博報堂クロスバウンド・ビジネス・ラボの外国籍スタッフが解説「クロスバウンド成功の鍵」
~“ほぼ”国内旅行感覚で訪れる台湾旅行者:“おすすめ”が動かす日本での購買行動~

連載コラム「クロスバウンド成功の鍵」、今回はインバウンド市場において重要な存在である「台湾」からの訪日客に焦点を当てます。台湾のインバウンド市場はリピーターが多く、日本への深い理解と高い熱量を持っています。本稿では、博報堂クロスバウンド・ビジネス・ラボが新たに台湾のインバウンド顧客を対象に実施した購買意識調査(※質問項目は本連載で紹介したインバウンド顧客購買意識調査と同様)のデータと、実際の旅行者の動向を交えながら解説します。

台湾訪日客の3つの特徴
1. 日本を「日常の延長にある身近な場所」として捉える、“ほぼ”国内旅行感覚
2. “おすすめ”が購買の連鎖を生む:台湾訪日客を動かす「口コミ文化」 
3. 7割がドラッグストアへ!台湾旅行者が日本で“薬” “健康食品” を買う理由

調査でわかった、台湾訪日客の3つの特徴的な行動

1. 日本を「日常の延長にある身近な場所」として捉える、“ほぼ”国内旅行感覚

博報堂クロスバウンド・ビジネス・ラボが実施した調査データによると、台湾からの旅行者の平均訪日回数は5.48回にのぼり、10回以上訪日している層が20.5%を占めていることが分かりました。平均滞在日数も5.54泊となっており、日本を楽しむ傾向が見られます。 また、旅行の価値観として「事前リサーチなどを通じて、失敗しない王道な買物を気に掛ける」「日本らしい町の雰囲気が好き」といった特徴があり、リピーターでありながらも計画的かつ日本特有の雰囲気を楽しむスタイルが定着しています。

台湾の総人口は約2,300万人で、そのうち10代から60代の人口は約1,760万人です。2024年の台湾からの訪日旅行者は累計で延べ670万人を超えており、10代から60代の3人に1人が日本を訪れている計算になります。

日常生活の中でも「身近な誰かがいつも日本に行っている」と実感するほど、日本は台湾人にとって特別ではなく気軽な旅行先となっています。日本を「日常の延長にある身近な場所」として捉えており、もはや「海外旅行」ではなく「国内旅行の延長線」に近い感覚を持っているといえるでしょう。

この”ほぼ”国内旅行感覚を力強く後押ししているのが、航空路線の充実です。主要空港(羽田、成田、関西、中部、福岡、新千歳、那覇)はもちろんですが、注目すべきはその「地方空港のカバー率」です。
たとえば東北・北海道エリアでは函館や旭川だけでなく、花巻、秋田、福島といった空港までカバー。さらに信越・北陸エリアの新潟や小松、中国・四国や九州のローカル空港にいたるまで、その網の目は日本全国に広がっています。それほどまでに、台湾からの訪日旅行者にとって「日本の地方」へのニーズが高まっているということです。

2. “おすすめ”が購買の連鎖を生む:台湾マーケットを動かす「口コミ文化」

台湾では、日常会話の中で日本旅行の話題が頻繁に登場します。また、海外旅行の際に家族や友人のためにお菓子や薬などを買ってくる、お土産文化が根付いており、「どの商品を買ったの?」「どれが美味しかった?」といった情報交換が自然に行われるため、口コミは購買に直結する重要な要因となっています。

たとえば、「家族や友人のLINEグループでシェアされていた商品や場所を、自分も試してみたくなる」といった行動がよく見られます。このように、推薦される → 試す → 他人に勧めるという好循環が生まれ、人気商品は「日本に行くたびに買う定番アイテム」として定着していきます。

実際の調査結果においても、買い物情報の収集源として「家族、知人からの口コミ」が旅前・旅中・旅後を通して常に上位にランクインしており、身近なコミュニティでの情報共有が購買行動に大きな影響を与えていることが明確に示されています。

台湾訪日客に向けたプロモーションを検討するうえで重要なのは、「自分が良かった」だけで終わらず、「誰かに教えたくなる」体験を設計することです。情報共有のしやすさやSNSでの発信、家族・友人との話題化を意識した設計が、台湾人旅行者の心を動かし、購買行動の連鎖を生み出します。

3. 7割がドラッグストアへ!台湾旅行者が日本で“薬” “健康食品” を買う理由

調査結果によると、日本旅行中にドラッグストアに立ち寄る台湾訪日客は70%を超えています。購入した商品の上位には「健康食品(サプリメント等)」や「薬」がランクインしています。また、これらのカテゴリーは「旅前決定率」が非常に高く(薬82%、健康食品77%)、日本へ行く前に買う商品やブランドを決めている計画的な購買行動が目立ちます。店頭での購入理由には「価格・お得感」が挙げられ、購入後の継続意向においても「ブランドへの信頼」や「値段以上の価値」が高く評価されています。

台湾では、日常会話の中で健康やセルフケアがよく話題になります。たとえば、「何を食べて体調管理しているか」「どの薬が効いたか」などの情報を家族や友人同士で頻繁に共有しています。そのため、海外旅行の際には家族や友人のために日本の薬を「買ってくる」文化が根付いています。この行動が「どの薬を買ったの?」「それは本当に効いたの?」といった情報交換をさらに促し、口コミによる推奨効果を強めています。

最近では、特定の機能性を持つ乳酸菌飲料などが「旅行中の胃腸の不調や便秘が改善された」とSNSなどで話題になり、台湾人旅行者の間で人気が急上昇しています。今回の調査インタビューにおいても、「台湾に帰ってからも継続して購入したい日本製品」として、こうした日本の市販の乳酸菌ドリンクが名指しでランクインするという興味深い結果が出ています。

台湾訪日客の心を掴むための3つの視点

台湾からの旅行者は、日本を「日常の延長にある身近な場所」として捉え、事前のリサーチやコミュニティからの「おすすめ」をベースに賢く計画的な消費を行っています。 彼らの消費意欲をさらに引き出し、長期的なビジネスチャンスへと繋げるためには、以下の3つの視点が重要になります。

1. 「定番+α」となる、個人の趣味嗜好を満たす深い体験の提供 

今回の調査で、台湾からの旅行者の平均訪日回数は5回を超え、10回以上のヘビーリピーターも2割以上を占めていることが分かりました。彼らは「失敗しない王道な買い物」をベースにしつつも、旅行の価値観として「自分の趣味嗜好を重視する」「有名な場所でなくても、自分が気になった場所に行く」「そこでしかできない特別な体験をしたい」という傾向を強く持っています。 そのため、誰もが知る定番商品や観光地をフックにしつつも、彼らの多様な趣味やこだわりに刺さる「ローカルな体験」や「専門性の高い商品」をプラスアルファとして提示することで、ベテラン旅行者である彼らにより深い満足を得てもらうことができます。

2. 「検索・地図アプリ」と「口コミ」を連動させた情報導線の最適化 

台湾の旅行者は、旅前・旅中・旅後を問わず、検索エンジンや地図アプリ(マップ情報)による情報収集を非常に活発に行います。そこに、家族や知人からの「口コミ」が加わることで強力な購買動機が生まれます。 店舗や施設側は、まず地図アプリ上で正確な情報や魅力的な写真が表示されるようデジタル上の接点を最適化することが不可欠です。その上で、来店した旅行者が思わず「家族のLINEグループ/自分のSNSにシェアしたくなる」ような、直感的な魅力や分かりやすいお得感を店頭で設計し、次の旅行者を呼ぶ「口コミの好循環」を意図的に作り出すことが有効です。

3.「値段以上の価値」の体感から、帰国後の継続購入(EC)への接続 

調査において、台湾人旅行者が日本の商品(お菓子、薬、お酒など)を購入して満足した理由のトップに「値段以上の価値を感じたから」という声が多く挙げられました。日本製品への高い「信頼」に加え、このコストパフォーマンスの高さが台湾市場において強力な武器となります。 訪日時に店頭でその価値をしっかりと体感させた上で、帰国後も利用できるECモール等への案内をシームレスに行うことが重要です。日本での「納得のいく良質な買い物体験」を起点に、台湾に帰ってからも日常的に商品を買い続けてもらう関係性を築くことが、LTV(顧客生涯価値)の最大化に繋がります。

おわりに

台湾からの旅行者は、日本を「日常の延長にある身近な場所」として捉え、事前のリサーチやコミュニティからの「おすすめ」をベースに賢く計画的な消費を行っています。 「間違いのない選択」を重視し、日本製品に対する強い「信頼」を持つ彼らに対しては、単に商品を陳列するだけでなく、「誰かにシェアしたくなる付加価値」と「納得のいく費用対効果」を明確に伝えることが、さらなる購買の連鎖とリピート消費を生み出す鍵となるでしょう。

※肩書は取材当時のものです

張 慈恩
株式会社博報堂 クロスバウンド・ビジネス・ラボ メンバー

台湾出身。現地食品メーカーのマーケターを経て2015年に来日、博報堂入社。メディアプロデューサーとしてグローバルおよび海外ローカルのメディアプランニングを多数担当。ネイティブな台湾の生活者インサイトと、独自のクロスカルチャー視点を武器に、インバウンドの知見を提供している。

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