創造性が、これからの経済にはたす役割とは
~Creativity Future Forum'26レポート~

博報堂の創造性に関する研究開発機関 UNIVERSITY of CREATIVITY(以下UoC)は2026年2月、Creativity Future Forum'26を開催しました。「AI時代の創造力はどこへ」をテーマに、ビジネス、デザイン、サステナビリティ、東洋的美意識、エンターテインメントなど、23のセッションが繰り広げられました。本記事では初日に行われたOpening Remarkの様子をお届けします。

セッション情報 日時:2026年2月27日(金)17:30 - 17:45 ステージ:Vision カタリスト:名倉健司(株式会社博報堂 代表取締役社長)、市耒健太郎(UNIVERSITY of CREATIVITY 主宰)※ 敬称略

CFF26の初日、Vision Stageで行われたOpening Remarkでは、博報堂の名倉健司社長が登壇した。名倉はUoCの活動を企業の側からサポートしてきた人物であり、同時に数千の企業パートナーと向き合うビジネスの最前線に立つ経営者でもある。AIが生活に不可欠な存在となった今、創造性は経済にとってどんな意味を持つのか。名倉は多くの企業パートナーと向き合うビジネスの最前線から、市耒はクリエイティビティの研究と実装の場であるUoCの立場から、それぞれの視座を重ね合わせたセッションとなった。

均質化からの逸脱と、問いを立てる力

名倉がまず提示したのは、AI時代における創造性の二つの役割である。
一つは「均質化からの脱却」。AIは誰に対しても精度の高い回答を返すが、それゆえに答えが同質化していく傾向がある。オリーブオイルのボトルデザインをAIに依頼するとみな白いボトルになるといった実験例にも触れながら、名倉はその同質性から「抜け出す力」こそが人間の創造性だと述べた。

「AIは答えを導いてくる。僕らの課題に対して。そうすると、重要なのはいかに問いを立てられるか」

もう一つが、この「問いを立てる力」である。AIが答えを出す側に回るほど、何を問うかという起点を設定する行為の価値が相対的に高まる。名倉はこの二点を、経済人として意識的に向き合うべき創造性の争点として位置づけた。

市耒がこれを受けて、「均質化が進み、合理化が進み、同一化が進む。創造性の役割は減るか増えるかで言えば、もちろん増える」と整理すると、名倉は即座に「チャンスでしょう!」と力強く応じた。AIの進化が創造性の存在意義をかえって増幅させるという認識で、二人は一致していた。

正解ではなく、納得を求めること

話題は、AI時代の人材像へと移った。市耒が「最近の企画書は模範解答的で分厚くなっている」と切り出すと、名倉はこう答えた。

「クリエイティブな人間って、たぶん正解とか求めてなくて、腹落ちできる納得感を求めているんじゃないか。」

正解と納得は似ているようで違う。正解は外部の基準によって判定されるが、納得は自分の心の奥に直感的な符合を見つける行為だ。名倉はその違いにこそ創造性が宿ると見ている。これまでのエリートが持っていた模範解答を素早く生成できるようなAI的な優秀さへの価値が相対的に下がり、面白いことを考えたり、ちょっとやんちゃな人格への重要性が増すのではないか。市耒がそう投げかけると、名倉は「博報堂としてはそういう力をもっている人が光を放てる環境をどんどん提供したい」と頷いた。

「意味ある変化をもたらすもの」という定義

市耒がUoC主宰として投げかけた問いに、「クリエイティビティとは何か」があった。名倉の答えはシンプルだった。

「意味ある変化をもたらせるものこそ、クリエイティビティ。意味ある変化を提供することが、博報堂が創出する価値だ」

その「意味ある変化」とは何か。名倉はそれを「なるほど」「そうか」「えー!」といった感情の動きの連鎖だと述べる。マーケティングにおいても、社会運動においても、価値の転換が起きたり、それまで想像が及ばなかったものに思いが馳せられたりする瞬間。その反応こそが、意味ある変化の兆しなのだと語った。

名倉はさらに、良いクリエイターの条件についても触れた。広告とは、「同じものを二度と作れないプロダクト」である。だからこそ、新しいものの発見とともに沸き立つ感覚を持ち、それをビジネスプロデューサーにまで伝播させるような力が求められる。名倉はそうした瞬間を「想定外の心の余白が満たされる」感覚だと表現した。

市耒はここで、AI時代にこそより一層大切な「現場と原画」という概念を紹介した。
現場とは、人間の、企業の、制作の、みずみずしい営みが生まれるリアルな場所。AIが決して訪れることのできない生(なま)の発見が連鎖する場所。原画とは、現場を煮詰めたときに発酵・発泡するように生まれる一枚のオリジナルピクチャー。それはデザインでも、映像でも、戦略でもよい。現場の肌触りや経験則が濃ければ濃いほど原画は強くなるし、逆もしかり。より質の高い原画を生み出すためには、現場での体験を圧倒的なものにすべきである。それ以外は極端に言えばAIに任せればいいのではないか、という考えだ。名倉もこれに共感し、「その瞬間が生まれる場所を、僕らはすごく大事にしなきゃいけない」と応じた。

広告産業からインターフェース産業へ

最後に市耒が問うたのは、コンサルティングやデータ産業が価値創造の領域に参入するなかで、広告産業が果たせる役割とは何かという点だった。

名倉の答えは「インターフェース産業」だった。良いクリエイティビティを届けること、適切な情報を届けること、課題解決につながる提案をすること。それらを載せられるすべての場所が、生活者インターフェースであり、広告産業はその広義のインターフェースを設計する存在へ向かうべきだと名倉は語った。

「体験する場所とか機会とか時間っていうのもインターフェースで、それを通じて何かを伝えたい人と何かを受け取る人がいる」

その価値創造の態度において、メディアは、決して枠を売ることだけではなくなっていく。インターフェースを広く捉え、生活者と世の中をつなぎなおすものとして再定義していくことが、この領域における創造性の源泉だというのが名倉の見立てだ。

名倉は同時に、広告会社という呼称自体が十年後、十五年後には変わっているかもしれないとも述べた。しかしそれは「正しい進展」であり、業態の名前が変わっても創造性を担保し続けることが成長の条件だと加えた。データマーケティングの時代にあっても、データに文脈と意味を与える人間の力が失われてはならない。その余白を「想定外の歓びと奥行き」に変えていくことが、これからの道だと名倉は語り、セッションを締めくくった。

創造性時代への讃歌として

15分のOpening Remarkは、CFF’26全体の目的をあらためて鼓舞するものとなった。AIの進化は創造性を脅かすのではなく、その意味と価値をかえって鮮明にする。均質化からの逸脱、問いを立てる力、正解ではなく感情を追うこと。名倉が提示したこれらの視点は、続くセッション群の中で繰り返し立ち現れるキーワードともなっていった。「もっと人間頑張れっていうことを、創造性という切り口から応援できるような存在でありたい」と語った名倉の言葉は、この場に集まったクリエイターたちへの讃歌にもなった。

※肩書は取材当時のものです

名倉 健司
株式会社博報堂
代表取締役社長

1991年博報堂入社。営業職として、自動車、飲料、金融、通信等、幅広いクライアント業務を歴任。営業局長、マーケットデザインビジネス統括センター長、取締役常務執行役員を経て、2025年4月より代表取締役社長。

市耒 健太郎
UoC 主宰

日本のクリエイティブディレクター、フィルムディレクター、編集者。 一橋大学卒(知識創造)、カリフォルニア大学サンタクルーズ校美術学部(UCSC Art)、ニューヨークフィルムアカデミー(NYFA)留学後、東京藝術大学大学院にて美術修士修了(先端芸術表現)。 博報堂に入社。テレビCMプランナーを経て、クリエイティブディレクター。受賞多数、JETROより海外招聘映像作家に選出。カンヌ国際広告賞、クリオ国際広告賞、アジア太平洋広告賞など審査員を歴任。「恋する芸術と科学」編集長。ソニー、NHK、JR、ソフトバンク、ブリヂストン、上島コーヒー、花王、スシロー、日本政府(文部科学省)など、クライアントの成長設計とクリエイティブディレクションを担当。 世界経済フォーラム(ダボス会議)よりヤンググローバルリーダーに選出。創造性を研究する専門機関、UNIVERSITY of CREATIVITYを開校、同主宰。 2024年、NHK大河ドラマ『光る君へ』のオープニング映像監督およびキャンペーンのクリエイティブディレクションを担当。

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