「ただの替え歌」で終わらせない。日清食品らしいコンテンツのつくり方|Hakuhodo Showcase Vol.06 日清のどん兵衛「はいよろこんで 利き利きどん 篇」

博報堂が手がけた革新的なプロジェクトやクライアント事例を厳選してご紹介する連載「Hakuhodo Showcase」。最新のマーケティング戦略からクリエイティビティあふれるコミュニケーション手法、事業開発、社会実装のケースまで、担当したプラナーやクリエイターによる解説を交えてご紹介します。 第六回は、2025年度に6つの広告賞*を受賞した日清食品「日清のどん兵衛」のWebCM「はいよろこんで 利き利きどん 篇」をクローズアップ。こっちのけんとさんの楽曲「はいよろこんで」の替え歌で話題となったCMは、いったいどのように生まれたのでしょう?日清食品ならではの広告アプローチについても話を伺いました。

*YouTube Works Awards Japan 2025「Best Offline Sales Lift 部門賞」、2025 ACC賞「フィルム部門Aファイナリスト」、第63回 JAA広告賞「フィルム広告(中編)部門メダリスト」、2025年度TCC賞「新人賞」、CCN賞2025「テレビCM部門」、JPMアワード2025「セールス&コマースプロモーション企画 銀賞」

双方のクリエイティブディレクターが「膝を突き合わせて」生み出す共同作業

-はじめに自己紹介をお願いします。

岡崎:日清食品ホールディングス 宣伝部の岡崎です。当社はクライアントの立場ではありますが、私は社内で“クリエイティブディレクター”の肩書きを持って、広告制作のディレクションを行っています。
2025年3月まで「日清のどん兵衛」を、現在は「日清カレーメシ」や明星食品の「明星 チャルメラ」「一平ちゃん」などの広告制作を担当しています。

棚橋:博報堂クリエイティブ局の棚橋です。CMをはじめ、イベントなどさまざまなアウトプットでクライアントさまの課題を解決する仕事を担っています。日清食品さんは2023年から担当させていただき、昨年まで岡崎さんといっしょに「どん兵衛」のクリエイティブに携わっていました。

-日清食品さんの宣伝部にもクリエイティブディレクターがいらっしゃるということですが、他のクライアントさんとの違いはどんなところにありますか?

棚橋:多くのクライアントさんでは、オリエンテーションをもらって、その課題に対して我々が戦略やアウトプットを生み出していくというのが通例ですが、日清食品さんの場合、いっしょに企画を出して、いっしょに制作していくスタイル。僕らのつくったコンテに対して「こういうセリフの方がいいと思う」といった言葉の表現だけでなく、演出や構成を含めて意見をもらいながら、本当に共同作業で進めていますよね。

岡崎:訴求ポイントをお伝えして「あとはお願いします」ではなく、クリエイティブディレクター同士で膝を突き合わせ、お互い意見を出し合いながらおもしろいものをつくっていく、というスタイルです。

ローンチ3ヶ月前に企画が白紙に…。崖っぷちで生まれた「東東東 西西西 東東」

-「はいよろこんで 利き利きどん 篇」の制作経緯について聞かせてください。

岡崎:うどんやそばには歴史的に東西で味の嗜好に違いがあることから、「日清のどん兵衛」は全国展開のカップ麺としては初めて、地域別につゆの味を分けて発売しました。さらに、2024年には、麺、つゆ、具材、七味のすべてを東日本と西日本で分けた“ぜんぶ東西分け”を実現しています。テレビCMでも東西の違いを訴求してきましたが、こうしたこだわりを知っているお客様は約3割にとどまっていて、そこが大きな課題だったんです。
そのため、「博多」と「信州」を加えた「利きどん兵衛」シリーズの発売にあわせて、「どん兵衛」が麺、つゆ、具材、七味のすべてを地域別に分けていることを、あらためて伝える施策を検討しました。

棚橋:はじめは交通広告で話題化させようという案もあったのですが、一枚絵を見せるだけでは味わいは伝わりませんよね。ある程度、東と西の違いについての説明が必要だ、という考えからWebCMというアウトプットになりました。

-企画はスムーズに決まっていったのですか?

棚橋:非常に大変でした。日清食品さんを担当してから一番多くの企画を出したと思います。たしか128案だったかなと……。

岡崎:プロジェクトがスタートしたのが5月で、10月にローンチというスケジュールだったのですが、7月下旬にすべての企画がボツになるという……。さすがにそのときはどうしようかと頭を抱えました。

棚橋:そのとき岡崎さんが「一度膝を突き合わせてブレストしましょう!」と言ってくれたこと、すごくよく覚えてます。とにかく案を出さなきゃと思って持っていったひとつが、こっちのけんとさんの「はいよろこんで」の替え歌でした。
「トントントン ツーツーツー トントン」の部分を「とんとんとん(東東東)しゃーしゃーしゃー(西西西)とんとん(東東)」に替えただけの1ページを見せたとき、岡崎さんが「これいけるかも」と言ってくれて。

岡崎:この時期ちょうど「はいよろこんで」が爆発的に盛り上がっていたタイミングだったんですよね。「東(とん)」と「西(しゃー)」は麻雀用語として知られていますが、シンプルにおもしろいなと思ったのと、歌い出しの「♪はいよろこんで~」も「♪東西どん兵衛~」にしたら、音的に絶妙に合うんです。これはいけそうだと思って、そこから半月後には大枠の歌詞を仕上げて社内提案に進めました。

ただの替え歌で終わらないクリエイティブ。大切なのは日清食品らしいコンテンツにすること

-「東東東 西西西 東東」の一文からどのように企画を詰めていったのですか?

棚橋:岡崎さんとものづくりをしていてすごく勉強になるのが、単に流行っているものを使うのではなく、それがなぜ世の中に受け入れられているかを分析すること、そしてしっかり日清食品らしさを入れていくこと。
「はいよろこんで」という楽曲が持つユーモアの要素を生かしながら、日清食品らしく表現することで、ただの替え歌では終わらないクリエイティブになったと思います。

具体的に言うと、歌い出しの部分ですよね。生活者にとっては、「どん兵衛」が東西で味を変えているなんてどうでもいいこだわりかもしれない。それを自虐的に「『どん兵衛』の味なんて興味ない」「ムダなこだわりね」とあえて言ってしまうのが日清食品さんらしさ。「分かっているけど、まぁそう言わずに食べてみてよ」というストーリーが生まれるんです。そこから完成するまでは早かったですね。

岡崎:企業の言いたいことだけをCMにしていては、共感性の高いものは生まれないと思うんです。やっぱり生活者の視点が大事。「はいよろこんで」の替え歌をつくるだけなら他の企業にもできるかもしれませんが、日清食品だからこそできるコンテンツにすることが重要だと考えています。

棚橋:言ってしまえば「単なる替え歌」なんですが、それを大の大人が本気でやるからおもしろい。こっちのけんとさん本人に歌唱していただき、アニメーションも本家のミュージックビデオを手がけたかねひさ和哉さんに依頼しました。映像は1フレーム単位まで原作のミュージックビデオに合わせていますし、とにかくディテールにこだわっています。歌詞も直前まで「もっと韻を踏める言葉があるんじゃないか」と探し続けていましたよね。

岡崎:例えば、原曲の「♪あと一歩踏み出して」という歌詞は、もともと「♪めん だし おあげ 七味」に変えるという案だったのですが、原曲に合わせて母音が「え」で揃うように「♪めん だし 七味 おあげ」の順に変えました。原曲に対してリスペクトがありますし、こうした細かいところまでこだわるからこそ、お客様にも楽しんでもらえると考えています。SNSで「広告なのに全部見ちゃったよ」といったコメントを目にすると、すごくうれしいですね。コンテンツとして楽しんでいただきながら当社が伝えたいことを伝え、その結果、商品もしっかりと売れる。そうした理想的な流れを実現できたと思っています。

苦しい状況のなかでも「仕事を戯れ化」する。博報堂は世の中を驚かせる“悪だくみ”仲間

-日清食品さんと切磋琢磨する制作現場で得られたことは?

棚橋:日清食品さんの広告っておもしろくて、誰もが知っている有名なものが多いですよね。実際は、ただおもしろいだけではなく、徹底されたマーケティング戦略のもとに、売れるための広告をつくっている。やはり日清食品さんは広告の力を信じてくれていると思いますし、いい広告をつくるために大人たちが必死で汗をかいている姿がすごく刺激になりました。

岡崎:当社では昔から、広告を制作する際に「おもしろいかどうか」を重視しています。おもしろいということは「心が揺さぶられる」ということだと思っていて、まずは心を動かし、商品の魅力を伝え、買いたくなる気持ちを生み出していく。その流れをとても大切にしています。
社長自ら広告のアイデアを出すこともありますし、我々宣伝部としても常に世の中のトレンドに目を向けて、どうすれば人の心を動かす広告がつくれるかを模索しています。

-日清食品さんが培ってきた広告文化があるなかで、博報堂はどんな存在ですか?

岡崎:一緒に“悪だくみ”できる仲間、という感じでしょうか。言い方はよくないかもしれませんが、世の中をどう驚かせようかと、いつもいっしょに企んでいる存在ですね。実は私、「カップヌードル」のCMに憧れて日清食品に入社したんです。もともと日清食品の広告が好きだったので、我々の広告づくりを理解してくださるみなさんとご一緒できることが、とても心強いですね。

棚橋:日清食品さんの場合、クライアントでありながらチームである感覚がすごく強い。こうしたらもっとよくなるんじゃないかと様々な議論をしながら広告をつくっていける関係性が好きです。今回いくつか広告賞をいただいたなかでも「制作者が企画で遊んでいる姿が目に浮かびます」という講評をいただきました。もちろんすごく苦労した仕事ではありますが、楽しんでつくったことは伝わるんだなって。僕らのつくったCMを見て「こういう広告がつくりたい」と、また次の世代が興味をもってくれたらうれしいですね。

岡崎:一生懸命おもしろいことを考えているときが、やっぱり一番楽しいですよね。日清食品の創業者・安藤百福が残した言葉のひとつに、「仕事を戯れ化せよ」というものがあります。今回のCMはまさに、苦しい状況のなかでも仕事を“戯れ化”して最後まで走り抜くことができた結果であり、自分たちが楽しんでいたことも表れていると思います。これからも博報堂のみなさんには、“悪だくみ”しながら仕事を楽しめる仲間でいてほしいと思います。

※肩書は取材当時のものです

岡崎 俊英
日清食品ホールディングス 宣伝部 クリエイティブディレクター

2004年に日清食品に入社し、中部支店営業課、マーケティング部を経験。その後、日清食品ホールディングス 経営戦略部を経て、2015年に宣伝部に異動。「カップヌードル」の広告制作には7年間携わった。

棚橋 直生
博報堂 クリエイティブ局 アクティベーションディレクター

広告会社でメディアプランニング~アクティベーション~クリエイティブと幅広く経験を積み、2023年博報堂入社。全体設計力 × 誰かに突き刺さる = “熱狂”を生み出す企画で、多くの生活者に届き、愛されるブランドを作る。受賞歴:TCC新人賞 / CCN / CCN審査委員賞 / FCC / ACC / 広告電通賞 / YouTubeWorksAward / JPM / 東京屋外広告コンクール / 消費者が選ぶ広告コンクール など

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