性別・年代を超えて共通する富裕層の価値観――「新富裕層調査2026」から見えてくる新たな富裕層の実態とは
博報堂富裕層マーケティングラボ(HAML)座談会

変化する富裕層マーケットのトレンドを捉え、クライアント企業の富裕層向けマーケティング活動や事業、商品・サービス開発の支援を行っている博報堂富裕層マーケティングラボ(HAML)が、「新富裕層調査2026」を実施。新たに得たファインディングスや注目すべきポイントについて、メンバーに伺いました。

三宅 大介
博報堂富裕層マーケティングラボ 共同リーダー
博報堂 ストラテジックデザイン統括室

近藤 秀之
博報堂富裕層マーケティングラボ 共同リーダー
博報堂 メディアビジネスデザインセンター

伊尾木 文佳
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局

須藤 三貴
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局

那須 優一
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局
 

豊富なサンプル量と多様なカテゴリーを網羅した画期的な定量調査

―今回の調査の概要と、調査でどんな富裕層の実態が明らかになったのか教えてください。

三宅
私たちHAMLが最初に行った2024年の調査では、ダブルインカム世帯やパワーファミリーの増加などに着目し、そのうち特に世帯年収1500万円以上の生活者を「インカムリッチ」と規定して新たな富裕層像をあぶりだしました。その後、世界的な所得の二極化やインフレ、ドル高円安基調といった状況を鑑み、調査設計を見直して行った2025年の調査では、世帯年収3000万円以上を境に富裕層インサイトが大きく変化することが判明しました。

近藤
そのファインディングスをもとに、「新富裕層調査2026」では世帯年収3000万円以上、かつ金融資産が1億円以上の、所得と資産のダブルリッチ世帯を中心とするサンプルを拡充。インサイトや購買意識、タッチポイントや商品行動の傾向を分析しています。

―博報堂が手掛ける富裕層調査ならではの特徴は何でしょうか。

伊尾木
一般的な富裕層調査では、金融資産や純金融資産を起点にすることが多いと思いますが、私たちは今回の調査で資産よりも世帯年収の方に着目しています。というのも、たとえ1億円の資産がない若い世代でも、キャッシュフローを見てみると消費意欲が非常に高く、比較的富裕層に近い消費行動をとっていることがわかっているからです。

三宅
資産だけに着目すると、持ち家に加え、退職金や相続資産などを多く持つ60歳以上の層、つまり従来型のシニア層を多く含むため、若年層や子育て世代を含む現役世代の実態を反映しにくい面もあります。また、純金融資産を基準とした場合、住宅ローンを返済中の方などは除外されてしまいます。より高所得で購買力の高い現役世代の人たちを理解する意味で、世帯年収にフォーカスした調査を実施してきた点はユニークな部分だと思います。

近藤
さらに、一般的には富裕層調査は定性調査が多い中、我々の調査は世帯年収3000万円以上で547サンプル、5000万円以上で214サンプル、金融資産1億円以上で727サンプル、さらには超富裕層といわれる5億円以上で194サンプルと、データ量の担保がしっかりとなされています。タッチポイントの実態から、年齢だけにとらわれずに多様な角度で生活者のインサイトをとらえている点、また、いわゆる高級ブランドや高級車など富裕層市場として想起しがちなものだけでなく、多様なクライアント企業の業種カテゴリーにおいてそのブランドがどう評価されているかを体系的に調査している点も、博報堂ならではだと考えます。

伊尾木
そもそも私たちのプロジェクト自体、さまざまなクライアント企業とのマーケティング業務の中で、特に富裕層ならではの属性や行動があることに気づき、より詳しく分析を行うために生まれました。そういった意味で、金融や金融商品を主な対象とする調査と異なり、社会貢献意識や家族への意識など、より生活者意識に関する設問に重きを置いた調査となっています。

世代や性別を超えて共通する、新富裕層の価値観

―特に面白いと感じた結果、あるいは驚いた結果はありますか。

那須
これまでの富裕層調査のように、資産や所得、年齢をすべてまとめて「富裕層」としてくくるのではなく、我々は世代別の分析も行いました。すると、年齢よりも所得による意識の差が大きいことがわかりました。たとえば「若者の〇〇離れ」といった表現がありますが、世帯年収3000万円以上で見ると、若い世代も車やラグジュアリーブランドに強い興味を示しています。

つまり実際は、世代が違っても所得が同じであれば意識が近い。まさに博報堂生活総合研究所が唱える「消齢化(生活者の意識や好み、価値観の年齢による違いが小さくなっている現象)」のような現象が見て取れたのは、面白かったですね。さらに付け加えると、“お金をかけているカテゴリー”として自動車を挙げる人の割合が、富裕層に限定するとあまり男女差がないこともわかりました。富裕度による差がもたらす価値観への影響の大きさには驚きましたね。

須藤
私が面白いと思ったのは、資産の獲得方法の違いによる意識の差です。若年層を、一代で財を築いた「セルフメイドリッチ」と、資産を継承してきた「レガシーリッチ」に分けてみたところ、セルフメイドリッチの人たちは自己研鑽や成長への意識が高く、可処分所得の使い方がアグレッシブな一方、レガシーリッチの人たちは守り受け継いでいくという意識が高く、堅実な消費を行っています。そのあたりは順当な結果と思うのですが、その一方で、投資に対する行動を見てみると、セルフメイドリッチよりもレガシーリッチの方が積極的なのです。能動的な価値観と保守的な価値観が資産の獲得方法で逆転しているのは面白いと思いました。

近藤
今回の調査で、富裕層の持つ「10大価値観」も整理できました。

それぞれ、①「体験」を通じて豊かな人生を追求すること、②自分自身の「成長」に継続的に投資し、年齢を問わず「自己実現」を目指すこと、③消費を通じてモノを得るだけではなく「知的・文化的体験」の深さを大切にすること、④情報接点として「信頼」できるコミュニティやネットワークを重んじること、⑤外注サービスの積極利用など、「時間を買う」ことで忙しい日々の余白を創出していること、⑥いつまでも健康的に自分らしく生きようとする「ロンジェビティ」志向が強いこと、⑦未来を生きる「子供」への投資は惜しまないこと、⑧「アクティブに増やす」資産形成、未来に受け継ぐため「守り・継承する」資産形成とのバランスを重視すること、⑨利他の精神を持ち、「よりよい社会」や「多様性」の実現を志向すること、そして⑩「グローバルな視座」を持ちながら、「日本独自の文化や伝統」も大切にしていること、の10個です。これらの傾向には性別や年代ではなく、所得水準との関連が見られたというのは興味深かったですね。

―モノ以外の消費について、豊かさの基準の変化が感じられるような兆しはありましたか。

近藤
今回、個人単位ではなく世帯単位で所得や資産を捉えた背景には、女性の社会進出に伴う女性富裕層の増加と、ダブルインカムによる富裕層世帯の増加があります。
こうして増えているダブルインカム型の富裕層は、「お金はあるけれど時間がない」という特徴を持っています。若い世代でも百貨店の外商を利用したり、移動にタクシーを頻繁に使ったりするなど、一般層に比べてタイムパフォーマンスを強く意識しています。時間を生み出すための消費や投資に積極的である点が特徴です。

伊尾木
彼らは自己成長への意識も高くて、自分のリスキリングに投資したり、子どもの成長や教育を非常に重視しています。お歳暮やクリスマスなど季節のギフトだけでなく、誕生日や御礼の品などにギフトを贈る習慣が根づいていたり、アートや文化活動への投資意欲も高い。物質的豊かさよりも、自分や家族の将来のリターンを意識したお金の使い方が印象的です。

三宅
消費においては、商品そのものよりも文化的なストーリーがあるかどうか、また体験商品においては、それを通じてどのような豊かさや教養、新たな知見が得られるかなどを非常に重視しています。

また社会貢献意識も強く、世の中や他者に何を与えるかという意識が高いのも、調査の結果から顕著に表れていると思います。

―富裕層の「情報収集」や「タッチポイント」には、どのような特徴があるのでしょうか。

近藤
富裕層には、会社、地域などを通じた信頼できるコミュニティを重視する傾向が顕著に見られます。情報収集においても、確かな裏付けのある情報や、信頼性の高いタッチポイントが選ばれていると考えられます。
そのため、同じSNS上の情報でも、不特定の個人による投稿より、公式アカウントや信頼できるメディアが発信する情報を重視します。また、時間に制約があることから、多種多様な広告が流れるマスメディアだけでなく、自分の関心に合った情報が届くデジタル広告など、対象が絞られたメディア接点も重視しています。
さらに重要なのは、富裕層の生成AI利用率が非常に高いことです。検索に限らず、さまざまな用途で生成AIを活用しているため、富裕層との接点を考えるうえでは、AIO、すなわちAI検索最適化への対応がより重要になると考えられます。

那須
AIに関して言うと、若い層もシニア富裕層も利用率に差がないことも特徴的です。20~30代全体と、60代の年収3000万円以上だと、生成AIの利用率がほぼ同じ割合です。情報収集の手段として、富裕層では年齢に関わらずAIの利用が一般化していることがわかります。

三宅
年齢が高い富裕層ほど、タッチポイントなどにおけるテクノロジー意識はアップデートが進んでいて、若年層は逆に、いわゆる前世代のようなアクティブな消費活動をしている点も面白いですよね。

須藤
デジタルの方がパーソナライズには長けているので、忙しい富裕層の皆さんに対し、追っかけ配信などをうまくマーケティングで活用できるとよさそうです。デジタル体験とリアルな体験を両方使ってリーチさせることも重要だと思います。

ポテンシャルの大きい新富裕層をとらえ新たなビジネスにつなげていく

―改めて、日本企業は新たな富裕層とどのように向き合うべきでしょうか。

三宅
Capgemini社の「World Wealth Report 2026」によると2025年の1年間でいわゆる「ミリオネア」と呼ばれる投資可能資産100万米ドル(約1.6億円)以上の人たちは世界で約200万人以上増加しています。最も多く増加したのは米国の73万6000人ですが、日本も43万6000人と米国に次ぐ増加となっています。人口減少が続く日本において、拡大する富裕層マーケットに着目することは、もしかすると従来のマス・価格志向のビジネスだけでなく、より高付加価値かつ収益性の高いビジネスでの成長をつくっていくひとつのきっかけ、チャンスと捉えることもできるかもしれません。

近藤
年齢を基準としたターゲティングは現在も有効であり、それ自体を否定するものではありません。ただし、所得や資産という別の視点を加えることで、新たな市場の可能性が見えてきます。
今後も拡大が見込まれる富裕層は、人口規模としては限られていても、大きな金融資産と購買力を持っています。彼らの新しい価値観や行動を捉えることで、新たなビジネスチャンスが開ける可能性は大いにあります。
これまで中間層やアッパーミドル層を中心に事業を展開してきたブランドにとっては、富裕層向けビジネスをいかに高度化し、広げていくかが鍵になります。
その際に忘れてはならないのは、カテゴリーや商材によって、富裕層から求められる価値が異なることです。カテゴリーごとに求められる価値が高度化しているからこそ、まずはそれぞれのインサイトを正しく理解することが重要です。

那須
たとえばウイスキーや外食も、富裕層は単純に味を吟味するのではなく、背景にあるクラフトマンシップや文化的な意味合いを重視します。文化・教養コンテンツとして、自己成長につなげたり、コミュニティの中でその体験をシェアすることにより大きな価値を見出しています。

伊尾木
スペックや機能ではそこまで差が出せない中、富裕層はそのモノを所有することで自分をどう見せたいかとか、どういうストーリーを感じられるかを重視しています。そうした文化的な記号性としてのストーリーづくりもより重要になっていくのではないでしょうか。

三宅
経済が発展して人口増加傾向にある時代は、モノを量産することで価格は低減し、市場が広がっていきました。しかしいま日本はまさに転換期にあって、一部欧州ブランドが得意とするような、量産できないモノに対してどう価値づけをしていくかが問われています。

近藤
高付加価値型のビジネスを展開する日本企業やブランドも増えていますが、まだ一部に限られています。取り組むべき課題や具体的なアクションにお悩みの企業があれば、ぜひ私たちにご相談いただければと思います。

―今回の調査結果を受けて、博報堂としての次なる打ち手は何になりますか。

須藤
現在、本調査のデータをもとに富裕層ペルソナを開発し、博報堂DYグループのAIペルソナ対話インターフェース「バーチャル生活者」に搭載する準備を進めています。
富裕層は対象者そのものが少なく、これまで十分な人数に直接インタビューすることが難しい面がありました。本ソリューションでは、調査データに基づいて再現した富裕層ペルソナとの対話を通じて、仮説の構築やインサイトの探索を行うことができます。
マーケティング戦略や商品・サービス開発、コミュニケーション開発など、幅広い業務での活用を想定しています。また、クライアント企業の環境に合わせてカスタマイズし、独自の富裕層ペルソナを開発・活用することも可能です。ご興味のある企業の方は、ぜひご相談ください。

※肩書は取材当時のものです

三宅 大介
博報堂富裕層マーケティングラボ 共同リーダー
博報堂 ストラテジックデザイン統括室

近藤 秀之
博報堂富裕層マーケティングラボ 共同リーダー
博報堂 メディアビジネスデザインセンター

伊尾木 文佳
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局

須藤 三貴
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局

那須 優一
博報堂富裕層マーケティングラボ
博報堂 ストラテジックプラニング局

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