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体験はゲームに学べ。自ら行動したくなる飽きない仕掛け(連載:愛されるDXはカタチにできるのか Vol.22)

2022.03.22

「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第22回、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター 酒井亮祐の記事が掲載されました。

博報堂グループにおいて、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」。その唯一のクリエイティブ部門である「生活者エクスペリエンスクリエイティブ局」は、“潜在需要を発掘し、生活者の新たな好意・行動を喚起し、よりよい生活、社会を創り出す”といった価値創造型のDXをリードする部門です。キーワードは、「愛されるDXは、カタチにできるか?」。このテーマに取り組むメンバーたちの多様な視点をご紹介していきます。

 連載第22回は、博報堂生活者エクスペエンスクリエイティブ局 統合ディレクターの酒井亮祐が登場。DXが加速する中、生活者とつながり続ける常時接続型のコミュニケーションに必要なのは、飽きさせない仕掛け。「ヒントはゲームにある」そう話す酒井に、ゲームに散りばめられている人を夢中にさせる仕掛けと、ビジネスシーンでの応用について聞きました。

なぜゲームにのめり込むのか。その理由を分析する

──日頃は、どのような業務を手がけているのですか。

 テレビCMなどの広告制作をはじめ、商品開発や販促活動などマーケティング・コミュニケーションの仕事が6、7割。それ以外は、新サービスの開発や既存サービスのバーチャル化など「DXによる体験づくり」などを手がけています。DX化とは簡単に言えば、生活者と企業が常時接続し続けることです。ただ、常時接続が続くと次第に人は飽きてしまいます。DX化に欠かせないのは、ユーザーが飽きず自ら行動し続けたくなる仕掛けです。

 実際にクライアントからも顧客との関係性の継続についての相談は増えています。そのヒントとして私が注目しているのがゲームです。ユーザーエクスペリエンスをあらためて見直し、そのプロセスにゲームのエッセンスを加えることで、生活者とのつながりを継続できるのではないかと考えています。

──ゲームにヒントがあるということですか。

 新型コロナウイルス感染症の流行もあって、国内のゲーム人口は2020年には5,000万人を超えたと言われています。私も毎日のようにゲームをしています。なぜ、毎日ゲームをやりたくなるのか。これほどのめりこんでしまうのはどうしてか。その理由を分析してみると、ゲームには人を夢中にさせる仕掛けがいくつも散りばめられていることに気付きました。

──具体的に、どういった仕掛けなのでしょうか。

 まず、ゲームには、成長を実感させる仕掛けがあります。たとえば、最終的なゴールが「魔王を倒す」だったとしても、その道中に数々のミッションが与えられ、それを一つずつクリアしていくとご褒美がもらえます。大きなゴールの前に小さなゴールがいくつもあるのです。最近のオンラインゲームにも同じような仕組みがあります。小さなゴールをクリアすると、ポイントのような勲章がもらうことができ、それを持っていることがステータスになるのです。

 DX先進国である中国は、ゲームの仕掛けをいち早くビジネスに取り入れています。あるタクシーの配車サービスでは、ドライバーのクオリティーが高いと評判なのですが、その背景には自らの成長を実感させる仕掛けがあります。ドライバーが顧客からの応答にすぐに反応したか、急発進や急ブレーキなどが少ない安定した運行をしているかについて、スマホのジャイロセンサーやGPSを活用してデータを集めています。その結果はアプリ内でポイントとして加算され、ドライバーのランクが上がり、給与にも反映されていく仕組みです。その結果、ドライバーは丁寧なサービスや運転を心掛け、自ずとサービス全体の質が上がっていくのです。

──成長を実感できるミッションが働く人のモチベーションを喚起し、それがユーザーにとって快適なサービスの提供にもつながっているのですね。日本のビジネスにも活用できそうですね。

 ある小売店の事業で検討しています。まだ構想段階なのですが、メタバースでバーチャル店舗を作る相談で、どうやったら何度も訪れたくなるか、いろいろアイデアを練っています。お客さんとのコミュニケーションのアクションを数値化・ポイント化し、それに応じて店長や店員の評価が上がっていく仕組みなどを検討しています。

──これまでも売り上げに応じたインセンティブはあったと思いますが、違いは

 売り上げという目標の達成に至るまでのプロセスを評価していくところです。いい接客を評価するのは、これまでは不確かなものでした。しかし、DX化によって行動が可視化されることで、能動的な小さなコミュニケーションも評価の対象にできます。その様子を間近で見ていなくても、広範囲かつ細部まで評価する仕組みをつくることができるのです。

──インナーモチベーションや、チームビルディングなどにも活用できそうですね

 一緒に働く仲間と良い意味で競い合う仕組みも、ゲームの手法をヒントに考えることができます。特に対戦型のゲームには自らの成長を実感できる仕掛けがあると同時に、負けたときの悔しさを実感させる演出も随所に散りばめられています。それによって、「今度こそ勝ってやろう」という原動力になるのです。そのエッセンスをうまく活用すれば、インナーモチベーションも高めていける可能性があると思います。

──成長や悔しさを実感させるタイミングも重要そうですね。

 特に成功体験は、最初に実感させることが重要です。ゲームで最初に出てくる敵は、たいていあっさり倒すことができます。オンラインのバトルゲームでも最初は勝てるように難易度が調整されていることが多い。そこで勝つ面白さを体験すると、その勝利をもう一度味わいたくなるからです。

 仕事に置き換えるとしたら、最初の行動に対するインセンティブを工夫したり、インセンティブの内容を思いがけないものにしたり、考える余地はいろいろありそうです。

ブランディングにも活用できるゲームのプラットフォームの可能性

──どんなに夢中になるゲームでも、時間とともに飽きてしまうこともありませんか。

 過去、ゲームは一般的に40時間くらいで終わるように設計されていました。しかし、最近のゲームは2,3ヶ月に1回、大型アップデートが実施されます。同じゲームとは思えないくらい、大胆に内容が変わるのです。どんなに継続させるための仕掛けを盛り込んでも、やりこめば飽きる。そのための工夫なのだと思います。

 企業のサービスにも同様の仕掛けを盛り込んだら、なにか新しいことができるかもしれません。通常、完成したサービスを世に送り出したら、基本的な内容はそのままに最適化をしていきますよね。その常識にとらわれずに考えることで、新たな可能性が広がりそうです。

──ゲームの世界は、進化し続けているのですね。

 ゲーム内で著名なアーティストがアバターとなってバーチャルライブが実施され、全世界で1,000万人以上が同時接続したことも話題となりました。私もそのライブをリアルタイムで観たのですが、革命だと思うほど感動しました。

 ゲームのアカウントを持っている人は、無料で体験できるイベントであったことも、重要なポイントの一つ。無料で体験させてもらえたことで、ユーザーには感謝の気持ちがわき上がり、それがゲームに対するロイヤリティにつながるのです。無料のノウハウ公開などもコミュニケーションデザインの手法として応用できると思っています。

 他にも、ゲームをプラットフォームとして、海外では企業のブランディングやファンづくりなどに利用するケースが増えています。ゲームをプラットフォームとしたコミュニケーション事例は、カンヌライオンズなどでも評価されています。

──夢中になる仕掛けが散りばめられたゲームの手法は、愛されるDXとも親和性がありそうです。

 愛されるDXに必要なのは、「思わずやりたくなる」人間の欲望をとらえてコミュニケーションを設計することだと思います。人のモチベーションをデザインすることも、クリエイティビティのひとつ。ベースにあるのは、企業のパーパスから生まれたコアな価値ですが、価値と仕組み、その両輪が愛されるDXを実装させていくためは重要なことだと思います。ゲームの手法は生活者が主体的に楽しく行動する仕組みづくりにも役立てるはずです。

酒井 亮祐(さかい・りょうすけ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター

営業部門からデジタル部門を経てクリエイティブへ。営業職で養ったビジネスやコミュニケーションを全体構造で捉える力とデジタル職で培った人を動かすインタラクティブスキルを武器に、アクティベーション、IMC設計、サービス開発まで領域問わず従事。2018年より博報堂勤務。ACC賞、PRアワード、コードアワードなど受賞多数。最近はeスポーツの可能性を拡張する活動に勤しんでいる。

※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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