報堂金融プロジェクト「HAKUHODO Fintex Base(HFB)」では、独自調査をもとに、経済トピックスへの反応と、暮らしに関わる金融テーマへの意識を読み解いています。
第五回のテーマは「相続」です。相続というと、税金の計算や財産をめぐる話し合いなど、大きく複雑な手続きがまず思い浮かびます。では、実際に手続きを担った人も、同じところに難しさを感じていたのでしょうか。「自身で相続手続きした人」「相続を経験したことがあるが手続きはしたことがない人」「相続を経験したことがない人」の三者を比べると、「大変そう」というイメージと、実務の中で感じる負担には二方向のギャップが見えてきました。さらに、金融資産額によって相続経験の構成と負担の焦点も変わっています。

目次
1 経済ニューストピック:生活に近い減税が消費を、株価上昇が投資を動かす
2 相続意識トピック①:”見えないお金”が最大の難所
3 相続意識トピック②:手続きした人から見える小さく分散した手間
4 相続意識トピック③:資産額で変わる相続経験と負担の焦点
1 経済ニューストピック:生活に近い減税が消費を、 株価上昇が投資を動かす
まずは、2026年8月~9月半ばまでに起こった経済や暮らしに関わるニュースが、生活者の意識や意欲をどの程度動かすのかを見ていきましょう。この調査では、旬の金融トピックについて、「消費意識が上がるかどうか」「投資意識が上がるかどうか」「日本の景気が良くなると思うかどうか」を全国1,000名にWEB聴取しています。
今回聴取した金融トピックは以下の14項目です。
消費意欲で最も高かったのは「飲食料品の消費税率を1%へ引き下げる方針」の25.2%でした。次いで、「給付付き税額控除の導入に向けた基本方針を決定」が13.6%、「最低賃金、全国平均1,176円への引き上げ目安」が13.5%。日々の支出や可処分所得に直接つながるニュースが上位に並んでいます。
一方、投資意欲では「日経平均株価、初の7万円台を記録」が14.1%で首位となり、「米国株の主要指数が最高値を更新」が9.8%、「AI・半導体など17分野に、官民で370兆円超を投資」が8.1%と続きました。投資対象や成長分野を具体的に想起できるニュースほど、反応が高い結果です。
景況感では、「最低賃金、全国平均1,176円への引き上げ目安」が14.1%、「日本の実質GDP、2026年4~6月期もプラス成長」が13.7%、「飲食料品の消費税率を1%へ引き下げる方針」が13.4%で上位となりました。生活者は、消費については家計への即効性、投資については市場との直接的なつながり、景気については賃金・成長・負担軽減を複合的に見ているようです。
2 相続意識トピック①:“見えないお金”が最大の難所
ここからは相続について見ていきましょう。相続経験について回答した885人のうち、「自分が中心となって手続きを行った」は12.4%、「自分は相続していないが、家族の相続手続きを手伝った」は4.3%でした。これらを合わせた「自身で相続手続きした人」は16.7%です。「相続を経験したが、手続きは主に家族や専門家が行った」人は10.8%。一方、手続き経験のない人は、家族で話し合ったことがある人とない人を合わせて約73%に上ります。
また、「自身で相続手続きした人」「相続を経験したことがあるが手続きはしたことがない人」「相続を経験したことがない人」それぞれに、具体的な相続手続きに関する26項目を呈示し、経験者には「大変だったもの」、未経験者には「大変そうだと思うもの」をそれぞれ答えてもらいました。聴取した26項目は以下です。
「未経験者が思うよりも実際は大変なもの」の上位3つを見ると、一番上の「フリマ・ECなどの売上金や収益」の1項目だけが経験者の数値が未経験者を上回った項目でした。前提として、未経験者が相続全体を重く見積もっていることが分かります。
2番目、3番目も差分はマイナスであり、経験者の実感が上回ったというより、経験前後の認識が比較的近かった項目です。いずれも、複数のサービスに分散し、存在を把握しにくいデジタル上の資産が並びました。
一方、「未経験者が思うほど実際は大変ではないもの」の上位3つを見てみると、「相続人同士で財産の分け方を決める」が24.8ポイント差、「気持ちの整理がつかない中で手続きを進める」が21.4ポイント差、「相続税の計算や申告」が20.7ポイント差と、未経験者のほうが高くなりました。家族間の調整、税務、感情という大きな難所は、経験前にはひとつの重い塊として見えやすいのかもしれません。資産内容や家族関係で負担は異なり、経験後の振り返りで大変さが相対化される可能性もありますが、「大変そうに見えるが、経験者の回答はそこまで高くない」領域が明確に表れています。
3 相続意識トピック②:実行者に見える小さく分散した手間
次に、同じ相続経験者の中で、手続きを担ったかどうかを比べます。26項目中17項目で自身で手続きした人の負担意識が手続きしていない人を上回りました。経験しただけでは見えにくく、実行して初めて負担を感じる作業があるようです。
「実際やってみると大変なもの」上位3つを見てみると、ポイント・マイルの確認が16.5ポイント差、クレジットカードの未払いの確認・精算が9.5ポイント差、生命保険・個人年金・共済の確認が8.4ポイント差でした。大きな資産の分割よりも、日常生活の中に散らばる権利や契約を探し、残高や精算方法を一つずつ確かめる作業です。相続前には大変というイメージが強くなくても、実務では意外と手間がかかる項目だといえそうです。
反対に、「実際にやってみるとそれほど大変ではないもの」を見てみると、通帳のないネット銀行の確認、相談先や専門家探し、証券資産の確認で、未実行者のほうが6.5~7.9ポイント高くなりました。専門性が必要に見える項目は、家族や専門家が担った人の側で負担感が高まりやすい一方、実際に担当した人には手順が具体化され、想像ほどではなかった可能性があります。相続経験の有無だけでなく、「誰が手を動かしたか」を分けることで、見えなかった実務負担が浮かび上がります。
4 相続意識トピック③:資産額で変わる相続経験と負担の焦点
金融資産額別に見ると、回答者数が少ないためあくまで参考値ではありますが、 相続手続きを実行した割合は資産額とともに段階的に上がる傾向が見られました。金融資産3,000万円未満のマス層では自身で手続きした人が15.1%だったのに対し、アッパーマス層では20.5%、準富裕層では27.2%、富裕層では38.7%でした。
反対に、相続未経験者は74.6%から47.7%へ低下しています。資産額が高い層ほど、相続や家族の手続きを具体的に経験している人が多いという傾向です。
負担認識は、資産額が高いほどすべて上がるわけではありません。そこで3,000万円未満と、アッパーマス層以上を加重してまとめた3,000万円以上を比較すると、負担の焦点が異なることが分かりました。
3,000万円以上のアッパーマス層では、暗号資産・NFT、戸籍謄本などの必要書類、現物資産の確認が相対的に高くなりました。資産の種類や保有先が広がるほど、「何がどこにあるか」を探索し、権利関係を確認する負担が意識されやすいと考えられます。
対して3,000万円未満では、サブスクの解約、住宅ローンなどの借入、気持ちの整理が高く、日常契約や負債、感情面が大きな論点になっています。
相続準備は 不安の喚起より見えない手間の可視化へ
今回の調査から見えてきたのは、相続前には「大きな難所」が実際以上に重く見え、相続実務では「小さく分散した作業」が想像以上に負担になりやすいという構造です。さらに金融資産額によって、資産の探索・確認が前面に出る層と、日常契約や借入、感情面が前面に出る層がありました。相続への備えを促す際、税金や相続リスクの大きさだけを一律に強調すると、未経験者の漠然とした不安をさらに膨らませてしまうかもしれません。
必要なのは、経験段階と資産状況に合わせ、何が起こるかを具体的な作業に分解することです。どこまで自分で行い、どこから家族や専門家に任せられるのかを見えるようにする。同時に、預貯金や不動産だけでなく、ポイント、ECの売上金、サブスク、カードの未払いなど、日常の中に散らばる資産や契約を平時から一覧化しておく。
大きな不安を解像度の高い準備へ変えられれば、相続は「いつか突然やってくる大仕事」から、「家族で少しずつ備えられる手続き」へ近づいていくのではないでしょうか。
「Finance Insight News」では、これからも生活者のリアルな意識との間にあるギャップを読み解いていきます。
■調査概要
※1 QO株式会社「金融マンスリー調査」2026.09
【調査エリア】全国
【調査対象者】20~60代男女1,000名
【実施時期】2026年9月

飯沼 美森(いいぬま・みもり)
HAKUHODO Fintex Base/博報堂 CXクリエイティブ局CX&サービスプラニング部
2018年博報堂入社、マーケティングディレクター/UXUIディレクター。
広告マーケティング、商品開発、ブランディングなどの業務を経て、UXUIを主戦場に出口無限の体験をデザインします。
生活者体験を具体的にイメージできる戦略と、骨太な戦略のあるUXを、一気通貫で設計していきます。

山本 洋平(やまもと・ようへい)
HAKUHODO Fintex Base代表/博報堂 ストラテジックプラニング局 チームリーダー
新卒で外資系大手SIer入社。その後、大手メディアサービス企業にてネット業界ブランディングに従事、総合広告会社を経て現職。クリエイティブ・事業からシステム基盤と振り幅の広いスキルを最大限に活かすフィールドを求め、博報堂に転身。現在は、BtoB、飲料、通信・自動車・HR・Fintechとあらゆる業種を担当し、事業視点からのマーケティング戦略を策定するチーフイノベーションディレクターとして活動。JAAA懸賞論文戦略プランニング部門3度受賞、共著「ウェルビーイング市場を拓く技術開発戦略」