ヒット習慣予報 vol.426『あえて非公開』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの中林です。
ひとり暮らしをはじめてから、自炊頻度が増えました。なぜか体重も増えました。ふつう逆ですよね。料理がうますぎるせいでしょうか。
夜行性なので深夜に作り始めることも多いのですが、外はみんな寝静まっている時間に作り食べる、という背徳感が良くて、密やかな楽しみとして夜な夜なキッチンに立っています。なんて話を友だちにしたところ、いかにもひとり暮らし始めたてって感じと若干冷笑されつつ、ひとり時間の誰にも見せない時間ってたまんないよね、と盛り上がりました。
SNSで自分の暮らしや時間を共有することが当たり前になった今、あえて誰にも見せない「非公開」の時間を楽しむ人が増えているようです。今日はその中からいくつかをご紹介したいと思います。
▼「非公開」の検索数推移

1つ目は、「サイレント・クリエイション」です。
絵を描く、文章を書く、音楽を作る、といった創作活動は、SNSで発表していいねを得てファンを増やしていくのが主流ですよね。けれど最近は、クオリティの高い作品を何ヶ月もかけて作りながら、SNSには一切投稿せず自分だけのPCやノートにしまっておく人が増えています。
下手・上手という他人の評価や、バズるかどうかというアルゴリズムの視線から完全に離れ、純粋に作る過程そのものに没入する時間。誰にも見せないからこそ、一番素直で自由な表現ができると、若い世代を中心に密かなストレス解消法になっているようです。
2つ目は、「アンインデックス体験」です。
これは、海外の若者からじわじわと流行り始めている、あえてログを残さない体験や時間のことです。景色の良いカフェや高級なレストラン、素敵な旅行先に行ったら写真を撮ってSNSに記録する。そんなもはや当たり前でもある可視化の習慣にあえて逆行し、スマホやカメラをバッグにしまってその場の五感だけに集中するスタイルを楽しむ人が増えています。
ついついスマホを触ってしまう、という現代人に向けて、あえて撮影禁止を掲げるカフェや、スマホを持ち込めないデジタルデトックスの宿泊プランも人気を集めているようです。写真や動画という記録を残さないことで、かえってその瞬間の記憶や感情が鮮明に残るのだとか。私も、一人で出かけるときや長散歩のときはあえて携帯を持たずに家を出て、偶然の出会いを楽しんだりしています。

3つ目は、「シークレット・スポット」です。
SNSでバズった人気スポットに足を運ぶのではなく、自分だけのお気に入りの場所を見つけて、SNSにも上げず友人にも教えずに独り占めする習慣です。穴場の公園やビルの隙間にあるベンチ、静かな小さな本屋さんなど、自分だけの「秘密のサードプレイス」を複数ストックしておき、自分とその場所だけの静かな関係性を楽しむ人が増えています。友人は近所の公園で犬のスケッチをするのが最近の趣味らしく、休日になると早起きして出かける習慣がついたそうです。

では、なぜいま私たちは「あえて非公開」に惹かれるのでしょうか?
ひとつの理由として、「自分らしさをいちいち証明することへの疲れ」があるのではないでしょうか。SNSでは、好きなものを投稿すればその人らしさが伝わり、いつの間にか、生活のいろいろなものが自己紹介になっています。便利な一方で、自分の生活を自分以外の誰かに説明する機会が増えています。だからこそ、誰にも言わないことが少し心地よく感じられ、誰かの評価から切り離されて自分の好きや楽しいといった純粋な気持ちを守ることができる。承認されたくないのではなく、承認されなくても大切なものを持っていたい。そんな気持ちが、少しずつ大きくなっているのかもしれません。
また、体験の純度を保ちたい、という心理も考えられます。写真を撮ったりSNSの投稿文を考えたりした瞬間、私たちはその瞬間の体験から離れ、どう見られるかというメタ視点=他者の目に切り替わってしまいます。あえて非公開にすることで、自分の体験や感情を他人の評価で薄めることなく、100%自分だけのものとして大切に手元に残しておきたいのかもしれませんね。
最後に、「あえて非公開」について、新たなビジネスチャンスを考えてみました。
『あえて非公開』のビジネスチャンスの例
■ 誰にも公開されないことを前提に、文章を書きためられるサービス。手紙や小説、思いつきを、自分だけの本として製本してくれる。
■ 本名やSNSアカウントを交換せず、それぞれが自分の好きなことを黙々と楽しむ趣味クラブ。
■ スマホを置いて参加できる、事前決済でオールインクルーシブ制の旅行プラン。
好きなものって、人に話した瞬間にちょっとだけ自分から離れていくような感覚があります。別に隠すようなことじゃないけれど、自分だけのちいさな秘密ごとをもって過ごす時間は、毎日を少し楽しくしてくれる気がします。みなさんもぜひ、見つけて育ててみてください。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

中林 磨美(なかばやし まみ)
博報堂 クリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー
2021年博報堂に入社。コピーライターとして日々奮闘中。毛量が増えたので犬用の梳き鋏でカットしてみたら、髪の毛が四角形になってしまって困っています。