THE CENTRAL DOT

DX×ダイバーシティ発想はSDGsを解決する
次世代エクスペリエンス「じぶんランウェイ」の実践から学んだこと
(連載:愛されるDXはカタチにできるのか Vol.23)

2022.03.29

「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第23回、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 デザイナー 永野祐子/プラナー 汪芸佳の記事が掲載されました。

博報堂グループにおいて、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」。その唯一のクリエイティブ部門である「生活者エクスペリエンスクリエイティブ局」は、“潜在需要を発掘し、生活者の新たな好意・行動を喚起し、よりよい生活、社会を創り出す”といった価値創造型のDXをリードする部門です。キーワードは、「愛されるDXは、カタチにできるか?」。このテーマに取り組むメンバーたちの多様な視点をご紹介していきます。

 連載第23回は、博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 デザイナーの永野祐子と、プラナーの汪芸佳が登場。自主提案から生まれた3Dアバター試着サービスプロトタイプ「じぶんランウェイ」の開発に携わった二人に、バーチャル空間で瞬時に同時複数試着体験が可能という「じぶんランウェイ」の特徴や開発のプロセス、そこから得られた気づきと展望について聞きました。

好みの服を着た自分のアバターを客観的に見る新体験

──3Dアバター試着サービスプロトタイプ「じぶんランウェイ」を開発されました。特徴を教えてください。

:既存の試着サービスとの違いは、フォトリアルな自分自身の3Dアバターが試着することです。特徴は単に試着するだけではなく、複数の自分のアバターがファッションショーのようにランウェイを続々と歩くこと。好みの服を着た自分のアバターの歩いている姿や後ろ姿などを360°視点で客観的に見るという、今までにない体験を提供します。試着してみたいコーディネートは、一度に6種類選択できるので、ランウェイを歩く姿を比較しながら検討することも可能です。

永野:その場で瞬時にランウェイ体験をできることが魅力の一つです。パートナーである株式会社VRCの高速3Dアバター生成技術と即時オートフィッティング型バーチャル試着技術を活用し実現しました。専用のボディスキャンの筐体に入って20秒ほどで、リアルで高精細なアバターが完成します。6種類のコーディネートを一度に試すことができるのも、ランウェイを歩くことも、その姿を客観的に見ることも、すべてバーチャルだからできる体験です。色々なコーディネートの自分がランウェイを歩いている。その姿を見るのは、ちょっと面白い。ワクワクした体験をもたらすことができるのが「じぶんランウェイ」の特徴です。

:アバターが動かない静体のままだと、自分が着ている実感が湧きにくいという課題がありました。ランウェイを歩くことで、服のゆらめきや広がりなど、着こなした時の雰囲気がよりリアルに体感できます。

──「じぶんランウェイ」の開発の経緯について教えてください。

永野:博報堂DYグループ内では、メタバースをはじめXR領域のクリエイティブやソリューション開発、ビジネス開発を行うプロジェクト「hakuhodo-XR」があります。新型コロナウイルスの感染拡大によって商業施設などリアルなお店での試着がしづらい状況にあり、またECだとサイズが合わないといった課題が顕在化していました。そうした状況の中でhakuhodo-XRの知見によるテクノロジーを使った新しい試着サービスの企画が生まれました。

:リアルな試着感覚を生かしながら、バーチャルならではの試着体験をできないだろうか?と考えました。ランウェイを歩くというアイデアは「ショッピングモールの通路やアトリウムなどでファッションショーが開催されたら面白そうだな」と妄想したのがきっかけです。それをリアルな空間ではなく、スマホアプリで再現したらどうなるか、と発想をふくらませていきました。

──「じぶんランウェイ」はどのようなプロセスを経て体験できるのでしょうか。

永野:まず、ボディスキャンの専用筐体で自分の3Dアバターをつくります。その後はスマホのアプリのみで操作可能です。「じぶんランウェイ」のアプリにラインアップされているコーディネートの中から好みのものを選び、ランウェイへGOすると、その選んだコーディネートを着た自分が続々とウォーキングして登場します。360°自由に視点移動できたり、複数の中から確認したい自分にフォーカスしたり、比較して見たり、バーチャルならではの試着が体験できます。気に入った洋服があれば、より詳細の情報を閲覧でき、最終的には各ブランドのECに遷移し購入するという流れを想定しています。

──「じぶんランウェイ」を導入していることが、購入の動機となる可能性も高そうですね。開発段階で特に気を配った点は何でしょうか。

永野:ランウェイのシーンのユーザーインターフェース(UI)は、このアプリの一番の見せ場なので、どんな演出にするか検証を重ねました。そもそも、一般の人はランウェイを歩くことはできませんよね。モデル歩きをする自分が、続々と6人登場する。その面白さはどんなUIだったら実感してもらえるか?チームで盛り上がった議論でもあり、苦心したところでもあります。

:ランウェイの背景もいろいろ考えました。観客がいたり、ハワイのような海辺の景色や東京・表参道のような都会の風景、セレクトした洋服の雰囲気や世界観によって背景が変わったり、有名人と一緒に歩けたりするなど自由に発想しながら議論しました。結果、プロトタイプの段階では服を主役にすることに主眼を置いてシンプルなランウェイに決まりました。

買いたい人に買いたいものがちゃんと届く SDGsの達成にもつながるDX

──「じぶんランウェイ」はどのようなブランドに向いていると思いますか。

永野:D2Cなど店舗を持たないECのみのブランドとバーチャル試着サービスは、親和性があると思っています。ハイブランドにも可能性を感じています。ハイブランドの服を試着してみたいものの、お店の敷居が高いと感じ、試着まで進まない方も多いのではないでしょうか。かと言って、何十万円もする洋服を試着もせずECで購入するのはハードルが高いですよね。「じぶんランウェイ」を導入することで、ECの利用率を伸ばせる可能性はあると思います。

:仕事が忙しい方や子育て中の方など、ゆっくりショッピングを楽しめる時間がとりづらい人にもニーズがあると考えています。メインの利用者はECで服を買う方を中心に広くご利用いただけるのではないでしょうか。特にファッション好きの方に親和性が高いと考えていましたが、意外に普段あまりこだわりなく服を購入している方からも「新しい発見があって楽しい」という声をもらっています。

永野:試着の面倒くささ以外に、プラスサイズや小柄な方は、リアル店舗に自分に合うサイズがなくて困っていたり、店員の方の目を気にしてサイズ違いの商品を選んでしまったりするという声も聞きました。普通体型の人でも、とりあえずMを買ってみたけど合わなかった・・・といった経験もあると思います。買い物ストレスを軽減して、購買につなげられる可能性があると考えています。

──「愛されるDX」をカタチにするためには何が必要だと思いますか。

永野:まさに「じぶんランウェイ」がその好例の一つだと思います。3Dアバターにデジタル上の服を着させて試着体験をするものは、今までも存在しています。ただ、それらは効率的に着せ替えをしているようで何かワクワクしない。そこを、自分がランウェイを歩いて登場するという体験に昇華することで、一転して気分が盛り上がる試着体験になります。ここに「愛されるかどうか?」の違いが出るのだと思います。さらに「じぶんランウェイ」で目指しているのは、長く愛されることです。利用してくださる方々に愛され続けるためには、便利や楽しさに加え、環境のことも考えたSDGsの観点からも満足してもらうことが必要だと思います。店舗でたくさん試着された服は、廃棄されることも少なくないそうです。ECで購入してサイズが合わなかった服も返品されたり、着ないままシーズンを終えてしまったりもする。このような服の廃棄問題にも寄与し、環境への負荷を減らすことにもつなげたいと考えています。

:中国ではDXが進んでいます。モバイルで注文して受け取れるコーヒーショップや、スーパーでの買い物配送サービスなど、DX化されたサービスはいくつもあります。生活を便利にする体験が多いのですが、すべてのサービスが生活者に愛されているものかどうかは分かりません。では、どうやったら愛されるのか。愛されるために必要なのは、便利であることに加えて、楽しさや面白さなど、人の心を動かす体験を提供することだと思っています。「じぶんランウェイ」では、試着の手間がかからない、正確なサイズがわかるといった便利さ以外に、狭い試着室から飛び出してランウェイで歩けることや、複数の自分が続々と登場することなど、今までのない新しい体験を作りたいと考えました。何のためにテクノロジーを使うのか、テクノロジーの仕組みがわかりやすく伝えられているのか、どういう体験を与えたいのかを生活者目線で考えることが必要です。

──便利なだけではなく、楽しい体験もできる。「じぶんランウェイ」は愛されるDXと言えますね。そんなクリエイティブな仕事をする上で、大切にしていることは。

永野:社会の潮流を読むことは日頃から意識しています。それと同時に、一人ひとりの本音や本質的に悩んでいることなど、インサイトに深く耳を傾けることも大事なことだと考えています。自分への問いかけはもちろん、友人や知人にインタビューをするなど、身近な人の声を大切にしています。「ワンビジュアル」を作るときとは違い、「体験のデザイン」は生活者の行動や気持ちをデザインしていくものなので、想像力がより必要になってくると感じています。

:当たり前ではありますが、担当するブランドの商品が食品なら、できる限り食べたり飲んだりする。映画やアニメなら、全部見る。SNSではどんな投稿があるか、くまなくチェックする。もし、手がけるブランドのメインターゲットが小学生だとしたら、当時の自分を思い出してなりきって考える。できる限りの想像力を働かせながら、生活者発想の企画を目指しています。大学生の時に日本へ留学してきたのですが、国が違うと言語や価値観などに大きな差は存在するものの「本当に良いクリエイティビティはどの国の人が見ても良いと思えるもの」だと思っているので、真剣に向き合うことを大切にしています。

永野 祐子(ながの・ゆうこ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 デザイナー

東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、2016年博報堂入社。広告グラフィック、ブランディング業務、サービス開発、D2Cブランドの立ち上げ、UI/UX領域の業務などに従事。

汪 芸佳(わん・げいか)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 プラナー

中国・北京生まれ。大学から日本へ留学、東京大学工学系研究科建築学専攻(隈研吾研究室)修了後、2020年博報堂入社。プラナーとして、アクティベーション、映像、言葉、テクノロジー、空間、サービス、商品開発など手法を問わずブランド体験を企画。

※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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