若手!クリエイターが挑む!ソーシャルテーマvol.19
企画の力×行動デザインが不可能を可能にした――LINEヤフー株式会社「防災花火」

クリエイティブの力で世の中に新しい視点をもたらし、社会課題の解決に挑む博報堂の若手メンバーにフィーチャーする連載企画。今回ご紹介するのは、「3.11 防災花火」。東日本大震災の風化を食い止め、防災行動実践者を増やすというクライアントの課題に対し、花火を上げることで直感的に自分の避難場所がわかるというユニークな“体験”を生み出した博報堂チーム。実施に至るまでの障壁やさまざまなチャレンジについて、アクティベーションディレクターの月足勇人、コピーライターの關彰一、アートディレクターの藤田奈々子に聞きました。
「3.11 防災花火」とは

2025年3月11日に東京近郊の3カ所の避難場所から追悼花火を打ち上げた企画。「避難場所の設置距離」と「打ち上げ場所から花火が綺麗に見える距離」の目安が同じ約2km以内であることから、「もし花火がきれいに見えたら、その打ち上げ場所は自分の避難場所である」ことがわかるというもので、被災者への追悼と未来に向けての防災行動促進を同時におこなった。
企画を一気に強固にした、「2km」というファクトへの気づき
―まずは、「防災花火」がどんな企画なのか、またプロジェクトがどのように始まったのか教えてください。
月足
LINEヤフーは旧ヤフー時代から継続して3月11日を中心に防災啓発を行ってきましたが、東日本大震災から14年経ち、記憶の風化が大きな課題となっていました。また、防災行動を実践している人の割合が現状40%程度にとどまっているため、ひとりでも多くの方に防災行動をとっていただくことを目指しています。それらの課題に応える企画として提案したのが「防災花火」でした。
避難場所は「2km」の避難圏域を目安に設置されていること、そして花火がきれいに見える距離も打ち上げ場所からちょうど2km程度という事実を活用し、3月11日に避難場所から追悼花火を上げ、「もし花火がきれいに見えたら、その打ち上げ場所が自分の避難場所」だとわかるという仕掛けにしました。
クライアントは、一度で終わる施策ではなく仕組みとして継続できるものを求めていて、僕らも日本の風物詩にもなりうるものを想定していました。そういう意味でも「これしかないと思った」と言っていただけました。

―オリエンから提案まで短期間だったとうかがいましたが、どんなふうにアイデアを練り上げていきましたか。
月足
まずみんなで50~60案くらいを出し合ってみました。でもどの施策も、これまでの施策を超える感じがなかなか想像できずにいたんです。何より、自分のような人を含めて、ふだんほとんど防災を意識していない生活者が、「これなら動く」と心から思えるものがなかった。それまでに出したアイデアの多くが、3.11の位置づけを「過去の悲劇を振り返る日」とおいていた企画だったので、一旦アプローチの方向を180度転換して「未来の防災を考える日」として捉え直すことにしました。
關
実は最初のブレストで、「花火を“のろし”として使い、避難場所の位置を知らせる」というアイデアにはたどり着いていたんですが、ハッとする感が足りなかったんですよね。
月足
そもそも3月11日は、毎年基本的にニュースで各地の追悼行事が取り上げられます。PR視点で「そのニュースの枠で取り上げられるためには何が必要だろうか?」と逆算して考え、ただ花火を上げるだけでなく、そこに何か目新しい情報や知られざる事実みたいなのがあるといいなと思ったんです。そこで思い立ったのが“距離”でした。
まず花火がきれいに見える距離が打ち上げ場所からだいたい2kmらしいという情報があったので、何かそれに対応するような数値がないかと国土交通省の資料をしらみつぶしに探していったところ、「避難場所が設置される目安は徒歩で避難可能な2km圏域」という記載につきあたりました。「これだ!」と思いました。
知識ゼロ、経験ゼロ、コネクションゼロのチームで挑戦した「花火の打ち上げ」
―3月11日の本番までの間、どのような動きがありましたか。
月足
クライアントに提案したのが2024年10月で、実際に動き始めたのは同年12月でした。避難場所に指定されているいくつかの公園には当初前向きな返答ももらえていたのですが、実際に当たってみたところ自治体の認可などを理由に全て断られてしまいました。絶望的な状況からのスタートとなりました。
次に複数の自治体の方にあたってみましたが、今度はどこも「前例がないから難しい」という回答。目標は3会場で打ち上げることでしたが、どこも決まらないまま刻々と時間だけが過ぎていきました。
藤田
電話をかけたり実際に訪ねたりと、プロデューサーを中心に多くの交渉をしていったんですが、花火のサイズによって確保するべき保安距離があったり、火薬を使うので消防や警察の許可や、近隣住民への説明責任があったりと、とにかく細かい条件がたくさんありました。花火の打ち上げに関しては経験もノウハウも人脈もゼロのチームでしたから、動いてみて初めてわかることだらけでした。

關
3月11日にニュースで取り上げられるにはどうしても東京で実施する必要がありましたが、そもそもその保全距離と、過密都市である東京という場所は非常に相性が悪い。こんな狭い場所で花火を上げようという、とても矛盾したことをやろうとしていたわけです。
月足
その後、過去に花火を上げた実績のある避難場所20カ所前後に絞り、個別に当たっていくことにしました。そうして最初に決まったのが明治神宮・軟式球場です。ようやくここで、花火業者と一緒に打ち上げプログラムや花火の制作に着手することになりました。でも神宮球場も、あくまでも野球優先なので、軟式野球大会のスケジュール次第では使えないかもしれないと言われたりと、そんな状況で年末年始が過ぎていきました。
―そのほか2カ所の会場はどのように決まったんでしょうか。
藤田
その後に決まったのが、駒場高校です。授業で防災を学んでいることを紹介してほしいということだったので、当日のPRイベントに校長や生徒に登壇いただくということで承諾いただけました。
月足
そして最後に決まったのが、川崎市の多摩川河川敷です。川崎市の条件は、子どもたちに向けて防災教室を実施するというものでした。そこから防災教室の中身や台本、司会の方のアサインなど超特急で準備を進めていきました。
―現場はとにかく必死だったと思いますが、そうした一連の動きをクライアントはどのように見ていたのでしょうか。
月足
会場決定に関しては、自分たちで引いていたスケジュールの期日は過ぎてしまっていたんですが、クライアントは忍耐強く待っていてくれました。そのほかにも、花火をつくり直すために無理なお願いをしたり、花火の納品が間に合うよう確認をせかしたりと、毎日のように切羽詰まったやり取りをしていたのですが、クライアントは常に私たちに寄り添っていただいていたように思います。
關
運命共同体として一緒に腹をくくってくれていましたよね。その姿勢に大いに助けられました。

大きな成果を生み出した、行動デザインのいくつかのツボ
―3月11日、無事に3カ所で防災花火が実施されました。どのような成果が生まれましたか。
月足
当日一番恐れていた雨が、打ち上げの少し前から降り始めて…。雨脚も強くなるなか、どうにかぎりぎりのタイミングで打ち上げることができました。
關
結果的に全キー局で取り上げられ、メディアインプレッションは57億。ソーシャルインプレッションは2800万、Xでもトレンド入りし、多くの防災啓発投稿につながり、Yahoo!検索での「避難場所」の検索数も上昇しました。大成功だったと思います。
月足
今回、避難場所マークのオリジナル花火を制作したのですが、花火は回転しながら上がるので左右と天地がデザイン通りに打ち上げられるとは限りません。本番できれいに見えたのは20発中2、3発でしたが、見事にそれをカメラがとらえてくれて、ニュースでも流れました。


―今回の成功のカギを整理すると、どうなりますか。
月足
生活者とステークホルダーを見据えた行動デザインが功を奏したと思います。1つは、老若男女の生活者を動かす行動デザイン。花火って、上がっていたら見るし、撮りたくなるし、人にも伝えたくなる。日本人にとっては最強のメディアと言いうるものです。
關
花火の大きな音と光は、いやでも振り返ってしまうほどの物理的な力がある。季節外れというのもポイントで、3月に花火が上がっていたら、「何だろう?」と思って自然と検索につながります。
月足
防災という難しいテーマだからこそ、花火というシンプルでポジティブでノンバーバルな行動デザインも重要でした。マジメで説明的なアプローチは世の中に溢れていますが、実際にはそれほど効果がありません。今回は、子どもにもすぐに伝わるノンバーバルさと、ポジティブさが非常に効いたと思います。
藤田
花火を見たあと、「避難場所を検索して調べる」という、手軽な防災行動がゴールになっていたこともよかったと思います。防災バッグをつくるなどの防災行動に比べて、検索するくらいなら実践ハードルが低いですし、きちんとLINEヤフー社の事業にもつなげていけます。
月足
ステークホルダーが抱える課題解決までアイデアに組み込んだこともポイントです。例えば自治体の方が抱える課題として、防災啓発の取り組みを行ってもなかなか広がらないということがあったり、花火に関していえばゲリラ豪雨などで中止になる花火大会が増えていたりしたので、何らかの形で住民に還元したいというニーズをもっていた。これらに応えられる施策だったことも、大きかったと思います。
最後は、未来の景色を語り尽くすことです。「3月11日が、防災花火を見ながら未来の防災について考える日になる」という未来の風景を本当に多くの人に語っていきましたし、「夜のニュースではこんなふうにアナウンサーが切り出し、こんなふうにインタビューと花火の映像が流れて…」と、想定されるメディアでの取り上げられ方を具体的な素材でまとめて、共有していきました。具体的なゴールが見えていたことで、皆の動きも変わっていったのだと思います。
マーケティングで課題解決できるクリエイターなら、社会課題解決もできるはず
―もっとも大変だったことや嬉しかった瞬間について教えてください。
關
嬉しかったのは、多摩川河川敷での打ち上げ現場で、目の前で子どもたちが目をキラキラとさせながら花火を見上げ、歓声を上げているのを見た時です。旧ヤフー社の防災啓発キャンペーンとして、2017年の屋外広告「ちょうどこの高さ。」がよく知られていますが、今回は、震災時にまだ生まれていなかった“次世代”である子どもたちにも届く内容にできたのはよかったと思います。「何かあれば、あの河川敷に走っていけばいい」ということがきちんと伝わり、本当にもしものことがあった時に、あの子どもたちの命が助かる手助けができたのであれば、こんなに嬉しいことはありません。
月足
会場を探し回った月日は、いま思い返しても大変でしたね。でもアドレナリンが出ているから、不思議と辛そうにしている人はいなくて。チームの士気はつねに高く、皆、花火が上がっている未来だけを想像しながら走っていました。思った以上に大勢の人がSNSで投稿してくれたり、僕が関わっているとは知らずに「あれ良かったよね」と言ってくれた人がいたときは、嬉しかったですね。
藤田
新聞広告の制作期間も短かったのですが、結果的に納得のいくクリエイティブに仕上げることができたのは良かったです。嬉しかったのはやっぱり打ち上げの瞬間と、その後、SNSで次々と上がってくる投稿をリアルタイムで追っている間、またその後多摩川河川敷の子どもたちの動画を見たときとか…その一連が最高に嬉しかったです。振り返ってみれば、初日から最後までまるで文化祭のようなテンションで臨んだ日々でした。終わった後にみんなで飲んだお酒は本当に美味しかったです。

―社会課題解決にクリエイティブはどのように貢献できると思いますか。また、今後の展望もあれば教えてください。
關
ソーシャルテーマは自ずと説教的になりがちです。大事なこと、正しいことである以上、できるだけ多くの文字数で危機感をもって伝えるというのは別に間違ってはいないし、それはそれで必要ですが、僕らはそれだけでは人は動かないことをよくわかっています。だからそこにアイデアを入れて、誰もがつい目を奪われたり、自ら動いてしまうような形に仕立てていく。それがクリエイティブにできることだし、クリエイティブの果たすべき役割だと思います。あと、防災花火の案件は、2歳の子どもにも心から誇れる仕事になりました。今後もこうしたソーシャルイシューには積極的に携わっていけたらなと思います。
藤田
今回、オリジナル花火にしても打ち上げプログラムの内容にしても、従来の考え方や手法だったら決して生み出せないものがつくれたと思います。防災にただ関心を持ってもらうのではなく、追悼や、未来の防災へと考えが及ぶような意味もこめることができた。「人にどう行動してもらうか」を考え、形にすることができたのは、クリエイティブの力があったからだと思います。どんなにいい企画で、どれだけきちんと実施しても、本来届けたかった人には届いていないといった仕事は往々にしてあると思うので、つくり手側の独りよがりに終わらせない仕事を、今後も大切にやっていきたいと思います。
月足
基本的に、僕は自分の仕事の定義を「生活者や社会を動かす企てで、クライアントの課題を解決すること」だと考えています。なので、クライアントの売上をよくするにしても、避難場所を知る人を増やすにしても、根本的なアプローチや考え方はあまり変わりません。マーケティングで課題解決ができる人なら、ソーシャルの課題解決もできるはず。クリエイターはもっとソーシャルテーマに積極的に取り組んでもいいんじゃないかなと思います。今後10年続いていくような仕事がつくれたら嬉しいなと思います。
※肩書は取材当時のものです

月足 勇人
博報堂 クリエイティブ局 アクティベーションディレクター
ストプラ/クリエイティブの双方を手掛けた「両利きのキャリア」を武器に、PRを起点にした企画を得意とする。事業戦略からクリエイティブディレクションまで携わるレイヤーに関わらず、生活者や社会が動く「変化のきっかけ」をつくることを重視している。Cannes Lions Shortlist、AD STARS Silver、ADFEST Bronze、ACC ブロンズ、雑誌広告賞 金賞 受賞。

關 彰一
博報堂 クリエイティブ局 コピーライター/ディレクター
1990年生まれ。いつか子供に父の仕事を誇りに思ってもらえるよう、社会課題解決をはじめとした、あらゆるアイデアを全力で考え続けていきます。Cannes Lions2025入賞、ヤングライオンズ2020-2021世界2位。

藤田 奈々子
博報堂プロダクツ 統合クリエイティブ事業本部 アートディレクター
2014年博報堂プロダクツ入社。「人の体験に入り込むこと」をモットーに、グラフィックデザインを軸に置きつつ、コンテンツ制作やイベント・スペースデザイン、Webなどあらゆる領域を統合的にプラニングから手がける。