ヒット習慣予報 vol.428『かろやか言語化』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの佐藤諒平です。
先日、仕事帰りにふらりと書店に立ち寄り、平積みの本が並ぶコーナーを眺めてあることに気がつきました。共感してくださる方も多いと思うのですが、昨今「言語化力」「伝わる文章術」などといった見出しのついた「自分の考えを言語化する」テーマにした書籍が多くあるのです。
さらに書籍に留まらず、YouTubeにおいても、近年「言語化」で検索している生活者が多くなっており、まさに「言語化」する能力への需要が近年高いことが見てとれます。

出典:Googleトレンド(「言語化」の日本でのYouTubeにおける検索)
世の中の「言語化」への関心が高まるのはなぜだろうと、日常を振り返ってみると、自分自身にもすこし身に覚えがありました。SNSでハッシュタグをつけて好きなコンテンツに関する投稿をするときは炎上リスクを一応気にしたり、知人とのメッセージやりとりでも「もっと端的に書かなきゃ」「文章が下手だと恥ずかしい」と考えすぎてしまったり。気がつくと、投稿画面で文章を書いては消しを繰り返し、結局絵文字やスタンプ、動画のシェアだけで済ませてしまうことも少なくありません。
きっとこれは私だけでなく、現代生活者の多くに当てはまるのではないでしょうか。自分の本当の感情を言葉にするハードルが高まり、言語化能力を求める……。しかし、そんな状況を変えるように、新しい潮流が見え始めました。ハードルをグッと下げ、気軽なエンタメ感覚で自分の想いを表現する行動習慣の兆しが広がってきています。
今回は、『かろやか言語化』と題して紹介をしていきたいと思います。
まず一つ目は、31文字の型に本音を乗せる「短歌アウトプット」
長文で自分の思いを書き連ねるのではなく、あえて「五七五七七」という決められたフレームを使って、日常のふとした感情を詠んでSNSや専用コミュニティに投稿する行動です。ゼロから文章を組み立てる必要がなく、「短歌という表現手法」という安全装置があるため、恥ずかしさや炎上リスクを回避しながら、かえって自分の素直な本音や情緒をストレートに表現できると若い世代を中心に親しまれています。実際に私も短歌アプリをひとつ選び、一日一投稿をしてみているのですが、難しさと同時に、自分の感情に向き合う楽しさが感じられました。
二つ目は、ゲームのルールに乗っかって気持ちを明かす「カード言葉遊び」
こちらはボードゲームやカードゲームのルールを活用して会話を楽しむ行動です。ランダムに配られた単語カードを組み合わせてプロポーズの言葉を作ったり、抽象的なカードを見ながら自分の今の気分を例え話で語り合ったり。「ゲームのルールだから」という気軽さの中で、口下手な人でも楽しみながら感情の発散をしています。自分の内面にある想いをそのままかたちにするものばかりではありませんが、言葉選びのセンスへのプレッシャーは捨てられた状態で、言語化する楽しさを実感できることが好評のポイントのようです。
三つ目は、差し出された問いに答えて感情を残す「お題答えログ」
「今日どうだった?」と漠然と聞かれると固まってしまいますが、提示された具体的な「お題(問い)」に短文で答えることで、自分の思考や感情をメモに残す行動です。たとえば、AIが「今日一番笑った瞬間は?」「今すぐ手放したい習慣は?」といった質問を毎日1つ差し出してくれる日記アプリやジャーナリングツールを活用し、その問いに乗っかるだけで、白紙に向かうプレッシャーなくスッと一言で本音を書き残すスタイルが広がっています。SNSでこうしたアプリを使用している方の声をみてみると、一言答えるだけなので簡単に続けられる点や、日記的に自分の想いを振り返ることができる点などが支持を得ているようでした。

いくつか具体例もご紹介しましたが、なぜ昨今「かろやか言語化」のような行動習慣の兆しが表れているのでしょうか。
ひとつは冒頭にも触れましたが、評価される言語化への疲弊があると思います。現代にはSNSの炎上リスクなどに代表されるように「下手に発言すると危険」という風潮があったり、あるいは仕事の場においても「上手に言語化できないと評価されないかも」と自分自身でプレッシャーを高めてしまっていたりするのではないでしょうか。その流れの中で生活者は、安全なルール(フレーム)の中で、評価を気にせず想いや言葉を発散する手段を求め、広がりが起こっていると考えます。
またもうひとつ、現代のインプット過多も要因のひとつと考えています。AIやSNSによって、毎日膨大な情報や誰かの意見が脳に流れてくる時代。効率的に要約された情報を浴び続けるうちに、「結局、自分自身はどう感じているのか?」という自分のアイデンティティが見えづらくなっています。情報過多だからこそ、短くても「自分の言葉」にして吐き出し、自分自身の本音を確かめたいという欲求が高まっているのではないでしょうか。
今回も最後にすこし、当コラムのテーマで新たなビジネスチャンスを考えてみました。
『かろやか言語化』のビジネスチャンスの例
■ メニューに「コーヒー」「紅茶」と書かれているのではなく、「少しやけくそな気分」「誰かに優しくしたい」といった感情のお題カードを選ぶと、店主がその気分に合わせたドリンクを淹れてくれる、『“感情ワード”オーダーカフェ』の展開
■ 短歌の歌人とイラストレーターを、アマチュアも含めて募集し、同一テーマのイラストと短歌を一体に展示して楽しむ、現代型『短歌・イラスト合同アートイベント』の企画
■ 正しい言葉遣いや文章構成にとらわれず、短くても想いが最も伝わった文章を表彰し掲載する、『新基準の読書感想文』企画を新聞社が主催する
など
私は、一度言葉にして誰かに伝えてみてから、改めて自分でも気づいていなかった想いや考えが見えること、深まることも多いのではないかと思っています。だからこそ「うまくまとめなきゃ」「正しい言葉を使わなきゃ」というプレッシャーにとらわれずに、誰もがもっと気軽に自身の言葉をアウトプットできる機会が、これからもどんどん広がっていってほしいなと思います。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

佐藤 諒平(さとう りょうへい)
新潟博報堂
ヒット習慣メーカーズ メンバー
2020年 新潟博報堂に入社。2023年より2年博報堂に出向後 帰任し、地域で一人前のマーケター・プラナーを目指して修行中。短歌アプリを始めたときはただ言語化する楽しさを感じていたのに、もっと上達していいねをもらえるようになりたい、という外発的動機付けをいつの間にかされてしまいました。