博報堂生活綜研(上海)、中国00后若者の研究成果を発表
~遠くの第三者の力を借りて自分を成長させる欲求「系遠(シー・ユエン)」の出現~
博報堂生活綜研(上海)(以下、生活綜研(上海))は2021年12月、第9回の「生活者“動”察」研究を発表しました。毎年、生活者の本質的な欲求や新しい暮らしのあり方を洞察・提言する場として、中国伝媒大学広告学院と共同で実施しています。
今回のテーマは、「中国の未来を担う若者、00后(2000年代生まれ)の実像」です。
生活綜研(上海)所長 鐘鳴が発表内容のサマリーをご紹介いたします。

なぜ、中国の00后(2000年以降生まれ)の研究は重要か?
中国では今、デジタルテクノロジーの進化により、その影響をもっとも受けていると言われる00后(リーリンホウ)の若者が、将来の消費市場と流行をリードするジェネレーションとして、企業から最も重要視されているマーケティングターゲットの一つとなりつつあります。そうした背景があり、生活綜研(上海)は、00后に焦点を当てて、彼らの生活行動と意識の変化に着目し、若者世代の欲求の変化について発表を行いました。

■競争が激化する社会
コロナが発生してから既に2年が経過した今、生活者の全ての年代に大きな変化があったと思いますが、特に2021年6月に大学卒業を迎えた00后の若者にとっては、かつて前例のないほどの環境変化となりました。
中国本土の大学卒業生の数は、年々増加傾向が続いており、昨年では909万人に達しています。一方で、経済成長の鈍化及びコロナの影響で企業の採用計画が縮小する動きもあるため、大学生の就職環境として一層厳しい状況になりました。

■約10年間で、自分の生活水準が「上」級と考える人は約2.5倍に増加
それでは、この厳しい社会に置かれた00后は、どのような価値観や志向をもっているのでしょうか?
この10年の変化をみるべく、生活綜研(上海)が2012年と2021年に、それぞれ18-21歳の若者に対して行った調査結果を比較しました。自分の生活水準が「上の上」から「下の下」の9段階のうちいずれにあたるかを回答してもらったところ、「上の上」、「上の中」、「上の下」のいずれかにあたる(「上」級にあたる)と回答した人が11%から27%へと、約2.5倍に増加しています。

■上昇志向をもちながらも、「上の上」までは目指さなくなってきた若者たち
また、将来的に目指す生活水準についても聴取してみたところ、2012年には「上」級を目指すと回答した人が79%、中でも最上位の「上の上」級を目指すと回答した人も37%いました。しかし2021年の調査では「上」級を目指す人が56%、「上の上」級を目指すという人は22%にそれぞれ減少。約10年前に比べ、「中」級の生活でも十分豊かであるため、わざわざ「上」級である必要がなくなっているという解釈もできますが、自分の生活水準の高さを認識しつつも、人より「上」級の生活を手にしたいと考える傾向が弱まっているようです。

結果として見えてきたのは、00后は、「上の上」を目指す極端な出世志向ではなく、自分達の恵まれた環境を認識しながら「身の丈にあった上昇志向」で人並な幸せをつかみたいという意識を持つようになったということです。
最近中国では、目標を下げてのんびり過ごそうとする若者のライフスタイルを指す「躺平(タンピン=寝そべり)」というコトバが流行語となっています。
しかし、今回の研究を通じて、若者たちは向上心自体を失っているわけではないことが分かりました。その理由として、「現状の生活水準と将来目指す生活水準が同じでよい」、あるいは「現状の生活水準より将来の生活水準が下がってもよい」と回答した若者は、若者全体の2割程度しかいませんでした。言い換えれば、競争社会を勝ち抜くために、まだまだ上を目指してステップアップしたいと思う若者が8割もいるということに他なりません。
「躺平(タンピン)」は、自分たちの前のジェネレーションのように競争心をむき出しにして周囲と衝突するようなことを避けたいイマドキの00后の、“処世術”のようなものという事ができるでしょう。
00后の本質的な欲求、“系遠(シーユエン)”
生活綜研(上海)の設立初年度である2012年の研究テーマは当時20代の若者(90后)で、その行動及び欲求の特徴として、「创漩」(ソウセン)を発表しました。その当時の若者は、「今の自分を投げかけて共感を得て、価値観の合う人との関係を近づけ、巻き込んでいく。その中で自分の存在価値を増幅させていきたい」、という欲求の特徴があり、これは、渦のように「他者と相互影響しあいながら伸長していく欲求」とも言えることから、「創漩(そうせん)」(渦づくり)と命名しました。
そして、今回約10年が過ぎた現在の20代の若者たちはどのように変わったのでしょうか。
「情報収集行動、自己形成行動、コミュニケーション行動」という三つの視点から00后の行動特徴を分析し、それぞれの行動特徴を「梳」「喚」「調」というキーワードに集約しました。
■「梳」:自分なりの信頼できる情報取得方法の整備に注力
■「喚」:自分の能力を可視化したり、第三者の力を借りたりしながら、自分のモチベーションを上手に喚起
■「調」:色々なコミュニティと円滑に付き合うために、自分を巧みに出し分ける、出す自分を調整する
3つの行動から、00后が友人や家族といった身近な人と柔軟に付き合いながらも、その一方で遠くの第三者の力を借りて、必要な情報を収集したり、自己成長を支えてもらったり、コミュニケーションを楽しんだりしている様子が見えてきました。

周囲の身近な人々との競争が日増しに激化していると感じている00后は、「遠くの第三者の力を借りよう」としています。「近圏(普段時々顔を合わせている知り合い)」の人は仲の良い顔見知りであると同時に、潜在的なライバルにもなり得ます。お互いに比較や嫉妬の対象となってしまうことは避けたいという気持ちから「近圏」の人に頼ろうとする意識が弱くなり、本心を明かさないということがおきているようです。
これと反比例する形で「遠圏(遠くの第三者)」の価値が高まっています。ソーシャルメディアの発展に伴い、自分が興味を持った分野に専門知識を持っていそうな「遠圏」の第三者に連絡し、客観的な意見を聴くことができるのも、関係が遠いからこそ容易になるのです。リアルな人間関係から一瞬でも解放され、気兼ねなく付き合える「遠圏」の人たちとの関係は、若者にとってはこの上ない魅力です。
生活綜研(上海)は、この「遠圏の人のチカラを巧みに活かして、着実に前進していこう」とする00后の欲求を “系遠(シーユエン)”と名付けました。「系」は関係を表し、動詞として用いると「つなぐ」という意味になります。「系遠」の二文字で「遠圏とつながろうとする」という00后の欲求を表現しました。
これからますます、消費や働き方に強い影響力を与えていく00后。この00后の「系遠」欲求は他世代にも伝播し、生活者全体の消費行動や情報収集行動にも影響を与え、ひいては企業のマーケティング活動にも変化を迫るものになると考えます。
企業・ブランド側がいかにこの「系遠」という若者の欲求の本質を理解し、彼らの脈拍を捉え、必要とされる存在になるかが、これからの若者マーケティングの鍵と考えています。

生活綜研(上海)と「生活者“動”察」
生活者綜研(上海)は、博報堂グループのシンクタンクである、博報堂生活総研の初海外拠点として、2012年に中国・上海で設立し、今年で10周年を迎えることになります。グループの企業理念、「生活者発想」の具現化を推進すると同時に、中国における企業のマーケティング活動をサポートしていくとともに、これからの中国の新しい暮らしのあり方を、中国現地で洞察・提言する活動を行っています。
「生活者“動”察」とは、博報堂生活綜研(上海)と中国伝媒大学広告学院との共同研究発表です。
詳細に関しましては、博報堂生活総研(上海)のサイトをご覧ください。
https://www.shenghuozhe.cn/

鐘 鳴(ショウ メイ)
博報堂生活綜研(上海) 所長
1998年博報堂C&Dにコピーライターとして入社。
2002年に博報堂に転籍後はマーケティングプラナーとして自動車、嗜好品、飲料、化粧品等、幅広い業界のプラニングに携わる。2012年4月、博報堂生活綜研(上海)の設立とともに上海に駐在。各種研究、講演、ブランドコンサルティング業務などの領域で活動している。