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買い物で未来を変える ―SDGs達成にむけた「EARTH MALL」の挑戦

2022.05.11
#SDGs
「誰もが日常生活で行っているアクションから始めよう」という発想のもと、生活者の「買い物」行動を SDGs 達成のための具体的なアクションへと変えていくプログラム「EARTH MALL」。博報堂SDGsプロジェクトの取り組みの一つとして、さまざまな活動を行っています。これまでの取り組みを振り返りながら、生活者の買い物意識や課題、それを変えていくために必要だと思うこと、今後の展望などについてメンバーに聞きました。

小田部 巧 博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長
石川 未来子 博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局
腰塚 安菜 博報堂 第一ブランドトランスフォーメーションクリエイティブ局

身近なアクションである「買い物」に着目

――「EARTH MALL」は2018年4月に立ち上がって、今年で5年目に突入ですね。小田部さんは立ち上げメンバーであり、リーダーでもいらっしゃいますが、あらためてプロジェクトの内容や、生まれた背景などについて教えていただけますか。

小田部
EARTH MALLは、「未来を変える買い物を。」というコンセプトのもと、買い物を「生活者が未来を変えるアクション」と位置付け、商品の成り立ちや適量を考えた買い物を促すプログラムです。

SDGsが国連で採択された2015年に、産官学民が連携し、SDGsの達成を目指して企業の変革とイノベーションを促すプロジェクト「OPEN 2030 PROJECT」(実行委員長:慶應義塾大学 蟹江憲史教授)が発足されたのですが、当時有識者の間でも、「SDGsや持続可能性といわれても、生活者にとっては遠く感じてどう関わったらいいのかわからない」という意見が多くありました。そこから、普段の生活でやっていることがSDGsの達成につながっていくことが大事という発想が生まれ、私たちにとって身近なアクションである「買い物」に着目しました。買い物の“川下”にいる生活者が「もっとこんなものがほしい」と発信すれば、“川上”にいる企業の調達、加工、流通、小売のあり方が変わっていく。買い物によって未来を変えていくことができる、望ましい社会を作っていくことができるという視点から、EARTH MALLのコンセプトは生まれました。

EARTH MALLという名前には、「地球を一つのショッピングモールとみたて、地球での豊かな生活を続けていく」という想いと共に、「今の生活を続けていけば、地球が何個も必要になる」という危機意識も込め、「地球は小さい。限られた資源を大切にしていこう」という想いから「EARTH IS SMALL」という言葉もかけています。

――「MALL」は「ショッピングモール」の意味だけではなかったのですね!
EARTH MALLの具体的な活動内容や今までの取り組みについて教えてください。

小田部
博報堂の強みであるマーケティングの支援を活動の中心においています。
生活者データをうまく活用しながら、企業が持っている商品やサービスを、どのメディアを使ってどう伝えていくべきか、どういった場所で売るべきかなど、伝え方、売り場のプロデュースも行います。企業、NPO、アカデミア、行政など、多岐にわたるステークホルダーと、持続可能な生産と消費について学べる教育プログラムの開発や、事業開発支援なども進めています。

取り組みの一つは、「EARTH MALL with 〇〇」という形で、世の中を巻き込んでいくこと。その代表例として、「EARTH MALL with Rakuten」があります。「サステナブルな買い物といっても、どこで購入できるのかがわからない」という声は多い。そこで、楽天市場内で、持続可能性の観点からセレクトされた商品を紹介しようと考えました。EARTH MALLとキュレーターが、「この商品は、環境・社会・経済の持続的な成長のことをきちんと考えてつくられていますよ」と認めた商品や、認証ラベルがついている商品などを紹介、購入できるようになっています。

>「EARTH MALL with Rakuten」: https://event.rakuten.co.jp/earthmall/

石川
私は、EARTH MALLから派生した取り組みの一つである「EARTH MALL TABLE」という活動を進めています。EARTH MALL TABLEを始めた背景には、「食べる」という普段の行いを起点にすることで、環境や社会課題に関する“気づき”をもたらしたいという思いがありました。

環境問題に取り組んでいるというと、国内ではまだまだ「意識高い人」というイメージがある。自分とは遠く離れたところにいる環境活動家がやることのようで、自分事化されていません。だからこそ、毎日の食卓を少し変えるだけでいい、と発信することに意味があると考えました。
日本はサプライチェーンがしっかりしているので、手に届いた食品の状態しか知らなくても、何も困らないし安全です。ゆえに「どこで、誰がどんな環境で作っているものだろう」と思いを馳せる機会がない。少しでも、そのプロセスを考えられるようになればと、取り組みを始めました。

タッグを組む先として、料理雑誌を出版する「オレンジページ」にお声がけさせていただきました。食に関する情報を幅広く発信する媒体だからこそ多様な層にリーチできる、最適なパートナーだと思いました。
取り組みの一つとして行った「ゴミを出さない料理レッスン」では、「ラクして省エネ調理ができるとは知らなかった」「材料を有効活用してゴミを減らせるなんて」など参加者からも好評をいただきました。学んだあと、何を選択しどう行動するかは生活者の皆さんそれぞれに委ねられているのですが、知らなければ選択肢すら生まれません。知ることが、小さなアクションにつながる第一歩なのだとあらためて感じています。

サステナブルだからこその価値を伝える

――「EARTH MALL with 〇〇」の取り組みとして、2021年の秋には渋谷スクランブルスクエアで「EARTH MALL with SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE」を開催されましたね。どんなことを実施されたのでしょうか。

小田部
「未来を変える買い物」とはどういうものかをリアルの場で伝えようと、渋谷スクランブルスクエア12階のイベントスペースで、10ブランドのブース展示を行いました。

会場の中心には、触れるデジタル地球儀「Sphere(スフィア)」を展示しました。地球の雲の動きを可視化するデバイスで、気候変動のシミュレーションにより2050年の地球がどうなっていくか、グッドシナリオとバッドシナリオが目に見えるようになっています。このまま温暖化が進めば、50年には地球が真っ赤になる。サステナブルな取り組みが地球にどう関係しているかを視覚的に示せたことで、来場者にもSDGsに関連した展示であることをわかりやすく伝えられたかなと思っています。

イベント会場に展示した、触れるデジタル地球儀「Sphere(スフィア)」。展示テーブルは廃棄太陽光パネルをアップサイクルしたもの

腰塚
イベントでは、省エネや環境負荷をかけないといった環境面、社会面のほかに、地域を活性化させるという観点も含め、サステナブルな買い物の幅を示そうと考えました。

ブース展示では、地域の伝統製法を守りながらとワインづくりを続けている生産者の商品を取り揃える「BIANCOROSSO(ビアンコロッソ)」や、とても質の高い胡蝶蘭の栽培をしている「NPO法人Alon Alon(アロンアロン)」の取り組みなどを紹介。後者は障がい者の皆さんが生産を手掛けているのですが、人の手で大切に育てられていることに加え、AI技術を活用した気温管理によって安定した品質を担保しています。

また、アップサイクルの製品も多く展示しました。
端切れを使ったテキスタイル製品を手掛ける「anohi(アノヒ)」や、コルク栓で作った雑貨を販売する「TOKYO CORK PROJECT(トーキョーコルクプロジェクト)」、余った材料から発想して1点もののヴィンテージ家具を作る「デザインスタジオPh.D.(フット)」など。設計にそって材料を集めるのではなく、すでにある素材を活用してものづくりを進める。結果として希少性の高いものが生まれるうえに、資源を無駄にしない姿勢とも両立させることができます。

さらに、再生素材を活用する三菱商事ファッション株式会社のブランド「NAGIE(凪へ)」や、アニマルウェルフェアの普及を目指す「SUMIDA happy pig project」にも出展いただくなど、熱量の高いブランドや団体が集まり、素敵な取り組みを発信できたのではないかと思っています。

「EARTH MALL with SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE」イベント会場

石川
それから展示に加え、EARTH MALL TABLEの取り組みとして、JR東日本、オレンジページ、他2社が共同運営するフードラボ「Kimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ, ドリアン, カルダモン,,,:K, D, C,,,)」と共同で1Dayイベントを行いました。
「K, D, C,,,」は新大久保に拠点を持ち、食関連のスタートアップ支援やシェアダイニングなどを行っているラボです。このラボに参加する事業会社が出資しているCVC「Future Food Fund(フューチャーフードファンド)」と「Whosecacao(フーズカカオ)」をご紹介いただき、「サステナブルを仕事に、エシカルを生活に」というテーマで、Future Food Fundの村田さんとWhosecacao代表の福村さんに登壇いただきました。Whosecacaoではカカオ農園の生産支援を行っていらっしゃるのですが、そのカカオの加工から販売までの仕組みを知っていただくことで、自分が普段食べているチョコレートがどんな人たちによって生産され、どのように自分たちの手元に届いているのかを考えるきっかけになれば、と考えました。

またイベントでは、オレンジページが考案したWhosecacaoのカカオニブを使ったスパイス「デュカ」作りの実演も行い、スペシャルティカカオの香りも楽しんでいただきました。

1Dayイベントの様子

腰塚
加えて食のポップアップブースとして、ハワイ発のコーヒーブランド「The Sunrise Shack」に、あらゆる理由で親元を離れて暮らす子どもたちを支援する団体「イチゴイニシアチブ」とコラボ出展いただきました。オーガニックコーヒーを土日限定で店頭販売したほか、オリジナルマグカップやフーディーのビビッドな黄色の魅力的なデザインで、お客さまの目を引いていました。

ただ、コロナ禍でなかなか食を提供するのは難しく、他のブースにも言えるのですが、食の物販に関しては体験づくりが思うようにできなかったという心残りがあります。

石川
そうですね。ストーリーを知ると、味だけではなく、ストーリーと一緒に食べているというリッチな食体験につながります。食は、どんどん”効率化“を求める方向に開発されてきましたが、作られてきたプロセスを知れば美味しさは変わる。体験型イベントも、コロナ禍が落ち着いたらもっとチャレンジしていきたいですね。

買い物するほどよくなる社会を目指して

――EARTH MALLでは、発足当初から生活者の買い物意識に向き合ってこられましたが、サステナブルな意識が高まっている今、あらためてどのような課題があると感じていますか。

小田部
当初と比較するとサステナブルな商品が増えてきましたが、まだ足りないなと感じています。でも最近では、企業戦略としてサステナブルを事業に取り入れるケースも増えているので、これから商品開発につながっていくのではと期待しています。
一方、生活者側には「関心はあるのだけど、どこで買っていいかわからない」という声が依然としてあります。もっと流通を増やして買ってもらえる機会を作っていくことが重要だと思いますし、我々は「地球環境にいい」だけではなく、「この商品が我々の生活にどんな価値をもたらしてくれるのか」ということをもっと伝えていく必要がある。コミュニケーションが大事だなと思っています。

石川
商品がどこから来ているか、私たちは知らなすぎると思います。商品が店頭に置かれる前の段階を伝えていくことも、課題ですよね。
そんな中でコロナ禍は、知らなかったことを知る一つの契機になったなと感じています。例えば、一斉休校で給食がなくなったことでフードロスが社会問題として注目されました。困っている生産者の方から直接買おうという動きが広がり、「生産者とつながれるんだ」「これなら安心で美味しい」と気づいた生活者も多かったと思います。
また、D2Cが注目されてきたタイミングでのコロナ禍だったので、直販サイトの活用も一気に増えました。食や流通の仕組みに興味を持てば、もっと知ろうと動き出します。私たちはそこで、興味をより引き上げる取り組みをしていくことが大事だと考えています。

腰塚
コロナ禍はさまざまな気づきがあった一方で、SDGs観点では両立が難しいところもありますよね。私の近所のパン屋さんでは、衛生管理の観点からパンがすべてビニール袋で個包装されるようになりました。私自身も、サステナブルについて日々発信しながらも脱プラは難しくて、言行が乖離しているな…と反省することも多いです。

石川
完全な言行一致を目指すのはとても難しいですよね。自分の生活の5%を変えるだけでもいいのではと思っています。日常でできることから始めていけば、少しずつ意識が変わっていって、10%、20%と増えていく。「あれはできないけど、この活動なら続けられる」とトライする方法を模索するだけでも、社会全体は大きく変わっていくと思います。

――皆さんのお話をうかがって、私自身も反省することばかりです。今日からできることをまず5%変えていきたいと思います。
最後に、EARTH MALLの今後の展望や、皆さんがこれから取り組みたいことについて教えてください。

腰塚
私は、ライターとしてEARTH MALLに携わり始め、今はイベント企画などさまざまなチャレンジをさせてもらっています。友人や家族、同僚など身近で大切な人たちがハッピーになるかという視点で、これからも企画を立て続けていきたいと思います。

石川
サステナブルとは、つながっていくことだと感じています。買う、食べるという行動も人のつながり、社会のつながりを生み出していく。何かアクションを起こすことで、人と人や地域がつながっていく世界になってほしいし、つながりによってハッピーになる人が増える社会になってほしい。これからもそのためのお手伝いをしていきたいと思っています。

小田部
SDGsが達成されるべき2030年には、「買い物をすればするほど、社会や環境がよくなる社会」になることを目指したいです。
慶應義塾大学の宮田裕章教授と、商品を買うときに社会にもたらすインパクトを可視化できるようにしたい、という話をしたことがあるのですが、買い物を通じて「CO2がこれくらい削減された」「生産者の給料がこれくらい上がった」「〇人の子どもが教育を受けられるようになった」といったことが具体的に見えるようになると、生活者の買い物意識は大きく変わっていくはずです。宮田教授はご自身の著書『データ立国論』(PHP研究所)の中で、それを「フューチャータグ」と名付けていらっしゃるのですが、データ連携し、買う段階でその先の成果が見える世界がきたらいいな、と思っています。
企業もますますサステナブルな取り組みに注力していくことと思いますが、EARTH MALLでは今後も、企業も生活者もハッピーになる取り組みをみなさんと一緒に進めていきたいと思います。

■EARTH MALLサイト
https://earth-mall.jp/
_
■「EARTH MALL with SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE 」イベントレポート
https://earth-mall.jp/work/earth-mall-with-shibuya-scramble-square/

小田部 巧(こたべ・たくみ)
博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長
ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラニングディレクター
博報堂 SDGs プロジェクト EARTH MALL プロデューサー

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科卒。2004年博報堂入社。マーケティング局、エンゲージメントビジネスユニット、HAKUHODO THE DAY を経て、2016年より現職。
国内クライアントを中心に、戦略からエグゼキューション、トータルなコミュニケーションデザインを行う。生活者をパートナーと捉えた、創発型プランニングを好む。また、自身もNPO運営をしており、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)業務も積極推進中。

石川 未来子(いしかわ・みきこ)
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ビジネスプロデューサー

1994年入社。プロモーション職を経て、2004年よりキャスティング局にてキャスティングプロデューサー兼コンテンツプロデューサーとして海外アーティストとのコラボレーション業務や韓国とのコンテンツ開発を手がける。
2017年4月~2019年3月まで農林水産省経営局就農・女性課に出向。若手・女性農業者の育成、経営支援業務、女性農業PRプロジェクト「農業女子プロジェクト」プロデュースを担当。
2019年4月~ブランド・イノベーションデザイン局所属。企業のインナーブランディング業務、事業開発支援、事業創造プログラム開発業務などを推進。「博報堂SDGsプロジェクト EARTH MALL TABLE」、未来社会で人間に役立つバーチャルヒューマンを創造する「Saya Virtual Human Project(3DCGや自然言語処理、センシングテクノロジーを活用した開発プロジェクト)」、ミライの事業室のスマートシティ事業「shibuya good pass事業」に参画。

腰塚 安菜(こしづか・あんな)
博報堂 第一ブランドトランスフォーメーションクリエイティブ局
PRプラナー/ライター

2014年入社。PR戦略局、アクティベーション局を経て、第一ブランドトランスフォーメーションクリエイティブ局所属。博報堂SDGsプロジェクト所属。2016年より日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)に所属し、環境・社会、SDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。また、毎年ユース世代を招いてメディア向けセミナーの企画を続ける。
今年度で開催10回目となる「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を2013年度の初開催から6年間務めた。
ライターとしての目標は、環境文脈だけでなく、オリジナル企画をたて続け、ニュースとなるものを執筆していくこと。

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